ジャズ・ミュージシャンにとっての聖地というべきニューオリンズをNOUVELLE ORLEANSと表 記している。大半のナンバーはフランス語でうたわれている。にもかかわらず、このアルバムでぼく らがきくのは心地よくスウィングして、ききてを浮き浮きさせてくれる極上のジャズである。「フラ イ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」のようなジャズのスタンダード・ナンバーも颯爽とうたわれているし、 アズナヴールの「帰り来ぬ青春(このアルバムでは、つい昨日のこと、となっている)」もうたわれて いる。しかし、ここでビッグ・バンドをバックに小粋にうたわれている歌の大半はダニー・ブリヤン のオリジナルである。 ご紹介が遅れましたね、このアルバムの主人公であるダニー・ブリヤンは、フランスでは人気抜群 のシンガー・ソングライターである。したがって、これまでに何枚ものアルバムを録音しているが、 ぼくは、遅ればせながら、このジャズ・アルバムで初めて、ミュージシャンとしてとびきりの才能に めぐまれたダニー・ブリヤンを知った。ダニー・ブリヤンは、作る歌も洒落ていて素敵だが、テノー ルの、いかにも女の人を口説くのが上手そうな伊達男といった感じの声もよく、歌唱力も抜群である。 つまり、これは誰をも楽しませられる、ご機嫌なジャズ・アルバムということになる。 ダニー・ブリヤンのオリジナルは、どれも前にどこかできいたことがあるような気持にさせる、懐 かしいというのとも微妙に違うのだが、ききてに不思議な親近感をいだかせるメロディを特徴として いることもあって、とてもききやすい。しかも、さすがにシャンソンの国のシンガー・ソングライタ ーの作った歌だけあって、どの歌の歌詞もひねりがきいていて、味わいに変化がある。イタリア語で うたわれていて、ナポリ民謡風な音楽で始まる「アメリカかぶれの男」などは、音楽の調子のよさで もきわだっているが、歌詞でも大いに笑わせてくれる。 個々の歌が小粋で、さりげなくチャーミングなうえに、それぞれの歌にかなったお洒落で、センス のいいアレンジがほどこされていることもあって、アルバムとしてまとめてきく楽しみが倍加してい る。バックで演奏しているのがビッグ・バンドだということで、サウンドに独特の贅沢さが感じられ、 それがまたこのアルバムを一層好ましくしている。むろん、コンボと共演してのジャズ・ヴォーカル・ アルバムも悪くないが、伊達男ダニー・ブリヤンが颯爽とうたうとなれば、やはり、ききてをストレ ッチのリムジンに乗っているような気分にさせるビッグ・バンドがいい。 「JAZZ... パリからニューオリンズへ」(ソニー SICP-618) *モーストリー・クラシック「pocoほっと」
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