財部誠一のNY最新情報

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自信を持て、日本ブランド
2004・10・18 407号
財部誠一のNY最新情報
財部誠一今週のひとりごと
米国取材に出発する直前の10月3日、上野の東京文化会館へ
オペラを観にいきました。
演目は『ドン・ジョヴァンニ』。今年からウィーン国立歌劇場
を指揮する小澤征爾氏の凱旋公演ということで、その日は財界関
係者も多数来場しており、あちこちで知り合いとでくわしました。
そのなかの一人が、高木ダイエー社長でした。この時点で高木さ
んは私にこう言っていました。「私の考える方向で進んでいきそ
うです」。 ところが事実は違いました。
状況を一変させたのは、まちがいなく会計事務所の判断でした。
会計事務所の行動そのものの是非はともかく、それがトリガー(引
き金)となったことは間違いありません。今回のダイエー問題を
どう考えたらいいか、あらためてウィークリーレポートに書くつ
もりです。
(財部誠一)
※HARVEYROAD WEEKLYは転載・転送はご遠慮いただいております。
10月18日月曜日、米国取材から帰国しました。
NYではこれまでとはまったく違う和食ブームが
◆ターン・アラウンド
ビジネス
起こっていました。いまNYでもっともトレンデ
ィなレストランは、なんと居酒屋なのです。ソー
ターン・アラウンドとは
市場用語では主に、下げ
ホーに昨年オープンした「matsuri=祭り」
相場が急に上昇に転じた
のメニューは正真正銘の居酒屋メニューでした。
際に用いられる。ターン
この店のウリはなんといっても日本酒で、日本で
アラウンドビジネスで、
もなかなか飲めないような大吟醸の銘酒が豊富に
「企業再生ビジネス」の
取り揃えられています。1階は小さなバーカウン
意味で使われる。業績の
ターで、地下1階が吹き抜けのおおきなレストラ
悪くなた会社が様変わり
ンスペースになっているのですが、なんといって
するというイメージ。
も驚きは客層です。土曜日の夜中11時すぎにN
Y在住の知人とともに「祭り」にいってみると「満
席で20分待ちだ」といわれ、しかたなしに店内
見学を決め込み、ぐるりと見渡してみると、なん
◆プライベート・
と居酒屋だというのに日本客の姿は一人もなく、
エクイティ・ファンド
ほぼ全員が白人だったのです。しかもどのテーブ
未公開株式を取得し、株
ルのうえにも“とっくり”が置かれているではあ
式公開や第三者に売却を
りませんか。
することで、譲渡益・資本
「matsuri」に入れなかった私たちは「も
利得(キャピタルゲイン)
う一軒面白い店がある」という知人の案内で、ト
ライベッカにある「MEGU」という店にむかい
を獲得することを目的と
ました。じつはこの店も居酒屋です。ただしこち
したファンドのこと。そ
らは純粋な居酒屋ではなく、おもいっきりトリッ
の規模が2兆円とも3兆
キーな米国風居酒屋とでもいうべきシロモノでした。
円ともいわれている。
店の名は「MEGU」。この店は構造じたいがか
なり複雑で、入り口からレストランスペースにた
どり着くまで、さまざまな意匠を凝らしたデザイ
ン性の高い造りになっていますが、客の度肝を抜
くのは、氷の仏像です。氷ですから、時間がたて
ば当然溶けてしまうので、氷の仏像は毎日、新ら
しく彫られたものが届くそうです。しかも店内には、
ものすごいボリュームでBGMが流され、異様な
喧騒の空間と化していました。
この店に初めてきた日本人を唖然とさせるのは、
トリッキーな和食メニューとその価格です。
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なかでも日本人を仰天させる一番のメニ
ューは「茶豆」でしょう。どうも「MEG
U」のウリのひとつらしいのですが、よう
は枝豆です。枝豆を注文すると、新潟産の
高級枝豆である「茶豆」がでてくるわけで
すが、この店では、料理をテーブルに運ん
でくるたびごとに、フランス料理のように
うやうやしく説明をするのがウリになって
おり、ながながと茶豆の解説をしてくれます。
米国人はその説明を聞きながら、目の前に
でてきた奇妙な料理を素直に受け入れるこ
とができますが、日本人はとうてい承服で
きません。なぜなら、小さく砕いた氷の山
に枝豆が茎ごと三本さしてあるだけで、な
んと27ドルもの値段がつけられているか
らです。お洒落と言えばお洒落でしょう。
しかし、いかに輸入物とはいえ、枝豆一品
頼んで3千円という値段は日本人が受け入
れられる値段ではありません。
この店は日本で当たり前の居酒屋メニュ
ーを米国人好みのカタチに思い切り変化さ
せているところに特長があります。たとえ
ばホタルイカといえば、日本人であれば「沖
漬け」となりますがが、なんと「MEGU」
ではそれをさらに揚げて、「ホタルイカの
沖漬けフライ」となってしまうそうです。
「MEGU」は最低でも一人あたり100
ドルはかかる高級レストランであるにもか
かわらず、いまや「matsuri」を圧
倒する大人気。NYタイムズでも紹介され
たトレンディスポットとなっています。そ
してこの店を経営しているのが、驚くなかれ、
あのグッドウィル・グループなのです。介
護ビジネスの大手、コムスンを傘下にもつ
グッドウィル・グループこそ「MEGU」
のオーナーだったのです。日本国内でも比
内地鶏をうりにする高級焼き鳥チェーン「今
井屋」を経営するなどグッドウィル・グル
ープはレストラン事業にも力を入れてきま
したが、まさかNYにまで進出していると
は!しかもNYタイムズにも紹介されるほ
ど注目を集める店を作り上げているとは!
もっとも事実を明かせば「MEGU」も
夜中に突然行ったものですからこちらも満
席状態で、実際にテーブルにつくことは出
来ず、知人の解説を聞きながら、勝手に店
内を歩き回ったというのが実状です。
なんともあわれな姿ですが、飲まず食わ
ずだったわけではありません。「mats
uri」と「MEGU」に出向く前に、ロ
ーアーマンハッタンでちゃんと夕食をとり
ました。もちろん、せっかくのNYですから、
ここで選択した店も「matsuri」「M
EGU」に劣らぬ人気レストランを知人が
選んでくれました。その名も「WD−50」。
和食とフレンチとイタリアンを混ぜたよう
なフュージョンですが、私たちが選んだコ
ースは「テイスティング」と呼ばれ、メニ
ューに掲載された料理を少しずつ小分けに
して出してくるというもの。料理自体は、
私がかつて見たこともなければ食べたこと
もない、完全な創作料理で、所々に「和」
が顔をだしていました。小さなフォアグラ
の上に「海苔」が添えられていたり、しそ
のソースが使われていたり・・・。しかも
一品、一品、料理を運んでくるたびに、素
材やソースの説明をウェイトレスが懇切丁
寧に説明をしてくれました。一品ごとの料
理はごく少量で、10品くらい食べたでし
ょうか。まさにNY風懐石料理! 料理だけではありません。じつはNYの
いたるところに「日本」が散見されるよう
になりました。サンリオの人気キャラクタ
ー「キティちゃん」が全米で大ブレークし
ています。日本文化のポテンシャリティの
高さを再認識させられる旅となりました。
もっとも今回の主要な取材テーマである
「企業再生ビジネス(Turn Around
Business)」においても、まったく
同じことがいえました。経営が悪化したポ
テンシャリティの高い非公開企業に資本と
優秀な経営者を送り込んで企業を再生させ
るビジネス「Turn Around Busine
ss」と呼びますが、このビジネスを行う
のが「Private EquityFund」です。
新生銀行を買ったリップルウッドは典型的
なPrivate Equi
ty Fundです。
日本国内には、こうした外資の投資ファ
ンドをみるや、すぐに「ハゲタカ・ファン
ド」と決めつけてしまう、被害妄想的な傾
向が強くありますが、Private Equi
t
y Fundは米国の専売特許などではもうな
くなっているのです。10月14日にNY
のメトロポリタン・クラブで開かれたPr
ivate Equity Fundの世界総会をのぞ
いてみると、香港、台湾はもちろん、韓国
や上海からも参加している会社があるのです。
日本だけです。産業再生ビジネスの主要
プレーヤーが集まる世界大会に参加してい
ないのは。ポテンシャリティの高い企業が
財務的な弱さから経営危機に陥ったのであ
れば、いくらでも再生可能だと世界中の投
資家は考えるのです。
彼らの話を聞いてみると、みな一様に言
います。
「日本は宝の山だ」
今回の取材をつうじてあらためて痛感し
たことがあります。日本を世界の誰よりも
卑下し、過小評価しているのは日本人自身
だということです。世界の投資家は日本企
業のポテンシャリティの高さに、いささか
の疑念も持ちあせていませんでした。日本
編集・発行
の技術、日本の生産技術に対する神話は、
ハーベイロード・ジャパン
いささかもくずれていません。中国との生
〒107-0062
産コストの格差ばかりに目を奪われて「も
はや日本国内では製造業はやっていけない」
港区南青山1-15-2
などという愚かな発言が聞かれるのは日本
南青山スタジオフラット201
だけなのです。
Tel
.03─3479─2376
自信をもって日本企業は生きなければな
F
a
x
.03─5770─3137
りません。 (財部誠一)
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