論 文 審 査 の結 果 の要 旨 薬 物 治 療 の安 全 性 に関 する臨 床 薬 学 的 研 究 :回 復 期 リハビリテーション病 棟 における薬 物 関 連 事 故 防 止 対 策 および長 期 免 疫 抑 制 療 法 の発 癌 リス クの検 討 Clinical Pharmacy Studies on Medication Safety: Prevention of DrugRelated Accidents in Rehabilitation Unit and Risk-assessment of C a r c i n o g e n i c i t y f o r L o n g - Te r m I m m u n o s u p p r e s s i v e Therapy 論 文 提 出 者 小 川 ゆ か り ( O g a w a , Yu k a r i ) 良 質 な 薬 物 治 療 を 患 者 へ 提 供 す る う え で 、医 薬 品 に よ る 重 篤 な 副 作 用 を 回 避 し 安 全 性 を 確 保 す る こ と は 薬 剤 師 の 責 務 で あ る 。日 本 薬 剤 師 会 が 2013 年 に 提 唱 し た 薬 剤 師 の 将 来 ビ ジ ョ ン に お い て も 、 長 期 処 方 に 対 す る 有 効 性 と 安 全 性 の 確 保 や 入 院 患 者 に 対 す る 転 倒・転 落 事 故 に 影 響 を 及 ぼ す 処 方 薬 の 提 示 や 対 策 の 提 案 、あ る い は 多 剤 併 用 や 過 量 投 与 を 回 避 す る こ と は 、医 薬 品 の 適 正 使 用 を 実 践 す る た め に 薬 剤 師 が 取 り 組 む べ き 課 題 と し て い る 。申 請 者 は 回 復 期 病 棟 の 入 院患者の転倒事故発生における医薬品の影響を診療録調査によっ て検討した。次いで、多剤併用処方を回避する予備的検討として、 入院中の薬剤変化量に影響を与える臨床的諸因子についても診療 録 調 査 を 行 っ た 。さ ら に 薬 物 治 療 の 長 期 安 全 性 に 焦 点 を あ て 、炎 症 性 腸 疾 患( IBD)患 者 に お け る 免 疫 抑 制 剤 の 発 癌 リ ス ク を メ タ 解 析 の手法にて検討した。 1 申請者は初台リハビリテーション病院回復期病棟へ入院した全 患 者 4 4 7 名 を 対 象 と し て 、診 療 記 録 お よ び 医 療 安 全 委 員 会 に よ る 転 倒 記 録 を も と に 年 齢 、 性 別 、 転 倒 の 有 無 、 処 方 薬 や 入 院 時 Barthel I n d e x( B I )な ど を 調 査 し た 。そ の 結 果 、調 査 期 間 内 に 発 生 し た 転 倒 事 故 件 数 は 、の べ 173 件( 複 数 回 の 転 倒 を 含 む )で あ り 、転 倒 事 故 は 、 明 け 方 6: 0 0 か ら 8: 0 0 に か け て 特 に 多 く 発 生 し て い た 。 転 倒 群 お よ び 非 転 倒 群 の 2 群 間 に お い て 、平 均 年 齢 や 男 女 比 率 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た が 、転 倒 群 で は 非 転 倒 群 に 比 べ て 入 院 時 平 均 B I は 有 意 に 低 く 、入 院 時 点 で 要 介 助 項 目 が よ り 多 い 傾 向 に あ っ た 。 入 院 時 BI と 抗 不 安 薬 の 服 用 が 転 倒 事 故 発 生 に 対 す る 有 意 な リ ス ク 因 子 と し て 検 出 さ れ 、 オ ッ ズ 比 と そ の 95% CI は そ れ ぞ れ 、 入 院 時 B I の 5 点 低 下 あ た り 1 . 0 8 [ 9 5 % C I : 1 . 0 4 - 1 . 1 2 ] 、2 . 2 1 [ 9 5 % C I : 1 . 1 0 - 4 . 4 4 ] で あ っ た 。そ の 結 果 、抗 不 安 薬 は 高 齢 者 に 頻 用 さ れ る 薬 物 で あ る が 、 起床直後の覚醒状態が低い時間帯に効果が持ち越されていること が 原 因 の 一 つ と な っ て い た 可 能 性 が あ る 。転 倒 事 故 を 未 然 に 防 ぐ た め に 、抗 不 安 薬 服 用 の 妥 当 性 評 価 や 副 作 用 モ ニ タ リ ン グ な ど を 強 化 しなければいけないと考えた。 次 い で 、 世 田 谷 記 念 病 院 の 回 復 期 病 棟 に 入 院 し た 65 歳 以 上 の 高 齢 者 1 2 4 名 を 対 象 と し 、診 療 録 を も と に 入 院 時 持 参 薬 や 退 院 処 方 薬 を も と に 多 剤 併 用 の 有 無 や 合 併 症 な ど を 調 査 し た 。そ の 結 果 、退 院 時 に 多 剤 併 用 に よ る 薬 物 治 療 を 受 け て い る 患 者 は 51 名 ( 41% ) で あ っ た 。 消 炎 鎮 痛 剤 の 処 方 率 が 入 院 時 に は 25% で あ る の に 対 し て 、 退 院 時 は 1 0 % と 有 意 に 減 少 し た ( P < 0 . 0 1 )。 入 院 中 の 内 服 薬 剤 数 変 化 量 は 、入 院 時 内 服 薬 数 が 多 い ほ ど 退 院 時 処 方 薬 数 は 減 少 す る 傾 向 2 を 認 め 、入 院 時 に 心 臓 疾 患 お よ び 高 血 圧 を 合 併 し て い る 患 者 は 、退 院 時 ま で の 処 方 薬 変 化 数 が 非 合 併 例 と 比 べ て 平 均 1.2 剤 お よ び 0.9 剤 多 い こ と が 示 さ れ た 。そ の 結 果 、入 院 時 内 服 薬 数 の 多 い 患 者 を 中 心 に 、解 熱 鎮 痛 消 炎 剤 や 整 腸 剤 の 継 続 投 与 の 必 要 性 を 再 検 討 す る 事 が重要であることが判明した。 最後に、免疫抑制剤使用と発癌リスクの関係を研究した。 MEDLINE 等 を 用 い て 情 報 を 収 集 し メ タ 解 析 の 結 果 、 免 疫 抑 制 剤 を 服 用 し て い る IBD 患 者 と 服 用 し て い な い IBD 患 者 の 間 に 癌 発 生 率 に 有 意 な 差 を 認 め な か っ た 。こ の 結 果 は 、I B D を ク ロ ー ン 病 と 潰 瘍 性 大 腸 炎 患 者 に 分 け た サ ブ 解 析 に お い て も 同 様 だ っ た 。癌 種 別 に 見 て も 、免 疫 抑 制 剤 非 使 用 群 と 比 較 し て 癌 発 生 率 に 有 意 な 差 は 認 め な か っ た 。こ の 結 果 は 患 者 へ の 情 報 提 供 に お い て 有 益 で あ る と 考 え た 。 申請者は以上の結果から薬剤師が免疫抑制剤の長期使用により 懸 念 さ れ る 発 癌 リ ス ク の 評 価 す る 事 、お よ び 回 復 期 病 棟 に お け る 他 剤併用と転倒事故のリスク評価をする事で患者の薬物治療に貢献 出 来 る 事 を 示 す こ と が 出 来 た 。以 上 を ま と め る と 、本 研 究 は 臨 床 薬 剤師の薬物治療適正化活動への関与において大きな功績を挙げた も の と 考 え ら れ た 。審 査 会 に お け る 質 疑 応 答 、最 終 論 文 の 作 成 も 満 足 で き る 内 容 で 終 了 し た 。以 上 よ り 審 査 に 関 係 し た 下 記 の 3 者 は 一 致 し て 、本 論 文 が 博 士 の 学 位 に 相 当 す る も の を 認 め る 事 で 意 見 の 一 致を見た。 3 平 成 26 年 3 月 1 日 主査 越 副査 岸 副査 赤 明治薬科大学 教授 前 印 宏 俊 明治薬科大学 教授 野 印 吏 志 明治薬科大学 沢 学 教授 印 4
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