1P 「株価は景気の先行指標ではない。経済そのものだ」 2005・ 12・19/26 463/464 合併号 どうなる2006年の日本経済 財部誠一今週のひとりごと ウィークリーレポートも今週号(12月19日・26日合併号)をも って、本年最後の発行となります。今年も1年間、ご支持をいただき、 ありがとうございました。ふりかえれば、今年も取材であちこち飛び回 りました。年初から中国へ飛び上海ー天津ー北京を回り、春にはタイで いすゞの工場を取材し、人民元の切り上げと同時にふたたび中国にわた って、上海ー大連ー青島。その後、米国に飛んでニューヨークからノー スカロライナと回ってきました。正直、疲れましたが、事実はいつも現 場にあります。来年も2月にインド、3月にロシアを取材する予定です。 もちろん国内取材も精力的にこなしていくつもりです。どうぞ来年も、 内田裕子、秦絵美ともどもよろしくお願いします。 (財部誠一) ※HARVEYROADWEEKLYは転載・転送はご遠慮いただいております。 2006年の投資の日本経済は、久方ぶりに雲ひとつ ない快晴になるかもしれません。基本的に悪い要因が見 当たらないからです。長らく日本経済の足を引っ張り続 けたメガバンクの不良債権問題もついに昨年、決着がつ きました。企業の業績も本格的に回復してきました。日 本の上場企業の利益は06年3月期決算で3年連続、史 上最高利益となることが確実視されています。企業業績 だけではありません。個人にもその恩恵がきちんとおよ んでくるようになりました。昨年12月に支給された冬 のボーナスも、3年連続で増加。妥結額は86万 2705円で史上最高額となりました。しかし、なんと いっても大きな役割を果たしたのは株式市場でした。 03年5月、日経平均はバブル崩壊後の最安値である 7600円まで値下がりしましたが、その後、急騰。日 経平均は8月には1万円台を回復しました。03年(1 月~12月)に日本の経済成長率は前年のマイナス成長 から1.3%のプラス成長へと転換。株価は見事にそれ に応えたかたちになったわけです。しかし、1万円台を 回復してから足取りは必ずしも順調ではなく、日経平均 は1万円~1万2000円のボックス圏で行ったり来た りを繰り返すばかりで、景気の本格的な回復を実感させ るにはほどとおい展開でした。 ところが05年5月に1万825円をつけたあと、日 経平均の足取りは様変わりしました。わずか半年強のあ いだに日経平均は50%も値上がりして1万5000円 に手が届くかという水準まで上昇したのです。 日経平均が3万8900円をつけてピークアウトした 後、いったい誰が7600円までの下落を予測できたで しょうか。株式のプロフェッショナルたちは「これで底 をうった」と何度も何度も底打ち宣言をだしましたが、 底の抜けてしまった株式市場はあらゆる予測を裏切って 暴落し続けたのです。今回の上昇局面もそうでした。い ったい誰が、これほど早い日経平均の上昇を予測したで しょうか。05年中に日経平均が1万5000円近くま で上昇するという予測はありませんでした。 ◆2005年冬のボーナス 日本経団連が発表した大 手企業の冬のボーナス妥 結額(最終集計)は前年 比4.35%増の86万 2705円。3年連続で 増加し、最高額を更新。 調査は、22業種288 社の大手企業(従業員 500人以上、東証1部 上場)が対象。製造業は 同6.04%増の85万 2692円、非製造業は 同1.12%増の88万 6348円。業種別にみ ると、鉄鋼は同35 .96%増の100万 829円と初めて100 万円を突破し、過去最高。 自動車(96万5775 円)、食品(96万 663円)も過去最高を 更新。 2P 「もう下がる」「もう下がる」と市場関係者の 多くが高所恐怖症気味になり、「さらに上昇す るにしても、その前に一度、調整局面が来るは ずだ」と慎重になればなるほど、それをあざわ らうかのように日経平均は値上がりしていった のです。 この驚き、この意外性。これが日本経済の先 行きに大きな光を与えました。 「景気は本当に回復した!」 景気回復実感がなかなか持てない人たちにも、 株価急騰は強烈なメッセージとなりました。 06年の景気予測をするエコノミストたちのな かにも、株価高騰が与える心理効果の大きさを 指摘する声が少なくありません。たしかにその 通りです。しかし「株価」の高騰が実体経済に 与える効果は心理的なものにとどまるものでは ありません。じつは「株価」が実体経済に与え る影響は想像以上に大きいのです。もう今から 20年ちかく前になりますが、当時、兜町で有 名な相場師にインタビューをしたことがありま した。大手証券や準大手証券のトップが彼の相 場観を聞くために足しげく通っているという人 物でした。老境にさしかかったその相場師が私 に教えてくれました。 「株価は景気の先行指標ではない。経済そのも のだ」 株価は景気の現状や先行きを示す「指標」で はなく、実体経済そのものであり、株価が上が れば実体経済そのものが引き上げられる。そこ を理解しなければ、株式市場の意味などわかり はしないぞ、ということでした。 06年の日本経済は快晴 まさに至言でした。 05年後半の株価高騰は銀行や大手企業の決 算にもダイレクトにプラス効果をもたらしてい ます。ついこのあいだまで、銀行や大企業は値 下がりした保有株式の含み損を償却するのに四 苦八苦していたというのに、05年はさまがわ りです。保有株が莫大な利益をあげるようにな ってしまったのです。「含み損」から「含み 益」へと、決算上のマイナス要因がプラス要因 へと180度変わってしまったのです。 たとえば大手銀行6グループの9月末の有価 証券の含み益は6グループ合計で5兆円を突破 しました。日経平均が7000円台まで突っ込 んだ03年には5000億円の含み損をかかえ、 その償却に大銀行は、てひどい目にあいました が、05年9月末にはその10倍にあたる5兆 円の含み益をかかえこんだのです。03年と 05年の銀行の経営体力をくらべたら、それは もう天と地の開きです。 さらに株価の上昇は企業の資金調達を容易に させるという大きな効果をもたらします。企業 に設備投資をうながす契機になります。05年 度、企業の設備投資は10%をこえる大幅な伸 びになりそうですが、株高はこうした企業の設 備投資意欲をさらに高める効果をもっているわ けです。 またこれはよくいわれることですが、株高は 資産効果をもたらします。高額商品や耐久消費 財に対する個人消費の拡大をうながしもします。 このように「株価」の大幅上昇は実態経済その ものを大幅に押し上げる役割を果たしているわ けです。世の中は本当に面白いもので、日経平 均が値下がりしているときには、世の中の多く の人たちはそれを「経済停滞」の象徴とみなし、 悲観論をあおりたてますが、逆の現象はなかな か起こりません。今回のように日経平均が急騰 した時に、それを「経済活況」の象徴ととらえ て、先行きを楽観するかというと、日本ではそ うなりません。最近よく耳にする言葉がありま す。 「これはバブルだ」 株が値下がりしたときは経済破綻で、上がっ たらバブルだとのひとことで集約してしまう。 どうしてこう極端から極端へと理解が飛んでし まうのでしょうか。 実は私はさきほど日経平均が05年中に1万 5000円を突破するなど誰も予測できなかっ たと書きましたが、じつはひとりだけこれを予 見していたエコノミストがいました。大和総研 の東英治チーフストストラテジストは早くから 「1万5000円」を明言していました。その 東氏が最新のレポートのなかで興味深い表現を していました。 「日経平均の次の目標は2万円となるが、今の 株式市場で重要なことはいくらまで上がるかで はなく、いつまで上がるかだ」としたうえで、 「少なくとも06年中に悲観要因は見当たらな い」という趣旨の発言をしていました。 どちらかいえば悲観的な見通しをすることで 知られるUFJ総研の投資調査部長である嶋中 雄二氏も『日系ビジネス』のなかで「06年は 本格浮上の年に」という原稿を寄稿していまし た。そのなかにこんな記述があります。1万社 を対象にUFJ総研がおこなった05年 10~12月期の企業マインド調査によれば、 景気についても、企業の業績についても、バブ ルいらいの高水準になったというのです。 「06年1~3月期については、やや慎重な見 通しとなっているものの、設備や雇用の不足感 が一段と強まっており、在庫過剰感の縮小も鮮 明である。当面の経営上の課題を見ても『販売 価格安』を指摘する企業の割合が低下傾向をた どる一方で、『国内販売不振』の割合が足元で 急低下し、1991年10~12月期いらい、 14年ぶりの低水準となった」 販売が不振だと答えた企業の割合がバブル時 編集・発行 代に匹敵するところまで少なくなってきたとい ハーベイロード・ジャパン うのです。企業の業績回復と株高を呼び、株高 〒105-0001 が企業業績をさらに押し上げるという好循環が 港区虎ノ門5-11-1 起こっているのです。 こうしたなか、内閣府が06年度の景気予測 森タワーRoP805 を発表しました。それによれば06年度の経済 Tel. 03─5472─2088 成長率は実質で1.9%、名目で2.0%。日 Fax. 03─5772─7225 経平均が2万円をうかがうような展開になれば、 内閣府の予測を上回る成長もありうるのではな 無断転載はお断りいたします いでしょうか。いずれにしても06年は明るい 年になるでしょう。 (財部誠一)
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