河井彩公子,イベント駆動型センサネットワークにおけるデータ収集法

2010 年度 卒業論文要旨
イベント駆動型センサネットワークにおけるデータ収集法
学修番号 09275001
1 はじめに
河井 彩公子
指導教員
朝香 卓也
すイベントの観測に用いる場合に高い効果を発揮す
ることが期待される.本論文では,各ノードは位置情
近年,技術的革新が激しい技術としてユビキタス
報を知っておりノード間で時刻同期がとれている状
システム関連技術が挙げられる.ユビキタスシステム
況を想定する.また,ある一定の情報を保持すること
とは日常に溶け込んだ目に見えないシステムを指す.
が出来るストレージを内蔵しているものとする.次
ユビキタスシステム関連技術を強力に牽引する技術
に本論文で提案するデータ収集法の手順を説明する.
の一つとして無線センサネットワークがある.無線セ
(手順1) イベント発生時,これを観測したノード
は自らの近隣ノードにこの情報をのせたクエリーを
フラッディングする.クエリーを受け取ったノードは
自らの状態をクエリーの送信元ノードに返信する.も
し,この時自らがイベントを観測していない状態で
あった場合は状態をフリーズ状態へ遷移する.フリー
ズ状態とは,ある一定時間他ノードから受け取った
データを転送すること以外の動作を一切行うことが
出来ない状態である.これは時間経過と共に領域が変
化していくイベントに対応するためである.近隣の
ノードからクエリーの返信を受け取ったイベント観測
ノードは,その内容にイベント未観測のノードからの
返信が含まれていた場合は自らをエッジノードとし,
それ以外のノードは以後何の動作も行わない.
(手順2) 各エッジノードは,区間 [N, N + 1] にお
ける一様乱数 (N は SINK からのホップ数) を発生さ
せ,その時間だけ待機しデータ送信を始める. この
時,発生させる乱数にホップ数の影響を与えたのは
最初にデータ送信を始めるノードを SINK になるべ
く近い位置に設定するためである.設定した待ち時
間が終了したノードはデータ収集ノードとなり,近隣
のエッジノードに自らが観測したデータを送信する.
データを受け取ったエッジノードは待ち状態を解消
し,受け取ったデータと自らが観測したデータを集約
して次のエッジノードへデータを送信する.この時,
近隣エッジノードが複数ある場合はデータ未収集の
ンサネットワークは,センサを搭載した小型の端末を
観測対象とする場所に大量に分布し,それらの端末
間で構築する無線ネットワークを用いてデータを収
集し活用する技術である.無線センサネットワークで
は,ノードが一旦配置されるとメンテナンスや電力
供給を行うことが困難である.そのため,電力資源
を効率的に利用することは最大の課題となっている.
このことから,ノードの消費電力を削減するための
研究が多くされている.特に,無線センサネットワー
クにおいて高い消費電力を占める要因はデータ通信
によるものである [1].データ通信を削減する方法と
して,クラスタリングを行うことでデータの送信回
数を削減する方式 [2], 経路制御によって効率の良い
データ集約を行う方式 [3] 等が提案されている. 本論
文では,災害や事故などの突発的に発生するイベン
トを検知するために用いるイベント駆動型センサネッ
トーワークにおいて,ユーザは,”イベントが発生し
た ”と ”どこの場所でイベントが発生したのか ”とい
う2点の情報を要求することに注目した.これより,
イベント発生場所を推定し,その領域を用いてデー
タ集約及びデータ収集を行うことで無駄なデータ送
受信を削減し省電力を達成するデータ収集法を提案
する.
2 提案方式
本提案は,イベント発生後にそれを観測したノー
ドの中からイベント領域を推定しその領域の縁にあ
たるノードの情報だけを全てのデータを収集しユー
ザへ提供するノード (以下 SINK とする) に送信する
ことで,正確なイベント発生領域をユーザに伝えつ
つ消費電力の削減を可能とする.イベント領域の縁
に存在するノードのみが観測したイベントデータを
SINK に送信することから一度に広範囲に影響を及ぼ
図 1: 分岐テーブルを用いたデータ収集
エッジノードを優先する.
(手順3) データ送信をする際に宛先となり得るエッ
ジノードが複数存在する場合,未選択経路を分岐テー
ブルに記録する (図 1).分岐テーブルを用いること
で,複雑な形状のイベント発生時やバッテリー切れや
障害物などの影響でうまくノードが機能しない状態
に対応することが出来る.エッジノード間のデータの
やりとりの中で分岐テーブルに記録された経路を通
過した場合はその経路を分岐テーブルから削除する.
分岐テーブルから全ての経路が削除され,かつデー
タ収集のスタート地点であるデータ収集ノードに全
てのエッジノードのデータが集まった時,最短経路を
通って SINK ノードへマルチホップで収集したデー
タを送信する.
以上のような手順でデータ収集を行うことで,ユー
ザの要求を満たしつつ省電力を達成することが可能
となる.
表 1: 100 回のシミュレーションにおける平均消費電力
方式
平均消費電力 (J)
標準偏差
提案方式
0.289
1.778
1.843
0.063
2.548
4.436
最短経路方式
クラスタ方式
遠い場所と最も近い場所の 2 か所に固定した.この
結果,比較方式はイベント発生場所によらず,イベン
トサイズが大きくなるにつれて消費電力が急激に増
加していくが,本提案は消費電力の増加量が少なく,
広範囲に影響を及ぼすイベントの観測に用いる場合
に高い効果を発揮するということがわかる (図 3).
最後に,総ノード数を 10000 個に固定し,イベン
トサイズとイベント発生場所をランダムにした状態
で平均消費電力を導出し,t 検定を行った結果,有意
水準 1 %においても比較方式に比べ本提案の消費電
力が少なく,その差が有意であることがわかった.
3 評価
計算機シミュレーションにより,本論文で提案した
4 まとめ
方式の特性について評価を行う.評価には文献 [2] に
本論文ではイベント領域を推定し,無駄なデータ
用いられている電力消費モデルを用いる. 比較のため
送信を削減することで省電力化を図るデータ収集法
に,全イベント観測ノードが最短経路でデータを送信
を提案した.今後の課題としてはより実空間に近い
する最短経路方式とイベント発生領域内でクラスタ
状況下でシミュレーションを行う必要がある.
を作成してデータ集約を行うクラスタ方式の 2 方式を
用いた.また,本提案の特徴から総ノード数とイベン
トサイズの2つをそれぞれ変化させ,評価を行った.
まず,総ノード数を変化させて検証を行った.この検
証では総ノード数を 400∼10000 個まで変化させ,そ
の上で 10 × 10 のイベントを SINK に最も遠い場所
に発生させ,影響を調査した.結果を図 2 に示す.本
提案は比較方式に比べ,消費電力の増加量が小さいこ
とから総ノード数の増加に影響を受けにくいという
ことが言える. 次に,イベントサイズを変化させて検
証を行った.この検証では総ノード数 10000 個でイ
ベントサイズを 5 × 5∼95 × 95 まで変化させ,影響
を調査した.また,イベント発生場所を SINK に最も
図 2: 総ノード数と消費電力の関係
参考文献
[1] T.Dam and K.Langendoen.”An adaptive energyefficient MAC Protocol for wireless sensor networks”,
SenSys ’03.2003.
[2] W.Heinzelman,A.Chandrakasan,and H.Balakrishnan, ”Energy-efficient communication protocol
for wireless microsensor networks, ”Proc.the Hawaii
Conference on System Sciences (HICSS),pp.30053013.01.2000.
[3] C.Intanagonwiwat,R.Govindan, and D.Estrin,”
Directed diffusion: a scalable and robust communication paradigm for sensor networks ”,Proceedings
of the 6th annual international conference on mobile
computing and networking ACM New York,NY,
USA,pp.56-67,2000.
図 3: イベントサイズと消費電力の関係