論文 長野県工技センター研報 No.2, p.I11-I13 (2007) 高機能運動記録装置を用いた集団の健康管理を 支援するための運動履歴管理システムの開発* 西田 崇** 野瀬裕昭** 相澤淳平*** 白鳥典彦**** 岡田恵也**** 西澤 健**** 寺島真樹**** Development on Management System using Motion Recording Instrument for Supporting the Health Care in a Large Group Takashi NISHIDA, Hiroaki NOSE, Junpei AIZAWA, Norihiko SHIRATORI, Shigeya OKADA, Takeshi NISHIZAWA, Masaki TERASHIMA 高機能運動記録装置(登録商標名:ViM)は,腕時計のように手首に装着することにより,常時装着 者の動きを記録する装置で,運動履歴に基づいた個人の健康管理を支援するための非常に有効なツー ルとして使用されている。今回,個人の健康管理から集団の健康管理へと用途を拡大して,その有効 活用の仕組みを構築する目的で,集団の運動履歴を管理・統計・分析等ができるシステムを開発した。 本システムは,装置から得られた集団の運動履歴データを一元管理し,また各利用者に対して健康指 導を行う際の提示資料となる健康レポート機能作成を有し,さらに運動パターン及び運動量と各種健 康パラメータとの相関関係を分析するための各種統計・分析機能を備えたものである。本システムを ある自治体において使用し,その有効性について検証した。 キーワード:高機能運動記録装置,健康管理,情報システム,データ統計,データ分析 1 緒 ViMを用いた,集団の運動履歴を管理・統計・分析等が 言 マイクロストーン(株)では,同社の加速度センサ及び 可能なシステムを開発したので報告する。 ジャイロセンサを利用した,腕時計型の高機能運動記録 装置(以下「ViM」と略)を開発し,商品化している。 2 高機能運動記録装置ViM ViMと付属のソフトウェアとを連動することで,運動履 本研究で用いた高機能運動記録装置であるViMについ 歴に基いた健康管理を自ら行うことができる。本製品は て説明する。ViMは,通常の腕時計のように常時,腕に これまで個人が自身の健康管理を行うために使用される 装着することにより,運動パターンを識別(「わずかな ケースがほとんどであったが,本製品を生活習慣病の予 動き」から「激しいスポーツ」までの10種類)し,その 防等の健康管理を支援する目的で,ある自治体に数十台 運動パターンと歩数を2秒ごとに内部メモリに記録して 導入され利用されている。個人利用ではなく自治体等に いくものである。また,記録したデータをPCに取り込む おいて集団で使用することにより,保健士や栄養士等の ことにより,ViM付属のソフトウェアと連動してPC上で 健康管理の指導的な立場にいる専門家が「以前と比較し 24時間の体の動きを3分間隔の運動パターングラフとし て運動量や運動パターンの変化が特に著しい個人に対し て表示し,同時に歩数や消費カロリーの表示等をするこ て適切な健康管理のアドバイスを行う」,「男女別,年齢 とができるもので,個人の健康管理のための有効なツー 別,地域別,体重別等にデータを統計処理して相関関係 ルとして利用されている。ViM本体の写真を図1に示す。 を解析する」といった運動履歴を基にした新しい健康管 理サービスを提供することが可能となる。 本研究ではこのようなシステムを実現するために, * 共同研究 ** 情報システム部 *** 情報システム部(現 ものづくり振興課) **** マイクロストーン株式会社 図1 - I 11 - 高機能運動記録装置 ViM(写真) 運動履歴管理システム 運動パターン表示 PHP(プログラム実行環境) Apache(Webサーバ) PostgreSQL(DBサーバ) Linux(OS) 図2 システム構成 運動履歴 管理システム 医師 システム利用 栄養士 データ登録、システム利用 保健師 (担当) 保健師 (担当) 保健師 (担当) 歩数・消費エネルギー表示 ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM ViM利用者 ViM利用者 ViM利用者 図3 システムの利用形態 3 図4 集団の運動履歴管理システムの開発 3.1 運動履歴管理システムの構成 個々に装着したViMを用い,個人の運動履歴管理を拡 張し,集団の運動履歴を管理・分析を行うシステムの構 築を行った。システムの構成を図2に示す。本システム はメンテナンス性や多人数での利用,今後の拡張性等を 考慮し,Webアプリケーションによる構成とした。実行 環境は,図2に示すようにOSにLinux,Webサーバに Apache,データベースにPostgreSQL,プログラミング言 語及び実行環境にPHPを使用した。使用した環境はすべ てオープンソースソフトウェアで実現されており,導入 コストが安価であり,また多人数での利用時のライセン ス等も不要であるなど多くのメリットがある。 3.3 データベース設計 ViMからPCに取り込まれるデータは,3分毎の運動パ ターン及び歩数データである。この3分毎のデータをそ のままの形でデータベースに蓄積する場合,1ユーザ辺 り1日で480レコード,1ヶ月で約14400レコードとなる。 利用者が40名であると想定した場合,半年(6ヶ月)使 用したとすると,約3400万レコードとなる。 データの保存(蓄積)という点では,近年のDBMS (Database Management System)であれば,上記レコー ド数でも全く問題は生じない。しかし今回のシステムに おいては,高機能な統計機能や分析機能が必要となるた め,膨大なデータから関連データのみ抽出する処理が必 3.2 運動履歴管理システムの用途 本システムの利用形態を図3に示す。ViMの利用者は, 日常生活でViMを装着し,定期的(2週間に1度程度)に 保保センター等に訪問し,担当保健師にViMを手渡す。 保健師は利用者から手渡されたViMとPCを接続し,PC経 由で運動履歴管理システムにViM内のデータを登録する。 データが登録されると,本システムにより運動の履歴, 消費カロリー,歩数等がグラフ表示され,その結果を基 に各種健康指導を行う(健康レポート出力機能)。 また,運動履歴管理システムは,各個人毎のデータ管 理機能に加えて,集団での運動パターンと各種健康デー タとの相関関係を分析するための各種統計機能を備えて おり,保健師以外にも医師や栄養士等の利用も可能であ る。 健康レポート機能 要となり,データ量に比例した統計処理時の速度遅延が 問題となる可能性がある。 そこで,複合インデックス等を含んだ,適切なインデ ックス設計を行うことで対処した。インデックス化によ りデータ登録の際に通常時よりも多少の時間が必要にな ることと,ディスクスペースを通常時よりも多く消費さ れるという弊害が生ずる。しかし,その欠点を補って余 りあるほどの処理速度を改善効果が期待できる。なおイ ンデックスとは,書籍の索引のような機能で,適切に設 定することで未設定時と比較すると数十倍の速度改善が 実現できるものである。 3.4 健康レポート出力機能 本システムの具体的な機能について説明する。本シス テムは,3.1節で述べたように利用者が定期的に保健 - I 12 - 表1 統計元データ(下記のいずれかを指定) 保健センター等に訪問して,ViMに記録された運動パタ ーンや歩数を基に各種指導を受ける。このとき,利用者 性別(男女) に過去の自分自身の運動履歴や歩数,消費カロリー等が 平均消費エネルギー(200kcal/日ごと) どのように推移しているかを一目で分かる資料を提示し 平均歩数(1000歩ごと) ながら説明できるようにするための機能として,健康レ 平均体重(5kgごと) ポート出力機能を作成した。本機能は,A4用紙1枚に過 平均糖化ヘモグロビン(20ごと) 去1週間分の利用者の運動パターン,歩数及び消費エネ ルギーがグラフ化されて印刷される(図4)。また,保 表2 出力データ(下記のいずれかを指定) 健師がその結果に対する所見を記入するスペースが設け 消費エネルギー られており,ViM利用者はそのレポートを以降の日々の 歩数 運動行動に反映することができる。 体重 3.5 各種健康データ管理機能 糖化ヘモグロビン 本システムでは,ViMから得られる各種データに加え て,利用者の“体重” ,“血圧” ,“摂取カロリー”, “糖化 ヘモグロビン”の各データを本システムのデータベース 上で管理できる機能を設けた。これらのデータは,保健 師等が手入力によりデータベースに登録することができ る。本機能により,各個人毎に「運動データ及び歩数デ ータ」と「体重,血圧,糖化ヘモグロビン等」との相関 関係を把握でき,また次節以降で述べる統計機能におい て集団の統計データとしてもこれらの相関関係を分析す ることができる。 3.6 統計・分析機能 本システムでは,様々な視点から蓄積されたデータの 統計・分析を可能とするため,固定された統計機能では なく,任意の統計・分析ができるシステムとした。図5 に示すように,統計・分析機能利用時に,表1に示す統 計元データを指定し,この統計元データに対して表2に 示す出力データをグラフ表示する。これにより,全部で 図5 統計機能 13パターンの出力が得られるため,運動等によって健康 度を表す各パラメータがどのように関連し変化している かという相関関係をみることができる。例えば,「歩数 の多少と糖化ヘモグロビン値にどのような関係がある か」 ,「年齢層によって日々の運動状況(運動パターン, 歩数)に有意な差はあるか」,「消費エネルギーが多いと, 糖化ヘモグロビンが改善されるか」といったものを一目 で判断することができる。 は数千万件に達するが,利用者によって利用日数がまち まちであるため,トータルで約122万件となっている。 本システムを実際に保健師に使用してもらい,評価を 行った。システムの使い勝手及び応答速度は十分に満足 できるものであり,また様々な観点から行うことができ るデータの統計・分析機能は非常に好評であった。 また,上記と同じ統計元データ及び出力データの組み 5 合わせで,複数月にわたる経時的な変化をグラフ表示す る機能も作成した。 4 結 論 高機能運動記録装置ViMを用いた集団の健康管理を支 援するための運動履歴管理システムを開発した。本シス テムは,集団の運動履歴データを一元的に管理し,また システムの評価 今回,開発した運動履歴管理システムに,実際のデー タを投入し評価を行った。ViM利用者は41名で2006年8 月から2007年2月までの7ヶ月間分のデータである。デー タ数は最も多くのデータが格納される運動パターンのテ ーブルにおいて,1220640件(約122万件)が登録された。 なお,全ての利用者が毎日休みなく使用すればデータ数 各利用者に対して健康指導を行うための健康レポート機 能を持ち,さらに運動行動と各種健康データとの相関関 係を分析するための各種統計・分析機能を実現した。本 システム実際に保健師に使用してもらい,その有効性を 確認した。今後は,使い勝手のさらなる向上,統計・分 析機能の充実を予定している。 - I 13 -
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