防災まちづくりのための基盤地図に基づく3次元都市モデルの自動生成 杉原 健一 、沈 振江 Automatic generation of 3-D urban model based on base map for disaster prevention town planning Kenichi SUGIHARA 、SHEN Zhen-jiang Abstract: We are developing “GIS and CG integrated system for Automatic Generation of 3D Urban Models” based on building polygons or buildings’ contours on the digital map stored by GIS. In our research, we aim at developing “town planning support system” for disaster prevention using 3D building models automatically generated. To get digital maps, which were quite expensive, we had to ask municipal governments or urban planning consultants for permission to use them for academic purposes. Recently, we can easily access the providers of digital maps with attributes inputted, such as the base maps provided by the Geospatial Information Authority of Japan (GSI). Based on the base maps, we present automatically generated real-world 3D urban models. For disaster prevention, we also present future 3D urban models based on alternative plans proposed by urban planners or designers. Thus, our integrated system can be the town planning support system, which can visualize alternative 3D urban models for protection against earthquakes and tsunami. Keywords: 防災まちづくり(Disaster prevention urban planning)、基盤地図(base map)、自動生成(Automatic generation)、3次元都市モデル(3D urban model) 1.はじめに 地震や津波等の災害にあう前の現況の街を再現する 3Dモデル(図1参照)、次に、災害にあい、想定され る被災した後の街の3Dモデル、そして、災害に対す る対策を行うため、例えば、密集市街地の細街路を拡 幅する、あるいは、避難ビルを建設した街の3Dモデ ルを構築すれば、それらは防災まちづくりに資する「整 備案の3次元のたたき台」となる。これらは、現実に起 こりうる災害イメージを実感できる3Dハザードマッ プ、あるいは、図4に示すような災害対応力を高める まちづくり案を検討する3Dモデルとなる。 2011 年 3 月に発生した東北地方太平洋沖地震(東日 本大震災)で、宮城県が明らかにした街づくり復興計画 案では、「景観を損なわず、機能的に住民を守る」とい う方向性を示した。例えば、南三陸町など入り組んだ 海岸線が多い県北部では、漁港や観光施設によって防 潮堤の強化が難しいため、「避難ビル」を配置し、低地 に住宅が作られないよう、防災公園を建設し、住宅は 高台に移す。また、工場や魚市場などの産業集積地を 持つ石巻市や気仙沼市などでは、やはり避難ビルや盛 り土の道路で、内陸部の住宅を守るとある(YOMIURI ONLINE、 2011)。 こうした復興計画案では、主体となる文章、ポンチ 絵(パース完成予想図より簡略に描いた概略の絵)が書 杉原:〒503-8550 岐阜県大垣市北方町5丁目50番 岐阜経済大学 経営学部 情報メディア学科 Faculty of Business Administration Gifu-Keizai University, 5-50 Kitagata-chou Ogaki-city Gifu-Pref, Japan TEL:0584-77-3598 かれることが多い。このとき、具体的にどの場所にど ういう施設、公共物を建設するか、あるいは、民間デ ベロッパーが住宅街を形成していくとき、どのように それをコントロールするかは、各自、思い描く復興案 が異なることが多い。そこで、具体的に、できるだけ、 図1 基盤地図(電子地図)と、それに基づいて自動 生成した現況を再現する3次元都市モデル 現実世界を仮想空間に取り込んで、災害対策案等の「整 備案を忠実に実現する3Dモデル」を作り、関係者でそ の3Dモデルを共有して、案を練り、より良いものに する必要がある。 しかし、この整備案の3Dモデルの作成には、3次 元CGソフトウェア等を用いて、多大の労力と時間を かけて作成する必要があり、予算がオーバーしてしま う、あるいは、作成をあきらめ、地図のみによる整備 案の提示となってしまうことが多い。そこで、本研究 では、これまでの研究成果であるGISとCGを統合 化した3次元都市モデル自動生成システム(Kenichi SUGIHARA、 2006)を用いて、現況再現と色々な整備案 の3次元都市モデルを自動生成することを提案する。 本システムにおいて、街の3Dモデルのソースとなる ものは、電子地図である。しかし、この電子地図は入 手が困難であった。ところが、近年、国土地理院が全 国に渡って基図となる電子地図、即ち、図1上に示す ような「基盤地図」の整備を始め、誰でも、整備された 電子地図を利用可能となった。本研究では、この「基盤 地図」に基づいて、「現況を再現する3Dモデル(図1 下)」、「色々な整備案の3Dモデル」を自動生成するシ ステムを提案する。 2.3次元都市モデルについて 図1下に示すように、3次元都市モデルは、都市計 画、まちづくり、景観などのアカデミックな分野から 公共事業の情報公開、まちづくりへの住民参加の場、 観光案内、企業の広告、営業活動の場としてまで利活 用が期待される重要な「情報基盤」である。住民参加型 まちづくりでは、現状と整備案の都市の3Dモデルを 提示するワークショップ等を開催し、住民、地権者、 行政、デザイナーなどの専門家が目標とする街の3D イメージを共有し、改善案や代替案を検討していくこ とがよりよいまちづくりにつながる。「現実の街並み」 を再現する都市の3Dモデルは、CGやCV(コンピュ 汎用GIS 電子地図 ( ArcGIS ) ( VB using (MaxScript that controls 3ds Max) 積・管理 ESRI Inc) *階数,建物タイ *不要な辺や頂 点のフィルタ リング ピング用イメージ コードなど3次元 基盤地図 CG Module MapObjects, のテクスチャマッ *建物ポリゴン を長方形の集 まりにまで分 割・分離 化のための「属 性情報」 3.自動生成システムの構成と流れ 本研究における自動生成のシステム構成と3次元建 物モデルの自動生成のプロセスを図2に示す。建物の 3Dモデルの情報源になるものは、図2に示すような 電子地図(ここでは「基盤地図」)である。電子地図は、 汎用GIS(ArcGIS など)によって、蓄積される。電子 地図上の建物ポリゴンは、GISのソフト部品 GIS Module *電子地図の蓄 プ,壁や屋根へ ータビジョン) 、リモートセンシングなどの技術を用 いて、現実世界のものの3D形状や色などの情報をコ ンピュータの世界に取り込んで、仮想空間に構築する。 一方、「将来あるべき街の姿」あるいは「過去の街並 み」を再現するには、それぞれ、デザイナーが描く街並 みの地図やコンサルタント企業が提出する発掘調査結 果、古地図などの地図情報に基づき、主にCGを用い て、街並みの3Dモデルを製作する。 近 年 、 この 都 市 の3 D モデ ル は 、グ ー グ ル社 の Google Earth の3D表示やリンデンラボ社のセカンド ライフ等で、人々の関心が急速に高まっている。セカ ンドライフは、現実世界とは異なる世界を構築してい るが、Google Earth の3D表示は、現実世界を仮想空 間に取り込んで、現実世界を模している。 これらの都市の3Dモデルを作成するためには、多 くの手作業で作成を行う必要があり、多大な時間と労 力を掛けている。例えば、3DモデルをCSG (Constructive Solid Geometry)で作成する場合、次に 示す(1)から(5)の労力のかかる手順に従って、モデリ ングを行っている。 (1)屋根や建物本体など建物の部品となる、適切な大 きさの直方体、三角柱、多角柱などの基本立体(プリミ ティブ)を作成する。(2)これらの基本立体の間で、窓 やドア用に穴を空ける、または、部品の形状を形成す るためのブール演算を行う。(3)作成した部品を回転 する。(4)正しい位置にそれらを配置する。(5)それら にテクスチャマッピングを施す。 *内側境界線の 生成 *適切なサイズ の基本立体の生 成,窓用に穴を 空ける,部品を 作成するための ブール演算,部 品を配置するた めに回転と移動 *自動テクスチ ャマッピング 図2 自動生成システムの構成と建物の 3Dモデルの自動生成のプロセス (MapObjects)を用いてプログラム開発したGISモジ ュールにて、(1)直角ポリゴンを「長方形の集まり」に まで、分割・分離する。(2)建物ポリゴン上の不要な 頂点をフィルタリングする。(3)建物境界線よりセッ トバックした所にある窓やドアを配置するため内側境 界線を生成する、などの「前処理」を行う。 前処理したデータを、3次元CGソフト(3ds Max) をコントロールするCGモジュール (MaxScript でプ ログラム開発)が取込み、以下の処理を自動的に行い、 3次元建物モデルを自動生成する。 (1)屋根や建物本体、窓など建物の部品となる、適切 な大きさの直方体、三角柱、多角柱などの基本立体(プ リミティブ)を作成する。(2)これらの基本立体の間で、 屋根や窓用に穴を空ける、または、部品を作成するた めのブール演算を行う。(3)作成した部品を回転する。 (4)正しい位置にそれ らを配置する。(5)それらにテ クスチャマッピングを施す。 このGISモジュールとCGモジュールでの処理は、 本研究で開発したプログラムによって、全て自動的に 処理される。 4.国土地理院の「基盤地図」について 図1に示すように街の3Dモデルの元になるものは 電子地図である。電子地図は、数年前までは、高価な 市販の電子地図を購入するか、行政や都市計画コンサ ルタント企業等が所有する電子地図の使用の許可を求 め利用するかで、入手が困難であった。ところが、平 成20年より、国土地理院は、「基盤地図情報」のイン ターネットによる提供を開始した(図3参照)。これに より、入手困難であった電子地図を取得することが可 能となった。これは、高精度の骨格的地図情報の整備、 提供及び高精度の衛星測位の利用が国家としての喫緊 の課題となっており、整備を開始した。また、電子地 図の背景図となる衛星写真も、グーグルアースの登場 図3 国土地理院の基盤地図(電子地図)のダウンロ ードサービス(整備された地域は急速に拡大) により、利用が可能となった(但し、使用する場合は、規 約をよく読み、学術目的という範囲で、Google およびその 供給業者の権利帰属表示を付ける必要がある。)。 5.防災まちづくりの案の3Dモデル化 今回の東日本大震災で、宮城県が明らかにした街づ くり復興計画案では、「景観を損なわず、機能的に住民 を守る」という方向性を示した。これによると、被災地 の地形や市街地の状況を「平野型」「リアス式海岸型」 「都市型」の3分類に切り分け、堤防の役割を果たす盛 り土した道路や、高層の避難ビル、防災公園などを設 ける施策が盛り込まれている。水田や漁港、工場のあ る海岸部と住宅部とを景観を損なわないように道路や 防災公園で分けるような「復興整備案」となっている。 例えば、「平野型」は、県南部の名取市、岩沼市など 水田が広がる地域で、高さ約5~10メートルの盛り 土の上を走る仙台東部道路が津波を食い止めた点に注 目し、こうした道路を海岸線と平行に数本走らせる。 また、仙台平野の景観を残すため、道路間に水田を配 し、住宅はその内陸に置き、海岸線の堤防も厚くする とする。また、南三陸町など入り組んだ海岸線が多い 県北部は「リアス式海岸型」で、漁港や観光施設によっ て防潮堤の強化が難しいため、「避難ビル」を配置する。 低地に住宅が作られないよう、防災公園を建設し、住 宅は高台に移す。また、工場や魚市場などの産業集積 地を持つ石巻市や気仙沼市などは「都市型」となり、や はり避難ビルや盛り土の道路で、内陸部の住宅を守る とある(YOMIURI ONLINE、 2011)。 こうした復興計画案では、主体となる文章、パース 絵やポンチ絵を描いて、検討することが多いが、具体 的にどの場所にどういう施設、公共物を建設するか、 あるいは、民間デベロッパーが住宅街を形成していく とき、どのようにそれをコントロールするかは、関係 者間で、思い描く復興案は異なることが多い。そこで、 具体的に、仮想空間にて、災害対策案等の「整備案を忠 実に実現する3Dモデル」を作り、関係者でその3Dモ デルを共有して、案を練り、合意形成を図り、より良 いものにする必要がある。 ここでは、具体的に、被災地ではないが、将来、東 海・東南海・南海地震が発生し、影響を受けるとされ る三重県において、代表的な都市、津市の市街地を再 現する3Dモデル、災害対策案の3Dモデルを「自動生 成システム」を用いて、作成した事例を図4、図5に示 す。図5では、低層の住宅街に「避難ビル」を設置した 事例を示す。「避難ビル」とは、1981 年に定められた新 耐震設計基準に適合しており、かつ RC(鉄筋コンクリ ート)か SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造であることが 求められる。確保すべき階数(高さ)は地域ごとに想定 される浸水状況に応じて決められ、津波の進行方向に 対して奥行きがある形状が望ましいとされる(内閣府 防災情報のページ、2011)。 2011 年 3 月に発生した東日本大震災では、東北地方 太平洋側の沿岸地域に大規模な津波が発生し、家屋か ら自動車まで波にさらって壊滅的被害をもたらし、木 造住宅が全て波にさらわれた被災地でも、鉄筋コンク リート造のビルは多くが倒壊せずに持ちこたえた。こ うした経緯から、津波による浸水が予想され、高台に 避難するのに時間がかかる平野部、背後に急な山など が迫る海岸集落で、堅固な中高層ビルを一時的な避難 所として、「避難ビル」を市町村が指定すること(日本経 済新聞、2011.7.5)、及び、「避難ビル」の建設が防災ま ちづくりにおいて、重要性を増している。 6.まとめと今後の課題 本研究では、電子地図、特に、急速に整備されつつ ある「国土地理院の基盤地図」に基づいて、防災まちづ くりに活用できる「街の3Dモデル」を自動生成するシ ステムを提案した。まちづくりにおいて、整備後の将 来の街の姿を考えるとき、一般的に、地図を描いて、 計画案を検討する。この地図が、素速く街の3Dモデ ルに変換できれば、復興計画の効率を上げることがで きる。本研究では、特に「基盤地図」に基づいて、3次 元建物モデルを自動生成する「GISとCGの統合化 システム」を提案した。 本統合型システムの特徴を以下に列挙する。 (1) まちづくりや都市計画において、整備後の将来の 街の姿を考えるとき、一般的に、地図を描いて、計画 案、代替案を検討する。この地図が、素速く街の3次 元モデルに変換できれば、プランニングの効率を上げ ることができる(本システムは都市計画コンサルタント2 社で採用された)。 (2) 都市シミュレーションシステムは、一般的に、大 規模で、高価だが、本システムは、市販のGISソフ ト、3次元CGソフト、本システムから構成されるシ ンプルで、安価な統合化システムである。 図4 基盤地図に基づいて自動生成した3次元都市モデ ル(三重県津市市街地、大地は Google Earth 使用) 今後は、「現実に起こりうる災害状況」をシミュレー ションする3Dモデルを自動生成するシステムの開発 を目指す。基盤地図、グーグル衛星写真等を活用して、 「現況再現」や「想定される被災状況」、「復興案」の3D モデルを容易に、短時間に構築するシステムができれ ば、住民や市民、地権者、行政、に興味を持たせ、分 かりやすい「自分たちの故郷の3Dモデル」を提供する ことになり、防災まちづくりの様々な現場に利するも のとなる。また、例えば、建物以外に道路閉塞の要因 となる電信柱、ブロック塀などの3次元モデルを自動 生成するプログラムの開発を行う。こうして、より「現 実の世界に起こりうる災害状況」をシミュレーション する3次元モデルを開発すれば、災害イメージを容易 にいだくことができる。本システムは、次世代のハザ ードマップである「3次元ハザードマップ」を容易に作 成することが可能であり、住民、行政などの関係者で 災害イメージを共有し、災害を分析、対策案の検討を 行い、地域の整備案を考え、地域の防災力を向上させ ることができる。 参考文献 YOMIURI ONLINE : 盛り土道路で堤防・海岸に避難ビル …宮城復興案、読売新聞 2011 年 4 月 25 日 Kenichi SUGIHARA: “ Automatic Generation of 3D Building Models with Various Shapes of Roofs”、 ACM SIGGRAPH ASIA 2009、 Sketches. 内閣府 防災情報のページ ガイドライン本編: http://www.bousai.go.jp/oshirase/h17/050610/guideline.pdf 日本経済新聞:津波対策 避難ビル整備、構造など調査、補 助金検討 2011 年 7 月 5 日 図5 防災まちづくりの案を可視化する3次元都市モデル (低層の市街地に、「避難ビル」を建設した場合)
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