母 さ ん 助 け て 詐欺

時 の 話 題 ~平成25年度 第15号(H25.8.30調査情報課)~
母さん助けて
詐欺
振り込め詐欺の中で最も多くを占めているのがオレオレ詐
欺である。近年この手口が金融機関を通じて現金を振り込ま
せるものから、犯人が直接自宅等に取りに来る手口へと変化
してきている。今春、警視庁は振り込め詐欺の名称を「母さ
ん助けて詐欺」と変更し、被害防止を呼びかけている。
「母さ
ん助けて詐欺」についての情報を紹介する。
1 オレオレ詐欺(※)の現状
表1 全国のオレオレ詐欺被害の件数と金額
(1)オレオレ詐欺の被害状況
オレオレ詐欺の全国の被害金額は、平成
年
被害件数
被害額
21 年に一旦減じたものの、平成 22 年から 平成 20 年
7,615 件
約 155 億 1,928 万円
再び増加し続けている。平成 25 年5月末 平成 21 年
3,057 件
約 52 億 226 万円
時点で、すでに前年の半分以上の件数と被 平成 22 年
4,418 件
約 60 億 4,383 万円
害金額となっている(表1)
。
平成 23 年
4,656 件
約 90 億 560 万円
都内でも、平成 25 年5月末時点で、被 平成 24 年
3,631 件
約 105 億 2,871 万円
平成
25
年
害件数は 831 件(前年比+430 件)と前年
1,961 件
約 60 億 658 万円
同時点の倍以上の被害が発生しており、被 5月末時点
害額も 22 億 9,350 万円(前年比約+10 億 出典:警察庁 HP より作成
2,210 万円)と、前年の倍近い額(被害1件あたりの被害額は約 276 万円)である。
※オレオレ詐欺:電話を利用して親族等を装い、金銭借用等を名目に現金を預貯金口座に振り込ませる
などしてだまし取る詐欺(恐喝)
(2)被害者の特徴
警視庁の平成 24 年5月から7月までの被害者アンケートの分析結果によると、オレオレ
詐欺の被害者について以下のような特徴がある。
○被害者の約8割が女性
○被害者の約5割が 70 歳代
○被害者の約7割が夫婦2人又は1人暮らしで居住している
(3)現金を受け取る手口の変化
従来オレオレ詐欺は、現金をATMにより犯人の指定口座に振り込ませる手口だった。
平成 19 年3月に成立した「犯罪による収益の移転防止に関する法律」
(平成 20 年3月施
行)により、金融機関での 10 万円以上の現金振り込みの際に窓口での本人確認が義務付け
られると、窓口手続きの際に詐欺が発覚する等、被害の防止が進んだ。しかしここ数年、
犯罪者がこれに対抗し、現金を直接犯人に手渡しさせる手口へと変化してきた。
(4)振り込め詐欺の新名称募集
現在、オレオレ詐欺の被害の7割が現金を手渡しでだまし取る手口になっており、
「振り
込め詐欺」という名称が犯罪の実態を的確に表現できていないことから、警視庁は平成 25
年4月、「振り込め詐欺」に代わる新たな名称を一般募集した。
募集に対して、1万 4,104 件、9,085 点に上る応募があり、その中から平成 25 年5月、
「母さん助けて詐欺」が新名称に選ばれた。
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2 最新の詐欺の手口
(1)主な手口
近年、よく見られる詐欺の手口は以下のとおりである。
●事前に身内を名乗り「携帯電話の番号が変わったから控えておいて」等と連絡しておき、
だましの電話をする時の警戒感を払拭させる
●あらかじめ「風邪をひいて声が変だと思うけど・・・」と言って、相手に疑問を抱かせない
●銀行等の閉店間際に振り込みを要求してきて、
「時間がない」と言って急がせる
●銀行の振り込みだけでなく、バイク便業者や直接代理人を自宅に向かわせ、現金を手渡し
させる、または定型小包郵便物で現金を送付させるなど
(2)具体的事例
近年、詐欺を行う犯人は、単独犯ではなく、①親族(息子や孫、甥等)、②警察や会社の
同僚、③現金のATMからの引き出し、あるいは現金の受け取り役、④その他見張り役な
ど、様々な役割を受け持つ複数犯が多い。また、親族が緊急事態に陥るなど、すぐに救済
が必要だと思わせる劇場型の詐欺が多く見られる。
【ケース1】複数犯による劇場型詐欺の事例
犯人A:
「母さん?電車の網棚に鞄を忘れちゃったんだ。携帯も一緒になくしちゃったか
(息子役) ら、番号も新しく▼▼▼-▼▼▼▼-▼▼▼▼に変えた。駅から忘れ物の連絡
が来たら電話ちょうだい」
<しばらく経って電話がかかってくる>
犯人B:
「東京駅の遺失物センターですが、○○さんのお宅ですか?息子さんの落し物が
(駅員役) 届いていますので、駅まで取りに来るようお伝えください」
被害者:「はい、わかりました」
<被害者が、息子と思っている犯人の携帯電話に連絡>
被害者:「駅から電話があったから、取りに行ってみなさい」
<しばらく時間が経ってから電話がかかってきて>
犯人A:
「取りに行ってきたよ。それで、鞄の中に会社の通帳も入ってたんで、出金を止
めたんだ。だけど今日取引先にお金を支払わなくちゃいけなくて。部長がなん
とか用意しているんだけど、1千万必要なうちの 300 万しか用意できなくてさ。
母さん助けてくれないかな?」
被害者:「そんなこと急に言われても・・・うーん。じゃあ何とかしてみる」
<時間が経過してから電話がかかってきて>
犯人A:「母さんどうだった?」
被害者:「400 万円なら用意できたわよ」
犯人A:
「母さんありがとう。今、部長と取引先に向かっているんだけど、部長が母さん
にお礼が言いたいっていうから、電話かわるね」
犯人C:
「私、○○君と一緒に仕事をしている部長の■■といいます。今回はありがとう
(同僚役) ございました。それでそちらの方に私どもの営業の△△という者が現金を受け
取りに向かっています。お金を封筒か紙袋に入れて、渡してもらえませんか」
被害者:「はい、わかりました」
<この後、被害者は犯人に現金を渡してしまった>
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【ケース2】警官をかたってキャッシュカードなどをだまし取る事例
犯人A:
「私は××警察署刑事課(生活安全課)の△△と申します。突然すみません。実
(警官役) は振り込め詐欺の犯人を逮捕したんですが、○○さんの口座が使われていたこ
とがわかったんです」
被害者:「ええっ、本当ですか?」
犯人A:
「本当です。驚かれたと思いますが本当なんですよ。それで早く手続きしないと
口座が凍結され、預金が下ろせなくなってしまいますので、ご連絡を差し上げ
たんです」
被害者:「どうすればいいんでしょうか?」
犯人A:
「このままでは預金が下ろせなくなるので、キャッシュカードを作り変える必要
があります。これから手続きのために銀行協会の者を訪問させます」
被害者:「ありがとうございます。助かります」
犯人A:
「銀行協会の身分証を持っていますので、伺った際には必ず確認をしてください」
被害者:「わかりました」
犯人A:
「それから手続きを早急にするために暗証番号を教えてもらえますか。あらかじ
めこちらで登録しておきます」
被害者:「そうなんですか。暗証番号は●●●●です」
犯人A:「わかりました、すぐに手続きしますからご安心ください」
<その後、偽の身分証明書を提示した銀行協会をかたる犯人に被害者はキャッシュカー
ドを渡してしまい、口座から全ての預金額が引き出されてしまった>
(3)詐欺にだまされないために
こうした詐欺の被害に遭わないためには、日頃から家族と連絡を取り合い、近況だけで
なく、振り込め詐欺の手口を話したり、家族の合言葉を決める等の対策をする必要がある。
【詐欺にだまされないための具体的な対策】
①留守番電話を利用し、合言葉で相手を確かめてから電話に出る
常に「留守番電話」にしておき、合言葉で相手を確認して、一呼吸おいてから電話に
出るようにする
②合言葉を決めておき、日頃から電話した際に確かめる
③家の電話番号がハローページに掲載されている場合は削除する(「116」へ連絡)
④家族の勤務先の電話番号を知らせておく
「携帯電話をなくした」、「番号が変わった」と電話を受けたら、元の番号に掛け直す
か、勤務先に確認の電話をかける
⑤相手がお金の話をした場合の相談者を予め決めておく
相手がお金の話をしたら、必ず相談者へ連絡し、一人で判断しない
相談者に連絡が取れないと、一人で判断することになりかねないので、相談者は複数
にする
⑥詐欺の手口や情報を伝えておく
振り込め詐欺のだましの手口を伝え、
「何かあってもお金で解決することは電話で言わ
ない」、「現金を他人に取りに行かせることは絶対にしない」などを約束する
⑦ATM利用限度額の引き下げ
一日に利用できる限度額を引き下げておくことで、被害に遭っても最小限で済む
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3 これまでの取組と新たな防止策
(1)電話自動録音機の配布
警視庁は、オレオレ詐欺対策の新兵器として、平成 25 年3月 写真:電話自動録音機
から都内の高齢者宅に対し、通話内容を自動的に録音する「自
動通話録音(警告)機」の無料貸出しを開始した。台数は 1 万
5000 台で、声紋などを解析し、犯人グループの割り出しに活用
する。録音機の配布は全国初である。
録音機は通話の前に「会話内容が自動録音されます」という
警告メッセージを流すようになっている。声を録音されたくな
い犯人の場合には、録音で証拠が残ることを恐れて電話をその
まま切る可能性があり、詐欺被害の抑止の効果も見込まれる。 出典:警視庁HP
(2)警視庁高齢者被害防止女性アドバイザーの活動
警視庁は、毎年4月に元女性警察官を「警視庁高齢者被害防止女性アドバイザー」とし
て委嘱している。平成 25 年度は 72 警察署の管内で 162 名アドバイザーが委嘱され、高齢
者を犯罪被害から守る活動を行っている。
女性アドバイザーは高齢者宅を訪問し、オレオレ詐欺等のだましの手口をわかりやすく
説明し、被害防止のアドバイスを行っている。
(3)金融機関における「声掛けマイスター」の活用
警視庁は、窓口で現金を引き出そうとした高齢者に声を掛け、オレオレ詐欺の被害を直
前で防止した金融機関職員を「声掛けマイスター」に委嘱し、その技術を広めてもらって
いる。平成 25 年5月1日現在、90 名の声掛けマイスターが活躍している。
4 都の取組
青少年・治安対策本部では、区市町村、警察署と連携し、 写真:実演による防犯講話
高齢者の方々をオレオレ詐欺から守るため、防犯講話を実
施し、直接注意喚起をしている。プロの劇団員による実演
を交えた防犯講話は、臨場感もあり、最新の犯人の手口を
解りやすく伝えている。(平成 24 年度は 30 回実施)
また、舞台がないなど、実演が不可能な会場や小集団の
集会に対応するため、腹話術を活用したユニークな防犯講
話も実施している。(平成 24 年度は6回実施)
出典:青少年・治安対策本部HPより
相談・問合せ先
警 視 庁 振 り 込 め 詐 欺 ホ ッ ト ラ イ ン:03-3501-2967
東京都青少年・治安対策本部 治安対策課:03-5388-2255
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今後の課題
詐欺の手口や、その対策などが広く周知されると、犯罪者は新しい手口を考え出す。特
に標的とされるのが、情報の少ない高齢者である。巧みな心理誘導作戦などの手口にだま
され、老後のための貴重な蓄えを失う高齢者も少なくない。
詐欺の最新の手口などの情報を迅速に周知し、身近な高齢者が犯罪に巻き込まれていな
いかどうか、周囲で積極的に声掛けを行い、被害を未然に防ぐことが必要である。
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