第 1 回福島第一廃炉国際フォーラム 基調講演 福島第一原子力発電所は世界の課題である。 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA) 事務局長 W.D.マグウッド IV (注)当日通訳された内容をそのまま記録していますが、実際に話をされた言語による記録に基づいて 若干の補正をしております。 経済協力開発機構原子力機関事務局長をしておりますマグウッドと申します。 経済産業省およびこのプログラムを組織していただいた NDF に感謝を申し上げます。 林経済産業大臣に感謝を申し上げ、また高木副大臣に感謝を申し上げたいと思います。 先ほど講演 を NDF の山名さんがなさいましたけれども、素晴らしい講演でした。 長年の間、皆さま方と一緒に取り組みをしてきたわけですが、近藤先生にお会いできることを非常に嬉しく 思います。 児玉先生もいらっしゃっております。JAEA の方です。 小川先生もいらっしゃっております。 多くの先生が今日はいらっしゃっているわけですが、その中で私の講演といたしましては、皆さま方にこの原 子力機関そのものが、NEA がどういうものかを紹介させていただきます。 NEA は 31 カ国の参加国が参加している原子力機関であります。 そして世界の中でも最もよく発達した 調整の構造をもっております。 私どもの活動は主に世界中の専門家による7つの常設技術委員会、例 えば原子力安全性、放射性廃棄物管理、それから放射線防護、原子力科学、原子力開発のような 委員会がございます。 これらの専門家と共にわれわれは、さまざま戦略策定を、そして研究支援、あるいは分析をおこなっており ます。 いろいろな課題について取り組みをしている機関であります。 明らかにこの 5 年間、福島第一の事故の後、得られたさまざまな教訓があります。 事故の時、私はアメリカにおいて NRC といたわけですが、そして、ミーティングでこのクライシスの状況をうか がいました。 そして何日かして地震、地震の後の津波、さまざまな事故の状況をうかがいましたが、このク ライシスが去った中で、長期の原子力エネルギーにとって、これはどういった意味合いがあるのかということを 考え始めました。 そこに関する結論といたしましては、原子力発電所そのものは安全でも、大切な教訓を学ばなければなら ず、すべての国は、それに関して学ばなければいけない教訓があるわけです。 NEA の事務局長といたしましても、この最近の報告書で、この5年、この福島の事故5年後ということで、 世界中の国々が参加して福島の災害でどういった教訓を学んだかということを文書にしております。 これは非常に大切な取り組みです。 しかしまた、事故そのものに対する取り組みは、まだ福島第一のサ イトにおいては、まだまだ作業が続いているわけでございます。 サイトに先週、私にとって3回目であります が訪問させていただきました。 サイトの変化は、素晴しいものです。 私がサイトを 2012 年の初頭に初めて訪問させていただいた時は、 全面のフェイスマスクなどの放射線防護具が必要でした。 しかし現在ではほとんどの現場では通常の作 業服で大丈夫であります。 山名さんがおっしゃられたように大きな進捗が汚染水の問題ですとか、また使 用済燃料の取り出しに関しましても、すでにいろいろな進捗が進んでおります。 肯定的なポジティブな動きです。 また、それだけではなくて、まだまだこれはスタートであり、さまざまなチャ レンジが現場には、サイトには存在します。 木曜日に訪問させていただいた時に、そこの作業者の方に申し上げたのですが、あなた方はまさにパイオニ アであると、この世界の中で新たなパイオニアであると申し上げました。 一歩一歩作業していただくことによって、それによって新しい知識、新しい疑問というものが湧いてくるという ものなのです。 そういった中で一緒に問題、課題に取り組むために、一緒に協力をして取り組むということが最も重要であ ると考えております。そして、さらに話を進めますと決して忘れてはならないのは、このクライシスにおきまして は、それは何かといいますと、まさにこの地域に住んでいらっしゃる住民の方々です。 楢葉、富岡、そして大熊といったところの方々、この事故の結果、避難せざるをえなかった方々でありま す。 何年も言い続けてきたことですが、原子力安全や原子力産業に関わる世界中の方々が、その責任の一 部を担っているわけであります。 というのも原子力発電所でこのような災害が起こるとは誰も考えていなか ったわけですから。 そういった中で、地域の人たちはまだ犠牲を払っているわけですね。 そういった意味からも NEA はこのように福島での対話を、利害関係者の対話をサポートしています。 昨年 12 月を含めて 12 回おこなっております。 そして、多くの住民の方々、福島県の方々、県民の 方々と対話をおこないました。 いろいろな課題について話し合いをしました。 これらの対話においていろいろな課題が浮きあがりました。 放射線防護の問題も含めて、日常生活にお ける防護の問題も含めてでありますが、その中で必要性として、事故のあといかに生活をコントロールして いくかという大きな課題もあったわけです。 ひとつの大きなメッセージ、私どもの受け取った大きなメッセージとしては、みんながやはり家に、家庭に帰り たいと。家に帰りたいけれども、しかし、やはり安全であるところに戻りたいということです。 そうった住民の願いがあるわけです。 これには明らかなことがあります。 やはり信頼が重要です。 信頼が、やはり、これから先に進めるためにも重要な要素であります。 住民の方々との信頼なくしては、た とえそれが正確であろうとも、なかなか先に物事は進みません。 したがって、政府、あるいはプロジェクト、あるいは規制コミュニティも必要なことをおこなって、この信頼を国 民、そしてまた住民の方々との信頼を獲得するというのが非常に重要であるわけです。 これらの人々にと って、インフラによって十分な情報を得たうえでの意思決定ができるということが重要です。 人によっては、もちろん被災地に戻らない、もしくはすぐ戻るということも、それぞれの意思決定があるわけで すが、それらの意思決定をされていく中で、それらの意思決定について話しあうことによって、それをさらに強 化することになるわけです。 すなわち十分な情報が必要ということになります。 さらにもうひとつ、これらの対話で学んだことといたしましては、人々はやはりこういった、より複雑な状況にお いて、そういう、よりよい助けが必要であるということです。 そのためのある種のインフラが、この事故後の状況において、例えば専門家へのアクセスですとか、情報へ のアクセスということが非常に重要になっています。 非常にリソース集約型であり、時間もかかる作業です。 だからこそ、この点を将来のために考えていくこと が重要で、こういった将来また、そういった起こるかもしれない、そういった原子力事故に関しまして、さらに 準備をしていくということが望ましいのです。 それだけではなくて、食品管理ということも、事故後の食品管理ということも重要です。 特に国際的なプロセスが、このような事故の後、食品安全性に関して、それを確認する国際的なプロセス がないということに驚きました。 やはり、もちろん国家、そして地域の当局が、そういった食品の評価、安全 性について評価していくことはできますが、しかし国際的な枠組みというものは、それを認証するものは存在 しません。 そういったことからも、やはり特別に取り組まなければいけないことが、事故後の食品管理ということだと思い ます。 こういったものに確信をもってこそ、これを一緒に取り組むことが重要です。 NEA としては、この方法として、他の OECD の部局や他の国際機関などと、どのように進めていくか話をし ております。 対話をしています。ただ、これからさらに事故後の食品管理ということを見まして、食品の安 全性を認証していくということが、これからさらに重要になってくると考えられます。 この廃炉作業に関しましても重要な点が挙げられます。 最近よく検討している分野があります。 それは何かというと、発電所の図面が必ずしも正確ではないという点です。 当然、福島第一のプラントについても図面があると思いますが、今の図面は多くの人が持っているオリジナ ルの設計とはまったく違うものになっていると思います。 これは改善が必要だと思います。 事故に備えてということだけではなく、廃炉作業のために、アップデートを出来るだけ反映するような図面に していくということが必要ではないかと思います。 もうひとつ、この廃炉におきましては、特に福島のような事故の際には、重要な作業というものが、アクセス ができるかどうかということによって、できるかどうか決ってくるということ。 建設していくときのように、そういうこ とをもっと念頭に置いていく必要があるかもしれません。 最後の点ですが、事故後、あるいは廃炉の段階において、すべての設備類が十分に使えるとは限らないと いうことです。 それらを再確認する必要性もあるということを忘れてはならないと思います。 皆さま、ご存知のとおり、福島第一における環境が環境なだけに、遠隔作業やロボットを使った作業をして いくということが、成功の鍵を握っているということになります。 ほとんどの作業がおそらく高線量のエリアでなされていくと思います。 私も木曜日にいきましたけれども、放 射線は 2 号機の周辺、3 号機の周辺、この使用済燃料プールの周辺は 200 ミリシーベルトパーアワーを 超えておりました。 当然そのような環境で作業することはできません。 使用済燃料を取り除くためにも、遠隔技術を使ってやる必要があります。 燃料デブリについても、明らかにこの遠隔技術が必要になります。 ロボットというものも非常に大きな役割 を果たすと思います。 重要なのは、この自立的な機械というのはこれから先やれることは限定されてくると思います。 ロボットは例えば放射線場の評価をしたり、現場の調査をするということには役立つと思います。 しかし、実際の作業は遠隔装置によって、いくつかは今まだ存在しない遠隔装置によって行われると思い ます。 その開発が必要となっております。 次に NEA が取り組んでいる、いくつかの分野をご紹介したいと思います。 まずひとつめ、EGFWMD という長々とした略なのですけれども、福島の廃棄物管理・廃炉 R&D 専門家 グループの略です。 これは何かというと、専門家が集まりまして日本政府に対して、戦略を提供しようというものなのです。 廃棄物の特性評価のための戦略です。 極めて重要なのです。 これまでの経験を見てみても、廃棄物を適切に、最初から扱わないと、つまり、特性評価を注意深く、この 廃炉の中の発生している段階からやっていかないと、将来的な処分というところでの手間が大きくなってし まいます。 ですから、とにかく最初から賢く対策をとって、あとで資金、リソースを大きく投じなくてすむように するということです。 そのためには何が必要なのか、それは包括的な廃棄物の管理戦略を確立しなければいけないということで す。 特性評価、それから長期的な保管、貯蔵の問題、そして最終処分といった、こういう問題があります。 それと同時に最適化についても、しっかり考えなければいけません。 皆さんもおそらく最適化と聞いて、よく分からないと思うのですけれども、シンプルにいってしまえば、これは、 必ずしもクリーンアップしたいすべてを、クリーンアップできないかもしれない。 ということは、全部できなくても、 バランスを維持することが重要で、そのバランスを得るためには、さまざまなステイクホルダーとの対話が必要 ということなのです。 もうひとつ重要なのは、この浅地中処分、それから中深度処分に関する濃度上限値を超えるような廃棄 物についても処分に備えて適切に貯蔵をしていくということ、これも重要です。 で、ここでワーキンググループの東京の会議をご紹介したいと思います。 この夏なのですけれども、これまでの取り組みをご紹介するワークショップになります。この経産省、IRID 等 からの支援を、この先もいただきたいと思っております。 もうひとつ BSAF をご紹介します。 これは、何かといいますと、福島第一原子力発電所の事故に関するベンチマーク研究の略なのですけれど も、これは、どういう取り組みかというと、この世界中に過酷事故のコードが実に世界でさまざまな国におい て、13 個あるのですが、それを分析、解析して、はたして私たちが実際に知っている事故から起こったことと 一致するのかということを調べるものです。 結果は非常に良好なのです。 大変、相関関係がとれているということが分かります。 事故の実態とコードで一致しているというわけです。興味深いのは次の段階です。 この施設のクリーンアップのために重要な次の段階はなにかというと、このフェーズの2になりますけれども、 今いったコードを使って、その炉心の中はどうなっているのか、炉心の物質はどこに行ったのか、どういう構成 になっているのか、ということをコンピュータシミュレーションに基づいて予測をするという段階です。 ですから、必ずしも答えになるというわけではありませんけれども、これをミューオントポグラフィー等々といった さまざまな技術と組み合わせて使っていくことができれば、答えを見つけるのに確かに助けになると思いま す。 BSAF の取り組み自身は今、進んでいますので、非常にこれも有用な活動になるのではないかと思います。 他にもさまざまな要素があります。 技術、そして安全について、この事故から学びとれることは数々あるわ けです。 ですので、SAREF という福島事故後の安全研究機会に関わる上級専門家グループというもの を立ち上げました。 つまり、教訓を得るためのグループです。 施設のクリーンアップについてもそうですし、一方では、安全性、運転している施設の安全性という側面か らも学ぶ必要があります。 多くの国がこの中で取り組んでおりまして、どういったところに学習の機会がある のかということを模索しています。 ひとつのキーメッセージとしては、その施設のクリーンアップをなるべく早くやるということは重要ではあるものの、 その一方で、しっかりとそこから教訓を得ていく、知識を得ていくということも、同じくらい重要だと思っていま す。 では、まとめたいと思います。 完全な、そして持続可能な廃棄物管理戦略を持ち、出来るだけ早急に実行されることが重要であるとい うこと。 多くの国、多くの専門家が世界中にいます。 日本を支援したいと、ここで助けたいというふうに思っています。 それから、国民の信頼を上げていくことが 重要です。それは損傷した 1F のプラントの安定化に向けた進捗状況についての透明性を高めることで得 られると思っています。 最近話しをした方、大熊の住民の方がいらしたのですけれども、この女性が言うには、私、今日、発表しま すという話しをしたら、どんな質問に対する回答を一番聞きたいですかというふうに、彼女に聞いたら、こん なふうに言っていました。 東電はさまざま情報を提供はしていると思いますけれども、まだまだ透明性を上げていくことが可能だと思い ます。 それから、さっき出てきたロボット技術、これもまた極めて重要だと思います。 それから、遠隔技術はさらにロボット技術よりも重要になってくると思います。 サイトの材料の取り扱いにつ いては、この遠隔操作が重要になってきます。 食糧、食品安全、これも世界にとって重要なもので、これについて共に解決をしていく取り組みが必要だと いうこと。 それから、先ほども言いましたけれども、なるべく早く廃炉を進めなければいけないのですけれども、 同時に教訓を取りまとめていく必要があると思います。 これを機会にして、物質や、構成やその他の技術的な事実について、サイトで学んでいくということも極め て重要であるということを強調したいと思います。 この取り組みというのは極めて長きにわたる取り組みに なっていくと思います。 世界の歴史を見渡してみても、このような日本が直面しているような状況、クリーンアップの状況というのは なかったわけです。 当然、チェルノブイリですとか、スリーマイル島ですとか、それ以外の原子力事故はあっ たわけですが、今回のようなものはありませんでした。 ですので、過去にも教訓はあったわけですが、やはり 今回は未知の領域に入っていて、今やっていることは、世界の歴史で初なのだということを認識して、しっか りと学んでいく必要があると思います。 もうひとつ強調したいのは、何といっても、福島県の皆さんに辛抱、支援を引き続きいただいてこそ成り立つ 取り組みであるという認識が必要であると思います。 実は昨年、福島県の高校生にもお会いする機会がありました。 どうやって、皆さんの生活にこれが影響を およぼしたかということを聞いたのですが、明らかに大きな影響が出ているということが分かりました。 当然、家族がバラバラになっている生徒さんたちもいました。例えばお父さんが働くために、どこか違う場所 にいるというような、とても感情的なストレスもかかるような状況だと私は思いました。 決して、皆さんの今、置かれている状況を忘れません、とその時に申し上げました。 技術的な話を今日 するわけですけれども、この話というのは単なる原子力施設の技術的なクリーンアップの話しではないと、そ れだけではないということを、きちんと肝に銘じていただきたいと思います。この県の何万人という若い人も含 めた将来を心配する人たちの生活がかかっているというような状況なのです。この 2 日間、それを忘れずに、 ぜひ話をしていただきたいと思います。 以上でございます。 皆さん、ご静聴ありがとうございました。ぜひとも、これからも取り組みを進めていただき、プロジェクトが成功 するようお祈り申し上げます。 ありがとうございました。
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