事例 1 科 学 捜 査 研 究 所 の 工 学 鑑 定 で は 加 害 車 両 の 時 速 2 5 キ ロ ~ 30 キ ロ と の 鑑 定が出されたが、裁判所でそれ以上の速度と判断された事例 事故状況図 制 限 速 度 何 れ も 40 km /h 黄点滅 赤点滅 一時停止 加 被 加 :25 km/ h~30 km/ h 被 :50 km/ h 事 故 状 況 の説 明 加 害 車 両 の対 面 信 号 は「赤 点 滅 」、被 害 車 両 の対 面 信 号 は「黄 点 滅 」。 加 害 車 両 は普 通 乗 用 車 、被 害 車 両 は大 型 貨 物 車 。 刑 事 記 録 は 加 害 車 両 が 交 差 点 手 前 で 一 時 停 止 し 、 25k m/h ~ 30k m/h で交 差 点 に進 入 し た。被 害 車 両 の速 度 は約 50k m/h と科 学 捜 査 研 究 所 が鑑 定 を して いる。 た だし 、 被 害 車 両 は 横 転 し た 後 、 滑 走 、 回 転 を し てい る 。 被 害 者 側 は 加 害 車 両 が一 時 停 止 をしたか、科 捜 研 が鑑 定 したような低 速 で交 差 点 に進 入 したか強 い 疑 問 を 持 っていた。 1 経過 被害者死亡の案件である。 1 審はある弁護士が担当、判決となった。 判 決 の 過 失 割 合 は 被 害 者 30% 、加 害 者 70%。加 害 車 両 の 時 速 は 刑 事 記 録 中 に 綴 ら れ て い た 科 捜 研 の 鑑 定 ど お り 25 キ ロ か ら 30 キ ロ と 認 定 し た 。 被 害 者 遺 族 は 加 害 車 両 の 速 度 に 納 得 で き ず 控 訴 し た 。遺 族 は 当 職 に 依 頼 、 控 訴 1 審 の 弁 護 士 と 共 同 受 任 と な っ た 。高 等 裁 判 所 で は 被 害 者 の 過 失 相 殺 が 1 5% と し て 和 解 が 成 立 し た 。高 裁 裁 判 官 は 被 害 車 両 の 時 速 を 明 言 し なかったが、かなりの速度であったと心証を抱き、原審判決の過失割合 を変えた。 ポイント 本件は以下の通り 4 つの工学鑑定書が裁判所に提出された案件である。 鑑 定 書 A→ 科 学 捜 査 研 究 所 の 鑑 定 書 ( 刑 事 記 録 中 に 存 在 ) 加 害 車 両 の 速 度 は 時 速 25 キ ロ ~ 30 キ ロ と し て い る 鑑 定 書 B→ 被 害 者 遺 族 が 私 的 に 鑑 定 を 依 頼 し た も の 加 害 車 両 の 速 度 は 時 速 70 キ ロ と し て い る なお、B 鑑定は鑑定内容がでたらめである 鑑 定 書 C→ 損 保 が 私 的 に 鑑 定 を 依 頼 し た も の 加 害 車 両 の 速 度 は 時 速 20 キ ロ と し て い る C 鑑定は A 鑑定を若干修正したもの 鑑 定 書 D→ 控 訴 審 の た め に 当 職 が 私 的 に 依 頼 し た も の 加 害 車 両 の 速 度 は 時 速 80 キ ロ と し て い る 当職が A 鑑定で無視されている点を考慮した鑑定を依頼したもの である。A 鑑定の修正版であるが、結論が大きく違った 裁判所が最も信頼をするのは科学捜査研究所の鑑定である。利害関係が なく、公平が保たれていると裁判所が考えるからである。だが、それが 正しいとは限らない。 2 工学鑑定で誤りの生ずる一つは大きさのある自動車を重心に全質量が集 まった、いわゆる「質点」として考えることから生ずる。 「質点」は物理学的なモデルであり、大きさがないから、回転運動は無 視される。つまり、自動車を「質点」と考えるかぎり、物理学的な視野 に入るのは直進運動だけということになる。 実際には車両は衝突により転倒し、本件事故のような場合、被害車両は 左方からの力を受けるので回転をする。自動車が転倒し、回転すると車 体と道路の摩擦により運動エネルギーが失われる。 だが、自動車を「質点」と考え、直進運動しか物理学的考察の対象とし ないならば、回転により失われた運動エネルギーは無視される。 その結果、加害車両から被害車両に与えられた運動エネルギーは実際よ りもかなり小さくなり、加害車両の速度も低く計算されるのである。 被 害 者 遺 族 は 1 審 が 認 定 し た 加 害 車 両 の 速 度 に 納 得 で き ず 控 訴 し 、控 訴 審を戦ってくれる「交通事故専門弁護士」を訪ね歩いたと言う事案であ った。 3
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