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二人の起業家、成功するのはどっち?
【A さんの場合】
会社員として大手企業の人事部に勤めていた A さんは最近、個人向けのコーチングを行う
コーチとして独立した。
個人向けのコーチングは海外では市場が拡大し、ライフコーチ、ビジネスコーチなどの職業
で独立している人たちがたくさんいる。日本でもその流れが生まれてきて、いまや伸び盛り
の分野とも言われている。
A さんは人事部でのカウンセリング的な業務の経験を生かし、かねてからの念願であったフ
リーの道を進むことにした。フリーで活動するにあたって、NLP やらカウンセリングやら、箔
が付きそうな資格も取得した。
いずれは本も出し、アンソニー・ロビンズとまではいかないまでも、行列が出来る有名なコー
チになりたい。そして自分も時間や場所、そしてお金に縛られない生活をしながら、ビジネ
スをしていきたいと思っている。
A さんはインターネットマーケティングを勉強し、とりあえずブログとホームページを作った。
さらに、見込みのクライアントを見つけるために、メールマガジンも発行した方が良いだろう
というアドバイスも受け、チャンレジすることにした。
メールマガジンに登録してもらうには、何かしらフックが必要だろうということで、無料レポー
トと動画を作ることにした。いわゆる無料オファーだ。これらの飛び道具を使って、まずは自
分のことを知ってもらうことにしよう。
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世の中に自分の名前と顔が知れ渡るのはちょっと恥ずかしいが、それを考えている場合じ
ゃない。A さんは自分の知識や能力を棚卸することにした。
独立してから半年くらいは、A さんのビジネスはまるで立ち上がらなかった。慣れないインタ
ーネットマーケティングに四苦八苦した。
しかし手ごたえはあった。
少しずつだが、メールマガジンの読者が増えてきて、動画を作って送れば、それなりの数の
人が見てくれる。1 対 1 のコーチング、つまり A さんの有料メニューに申し込んでくれる人が
出てくるのは時間の問題だった。
A さんのメニューの価格は他のコーチよりも少し低めだ。なにしろ経験がないので、少し低
めにしないとクライアントがつかないだろうと考えた。
まもなくして、初めてのクライアントから入金があった。感動だ。自分の作ったサービスが世
の中に受け入れられた瞬間。広告費がかかっているので、累計するとまだ黒字にはならな
いが、これはいけそうだと手ごたえを感じた。
【B さんの場合】
インターネット広告代理店で営業マンとして働いている B さんには、同僚にはいえない秘密
があった。
B さんの会社はインターネットでビジネスをしている企業に、SEO や PPC などのサービスを
提供する業務を行っている。B さんの仕事は、インターネットで通販を行っている会社を探し、
そこにアポを取って営業をしにいくというものだ。B さんは営業マンとしては優秀だった。数
多くのお客さんを掴み、仲良くなった。
会社では優秀な B さんだが、ひとつ悩みがあった。それは彼が担当している会社の社長の
中に、自分と同じくらいの年齢の人が何人かいたことだった。
元来、負けず嫌いで野望に燃えていた B さんには、なんともいえないフラストレーションが溜
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まっていた。自分も会社員をやっている場合じゃない。自分でビジネスをしよう。そう思い立
ったのは 1 年前のことだった。
B さんは仕事の合間や週末に、これまで知りえた知識を元にして、輸入ビジネスをスタート
した。輸入ビジネスとは、その名のとおり、海外からモノを輸入して、日本で販売するビジネ
スだ。インターネットが使え、英語さえわかれば、世界中のどんな企業とも取引が出来る。B
さんのような個人でも、容易に輸入ビジネスが出来るようになった。
とても上司や同僚には言えないが、いまや B さんが会社に内緒で行っている副業からの収
入は、会社の給料を上回るようになった。
B さんはもう会社にいる場合じゃないと思った。もっと自分のビジネスに時間をつぎ込めば、
もっと成功できる確信があった。会社を辞めても当面の生活に困ることはない。B さんの起
業家熱はヒートアップした。
入社丸 5 年目を迎えた春、B さんは辞表を出し、自由の身を選ぶことにした。
そして 1 年後・・・
【A さんの場合】
A さんは一対一のコーチングに誘導するために、有料セミナーを開催していくことにした。イ
ンターネット上でのコミュニケーションよりも面と向かって話して、自分を知ってもらったほう
が良いのは当然だ。
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本来ならば、無料でセミナーをやっても良いところだが、アドバイスを受けて有料にした。有
料にすれば、ほかの誰かメールマガジンを発行している人に紹介料を払って、宣伝してもら
えるからだ。いわゆるアフィリエイトである。
無料で開催したとしても、自分のメールマガジンの読者数はたかが知れているから、集客
には限界がある。どうすれば他の人に協力してもらえるかを考えた結果だった。
セミナーを開催し始めると、A さんのビジネスは軌道に乗り始めた。といっても当初思い描
いた夢の生活が送れるほどではないが、コンスタントに新規のクライアントが取れるように
なった。
ビジネスが軌道に乗るのと同時に、A さんの生活は忙しくなってきた。クライアントからのメ
ールや電話はひっきりなしにやってくる。
それと同時に、デスクワークもしないといけない。メールマガジンを書いたり、動画を作った
り、ブログを更新したり。さらにセミナーの会場を予約したり、資料を準備したり。
A さんはこの時点で、大きな見込み違いをしていたことに気が付いた。
フリーになれば、一日の大半をクライアントの対応に使えると思っていた。ところが現実はそ
うではない。日中はほとんど新規のクライアントを獲得するための作業に費やさないといけ
なかった。そして夜になればクライアントの対応に追われる。会社員時代よりもデスクワー
クが多い。
こんな日がずっと続いていた。さらに、元々単価を低く設定していたので、クライアント数が
増えても、人を雇えるほどの収入はなかった。
アンソニー・ロビンズどころじゃない。A さんは、ロバート・キヨサキ氏が言う S クワドラント(自
営業者)のワナに陥ってしまっていることに気が付き始めた。
自分の時間を切り売りしているからコーチングできる人数にも限界がある。当然、この仕事
は自分にしか出来ないから、人を雇ってやってもらうことも出来ない。自分がいなければビ
ジネスが回らない。
どこで間違ってしまったのか、そしてどうすれば抜け出せるのか・・・
A さんには見当がつかなかった。
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【B さんの場合】
B さんが副業で販売していたのは、アメリカから輸入したファッション雑貨だった。これはモノ
が小さいので輸送費もかからないし、在庫スペースも少なくて済む。それでいて、そこそこ
の単価で売れる。
規模は小さいが、いま大手といわれているような E コマースの会社も、元々はこのような小
さい規模で始まったところがほとんどだ。B さんは売り上げをさらに伸ばすために、別の商
品にも目をつけた。いまの商品はいわゆるニッチ商品で、限られた人にしかニーズがない。
それがイコール B さんの売り上げの規模になっているのだ。
B さんはいくつかの新商品の取り扱いを開始するため、新しいウェブサイトを作り始めた。
彼はとても器用だったので、基本なんでも自分で出来てしまう。見よう見まねでウェブサイト
も作れるし、PPC も出せる。
彼がすべてを自分でやっているのには理由があった。以前、副業で始めたウェブサイトを作
る際、外注に依頼したのだが、出来上がってきたデザインが自分の考えとはまったく異なる
ものだった。結局、彼は自分で作ることになった。この一件以来、人に頼むよりも自分でや
ったほうが早いし、お金もかからないという結論に達した。
商品点数が増えた B さん。それに伴って売り上げが上がってきた。単純に、商品数とウェブ
サイトを倍にすれば売り上げも倍になるという具合だ。
B さんの収入も増えたが、彼はこの状態が企業というよりも、個人事業主の延長線上でしか
ないことに気が付いていた。つまり、売り上げを上げるには、もう一個商品を見つけてきて、
もう一個ウェブサイトを作らないといけない。それを自分でやるのだ。
それと同時に、前に作った商品の売り上げは徐々に下がっていく。ライバルが増えたり、ニ
ーズが一巡してしまうからだ。自分の時間には限界があるので、無尽蔵に商品とウェブサイ
トを作るわけにもいかない。どこかで天井がくる。それでも辞めるわけにはいかず、睡眠時
間を削って、毎日が作業の連続だった。
会社員の時以上の収入は確保できているものの、いつそれが止まるかも知れないという不
安にさいなまれた。商品だって、いつも売れるものが見つかるとは限らない。疲労は蓄積し
ていった。いったい今度はどんな商品を扱えば、この状態を抜け出せるのか?
B さんは毎日どこに向かっているのかわからなくなってきた・・・
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起業家の神話
この二人の話はまったくゼロから作ったものではない。何人かの起業家を目指そうとして独
立した人の実例を組み合わせて作り上げたものだ。
自分の強みを生かして起業した A さんも、収入源を確保してから起業した B さんも、結果と
してこれ以上、ビジネスが成長できないという状態になってしまった。
あなたも A さんや B さんのような人を見かけたことがあるかもしれない。もしかすると、あな
た自身がそうであるかも知れない。
企業は作られてから 10 年以内にその 9 割が潰れる、というような話を聞いたことがあるだろ
う。特に資金が少なくても株式会社が出来てしまうようになってから、起業家になりたい、経
営者になりたい、と思えば簡単に実現してしまうようになった。
もちろん、それによって成功への階段を登り始めた人もいるだろうが、同時に A さんや B さ
んのように、にっちもさっちもいかなくなってしまった人も多数生まれる結果になった。
多くの人がカッコいい経営者を夢見て起業するが、そのほとんどが個人事業主の延長線上
に留まってしまう。
これはいくら集客のスキルが高かろうが、関係ない。考えてみてほしい。もし A さんの集客
のスキルが 2 倍だったら、クライアントが 2 倍になる。すると A さんの忙しさは 2 倍になり、
ますますにっちもさっちもいかなくなる。
もちろんスキルは重要だ。スキルがなければ、そもそもスタートすることが出来ない。ところ
が、A さんや B さんの問題はスキルを向上させることだけでは解決できない。
A さんと B さんのパターンは、非常に良く見られる傾向だ。
もしあなたがどちらかのパターンにはまっていたとしたら、安心してほしい。これらのパター
ンは、良く発生するがために、その対処法もある。治し方がわからない難病ではなく、処方
箋がある病だ。
では、どんな病なのか?
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A さんと B さんがかかっているのは、【職人
【職人型起業】
【職人型起業】と
型起業】
いう病だ。
職人というのは、鍛冶職人のような伝統的な職人から
始まり、A さんのように資格を持っているコーチであっ
たり、プログラマー、デザイナーなども当てはまる。
さらに B さんのようにインターネットマーケティングを
勉強してビジネスを始めた人の多くも職人といえる。
実は世の中で起業する人のほとんどは、この職人型
起業に当てはまる。
彼らは手に職を持っている。それがゆえに、その特殊能力をベースにして起業する。ところ
が、彼らの多くが A さんのような状況に陥ってしまい、フリーの立場をあきらめて、誰かに雇
われるか、細々と生活のための仕事を続けるかのどちらかになりがちだ。
では、職人型起業の何が悪いのだろうか?
職人としての能力と、ビジネスの能力はまったく別物である。
職人としての能力と、ビジネスの能力はまったく別物である。
職人の多くは、腕が確かであればビジネスがやってくると思っている。そして自分の腕が一
番だと思っている。だからテレビに出ているような売れっ子を見て、こんな愚痴をこぼす。
“なんだ、あんなやつ。俺(私)のほうが技術は上だ。”
職人としての仕事が増え、
職人としての仕事が増え、ビジネス構築の時間が取れない。(またはその逆)
としての仕事が増え、ビジネス構築の時間が取れない。(またはその逆)
そもそも職人として起業する人は、1 日中、その仕事をやっていたいという理由で独立する
ケースが多い。ところが、実際に会社を作ってみると、雑多な仕事がやってくる。A さんの場
合には、集客作業がそれだ。その作業に時間をとられすぎて、自分がやりたい仕事がまま
らない。
または、クライアントが増えて、職人としての仕事が増えてくると、ビジネスを構築する時間
がなくなる。すなわち集客やシステムつくり、長期的な視点といったものが欠けてくる。結果
としてビジネスが先細りする。
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自分にしか出来ない。
会社員の場合、社内で自分にしか出来ない仕事があればあるほど、その人の価値は高ま
る。余人を持って変えがたいという評判こそが、その人の給料や地位につながる。
ところが、ビジネスを構築するという点で言うと、これは死への道へと早代わりする。あなた
がいないと回らないビジネス、それはイコール自営業だ。
本来はあなたが必要とされるのではなく、あなたの作った商品や、あなたの作った会社が
必要とされていなければならない。多くの人は、会社員時代の習慣が引きずって、自分が
必要とされていたい、という欲求が抜けきらない。
顧客からの要求レベルが高くなる。
職人として起業すると、顧客の要求レベルがどんどん高くなっていく。この前はこれくらいだ
ったから、次はもっと良いものを・・・という要求に応えていく必要がある。
結果どうなるか?
ますます自分にしか出来ない仕事が増える。
職人型で起業した人の多くは、ビジネスを運営しているというよりも、新しい職業に就いたに
新しい職業に就いたに
過ぎないことがほとんどだ。
過ぎない
世の中のビジネスの大半は、職人によって運営されるビジネスである。この事実こそ、大半
の起業が失敗に終わる最大の原因である。
A さん、B さんのように、職人によって運営されるビジネスは、自分がビジネスを管理してい
るのではなく、ビジネスに自分が管理されている。日々の作業に自分が管理されている。
だから今日は昨日したことの後処理で忙しく、明日は今日の後処理で忙しいという状況が
発生する。彼らは、日々、やらないといけない作業をこなすことで精一杯で、長期的な視点
に立てない。
当初思い描いた、カッコいい起業家像など望むべくも無い。
さらに悪いのは人を雇ったとしても、どの作業をどれくらい任せれば良いのかわからないこ
とだ。いままで全部自分でやっていたので、業務の内容が非常にあいまいで、いきあたりば
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ったり。人を雇ったとしても、どれを誰がやるのかわからないために、余計に混乱するばか
りである。
しかし安心してほしい。先ほども言ったとおり、これらの症状は良くありがちであるゆえに、
その処方箋が確立されている。
今日はあなたに、その処方箋を生み出した人物を紹介したいと思う。彼はその処方箋を基
にして、世界中の何万という起業家、経営者を成功へと導いてきた。
世界 No.1、スモールビジネスアドバイザー、
米国にアントレプレナーシップを根付かせた男
マイケル E. ガーバー
E-Myth Worldwide 社創業者
マイケル E. ガーバー氏は 1977 年、スモールビジネス向けのトレーニングを行う会社、
E-Myth World Wide 社を設立。以来、145 カ国、6 万 5000 社のビジネスを成長させる手助
けをしてきた。また、世界の 118 の大学では、彼の著書がテキストとして用いられている。
彼の代表的な著作「E-Myth Revisited(邦題:はじめの一歩を踏み出そう)」は起業家、中小
企業経営者のバイブルとしてベストセラーになり、米 INC 誌は彼のことを“世界ナンバーワ
ンのスモールビジネスの権威”と名づけた。また、この本は、INC500 企業の経営者向けに
行ったアンケートにおいて、「7 つの習慣」「ビジョナリーカンパニー」などの名著を抑え、ナン
バーワンのビジネス書に選ばれている。
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E-Myth および書籍についての推薦者
および書籍についての推薦者のごく一部
いての推薦者のごく一部
「実践的かつテンポ良く書かれた本書を読むことで、今後のキャリアを通して、起業家的に
考え行動するための鍵を手に入れられるだろう。」
ブライアン・トレーシー
「私がビジネスの達人と考えている人物はレイ・クロックとマイケル・ガーバーだけである。
ワールドクラスの企業を作るために知るべきことがまとめられた本書は名作である。本書で
はさらに、もっと重要なこと、企業を成長させる一方で全力かつ創造的に生きることを教え
てくれる。」
ケビン・ダン:マクドナルド社 グレート・レーク支社元支店長
「マイケル・ガーバーの哲学はスモールビジネスを成功させるために必要なすべてが詰め
込まれている。私はすべてのパートナー企業に E-Myth を学ぶよう強く勧めてきた。」
ジェフリー・フォーセット:アクアテック・コーポレーション社長兼 CEO
「私は生涯にわたり起業家と CEO として働き、多くの企業を成功させてきた。その中で、マ
イケル・ガーバーの著作を楽しむだけでなく、深い感銘と刺激を受けてきた。彼は起業家と
して優れているだけではなく、私たちを起業家へと変える天才である。」
シグ・アンダーマン:エリー・メイ社 CEO
「私が成功を続けているのは、マイケル・ガーバーの E-Myth をバイブルとしているからであ
る。ガーバーのルールは最高のマーケティング手法であり、どのようなビジネスにも応用で
きる。」
ドロール・ディメオ・デュフィ:リ・マックス・ファースト・チョイス社
「私は会社を完全に変えることに成功した。プログラムに取り組む前の私は、仕事に追われ
て毎日 12 時間働く自営の“職人”だった。しかし、いまの私は 39 歳で引退した!若い起業家
にとっても、成長するための良い機会だといえるだろう。」
ジョーン・ガーデル:起業家
彼の名前を聞いたことがある方には、説明は不要かもしれない。
世の中にはスモールビジネスの経営に関わる様々なノウハウ、思想が存在するが、その多
くは彼が源流だ。すなわち、元々、彼が生み出し、30 年以上にわたって世の中に提供して
きたものなのだ。
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彼の作った処方箋はスタートアップ段階の起業家だけに適用されるものではない。多くの大
手企業も彼のコンサルティングを受け、ビジネスを成長させてきた。大きく分けると、以下の
3 つフェーズ毎の処方箋が用意されている。
起業 → 成長 → エンタープライズ(大企業)
エンタープライズ(大企業)
この短いレポートですべてを語ることは出来ないし、ここでは主に起業フェーズの読者を想
定している。そこで以下に、ほんの少しだけだが、起業家に向けた彼の処方箋をご紹介し
たい。
その 1 職人、マネージャー、起業家
職人、マネージャー、起業家の違いを理解する
、マネージャー、起業家の違いを理解する
あなたが果たす役割には 3 つの種類がある。職人、マネー
ジャー、起業家だ。
先ほど申し上げたとおり、大半のビジネスは職人によって
運営されているために、多くの問題が発生し続け、失敗す
る。
本当に成功するビジネスを創り上げる人は、職人型ビジネ
スをスタートする人とは、正反対の考え方でスタートする。
彼らは職人ではなく、真の起業家としての視点を持っている。
職人、マネージャー、起業家。
A さんはこの違いを理解していなかったために、ビジネスが行き詰ってしまった。
A さんも B さんも職人だった。ビジネスを日々管理するマネージャー、長期的な視点を考え
る起業家としての役割がなかったのだ。
多くの人は、起業するなら自分の得意分野で勝負しろ、と教えられる。だから世の中には職
人型のビジネスが大量に存在する。デザインに詳しい人はフリーデザイナーに、プログラミ
ングが出来る人はフリープログラマーとして、インターネットマーケティングに詳しい人はイ
ンターネットマーケターとして独立する。
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彼らの多くは、マネージャーや起業家としての役割を果たせないために、A さん、B さんのよ
うな状況になってしまう。
一般的なビジネスにおける、3 つの役割は次のようになっている。
10%
20%
70%
起業家
マネージャー
職人
もしあなたがいま以上にビジネスを成長させたいのであれば、この比率を次のようにする必
要がある。
33%
33%
33%
その 2 イグジットプラン
あなたも目標の明確さは重要であるという話を聞いたことがあると思う。多くの人が目標を
達成できないのは、目標があまりにも曖昧だからだ。目標が曖昧であるために、そこにいた
るための戦略も曖昧になり、計画も曖昧になり、結果として日々の行動が曖昧になる。
冒頭で上げた B さんの例はまさにそれだ。どこに向かっているのかわからないために、日々、
何をすべきなのかがわからなくなっている。
マイケル E. ガーバー氏は、ビジネスを立ち上げる究極の目標は、そこから抜け出すこと
ビジネスを立ち上げる究極の目標は、そこから抜け出すこと
だと言っている。
どういう意味か?
たとえば、
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・ビジネスを売却して資産を作る
・IPO して創業者利益を獲得する
・経営の実務から離れ、オーナーとして関わる
といったようなことだ。
あなたのビジネスにイグジットプランはあるだろうか?
もし無いならば、いますぐ考えたほうが良い。なぜならば、そうしないと、あなたは一生、そ
のビジネスを支えるために働き続けないといけないことになる。
もしあるならば、数字と組織図を明確にしてみよう。
数字
それは何年後だろうか?そのとき売り上げはどれくらいだろうか?
営業利益は?経常利益は?
もちろん、結果として実際はまったく異なる数字になるかもしれない。しかし重要なのは、旗
を掲げることだ。群衆が混乱をきたす中で、あなたが高く旗を掲げ、どこに向かえばよいの
かを示す必要がある。
組織図
組織図はあなたの会社の組織図だ。もしかすると、あなたは今一人でビジネスをしているか
もしれない。しかしそれでも組織図が必要だ。
組織図は、あなたのビジネスの目標をきわめて明確にしてくれる。あなたがイグジットする
10 年後に、会社の組織図がどのようになっていて、どの部署がどんな仕事をしているの
か?
その最終形態がわかれば、あなたは日々、その体制に向けて行動を
その最終形態がわかれば、あなたは日々、その体制に向けて行動をしていけばよい
体制に向けて行動をしていけばよいことに
していけばよい
なる。
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一人でビジネスをしている場合には、すべての部署にあなたの名前が入るだろう。あなたが
やらないといけないのは、あなたの名前を一つ一つ消して、違う人の名前を入れていくこと
だ。
組織図を作ることには重要なメッセージが含まれている。
それは、最初から大企業のつもりでビジネスをする
最初から大企業のつもりでビジネスをする、ということだ。
最初から大企業のつもりでビジネスをする
まだとても小さい組織立った頃、会社名をインターナショナル・ビジネス・マシーンズ(IBM)
に変えた会社は、本当に国際的にビジネスコンピュータを提供する企業になった。
彼らはそのようになることを夢見ていたというよりも、最初から自分たちは国際的なビジネス
なんだと思いながら運営していたのだろう。
同じように、あなたも最初から大きな企業を運営しているつもりで行動することだ。たとえ、
まだ一人だとしても。
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IBM が今のような会社になったのには、3 つの特別な理由がある。一つ目は最初から、
私たちの会社は最終的にどんな会社になるのか、という明確な青写真を持っていたこ
と。二つ目は、そんな会社であるならば、どんな風に行動すべきかを自問自答していた
こと。三つ目は、もし私たちが最初からそのように考えていなければ、今のような会社に
はならなかったということ。言い換えれば、私は IBM が偉大な会社になると理解してい
た。実際にそうなるずっと前から。
Thomas Watson, IBM 創業者
イグジットをするために無くてはならないのが、次に挙げるシステムである。
その 3 システム
システムというと IT のことを思い浮かべるかも
しれないが、それだけではない。
会社は全てシステムで成り立っている。この事
実を理解しない限り、あなたは働き続けなくて
ならない。
マイケル E. ガーバー氏によると、システム
システムを
システムを
理解することは商品よりも顧客の心理を知る
理解すること
は商品よりも顧客の心理を知る
ことよりも重要だという。
ことよりも重要
わかりやすいのは販売におけるシステムだろ
う。あなたが営業マンだと想定して考えてほし
い。
上司:「あの案件どうなった?」
あなた:「この前、向こうの部長と話してきました。」
上司:「どんな感じだった?」
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あなた:「えーっと、いい感触だと思います。検討してくれるって言っていました。」
上司:「で、これからどうする?」
あなた:「・・・どうしましょう???」
このような会話が行われているとしたら、その会社にはシステムが無い。もしあなたが会社
を辞めるとなったとき、次の担当者は引継ぎに苦労するだろう。何しろ、顧客ごとの進捗状
況があなたの頭の中に曖昧に存在するだけだからだ。
上司:「あの案件どうなった?」
あなた:「B 段階です。いま C 段階にするためにデータを集めています。」
という会話が出来ればシステムがあることになる。
つまりはベンチマーク
ベンチマークだ。顧客の状態が
A ならば B というアクションを取り、C という状態な
ベンチマーク
らば D というアクションを取る。このように、誰が見ても次に何をすべきかがわかる。
誰が見ても次に何をすべきかがわかる。一人で
誰が見ても次に何をすべきかがわかる。
ビジネスをしていると、一見、そんなシステムを考えなくても良いように思える。ビジネスが
小さいうちは、すべてがあなたの頭の中で曖昧に進んでいても問題ないかもしれない。
しかし規模が大きくなってくると、あなたは忙しくなる。そして仕事を外注するか、人を雇う必
要が出てくる。そのとき、システムがなければ、あなたは何をどれくらい、誰に任せれば良
システムがなければ、あなたは何をどれくらい、誰に任せれば良
いのかがさっぱりわからない。結果、誰かに任せるのも面倒なので、自分でやってしまおう
いのかがさっぱりわからない。
という結論に達する。そしてあなたはビジネスの中から抜け出せなくなる。
もうひとつ、システムが果たす大きな役割がある。それは改善だ。システムがなければ、改
善が出来ない。どこをどのように変えればもっと良くなるのかがわからない。
たとえば、先ほどの営業マンの話で、もし多くの営業マンが顧客を B 段階から C 段階に移行
させるのに手間取っているとしたら、そこにボトルネックがあることがわかる。そうしたら、そ
の提案資料を変える、訴求内容を変えるなどの改善案が沸いてくる。
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さて、最後にマイケル E.ガーバーのインタビューをご紹介したい。これを読んでいただけれ
ば、上記に述べたことがより深くご理解いただけると思う。
起業家もどきの「命取りの仮説」
インタビュー by マネジメント・コンサルティング・ニュース
MCNews: E-Myth とは何でしょうか?
Gerber: E-Myth の考え方は、世の中の多くの起業家は、彼ら自身が思っているような起業家にはなって
いないという前提から始まっています。彼らは起業熱に駆られ、私が職人と呼んでいるものになっていま
す。コンサルタントはコンサルタントとして独立し、会計士は会計士として独立し、代理人は法律事務所を
始めます。彼らは自分がやり方を知っていることをやるための会社をはじめます。彼らのような“起業家も
どき“は、私が「命取りの仮説」と呼んでいることを信じきっています。
「命取りの仮説」とは、
”職人的な仕事をやることで、ビジネスを構築することが出来る
職人的な仕事をやることで、ビジネスを構築することが出来る“
職人的な仕事をやることで、ビジネスを構築することが出来る
という仮説です。
しかし彼らは上手くいきません。なぜならば、彼らは時間の多くを、オン・ビジネスの仕事、つまり起業家
としての仕事ではなく、イン・ビジネスの仕事、職人としての仕事に費やしているからです。
起業家はビジネス自体を商品として考えますが、起業家もどきはそう考えていません。彼らはビジネスを
仕事だと考えています。もちろん、彼らは情熱を持って、その仕事のやり方を身に付けています。しかし、
残念ながら、ビジネスオーナーとしては他の役割もマスターしないといけません。彼らはそれが苦手なの
です。
MCNews: 職人の仕事で、ビジネスが運営できると信じてしまっているのは何故でしょうか?
Gerber:多くの人が、ビジネスの運営方法を知らない人のために働いていることから来ています。馬鹿な
上司や社長のために働き、“あいつが出来るようなことは自分にも出来る。こんなビジネスは誰にでも出
来る。”と考えてしまうのです。
そのような上司や社長のために働いていたら、あなたは自分でやったらもっと収入が良くなるだろうと考
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えることでしょう。
MCNews: 職人のスキルがあればやれるだろうと、魅了されてしまっているわけですか。
Gerber:そうです。 みんな簡単だ、と思ってはじめます。しかし、実際は失敗するビジネスの割合はとても
多くなっています。どこの数字を参照するかにもよりますが、60%以上が失敗するでしょう。
ビジネスをしている人が、自分無しでどのようにビジネスを運営するのか、それを知らないことが大きな
理由です。
MCNews: 誰かのために働くことから自由になりたい人は多いですよね。
Gerber: そうです。彼らは自分自身のボスになり、自分で選択や意思決定をしたいと思っています。それ
は理想的なことです。自由になれるように思えます。しかし不幸にも、さらに状況が悪くなることが多いの
です。過度な期待を描いて自由になりたいと考えますが、最悪の牢獄に入ることになります。
ボスから離れて、自営業者になると、悪循環に入ります。そこから抜け出せないのです。好きなことをや
っているはずだったのに、以前より消耗してしまっていて、以前よりもたくさんの仕事を抱えることになっ
てしまうのです。
MCNews:成功する起業家になるために、必要な能力や性格はありますか?
Gerber: いい質問ですね。それは私の全ての本に書いてあることですが、根本にあるのは、すべての人
の内面にある 3 つの人格のことです。起業家、マネージャー、職人です。起業家は大企業レベルのことを
行います。マネージャーはビジネスレベル、職人は実務レベルのことを行います。私たちの多くはこのバ
ランスが取れていません。そして職人が多くを占めています。マネージャーの役割も、起業家の役割と同
じくらい実現されていません。職人が占めていることによって、大半のスモールビジネスが成長を妨げら
れています。
職人は時間と知識が制限されています。1 日に使える時間は限られています。ですので、職人がビジネ
スを拡大させる方法は、一時間当たりの給料を上げることです。1 時間 100 ドルだったものを、200 ドル、
300 ドルとアップさせていくことです。
これは専門家の横暴といえるものです。彼らは時間が無いので、価格を上げていくしかありません。最終
的には天井に届いてしまい、それ以上、上に上がることが出来ません。これが職人の上限です。
彼らはアシスタントを雇うことが出来るかもしれません。事務処理をしてくれる人などです。しかし、彼らを
雇い入れれば、あなたが本来もううべきであった、収入を彼らに差し出すことになります。
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多くの人はこのことに大きな抵抗感があります。彼らはこう思うでしょう。“このために人を雇うことは出来
ない。自分の取り分が減るから自分でやろう。”
MCNews: それはとても現実的な罠ですね。
Gerber: そうです。一方、真の起業家は、オン・ビジネス型の働き方が必須であることを知っています。
複製できる実務を構築するために、働かないといけません。それが出来た瞬間、あなたはビジネスを生
み出すことになるのです。
それからマネージャーのレベルになると、あなたはマネジメントシステムを作る必要があります。実務を
つなぎ合わせたシステムです。それらのシステムは複製可能です。きわめて低いスキルレベルで実行可
能なものです。
ビジネスはせいぜい、8 個か 12 個くらいまでの実務システムで成り立っています。それを複製し、複合さ
せるとエンタープライズ(大企業)のレベルになります。これがあなたがビジネスを成長させる方法です。
MCNews: 効果的なビジネスプランを書くにはどうしたらよいでしょうか。
Gerber: 常に上手くいくビジネスプランのエッセンスは、ビジネスについて語っているものではないという
ことです。それは、あなたが欲しているものについてのものです。あなたが自分自身に問いかけないとい
けないのは、“私は何がほしいのだろうか?”ということです。それがなければ、からっぽのプロセスになり
ます。これは個人的な質問事項です。
もし最終的に、私が自分の欲することを実現できなければ、もし私がこの質問を深く、正直に考えなけれ
ば、長い間、私を苦しめることになるでしょう。
最悪なのは、自分が欲していないことで成功することなのです。
MCNews: ということは人生を設計するようなことでしょうか。
Gerber: そうです。どんなビジネスでも、そこには関係性が生まれます。あなたの一番大事な目標はな
んでしょう?と聞かれたら、あなたはなんと答えますか?
MCNews: あなたは以前、マーケティングは比較的簡単なことだと同時に、重要なものだという話をしま
したが、その意味はどういったことでしょうか?
Gerber:私が好きな本は、セオドア・レビットの「Marketing for Business Growth」です。これはもう絶版に
なっています。彼はマーケティングについての定義をしています。マーケティングとは会社の機能ではな
く、会社そのものである、というものです。
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起業家は会社を作る時点でマーケティングをしています。あなたは極めて差別化された方法で運営され
ている会社を作ります。そして誰を相手にするかも決めます。それら全体がマーケティングです。
マーケティングのエッセンスはストーリーを語ることです。あなたのお客さんになりそうな人たちを行動に
移させるようなストーリーです。どんなストーリーが、うまくいくビジネスを設計してくれるのかを理解する
ことです。
私の作ったビジネススクールは、スモールビジネスデザインというものです。これを卒業すると、マスタ
ー・オブ・ビジネス・デザイン、MBD を受け取ることが出来ます。これを学べば、穴埋め式で、あなたがビ
ジネスを設計するために必要なものがわかります。それ自体がマーケティングを考えることなのです。
MCNews: 起業家にひとつアドバイスするとすれば、それは何でしょう。
Gerber:ドリーミングルームに行くことです。ドリーミングルームでは、あなたの知らないことが起こります。
私たちの問題は、私たちの知識の大半が過去から来ているということです。私たちは過去に学んだこと
によって、過去を生きています。それが私たちのまだ見ぬ将来を形作る限界になっているのです。ドリー
ミング・ルームは、どうやるかを学ぶものではありません。何を作り上げるかを学ぶのです。少しずつです。
どうやるかを学ぼうとすれば、あなたはすぐに過去に引き戻されます。
多くの人はどうやるかを考えます。そこが居心地の良い場所だからです。そこは職人が住んでいる世界
です。私が知っていることは何か?私はどうやれば良いか?と考えるのが居心地が良いのです。これは
起業家に必要なビジョナリーな視点とは正反対にあるものです。
どうやるか、と考えることは単なる仕事です。それは多くの起業家が会社をスタートし、成長させる方法で
はありますが、彼らはそのうち疲れ果ててしまいます。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------ここではほんのわずかだが、マイケル E. ガーバー氏が確立した方法論の一部をご紹介し
た。いまの世の中、マーケティングやセールスなど売り上げアップに関する情報は溢れかえ
っているが、起業家として成功するためには、他にも必要なことがあるとご理解いただけれ
ば幸いだ。
日本ではこれまで、彼の方法論は数冊書籍が出版されているだけで、ほとんど公開されて
こなかった。日本だけ、彼のコンテンツを手に入れることが出来なかった。しかしその状況も
終わりを告げる。
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もしあなたがこれから起業したい、更なる成長をしたいと思っているのであれば、ガーバー・
アントレプレナー・スクールからの情報を楽しみにしていてほしい。
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最後にあなたにお願いがあります。私たちはこれから、マイケル E. ガーバー氏の方法論
を使って、出来るだけ多くの起業家や経営者の役に立つサービスを提供していきたいと考
えています。
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最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。
2012 年 2 月 1 日
ガーバー・アントレプレナー・スクール
清水直樹
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