スポーツファーマシストのこれからの社会貢献について ***ストップ ザ ドーピング*** 山崎 瑞貴(衛生化学研究室) スポーツに薬剤師が必要とされる理由 ドーピングの定義 ドーピング検査で陽性になる選手の大半はうっかりドーピング 以下の8項目のうち1つ、あるいは複数に該当する場合 ドーピングとみなされる ⇒過剰警戒で試合前に薬を飲めず、競技に支障をきたす選手も • ドーピングに対する知識があれば、禁止物質の入っていない薬 を選んで販売できる • 薬剤師が使用可能薬の情報提供を行えば、うっかりドーピング の防止だけでなく競技者のコンディション作りにも役立てる • 中学や高校では、薬の適切な使用法や誤った方法で使用した 場合の危険性についての啓発活動を行うことも重要な役割 ▶ 競技者の生体からの検体に、禁止物質や代謝物などが存在 ▶ 禁止物質・禁止方法を使用 ▶ 通知を受けた後に、検体採取を拒否・回避 ▶ 競技外検査を受ける場合に関連する義務に違反 ▶ ドーピング検査の一部を改竄 ▶ 禁止物質及び禁止方法を所持 ▶ 禁止物質・禁止方法の不法取引を実行 ▶ 競技者への禁止物質の投与 つまり… 禁止物質の使用だけでなく、 禁止物質の所持や検体採取を拒否も ドーピング違反となる!! 国際基準 ①禁止表 ・WADAが策定する禁止物質及び禁止方法を定めた一覧表 ・「常に(競技会検査及び競技会外検査において)禁止対象となる物 質・方法」と「競技会検査において禁止対象となる物質・方法」に分 類される WADA禁止表(2011年) 常に禁止される物質と方法 競技会時に禁止される物質と方法 S0.未承認物質 [禁止物質] P1. アルコール [禁止物質] S6. 興奮薬 P2. β遮断薬 S1. 蛋白同化薬 S7. 麻薬 S2. ペプチドホルモン、成長因子 S8. カンナビノイド S3. β2作用薬 S9. 糖質コルチコイド 特定競技において禁止される物質 S4. ホルモン拮抗薬と調節薬 S5. 利尿薬と他の隠蔽薬 [禁止方法] M1. 酸素運搬能の強化 競技者の尿が厳格に採取され、 禁止物質は厳密・詳細に分析 されている M2. 科学的・物理的操作 M3. 遺伝子ドーピング うっかりドーピングとは • 禁止薬物はOTC医薬品にも含まれ、知らずに使用してもドーピング • 治療のために必要な薬でも、申請しないとドーピング • このような無知・不注意からのドーピング • 特に気をつけたいOTC医薬品 ①風邪薬:エフェドリンやメチルエフェドリンなど含有 ②胃腸薬:ストリキニーネ含有 ③滋養強壮薬:蛋白同化薬やストリキニーネ含有 ④毛髪用薬:男性ホルモン配合 ⑤鎮咳去痰薬:β₂作用薬は常時禁止 ⑥漢方薬:様々な生薬で構成されているので要注意(麻黄など) • 健康食品やサプリメントも、製造・販売の規制が厳しくなく 成分表示が信頼できないものもあるので要注意 スポーツ界における薬剤師の活動領域 スポーツファーマシスト 医療スタッフ ドーピング防止 ・医薬品の整備 ‐使用期限、禁止物質の有無、薬液調整 ・医療材料の準備 ‐点滴セット、ネブライザー調整 ・医薬品情報提供 ・薬の相談 ‐使用方法、副作用、相互作用 ・医療支援 ‐競技会の救護、海外遠征、合宿 ・TUE ・薬の相談 ‐メール、FAX ・啓発活動 ‐講義、講演 ・医薬品情報 ‐提供、データベース作成 ・TUE ・健康管理 ・栄養管理 トップアスリートだけの問題ではない 中高年のジム通いやサプリメントの服用増加 理由:健康志向の向上、生活習慣病予防 中高年の中には多種の薬を常用している人が多い 運動による心臓・血管系機能活性化 その場合の薬の作用・副作用やサプリメントとの相互作用につ いて適切なアドバイスが必要 ⇒スポーツジムなどへのスポーツファーマシストの配置 ②TUE国際基準 TUEを申請する際の国際基準 なぜドーピングが禁止されるのか ①スポーツの倫理に反する ▶ フェアプレー精神に反する ワールドカップやオリンピックを見ている人々が興奮し、真剣に応援す るのは、スポーツが全員に平等で規則に従って行われているからである。 ②医科学の倫理に反する ▶ 健康を害する 薬物の副作用により、肝障害や血圧低下だけでなく、死亡例もある。 ③社会の倫理に反する ③検査に関する国際基準 ドーピング検査実施における具体的な手順や検 査実施側と競技者側の権利・義務を規定した国 際基準 ④分析機関に関する国際基準 検査で採取された検体の分析を行う分析機関 の認証手順及び結果報告の手順等を定めた国 際基準 ⑤個人情報保護に関する国際基準 検査及びTUE等により提示された情報を管理す る規則を定めた国際基準 ▶ 「ずる」くて「危険」な行為 社会的影響力のあるスポーツ選手がドーピングという不正な手段 を用いると、利益追求のためには社会的ルールを破っても構わな いという風潮を生みだしかねないし、青少年の薬物使用への関心 を高める危険性がある。 治療に禁止薬物が必要な場合 • 治療のために禁止物質が必要な場合、治療 目的使用に係る除外措置(TUE: Therapeutic Use Exemptions )を申請 • TUE申請用紙に確認書と医療情報を添えて 申請し、許可されれば使用できる • TUE国際基準では次のように決められている ・治療上必要であり、使用しても競技力を高めない ・ドーピングの副作用の治療ではない ・大会参加21日前までに競技者が申請 ・原則として禁止薬物を使用する前に申請 ・許可には有効期限があり、いつでも取り消されることがある 規則について WADA codeでは、同code傘下で展開される国際的なドーピング 防止活動を「World Anti-Doping Program」と称している。 このプログラムにおいては、WADA codeを頂点とし、次の5種 類の国際基準が設定されている。 ①禁止表 ②治療目的使用に係る除外措置(TUE)国際基準 ③検査に関する国際基準 ④分析機関に関する国際基準 ⑤プライバシー及び個人情報保護に関する国際基準 日本では現在JADA(Japan Ant-Doping Agency)に 73協会・連盟が加盟し、基準遵守の競技を実践 まとめ ドーピング防止活動とは、検査をして違反を取り締 まるだけではない ・競技者にスポーツの価値の1つであるフェアプレー精 神を教え、ドーピングに反対する姿勢を植え付ける ・試合に勝てるというメリットだけでなく副作用など のデメリットがあること知ってもらう ・未来の競技者にドーピングの怖さを知ってもらう こともスポーツファーマシストの大切な仕事
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