動物 CM についての探索的研究-

動物 CM についての探索的研究-ケータイ CM を事例に
成城大学文芸学部
石山 玲子
はじめに
石山・松田(2009)は、動物が描写されるテレビ CM を取り上げ、Lerner(1999)らの研究に依拠し、動物
の 6 つの役割ごとに内容分析を行なった。その結果、全体のおよそ 4 分の一を占めていたのが、動物が擬人化
され表現されたものを示す「寓話的・たとえ話」として描写される動物で、これらの動物は、多くは創作物で
表現され、主役として起用され、もっともポジティブなイメージを与えていた。さらに、動物という形態をと
りながらも人間および人間社会の再現となっており、いわば、人間と同等に位置づけられているとしている。
しかし、このようなCMにおける擬人化された動物の起用効果については、ほとんど研究されていない。
目的・方法
本研究では、擬人化された動物が描写された CM を 3 つ事例として取り上げ、動物を起用することにより
CM の印象がアップするのか、さらに、生物と創作物では差があるのかなどを分析すると共に、動物観からの
考察を交えた探索的研究を試みる。
研究で取り上げた 3CM は、2008 年 3 月に放映された携帯電話会社のものである(W 社、E 社、S 社)
。2008
年 6 月に大学生を対象に、これら 3CM について視聴後、質問紙を用い自由回答、および 7 段階評価で回答を
得た。
結果・結論
「好感度」
「おもしろ度」
「引きつけ度」についての 7 段階評価の結果をみると、W 社(創作物)では平均値
4.71、4.56、4.44、E 社(生物)では平均値 3.63、3.71、3.73、S 社(生物)では平均値 5.73、5.98、6.15 で
あった。さらに、
「人間でなく動物を起用することによって、CM の印象がアップするか」という質問について
は、W 社では平均値 5.23、E 社では平均値 4.87、S 社では平均値 6.12 であった。その後、飼育経験の有無に
よる相関係数をみたところ、E 社では.390、S 社では.365 となり、両者においては有意差が認められた。
いずれの CM をみても、CM に人間でなく動物を起用することによって CM の印象がアップすると考えられ
る。さらに、動物だけが描写され人間社会の再現となっている W 社と E 社の CM について、生物か創作物か
という視点に立って結果を検討すると、動物の起用は生物より創作物の方が効果的であるといえる。創作物の
場合、もともと虚世界に位置するもので、細かな描写などが可能で、感情移入もしやすい。一方、生物の場合、
実世界では話をしない犬が虚世界である擬人化されたCM では話しをするというように、
異なって表現される。
ここに、動物の位置づけとして、実世界と虚世界が混入するという状況が生み出され、人々の動物観に多少の
違和感が生じ、その結果、スムースな受容を妨げるのではないか。ただ、創作物ではそうではないが、生物の
場合、被験者の飼育経験が動物のイメージアップにつながっていた。つまり、飼育経験があれば、違和感が減
少され、受容を促進させると思われる。
さらに、人間の家族の中に擬人化された動物(生物)が組み込まれている S 社の例をみると、3 社の CM 中、
すべての項目において、もっとも好意的に捉えられていた。しかし、自由回答をみると、はじめは強い違和感
を抱いたという回答が少なくない。当日は、自由回答を中心に、なぜ高い人気を得ているかについても分析結
果を報告する。
[引用文献]
石山玲子・松田光恵、テレビ CM における動物描写の内容分析、ヒトと動物の関係学会誌、2009、23 号
Lerner,J.E., & Kalof,L. The Animal Text: Message and Meaning in Television Advertisements. The
Sociological Quarterly;1999: 40(4):565-586.