スマートフォン利用が有効視野に及ぼす影響 AE11031 三枝紘貴 指導教員 入倉隆 1. はじめに 1.1 研究背景 近年スマートフォンの急速な普及に伴い、利用者が歩 きながら画面を閲覧して通行人とぶつかり怪我をするな どの事故が起こっている。図1に年別の携帯電話使用者 救急搬送人数、スマートフォン契約比率を示す。 φ=tan−1 Y X スマートフォン利用の場合、多くの機能が搭載されて いるために画面に集中して利用している傾向にある。そ のため周囲への注意が散漫になり危険性が高まる。これ らは有効視野の影響大きいものと考えられる。 今までの研究では、ルームランナーを用いて歩行を模 擬した携帯電話が有効視野に及ぼす影響について研究さ れている[1]。しかし、障害物を用意して実際に歩行しな がらスマートフォンを使用している際の有効視野に及ぼ 図2 実験概要図 2.2 実験条件 実験条件は以下の表1に示す。作業負荷条件を表2、歩 行負荷条件表3に示す 表1 実験条件 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 2010年 2011年 2012年 2013年 スマートフォン契約比率[%] 携帯使用者緊急搬送人数[人] す影響は明らかにされていない。 携帯電話使用者緊急搬送人数(東京消防庁管内) スマートフォン契約比率(株式会社MM総研調べ) 図1 年別携帯電話使用者救急搬送人数、 スマートフォン契約比率 光源個数[個] 1 光源呈示角度[°] 6,10,14,18,22 光源呈示時間[s] 0.2 光源光度[cd] 2.0 × 10−3 , 7.4 × 10−4 , 3.8 × 10−4 , 2.3 × 10−4 , 1.6 × 10−4 実験場所照度[lx] 携帯画面輝度[cd/m ] 25 光源点灯時の固視点と被 14.3, 8.5, 6, 4.6, 3.7 験者の距離[m] 固視点から光源の距離[m] 1.5 被験者 20代男性9名 表2 作業負荷条件 1.2 研究目的 本研究では、研究背景で述べたことを踏まえ、スマー トフォンでの作業負荷および歩行負荷を変化させて、有 効視野にどのような変化が起きるかを実験より明らかに 600~850(テクノプラザ) 2 作業負荷1 作業なし 作業負荷2 メールを読む 作業負荷3 メール作成 表3 歩行負荷条件 する。 歩行負荷1 歩行なし 2. 実験 歩行負荷2 歩く(障害物なし) 2.1 実験装置 歩行負荷3 歩く(障害物あり) 図2に実験概要図を示す。 2.3 実験手順 本実験では実際に歩行をしてもらい、図2のように設 以下の手順で実験を行う。 (1) 被験者に指定の位置に立ってもらう。(歩行負荷 1) (2) 被験者は固視点を注視する。ただし作業負荷 2、作 業負荷 3 の条件の際はスマートフォン画面を注視し ながら作業負荷をそれぞれ行う。 (3) 光源を 0.2 秒点灯させ、被験者がそれを認知できる 置した光源を点灯させ、それを認知できるかで有効視野 の範囲を測定する。 きさを表している。よって負荷がない作業なし&歩行な しの場合は深く見る必要がないので、注意の広さである 有効視野が広くなる。 一般的に有効視野を決定する場合、ターゲットの認知 25 合わせると、表中のAの値となる。今回の実験データで 5 表4 ○×で表した結果例 ○の数 処理後 角度 6 10 14 18 22 A (2A+4) 条件1 ○ ○ ○ ○ × 7 18 ○ ○ ○ × × 歩行なし メール作成 (2A+4)を有効視野角の値として扱う。 メールを読む 作業なし 0 はAの値の2倍に4を足すという処理を行い、処理後の値 作業なし 分は50%に値する。この○の数をすべての視野角で足し 10 メール作成 てターゲットを2回ずつ呈示した。したがって、○1つ 15 メールを読む 果例を用いて説明する。本実験では、各呈示角度におい 20 作業なし 本実験での有効視野決定方法を表4の○×で表した結 有効視野[°] 率50%の視野角を有効視野とする。 メール作成 2.4 有効視野の決定方法 る。本研究では広さは有効視野を表し、深さは負荷の大 メールを読む か否で有効視野を測定する。また同視野角で計 2 回、 同様の試行を行う。 (4) 歩行負荷 2、歩行負荷 3 にして(2)~(3)を繰り返す。 ただし歩行負荷 2、歩行負荷 3 の場合は 1 回の歩行 で光源の点灯は 1 回とする。 歩行(障害物なし) 歩行(障害物あり) 図3 負荷別有効視野(平均) 1 3. 実験結果・考察 図3に被験者9名の平均の負荷別有効視野を示す。図3 のエラーバーは標準誤差を示す。図4に歩行なし時の視 野角別認知率を示す。 図3より、作業負荷間では作業なし、メールを読む、 メール作成の順番に有効視野が縮小することが確認でき 認知率 0.8 0.6 0.4 0.2 0 6 10 作業なし 14 18 視野角[°] メールを読む メール作成 る。これは既往研究と同じ傾向となった[1]。歩行負荷間 図4 視野角別認知率(歩行なし) では歩行なし、歩行(障害物なし)、歩行(障害物あり)の 順番に有効視野の縮小が確認できる。よって作業なし& 歩行なし時が最も有効視野が大きく、メール作成&歩行 (障害物あり)が最も有効視野が狭くなる。歩行負荷が歩 行(障害物あり)の場合、作業なし(作業負荷1)と比べて メールを読む(作業負荷2)の有効視野が43%低下し、メ ール作成(作業負荷3)の場合で51%低下した。また分散分 析を行った結果、作業負荷、歩行負荷でともに有意差 (p<.01)が確認された。 4. まとめ スマートフォン利用が有効視野に及ぼす影響について 実験を行った結果、以下の結論が得られた。 (1) すべての負荷で、固視点から離れるほど認知率が 低下する。 (2) 作業負荷では作業なし、メールを読む、メール作 成の順に有効視野は縮小する。 (3) 歩行負荷では歩行なし、歩く(障害物なし)、歩く (障害物あり)の順に有効視野は縮小する。 図4において視野角別に認知率を比較すると、6°の時 最も認知率が高く視野角が大きくなるにつれて認知率が 低くなっている。この傾向はすべての負荷においても同 様であり、固視点から離れるほど認知率が下がるという 一般的な傾向が見られた[1][2]。 有効視野の縮小は注意容量一定説を用いて検討する。 注意容量一定説とは、注意には広さと深さの2側面があ り注意を広めることと深めることは両立しないことであ 22 参考文献 [1] 吉原大貴,「歩行時における携帯端末使用が有効視 野に及ぼす影響」,芝浦工業大学 2012 年度卒業論 文 [2] 高橋宏,朝倉啓,入倉隆,「携帯電話でのメール作成 時 の 有 効 視 野 」 照 明 学 会 誌 ,Vol.94-5,pp289291(2010)
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