PDF:1.5MB - 東芝メディカルシステムズ株式会社

41回
第
日本磁気共鳴医学会大会
ランチョンセミナー
3T MRIにおける
最先端技術
座長
講演 1
杉村 和朗
先生(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野)
Vantage TitanTM 3Tの
体幹部における最新臨床応用と展望
大野 良治
先生
(神戸大学大学院医学研究科先端生体医用画像研究センター)
講演 2
Vantage TitanTM 3Tによる
頭部の最新の血管・血流イメージング
土屋 一洋
先生
(東京逓信病院放射線科部長杏林大学放射線科客員教授)
2710-①
Vol.11 No.15(2013)2013年12月号別刷
Seminar
第41回 日本磁気共鳴医学会大会ランチョンセミナー
日時:2013年9月20日
(金)
場所:アスティとくしま 共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
3T MRIにおける
最先端技術
Vantage Titan 3Tの
体幹部における最新臨床応用と展望
MRI のメリットとデメリットから述べる。
現 し や す い 肺 尖 部 で 比 較 す る と、 従 来 の
ることができた。すなわち、Atlas SPEEDER を
Time-SLIP法の臨床的意義
Multi TransmissionおよびSingle Transmission
用いて全身 MRI を施行すれば、同時に各局所
非造影 MR angiography では、拡張期と収
に比べ有意に B1 不均一性が改善されている
の検査画像をもカバーできることが示唆された。
縮期の最適な心周期を選び、サブトラクション
時間分解能と空間分解能を両立させる
により動静脈を分離描出する FBI 法が有用で
る腹部領域で見てみると、腹部傍大動脈のリン
高速シーケンス─Quick3D─
ある(図 3)
。3T では、T1 緩和時間が延長す
パ節転移の例においては、広範囲にわたって
Multi-phase TransmissionとAtlas SPEEDER
るため血液の信号強度が高く、SAR を抑えな
均質な脂肪抑制が得られ、DWI の画質が改
で実現される新たなアプリケーションとして
がらも高い SN 比を活用した高分解能収集に
善された。転移リンパ節が明瞭に描出でき、病
全身 MRI がある。Titan 3T ではこれに Quick
よって末梢血管まで明瞭な画像が得られるこ
態の評価に有用であることが明らかになった。
3D と呼ばれる造影検査用シーケンスが導入
とから、FBI 法は 3T に適したアプリケーション
ンボア 3T であるが、患者の体形や大きさに
検査効率と診断能を両立させる
された。Quick3D によって時間分解能と空間
といえる。造影剤を使用しないメリット、す
合 わ せ て B0 を 均 一 化 す る 技 術 Conform
コイルシステム─Atlas SPEEDER─
分解能を両立させ、しかもコントラストの高
なわち撮像の繰り返しが容易であること、副
1)
(図 1)
。広い領域で均質な画質が要求され
technology によって、高い B0 均一性が確保
Titan 3T で採用された multiple array コイ
い画像での診断が可能になった。胸部領域に
作用や腎性全身性線維症のリスクを心配しな
ルである Atlas SPEEDER は、最大 128 チャン
おける全身 MRI の画質は、スライス厚 2mm
くてよいことから、非造影 MR angiography
くする技術 Slim gradientcoil により、システ
ネルという多数のコイルエレメントを配列し
の CT 画像にも遜色ない(図 2)。
は今後も臨床的に有用になるであろう。
ム全体のサイズを変えることなく均一性を高
て体幹部の広い領域を効率よくカバーする。
ASL(arterial spin labeling)の手法を応用し
めている。Titan 3T の体幹部画像を見ると、
Atlas Head、Atlas Spine、Atlas Body を 組 み
たTime-SLIP 法 も 意 義 深 い。Time-SLIP 法 を
MRCP では膵管の途絶の有無を迷いなく判断
合わせ、さらにムービングテーブル撮像とパ
一方デメリットは、磁場強度の向上に伴っ
できるし、肝細胞癌の高分解能 EOB 画像では
ラレルイメージングを併用すれば、全身 MRI
て技術的難点がふえることである。送信 RF
小病変がコントラストよく明瞭に描出されてい
の撮像がおよそ 40 ∼ 50 分で完了する。Atlas
磁場(B1)の不均一に起因する画質低下と、
る。Conform technology や Slim gradientcoil
SPEEDER で全身 MRI を行った肺癌患者の胸
課題を克服した Titan 3T が発揮する新たな
に血管走行や動静脈奇形を診ることが非常に
SAR上昇によるシーケンスの条件制限の問題
によって、体幹部領域でも 3T のアドバンテ
部画像を、単独で撮像された胸部画像と比較
臨床的有用性を、以下具体的に概説し、併せ
重要である。ここで Time-SLIP 法を用いた非
が典型である。メリットとして挙げた T1 緩
ージである高い SN 比を引き出すことを可能
してみると、原発巣およびリンパ節の描出に関
て今後の展望を述べる。
造影MR angiographyは、造影画像に比べて動
和時間の延長は、組織コントラストの低下や
にしている。
脈、静脈ともに描出能にまったく遜色がなく、
フローアーチファクト増大というデメリット
また、3T 装置では騒音の増大が問題となる。
手術に必要な情報が十分得られるレベルに到
も産む。同様に磁化率効果の増大は、肺や消
このためTitan 3Tでは、定評ある静音機構
達している 2)。Time-SLIP 法はパルスのかけ
大野良治 先生
はじめに、原理から導かれる一般的な3T
3Tによる非造影MR angiographyと
されている。また傾斜磁場コイルの厚さを薄
神戸大学大学院医学研究科
先端生体医用画像研究センター
3T MRIの原理的な
メリットとデメリット
して同等の空間分解能で同様の臨床情報を得
杉村和朗 先生
TM
3T MR装置の体幹部に関する臨床的有用性
は、未だ発展途上といえよう。東芝メディカル
システムズ社製Vantage Titan 3T(以下
Titan 3T)では、先進的な撮像法を可能にす
るシステム設計をもとに各種アプリケーショ
ンの開発が行われている。当院は、2011年
からTitan 3Tを使用し、胸部を中心とした体
幹部疾患に関する新たな撮像法の開発と臨
床応用研究を行ってきた。本稿では、体幹部
領域において、従来3T MRIの課題がTitan
3Tでどのように克服されているのかを概説
し、その臨床応用の成果と有用性を示す。
も厳しい胸部、中でも最もアーチファクトが出
●座長
神戸大学大学院
医学研究科内科系講座
放射線医学分野
アプリケーションの進化と
今後の展望
用いれば、動脈優位・静脈優位の画像を非造
影で分離描出できるからである。たとえば、
より低侵襲をめざす肺癌手術においては、術前
TM
化管領域など空気と実質臓器が接する部分で
Pianissimo がさらに強化され Slim gradient-
方で目的血管を選択的に描出できる自由度の
シグナルロスや画像歪を増大させ、化学シフ
coil による eddy current の抑制、傾斜磁場コ
大きさが特長である。この自由度を活かすこ
トの増加はケミカルシフトアーチファクトを
イルの真空封入、振動抑制構造により、聴感で
とで、今後さまざまな体幹部領域における非
増大させる。このように 3T MRI のメリット
最大約 33.3dB の低減を実現している。オー
造影画像の診断能を高め、有用性を拡げてい
とデメリットは表裏一体の関係にある。した
プンボアと静音化という検査環境の改善がも
くことができると考えている。
がってメリットを活かすために、いかにデメ
たらす恩恵は、臨床の現場で非常に重要である。
非造影Perfusion MRIは、
リットの要因を制御あるいは克服していくか
3T体幹部画質改善の要諦
術後の肺機能予測に有用
が、3T MRI の進化の鍵になる。
─Multi-phase Transmission─
いま、非造影 Perfusion MRI がひときわ注
新 世 代 の 送 信 RF シ ス テ ム Multi-phase
目を集めている。非造影 Perfusion MRI は旧
Transmission が Titan 3T に搭載されている。
来さまざまな手法が提案されてきたが、2D
デメリットを
制御克服する技術
現在多くの 3T 装置で採用されている送信 RF
収集に由来する描出能不足と撮像時間の問題
システムでは位相と振幅を制御することで画
から、一般には普及しなかった。我々はあらた
質 向 上 が 図 ら れ て い る。Titan 3T の Multi-
メリットの1つめは、静磁場強度(B0)向上
図1 Multi-phase Transmissionによる肺尖部のB1均一性向上
に、FBI 法を元にした 3D の非造影 Perfusion
によるSN比増大が空間分解能と時間分解能
Titan 3T ではどのような技術革新でデメリ
phase Transmission は、2 ポ ー ト、4 チ ャ ン
MRI シーケンスを開発し、肺野領域を対象に
をレベルアップさせること。2つめは、T1緩和時
ットを克服しているのであろうか。各要素ご
ネル送信によって、患者毎に異なる位相と振
した臨床的検討を行っている。このシーケン
間の延長がもたらす非造影のMR angiography
とに概説する。
幅の自動制御が可能となった。体幹部など広
スで撮像された肺癌患者の例を示す。肺癌部
や Perfusionの画質向上である。3つめは、磁
基本性能の向上と検査環境の改善
い撮像領域における B1 不均一の問題を克服
分は染影のない欠損像として描出されている
(図 4)。これらの経験を踏まえて現在では、
化率効果の増大によってT2 WIやSWIの画
─Conform technology、Slim gradientcoil、
した新世代のシステムといえる。
像が向上すること。そして、化学シフトの増
PianissimoTM─
当院のTitan 3TでMulti-phase Transmission
術後の肺機能予測に対する有用性の評価をす
大が MRSの精度向上をもたらすことである。
Titan 3T は患者居住性にすぐれた オープ
の臨床的有用性を検証した。磁化率変化が最
すめている。たとえば肺癌術後症例におい
*
て、造影剤を用いた Dynamic Perfusion MRI
KEY Sentence
●Multi-phase Transmissionは、体幹部3T MRIのポテンシャルを大きく向上させた。
●3T非造影アプリケーション(Time-SLIP法、非造影Prefusion)は、肺野の術後評価に使えるレベルにまで到達した。
●わかりやすい診断と効率的な検査を実現する新たな手段(cDWI)が開発されている。
●3Tの全身MRI(Quick3D+Atlas SPEEDER)によって、癌の再発診断能の向上が期待される。
10
Vol.11 No.15(2013)
と 3D 非造影 Perfusion MRI を比較すると、
局所血流の状況は後者の方がはるかに明瞭に
描出できている。現在、非造影肺 Perfusion
の定性的理解と定量化を研究評価中である
が、造影ダイナミック MRI および Perfusion
シンチグラフィと非常に高い肺血流の相関が
図2 Quick3Dを使った全身MRIはCT画像にも遜色ない
得られ、その有用性の高さが示唆されている。
Vol.11 No.15(2013)
11
cDWIは、わかりやすく病態を表現してくれる
明瞭であったが、cDWI の b=2000sec/m2 画
法のT1強調像、STIRの脂肪抑制T2強調像、お
有用な手法である
像では膵炎が低信号領域に描出され、膵癌の
よび造影 Quick3D を使い、トータル47 ∼ 52
computed diffusion weighted image(以下
範囲を明瞭に指摘することでき有用であった。
分で検査を完了している。1 時間の検査枠の
cDWI)は、2つのb値を持つ画像をワークス
cDWIは、鑑別診断の精度を上げ、誰にで
中で余裕をもって全身を精査することが可能
テーション上で計算し、任意のbを持つ画像
もわかりやすい診断を提供する手法として今
である。こうして得られた肺癌術後の全身 MRI
を作成する手法である。撮像によって直接得
後幅広い臨床応用が期待される。
画像では、PET/CTで認められたが造影CTでは
られるhigh b画像は、バックグラウンドノイ
全身MRIの診断能はもはやPET-CTと
認められなかった腋窩の再発巣が、Quick3D
ズの増加により組織コントラストの低下が生
遜色がない
で明瞭に描出されている。診断能の評価では、
じる。対してcDWIは、ノイズが少なく、組織
我々の過去の 1.5T 装置での研究では、全
造影剤使用後の撮像法にQuick3Dを用いた場
コントラストに優れた画像が得られる。実際
身MRIの診断能は、脳転移を含めた場合は正
合は、全身MRIの特異度がPET/CTや過去の
に撮像されたb=1000sec/m2、2000sec/m2 の
診率が有意に PET/CTよりも高く、脳転移を含
CE-T1WIを用いた全身MRIに比して有意に改
画像と比較して、cDWIによるb=2000sec/m2
めない場合でも、PET/CT と同等の診断能が
善され、さらに正診率も向上するという注目す
の画像は、初学者や研修医でも容易に診断で
得られた 4)。近年 3T 装置を使った全身 MRI
べき結果が得られている。
悪性腫瘍の再発診断
きるほど病巣がわかりやすく描出され、感度、
の報告があったが、この報告で使われた 3T
においては感度のみならず、
特異度や正診率の
特異度、正確度のいずれも、b=1000sec/m2
装置は受信コイルに whole body coil を使用
向上が得られるということは患者のみならず、
治
の撮像画像よりも有意に優れていた 3)。腹部
していたため、PET/CT に比べて感度が低下
療を行う医師にとっても、
治療戦略やQOLなど
領域におけるcDWIの有用例を紹介しよう。
するという結果になっている 5)。現在我々は
を考慮した場合に重要なことであり、
今後の全
胆嚢癌症例では、解剖学的描出に優れたb=
Titan 3TでAtlas SPEEDERとQuick3Dを 使 い
身MRIが癌治療の中で重要な位置を占める可能
500sec/m2 の画像に加え、癌の検出能に優れ
全身MRIの評価を進めている。これら新し
性が示唆されていると考える。
なお、これからの
た b=1000sec/m2、2000sec/m2 の画像が有
い技術によって 3T の臨床的有用性がどこま
全身MRIの課題は検査時間の短縮であるが、
用であった。膵炎を伴う膵癌症例では、b=
で向上するか、大きな可能性を感じている。
この点でもAtlas SPEEDER や造影 Quick3D を
撮像プロトコルにはグラディエントエコー
使い通常の T1 強調像を省略しながら、30 分
2
1000sec/m 画像にて膵癌と膵炎の範囲が不
前後で検査できることをめざしている。
結語
Vantage Titan 3T は、従来の 3T 装置の弱点
Vantage TitanTM 3Tによる
頭部の最新の血管・血流イメージング
東京逓信病院放射線科部長
杏林大学放射線科客員教授
土屋一洋 先生
最新の3TシステムVantage Titan 3T
( 東 芝メディカルシステムズ 社 製 、以 下
Titan 3T)を使用した頭部の血管および
血流イメージングに関する有用性を、症例
画像と臨床エビデンスで紹介する。これら
の多彩な最先端アプリケーションを目的に
応じて適切に使い分けることで、中枢神経
系のMRI診断の精度向上と適応拡大が可
能になると考えられる。
描出能が向上した
3D-TOF MRAによる
過大評価を抑えた精確な診断
管の描出能に優れ、また近位部の血管も非常
MRDSA が有用であった髄膜腫の例を示す。
に強い信号を得ることができる。たとえば
スラブ全体の MIP で腫瘍内部の強い濃染像と
1.5T 装置で描出された動脈瘤の場合、3T 装
周囲の脳表静脈を良好に観察できる
(図1)
。さ
置では動脈瘤の存在診断はもちろん、瘤の形
らにスラブの一部を partial MIP すると、拡張
態 の 細 部 が よ り 明 瞭 に 観 察 で き る。 ま た
した中硬膜動脈の分枝が流入動脈となり腫瘍
1.5T 装置では欠損にみえた中大脳動脈が、
を濃染する様子も観察できる
(図2)
。高分解能
Titan 3T で開存が明らかになった例を経験す
MRDSAは、腫瘍の血行動態の詳細情報をもた
るなど、1.5T 装置で過大評価される傾向にあ
らす有用な手法といえる。我々は、脳腫瘍の
る狭窄や閉塞性の病態が、Titan 3T ではより
血行動態を精度よく把握するためのスキーム
正確に評価ができるという印象を持っている。
として、MRDSAとDSC
(dynamic susceptibility
空間分解能が向上したMRDSAは
腫瘍の血行動態の視覚的評価を
可能に
contrast)法の同時施行の有用性を報告した 2)。
まず造影剤半量にて MRDSA を行い視覚的な
血流状態や血行動態の情報を得る。残りの半
量で DSC 法を施行し半定量的情報を得て、最
後に造影 T1 強調像を撮像する。悪性度の高
3T MRI における 3D-TOF MRA の高画質化
MRDSA の時間分解能を 0.8 秒として、空
い膠芽腫の例では、造影剤半量投与で得られ
は既知の事実である。これは、SN 比の上昇
間分解能(再構成マトリクス)を 1.5T 装置の
た MRDSAでは強く不均一な濃染像および深
と T1 緩和時間延長による TOF 効果増大と背
236×256からTitan 3Tで512×512へと向上
部静脈の早期出現がみられ、vascularity を視
景信号抑制が理由である。この結果、末梢血
1)
させる検討を行った 。Titan 3T の高分解能
覚的に評価できた
(図 3)
。後半の半量投与に
や課題の克服を目指したユニークで野心的な
装置である。装置性能の向上と臨床的有用性
の証明は、今なお多種多様な進化を続けている。
3T 本来の高い空間分解能、時間分解能、
組織コントラストを活かした新しい撮像法や
アプリケーションの臨床エビデンスを蓄積し
て、今後の体幹部における3T MRIにおいて東
芝メディカルシステムズとともに、世界をリー
図3 FBI法による非造影血管像
ドしていけるように研究をサポートしてくれる
仲間とともに今後も努力していきたい。
図4 肺癌の非造影Perfusion
(癌が低信号領域として描出されている)
12
Vol.11 No.15(2013)
<文献>
1) Kyotani K et al: Multi-phase Transmission RF
Systems:Utility for improvement of B1
Inhomogeneity and image Quality on 3T MR
System as compared with Single and MultiTransmission RF Systems. ISMRM #3338, 2011
2) Ohno Y et al: Comparison of assessment of
preoperative pulmonary vasculature in patients
with non-small cell lung cancer by non-contrastand contrast-enhanced 3-T MR angiography and
contrast-enhanced 64-MDCT. AJR Am J
Roentgenol(in press)
3) Ueno Y et al: Computed diffusion-weighted
imaging using 3-T magnetic resonance imaging
for prostate cancer diagnosis. Eur Radiol
23(12):3509-3516, 2013
4) Ohno Y et al: Whole-body MR imaging vs. FDGPET: comparison of accuracy of M-stage
diagnosis for lung cancer patients. J Magn
Reson Imaging 26(3): 498-509, 2007
5) Yi CA et al: Non-small cell lung cancer staging:
efficacy comparison of integrated PET/CT
versus 3.0-T whole-body MR imaging. Radiology
248(2): 632-642, 2008
図1 髄膜腫のMRDSA
(時間分解能0.6秒、whole MIP)
腫瘍内部の強い濃染像と周囲の脳表静脈(青矢印)が明瞭
に描出されている。
図2 髄膜腫のMRDSA
(時間分解能0.6秒、partial MIP)
中硬膜動脈の分枝(赤矢印)が流入動脈となり腫瘍を濃染し
ている。
図3 悪性神経膠芽腫のMRDSA
(造影剤半量投与)
強く不均一な濃染像と、深部静脈の早期出現(青矢印)がみ
られる。
KEY Sentence
●3D-TOF法では、1.5T装置で過大評価傾向がある狭窄や閉塞性病態を正確に評価できる。
●高分解能のMRDSAは、血管性病変の血行動態の可視化と脳腫瘍の悪性度判定に有用である。
●ASL法は有用な検査法であるが、病的な血行動態によって生じるアーチファクトやDSC法とのミスマッチに注意すべきで
ある。
●Time-SLIP法を発展させたASL-MRA法は、閉塞性血管障害における側副血行の評価に有用である。
●FSBB法によって、外側線条体動脈(LSA)など微細脳血管の描出が可能になった。
●HOP-MRA法は撮像時間を延ばさずに、TOF法とFSBB法のMRAを同時に得ることができる。
●頭蓋内血管の血管壁イメージングによる閉塞性病変やBAD(branch atheromatous disease)の診断の進歩が期
待される。
Vol.11 No.15(2013)
13
図8 海綿状血管腫+静脈奇形のFSBB法
図4 神経膠芽腫のDSC法(残りの半量投与)
血管腫のみならず周囲に合併した静脈奇形が明瞭に描出さ
れている。
腫瘍の充実部分のCBVが上昇しており、悪性度の高さを裏付けている。
図5 左中大脳動脈閉塞のASL-MRA法
TOF法では描出されない側副血行の詳細な状況が描出されている。
図10 左BAD(branch atheromatous disease)発症10日後
TOF-MRAでは狭窄を認めないが、血管壁イメージングでは偏在性のプラークと推測され
る信号が認められる。
MRDSA、ASL法、ASL-MRA法、FSBB法、HOPMRA 法といった新しい先端的なアプリケー
ションに関する撮像技術の概要と臨床エビデ
ンスについて、Titan 3T の経験を中心に紹介
図9 右中大脳動脈M1閉塞後再開通の血管壁イメージング
した。これら各手法の特長を活かした適切な
M1の壁肥厚が描出されている。
図6 もやもや病STA-MCA吻合術後のASL-MRA法
TOF法に比べ狭窄や側副血行の評価に有用で、DSAやSPECTとの相関も良
好であった。
図7 もやもや病のFSBB法
FSBB法にて外側線状体動脈(LSA)が明瞭に描出されている。
の例では、FSBB 法で LSA が明瞭に描出され
ている(図 7)。海綿状血管腫の例では、血管
腫のみならず FSBB 法で血管腫およびその周
よる DSC法では腫瘍の充実部分のCBVが高
くなっており、悪性度の高さを裏づけること
ができた(図4)。
ASL法は、病的な血行動態
に起因するアーチファクトや
低灌流の誇張描出に注意
ASL法とTime-SLIP法を
融合させた
新たな発想の
“ASL-MRA”法
SPECTとの相関も良好であった
(図 6)
。ASL-
囲に合併した静脈奇形と導出静脈が明瞭に描
MRA 法は、無侵襲であること、TOF 法に比
出されている(図 8)。
べ末梢分枝の描出および側副血行やバイパス
の評価に優れるという利点がある。他方、撮
像時間が比較的長いこと、delay time を選択
HOP-MRA法は、TOF法の
メリットとFSBB法の有用性を
一度に得られる効率的な手法
使い分けによってその有効性が発揮されるこ
閉塞性血管疾患やBADの
病態解明への新たなる試み
“頭蓋内血管壁イメージング”
Titan 3T で試みられている頭蓋内血管壁イ
メージングについて紹介する 7、8)。撮像シーケ
ンスは高 分 解 能の2D-SE 法またはdual echo
非 造 影MRA 手 法 の Time-SLIP 法 を 血 流 動
しなければならないこと、毛細血管以降のレ
態描出に使う試みは従来からなされている
ベルが不十分であることが今後の課題といえ
が、これを積極的に応用して、血管の形態描
よう。これら利点と課題を踏まえた現段階の
HOP(hybrid of opposite contrast)-MRA 法
評価する。右中大脳動脈M1閉塞後再開通の例
ASL(arterial spin labeling)はトピックスと
出に用いたのが ASL-MRA 法である。ASL 法
臨床応用として、血管奇形における存在診断
は、3D-TOF 法の高信号から FSBB 法の低信号
では、血管壁イメージングにおけるM1 の壁肥
して有用性が議論されているが、本稿ではそ
と同様に、描出したい部分に tag を加え、tag
の精度向上や経過観察、閉塞性血管障害にお
を差分することで微細血管の信号を強調する
厚が描出されている
(図 9)
。TOF-MRA では狭
のピットフォールを提示したい。これには側
なし画像とをサブトラクションしたのち MIP
ける側副血行の評価、腫瘍性病変の血流評価
というコンセプトである。撮像時間の延長を
窄を認められない左BAD
(branch atheromatous
副血管など流れの遅い血管から強い信号が発
処理を行う。データ収集は3Dで行い、labeling
などがある。
避けるためダブルエコーで撮像している。第
disease)発症 10 日後の例では、血管壁イメ
生するvascular artifactと呼ばれる現象があ
delay time を変え撮像することで主幹動脈か
1 エコーを使って 3D-TOF 法に近い画像、第
ージングで偏在性のプラークと推測される所
る。また血流速度が著しく低下している場合
ら末梢領域の詳細まで描出することができ
2 エコーを使って FSBB 法の画像を得るが、
見が得られている(図 10)。頭蓋内血管壁イ
や、側副血行路を介して血行が向かう部位で
る。左中大脳動脈閉塞の例では、TOF 法で描
frequency-weighted subtraction を 適 用 す る
メージングは、従来撮像プロトコルでは描出
は、ラベルした血流が十分に撮像スラブ内に
出しえないであろう側副血行の詳細が描出さ
などの工夫を加えて、より明瞭な画像が得ら
しえない閉塞性血管疾患の病態を解明する有
到達できず、その結果、低灌流域が誇張され
れ良好な評価が可能であった。これは Titan
れるようになった。もやもや病の症例では、
用な手法として今後に期待できる。さらなる
る傾向がみられる。また脳腫瘍では、病態の
3Tの高いSN 比によって信号が末梢部まで保
FSBB(flow-sensitive black blood)法は、磁
TOF 法でほとんど描出のない末梢や遠位部の
症例の蓄積と臨床的検討を進めていきたい。
違いや撮像の条件に起因してASL法とDSC法
持されるためと考えられる(図 5)。本手法を
化率強調のコントラストをベースに
血管を詳細に描出することができた。
の視覚評価に乖離が生じる場合があり、症例
用いた狭窄閉塞性疾患に対する検討が報告さ
dephasing パルスを付加して微細な血流信号
主幹血管の狭窄や閉塞の病態描出およびバ
を重ねてさらなる検討を加える必要がある 3)。
れている 4)。もやもや病の STA-MCA 吻合術
を積極的に低下させる手法である。FSBB 法
イパス手術後のフォローアップにおける
後の例では、TOF 法に比べて ASL-MRA 法で
によって外側線条体動脈(LSA)が良好に描出
HOP-MRA 法の臨床的有用性が近年報告され
は著明に末梢信号が保持され、狭窄の状況や
されるようになった。内頸動脈から中大脳動
ている 5、6)。
側副血行の評価に有用であった。また DSAや
脈の近位部に狭窄が認められる類もやもや病
14
Vol.11 No.15(2013)
微細な脳血管を非造影で描出する
FSBB法は
LSA描出や血管奇形病変に威力を発揮
FSE 法を使用している。撮像断面は中大脳動
脈M1の長軸に直行するオブリーク断面で壁を
結語
中 枢 神 経 系 の 診 断 に 有 用 な TOF-MRA、
とを期待したい。また頭蓋内血管壁イメージ
ングは、閉塞性血管の病態を詳細に解明する
有用な手法として、さらなる症例検討を重ね
て有用性を探っていきたい。
<文献>
1) Tsuchiya K et al: High-resolution time-resolved
contrast-enhanced MR angiography of brain
tumors at 3T. American Society of Neuroradiology,
June4-9, 2011, #501
2) Tsuchiya K et al: Consecutive acquisition of
time-resolved contrast-enhanced MR
angiography and perfusion MR imaging with
added dose of gadolinium-based contrast agent
aids diagnosis of suspected brain metastasis.
Magn Reson Med Sci 12: 87-93, 2013
3) Tsuchiya K et al: Comparison of cerebral blood flow
on perfusion MRI by using arterial spin labeling and
dynamic susceptibility contrast in brain tumors.
第72回日本医学放射線学会学術集会, 2013
4) Tsuchiya K et al: Value of noncontrast MR
digital subtraction angiography using arterial
spin labeling in the diagnosis of occlusive
diseases of major intracranial arteries. Paper
O-108, 51th. Annual Meeting, ASNR, 2013
5) Tsuchiya K et al: Hybrid of opposite-contrast
magnetic resonance angiography of the brain
by combining time-of-flight and black blood
sequences: its value in moyamoya disease. J
Comput Assist Tomogr 34: 242-246, 2010
6) Tsuchiya K et al: Postoperative evaluation of
superficial temporal artery-middle cerebral
artery bypass using an mr angiography
technique with combined white-blood and blackblood sequences. J Magn Reson Imaging 38:
671-676, 2013
7) 高橋沙奈江ほか: 頭蓋内主幹動脈のプラークイメージングの
撮影条件の検討. 第41回日本磁気共鳴医学会大会, 2013
8) 五明美穂ほか: 中大脳動脈M1狭窄における頭蓋内プラー
クイメージングの初期臨床応用. 第41回日本磁気共鳴医
学会大会, 2013
Vol.11 No.15(2013)
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