第 1 回海外市場調査報告

第 1 回海外市場調査報告
(オランダ・ドイツ・イギリス)
2010 年 10 月
社団法人北海道農業機械工業会
1
目
次
1.調査目的および日程・・・・・・・・・・・・・・・3
2.EU におけるばれいしょ生産および流通の概要・・・4
3.種ばれいしょ調査(オランダ)
・・・・・・・・・・7
4.Potato Europe 調査(ドイツ)
・・・・・・・・・・・15
5.ばれいしょ選別機等調査(イギリス)・・・・・・・20
6.にんじん関係調査(オランダ)
・・・・・・・・・・22
7.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
2
1.調査目的および日程
1)目的
ヨーロッパの畑・野菜用農業機械の市場,販路,機能などの調査や農産物の栽培・出荷規格な
どの調査を行う。今回の調査は「ばれいしょ関係」の農業機械の調査を主とし,ドイツではPotato
Europe(ばれいしょ関係の農業機械展示実演会)で現地メーカーのポテトプランタやポテトハ
ーベスタ等の出展機械,オランダでは種ばれいしょの栽培や出荷等に関連する農業機械,イギ
リスではばれいしょ選別機等の調査を行う事とした。その他,他機関に調査を依頼し,オラン
ダでのにんじん栽培や収穫機の資料収集を行う。
これらの調査により,次年度計画しているAGRI TECHNICAへの出展機械の検討資料を得る
とともに,販路開拓手法の検討を行う。
2)参画者
東洋農機株式会社 大橋 敏伸
社団法人北海道農業機械工業会 原 令幸
3)日程
日程は 9 月 4 日~15 日までの 12 日間であった。日程は表 1-1 に示した。
表 1-1 調査日程
2010/9/4
Sat
2010/9/5
2010/9/6
Sun
Mon
2010/9/7
Tue
2010/9/8
Wed
2010/9/9
2010/9/10
2010/9/11
2010/9/12
2010/9/13
2010/9/14
2010/9/15
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
出国 Sapporo JAL3040 8:10-9:50Narita
Narita JL411 11:25-16:25Amsterdam
Transfer to Groningen
Miedema社(ばれいしょ播種機)およびばれいしょ出荷組合
AM Broekema社(ばれいしょ選別機など)
PM Transfer by Train 12:19Groningen-16:38Hannover
夜 Potato Europe 歓迎レセプション出席(Hannover Congress Centrum)
Potato Europe展示会
13:00 DLG Ulrikeさんと出展の打ち合わせ(原,通訳:白石)
Potato Europe展示会
Grime社(ポテトハーベスタ)
移動 Hannover BD818 17:40-18:15London
Transfer London to Spilsby
Tong Engineering社(ばれいしょ選別機)
出国 London JL402 19:15-15:00Narita
帰国 Narita JL3047 18:40-20:25Sapporo
3
2.EU におけるばれいしょ生産および流通の概要
1)ばれいしょ生産量,栽培面積および収量
FAO の資料によると,ばれいしょの栽培面積は
表 2-1 ばれいしょ生産量
1,853 万 ha,生産量は 3 億トンである。ばれいしょは,
国名
世界中のあらゆる国で生産されており,麦,米,とう
世界
中華人民共和国
もろこしと並んで重要な食料となっている。
ロシア
生産量の多い国順に見ると,中国 5,600 万トン,ロ ウクライナ
ベラルーシ
シア 3,600 万トン,インド 2,200 万トン,USA2,000 万 ポーランド
トン,ポーランドおよびドイツが 1,100 万トンで,EU ドイツ
フランス
圏では 5,000 万トン程度となっている。北海道の生産 オランダ
量は 220 万トンで,世界各国の生産量と比べて僅かで ベルギー
イギリス
ある(表 2-1)
。
ルーマニア
ha 当りの収量を見ると,EU 圏のドイツ,
フランス, トルコ
イラン
オランダ,べルぎー,イギリス,USA やカナダ,北 インド
バングラデシュ
海道は 3.1~4.7t/ha と高収量であるが,生産量の多い
ペルー
中国,ロシア,インドやポーランドなどの諸国では ブラジル
アメリカ合衆国
1.2~2.0t/ha と前者のほぼ半分の収量であり,品種や カナダ
栽培技術などがかなり低いものと考えられる(図 2-1)
。 マラウィ
北海道
生産量 収穫面積
収量
(1000t) (1000ha) (t/ha)
309,344
18,531
16.7
56,196
4,437
12.7
36,784
2,852
12.9
19,102
1,453
13.1
8,744
413
21.2
11,791
570
20.7
11,644
275
42.3
7,206
159
45.4
7,200
161
44.7
3,190
68
47.0
5,635
140
40.2
3,712
273
13.6
4,246
154
27.6
5,240
210
25.0
22,090
1,480
14.9
5,167
345
15.0
3,383
268
12.6
3,551
148
24.0
20,373
457
44.6
4,971
159
31.3
2,859
188
15.2
2,195
56
39.4
資料:FAO「FAOSTAT」
2)ばれいしょの輸出入量
ばれいしょは小麦,米,とう
もろこしと異なり,輸出入が比
較的尐ない農産物である。これ
は,ばれいしょの輸出入による
病気の蔓延を防止するための植
物防疫が理由と考えられる。
ばれいしょの流通は広く行わ
れており,輸出入は生食や種ば
れいしょと冷凍ばれいしょであ
る。いずれも輸出入量は増加傾
向にあり,特に冷凍ばれいしょ
の増加が著しい(図 2-2)
。
図 2-1 ばれいしょ収量
輸出入量が多い国は,EU 圏の
オランダ,イギリス,フランス,フランス,ベルギー,ドイツ,ドイツ,イタリア,スペインお
よび USA,カナダなどで,日本は極僅かである(図 2-3)
。
4
図 2-2 ばれいしょの輸出量
図 2-3 ばれいしょの輸出入量
表 2-2 ばれいしょの用途別輸出量
種ばれいしょ(1000t)
オランダ
745
カナダ
123
イギリス
123
フランス
112
ドイツ
49
デンマーク
49
ベルギー
39
南アフリカ
16
アメリカ
12
オーストラリア
9
その他
67
生食ばれいしょ (1000t)
フランス
1,943
ドイツ
1,610
オランダ
945
ベルギー
788
カナダ
525
イスラエル
490
中国
385
アメリカ
315
スペイン
290
トルコ
262
その他 2,416
冷凍ばれいしょ (1000t)
オランダ
1,313
カナダ
1,082
ベルギー
945
アメリカ
756
フランス
325
ドイツ
189
アルゼンチン
147
ポーランド
105
ニュージーランド
88
オーストラリア
46
その他
126
From Robobank Map2009
ばれいしょの輸出量を見ると,世界の種ばれいしょ輸出量は約 123 万トンであるが,EU 圏は約
103 万トンと大半を占めている。輸出量が多いのは,オランダ,カナダ,イギリス,フランス,
ドイツなどで,輸出先は EU 圏および中東地域である。EU では種ばれいしょの輸出産業が盛んで
ある。生食ばれいしょの世界の輸出量は 627 万トンで,EU 圏は 490 万トンと種ばれいしょと同様
5
の傾向である。輸出量が多いのは,フランス,ドイツ,オランダ,ベルギーなどで,その他にカ
ナダ,イスラエル,中国,USA などである。冷凍ばれいしょの世界の輸出量は 320 万トンで,EU
圏は 203 万トンと前 2 者と同様の傾向である。輸出量が多いのは,オランダ,カナダ,ベルギー,
USA,フランスとなっている(表 2-2)
。
3)ばれいしょの消費量
生食ばれいしょの 1 人当たりの年間消
費量は,生産量の多いウクライナ,ポーラ
ンド,ベラルーシ,ルーマニアが多く,国
内消費が多いと思われる。EU 圏諸国では
消費量は減尐する傾向にあり,30~50kg
程度となっている。
冷凍ばれいしょでは生食ばれいしょと
この傾向は大きく異なっている。冷凍ばれ
いしょの消費量は,オーストラリア,カナ
ダ,アメリカ,ニュージーランド,イギリ
スなど英連邦諸国が多く,食文化の影響と
思われる(表 2-3)
。
表 2-3 ばれいしょ消費量
(kg/year・人)
生食ばれいしょ
ウクライナ
160
ポーランド
118
ベラルーシ
107
ルーマニア
104
ベルギー
100
アイルランド
86
ニュージーランド
78
スロバキア
77
ロシア
76
デンマーク
73
リトアニア
72
オランダ
64
トルコ
63
オーストリア
62
アルゼンチン
60
イギリス
46
オーストラリア
45
スイス
42
カナダ
33
スウェーデン
32
スペイン
32
フランス
30
ドイツ
29
南アフリカ
27
インド
26
アメリカ
18
メキシコ
16
ブラジル
15
日本
14
イタリア
12
6
(kg/year・人)
冷凍ばれいしょ
オーストラリア
27.6
カナダ
18.5
アメリカ
17.9
ニュージーランド
14.7
イギリス
10.7
オランダ
9.8
ベルギー
9.7
アイルランド
9.6
スイス
7.6
フランス
6.1
スウェーデン
6.0
デンマーク
5.0
ドイツ
4.8
メキシコ
2.9
チェコ
2.9
スペイン
2.6
ノルウェー
2.4
ポーランド
2.0
日本
1.6
ハンガリー
1.5
イタリア
0.9
ブラジル
0.5
ウクライナ
0.5
ロシア
0.4
アルゼンチン
0.4
南アフリカ
0.3
中国
0.1
From Robobank Map2009
3.種ばれいしょ調査(オランダ)
1)Stet 社(オランダ,エメロード)
(1)概要
同社は 1973 年に種ばれいしょ生産会社とし
て設立され,現在は育種と種ばれいしょ販売を
行っている。育種する品種は食用品種(table
potato)のみで,世界 50 カ国以上に輸出してい
る。種ばれいしょは約 50 人の契約農家に
1,400ha の栽培委託を行ない,年間 50,000 トン
の生産量があり,社員は 12 人で管理している。
種いも農家は 4 作物輪作で,平均栽培面積は
15ha だが,離農で規模拡大が進んでいる。種
いもは交配して 4 代で出荷する。また,種いも
の生産は,
「育種のみ」と「育種+増殖」の 2
図 3-1 Stet 社
方式があり,当社は後者を行っている。交配は
35,000 個体/年で,2 年で優良な 1 個体があれば営業課のウとの話であった。オランダの育種会社
は 7 社で,
「アグリコ」と「AZPC」の大手 2 社が 80%のシェアを握っており,その他の 5 社が残
り 20%のシェアである。種いも生産は生食用,冷凍用,でん粉用の 3 種類があり,オランダの種
いも面積は 3.6 万 ha,92 万トンを生産し,その内 71 万トンが輸出である。種いもは,S,SE(出
荷しない)
,E,A(輸出用)
,C(EU 向け)の 5 段階に区分している。E,A は 1 ロット 5ha 毎,S,
SE は 1ha 以下で検査しており,検査員は 150 名である。出荷する袋にはロット番号を記載し,情
報を提供する体制にある。
(図 3-1)
。
同社の今後の拡販重点地域はポーランド,イタリア以外は北部及び東部アフリカ並びに中東諸
国であり,灌漑用水の有無等,現地の状況を考慮した拡販計画を立てているとのことだった。ち
なみに,世界一のばれいしょ生産国である中国
に対しては,技術面と知的財産保護の観点から,
拡販には消極的であった。また,日本は病気に
関する法規制が厳しい,新品種の要望情報がな
いため,輸出しないとのことであった(図 3-2)。
(2)種ばれいしょの収量
種 ば れ い し ょ の 規 格 区 分 は 直 径 が 28 ~
35mm(小粒,平均約 30g 程度)
,35~45mm(中
粒,同 60g)
,45~55mm(大粒,同 80g)の 3
区分で中粒が最も価格が高い。55mm 以上(特
大)のものは食用に回されるが,これらの規格
図 3-2 Stet 社でのミーティング
別分布は,概ね「小」が 3~8%,
「特大」が 5
~10%,
「中」と「大」がそれぞれ 40~45%程度となるとのことだった。北海道と比べてこのよう
な規格別分布は驚異的であり,栽植密度を算出してみると,収量 40,000kg/ha,塊茎平均一個重 60g,
一株当たりの塊茎着生数 10 個とした場合,66,667 株/ha の栽植密度となり,日本の栽植密度(72cm
×24cm,57,870 株/ha)と比較して 15%多い。また,北海道で同様の栽植密度(72cm×21cm,66,138
7
株/ha)とした場合でも,オランダのような規格別分布になるとは考えにくく,品種特性,塊茎の
休眠コントロール及び種いもの使用量の違いなどが要因と推察された。
(3)種馬鈴しょの選別場と倉庫
同社の選別場と倉庫を視察した。選別機は
欧州では一般的な針金製の角目篩方式,貯蔵
は木製コンテナで,コンテナ下部の「ゲタ」
部分を設け,ここから通風させる,これも欧
州では一般的な方式であり,特別なものは見
られなかった。
2)Miedema 社(オランダ,ウィンサム)
(1)概要
同社は 68 年前,酪農関係の農業機械メーカ
ーとして発足したが,約 20 年前からの牛乳の
図 3-3 Miedema 社
減産に伴い,ばれいしょの生産が増えてきたた
め,畑作機械の開発を本格的に開始した。同社
の製品は,ポテトプランタ,収穫時に使用する
トレーラーシャーシ,ホッパー,ダンパー,コ
ンベヤ類及び選別機などであり,これらを組み
合わせたシステムも提案している。EU のポテ
トプランタメーカーは Grimme,Miedema,ス
タンレン,
クネバランドの 4 社である(図 3-3,
3-4)
。
(2)特徴的な機械
幾つかの特徴的な機械類について説明を受
けた(図 3-5,3-6,3-7)。
図 3-4 Miedema 社でのミーティング
①株間可変ポテトプランタ(STRUCTURAL)
今回の調査の中で最も注目していた機械の
一つであった。しかし,当初はポテトヨーロッ
パの会場で実演が見られるということだった
が,急遽,実演圃場の持ち主が種ばれいしょの
植付けを拒んだために見ることが出来なくな
り,大変残念であった。
この可変株間の機構は,正逆方向に動く細い数
対の丸ベルトベルトにより,播種部に供給する
ベルト上にばれいしょを整列させ,整列して流
れてきた種いもを,回転する円形のスポンジで
挟んだ後,播種溝に落下させる方式である。つ
図 3-5 Miedema 社のポテトプランタ
まり,スポンジローラが塊茎を支え始めてから
落下するまでの時間は塊茎の大きさ(=長さ)によって決まるので,進行速度が一定であれば種いも
8
の播種間隔をその大小に応じて変化させながら植え付けられる。つまり,大きさに応じた株間に
調節される。よって,種いもの大きさや長さによって,ベルトとスポンジの間に種いもが保持さ
れる時間が変わることにより,株間の可変を行なうという,かなり簡単な構造である。種ばれい
しょの大きさにより設定したい株間は簡単に変えられるため,小粒塊茎を多く生産する必要があ
る種馬鈴しょ生産者に好評とのことだった(図 5,6,7)。
ミーティングで以下の質問が出された。
*1「どれぐらいの精度,即ち最小株間と最
大株間はどれくらいか?」
*1 回答
個々の株間についてのデーター
はない。ポイントは単位面積当たりの
株数をいくらに設定するかである。品
種別に,最適と思われる株数のデータ
はある。
*2「日本では種ばれいしょの規格は 40~
230g である。範囲の広い種ばれいしょ
にも対応できるのか?」
*2 回答 出来ると思う。
図 3-6 ポテトプランタ播種部
*3「オランダのように区分された全粒種ば
れいしょを使用するのであれば,あま
り株間に気を使わなくても,茎数のコ
ントロールは可能なのではないか?」
*3 回答
オランダでも安価な大玉の種馬
鈴しょを切断して使うこともあるし,
細かく規格分けをしていない種いもも
種苗費を安くするために,使用されて
いる。
また,本ポテトプランタを含め,オールイ
ンワンタイプのポテトプランタ(フロントに
砕土ハロー装着,牽引部に土壌施用薬剤タン
ク,プランタ,培土形成機などの組み合わせ
図 3-7 ポテトプランタの株間調整
たプランタ)を 240 馬力のトラクタで牽引し
た場合の標準作業速度は 8km/時とのことだった。
ポテトプランタの株間可変機構は理解できたが,北海道とオランダのばれいしょの品種が異な
るため,北海道で試験をしないと株間可変ポテトプランタの効果は不明との印象であった。
北海道では全粒種いもによる栽培は行われておらず,今後の課題である。このため,北海道の
ポテトプランタはあらかじめ切断した種いもを播種する,あるいはカッティングプランタにより
種いもを切断しながら播種する方法が採用されている。今後,ばれいしょ生産コスト低減や省力
化,収量増や良質ばれいしょ生産のため,播種機の精度向上の必要性が感じられた。ばれいしょ
播種機は,EU が数段に進んでおり,安価で高精度な国産機の改良開発を進めないと国産機から輸
入機への転換が始まる可能性が懸念された。
9
②種ばれいしょ切断装置
オランダで大玉の種いもを使用する場合(全体の 5%程度)
,北海道で使われているようなカッ
ティングプランタを使用せず,植付けの 2~3 日前に切断機で切断するのが一般的とのことであっ
た。その切断機は,種ばれいしょがカッタ刃に対して垂直方向に整列するため,所謂「大根切り」
ができる。欧州の品種は日本の品種と比較して塊茎の頂芽部から基部にかけて,満遍なく芽が分
布しているため,大きな問題にはならな
いらしい(前述の Stet 社でも,育種目標
として,芽の分布を考慮しているとの話
があった)
。
処理速度は 8 トン/h
(400 袋)
,
価格は€21,000(2,310 千円)と以外に安い
(図 3-8)
。
北海道のばれいしょ品種は頂芽部に芽
の分布が多い品種が多く,北海道に当面
導入される可能性は低いが,種いもの芽
の分布の問題がない品種であれば,北海
道で利用できる可能性がある。現在,北海
図 3-8 ポテトカッタ(カタログより)
道でもポテトカッタが利用されているが,
処理量が低い,種いもの整列が不十分であるなどの課題を抱えており,この分野でも精度や機能
向上が必要と思われた。
③ばれいしょ選別センサー
整列させたばれいしょを 3 台の高性
能カメラと赤外線カメラで自動的に選
別を行なう機械。中心空洞も発見でき,
処理速度は 15 トン/h,価格は€200,000
(22 百万円)とのことだった。日本で
導入されている空洞選別機の処理量は
1/6 程度で,10 百万円程度である。
選別精度と処理量,取り扱い性など
の検討結果次第では,北海道に導入さ
れる可能性があると思われた(図 3-9)。
図 3-9 ばれいしょ選別センサー
3)種ばれいしょ生産農家
株間可変ポテトプランタを使用し,種ばれいしょを生産している 2 戸の農家での収穫や貯蔵状
況の調査を行った。
(1)Pit 農場(オランダ,エメロード近郊)
ちょうど収穫,貯蔵作業中であった。種ばれいしょはポテトハーベスタに伴走するトレーラに
積み込まれ,生産者の倉庫前のダンプボックスに空けられる。ダンプボックスからベルトコンベ
アに乗せるまでの間に,ローラの上を通るため,ある程度の土砂が分離される。ベルトコンベア
で運ばれた種いもはディストリビュータ(分配機)により木製のコンテナに詰め込まれ,10 月ま
で倉庫内のベンチレーション装置で風乾される(施設が狭い場合は,北海道と同様に屋外でも風
10
乾する)
。風乾 4~6 週間後,生産者が選別し,種苗会社へ出荷する。
茎葉処理は 8 月上旪に行い,薬剤は一般的
にレグロックス,圃場条件や品種によっては
ポテトチョッパも併用する。2 株程,実際に
掘ってみたが,茎数が 10 本近くあり,1 株当
たり塊茎数は 10~15 個程度,小粒で揃い方
が見事だった。生産者によれば,栽植密度は
80,000 株(75cm×16.5cm)であり,株間可変
ポテトプランタの効果とのことであった。な
お,圃場の土には貝殻が混じっており,pH7
程度,軽微ながらストレプトマイセス属細菌
によるものと思われる象皮・亀の甲症状が殆
図 3-10 ばれいしょ貯蔵前選別
どの塊茎で見られた(図 3-10,3-11,3-12)。
図 3-11 選別後のばれいしょ
図 3-12 ばれいしょ貯蔵庫
(降雨後で,土砂付着が多い)
木製のコンテナに入れ,出荷選別までの乾燥
ポテトハーベスタによる種ばれいしょ収穫を調査した。使用しているポテトハーベスタはけん
引式 2 畦用ポテトハーベスタ(Grimme 社製,GV3000)で,収穫したばれいしょを収納するタン
クがないため,トレーラ伴走による収穫であった。
ばれいしょの茎葉は枯凋処理(レグロックス)が行われ,完全に枯凋していた。畦間は 75cm
で培土高さは北海道とほぼ同じであった。しかし,株間が解らないほど茎数が多く,1 株当り 7
~10 本程度と思われた。
降雤後でばれいしょと土砂の分離は難しそうであったが,コンベアのピッチを広げて収穫して
いた。このため,圃場に落下するばれいしょの損失が多い。しかし,ばれいしょに付着する土砂
は多かった。また,皮むけなどの損傷は尐ないと思われた。
北海道においても土砂分離の悪いときに収穫することは多いが,
「野良ばえ」防止のため,コン
ベアのピッチを広げることはない。土砂分離機能の優れた機構開発の必要性が痛感させられた(図
3-13~3-18)
。
11
図 3-13 種ばれいしょ圃場(茎葉枯凋)
図 3-14 種ばれいしょ圃場(茎数が多い)
図 3-15 種ばれいしょ(塊茎が多く,揃っている)
図 3-16 種ばれいしょ収穫
(2 畦用ポテトハーベスタ,Gimme 製 GV3000)
図図3-18
17 収穫後のばれいしょ圃場(損失多い)
収穫後のばれいしょ圃場(損失多い)
図 3-17 種ばれいしょ収穫
12
(2)J.K. Jensma 農場(オランダ,レーワルデン近郊)
この農場も種ばれいしょの収穫,貯蔵作業中であった。経営規模 150ha で交換耕作を行ないな
がら 60ha の種ばれいしょを生産している。植付方式は,この地域の土質を考慮し,「早期一発培
土」ではなく,植付 3 週間後にロータリーヒラーで培土を行なっている。殺虫剤は,オランダの
種ばれいしょ栽培で標準とされる 1 週間に 1 回の散布を行なうとのことだったが,圃場で見られ
た再生葉にはアブラムシが 1 頭も寄生していなかった。通常,北海道では茎葉処理後 1 ヶ月程度
たった再生葉には,かなり多数のアブラムシが寄生するが,この地域は海岸線から 10km しか離
れていないため気候が冷涼であり,非常にアブラムシが尐ない地域であると推察された。
ポテトハーベスタはけん引式 2 畦ポテトハーベスタ(AVR 製,テーブル式)であり,圃場水分
は高いが,土砂分離が良かった。但し,そうか病がひどく,日本であれば澱粉工場に直行するば
れいしょであった(図 3-19~3-21)
。
図 3-19 ばれいしょ圃場
図 3-20 ポテトハーベスタ(AVR 製)
図 3-21 収穫されたばれいしょ
4)Broekema 社(オランダ,フェーダム)
作物のコンベヤベルトの製造会社で,1996 年にはドイツの機械の被覆資材(ラバー)やプラス
チック製品大手のイエーガーグループに吸収され,現在に至っている。ポテトハーベスタやポテ
トプランタなどを製造しているグリメ社やピアソン社,ミデマ社にもその部品を供給し,また世
13
界 40 カ国に輸出を行なっており,輸出割合は 90%である。工場は写真撮影が禁止で,製造ではか
なりの部分で人力作業があり,受注生産が多い会社であると思われた(図 3-22,3-23)
。
図 3-22
Broekema 社
図 3-23
14
Broekema 社でのミーティング
4.Potato Europe 展示会調査(ドイツ)
1)Potato Europe の概要
2010 年度の Potato Europe は 9 月 8~9 日の 2 日間,
Hannover の近郊,電車で約 30 分ほど離れた南西の町
Bockrode で開催された。開催の主催者は DLG(Deutsch
Landwirtschaft Gesellschaft,ドイツ農業組合)
,UNIKA
(German Potato Industry Association,ドイツばれいし
ょ工業会)
,K+S KALI(肥料関係団体)の共催であっ
た(図 4-1,表 4-1)。
Potato Europe 展示会は毎年開催されており,ベルギ
ー,フランス,オランダ,ドイツの順に持ち回りで開
催を担当している。次回は 2011 年 7 月 7 日よりベルギ
ーの Kain/Tournal にて開催予定で,最初の開催は 2007
年ベルギーであったことより,2011 年度の開催で 2 巡
目となる。国際イモ年は食糧危機が高まる現代に
おいて,「ポテトの重要性の認識を高め,必要な
図 4-1 Potato Europe 展示会のパンフレット
農業システムの研究開発などを促進すること」な
どを目的に,2005 年 11 月国連食糧農業機関(FAO)によって定められた。2008 国際イモ
年には世界各地で種々の催しが開催された。Potato Europe はその主旨に沿って開催が開始さ
れ,その後も開催を継続しており,かつ規模も大きい。
開催は展示会,実演会,講演会があり,展示会は畑とテント会場での展示,実演会は畑でばれ
いしょの収穫,運搬,播種,講演会はテント会場である。参画企業は,ばれいしょ育種関係,機
械関係(整地・播種,潅漑,収穫など)
,貯蔵関係(換気,重量計測,品質,包装など)
,加工関係
など約 172 社が参加している。その他に,報道,情報,大学や研究などの関係機関も参画してい
る。講演会はテント会場で行われていたが,早口のドイツ語には付いていけず,外から眺めるに
留まった。
前日の夕方の歓迎会は 18 時より始まり,複数の開催関係者の挨拶が延々と続いた。ビール片手
に聞いていたが,挨拶も終わりそろそろパーティかなと考えていたら,ペルーにある国際ばれい
しょ研究所の Pamela k. Anderson さんから「The contribution of potatoes to global food security」の演
題で,約 1 時間のプレゼンテーションがあった。
詳細は http://www.potatopro.com/Docs/Anderson_PotatoEurope2010.pdf を見てください。プレゼン
テーションでは,ばれいしょは米,小麦に次いで第 3 の重要な食用作物であること,含まれてい
る成分は健康に良いこと,生産量は毎年増加していること,今後南サハラ,インド,中国,東南
アジアなどでの栽培の増加が需要であることなどの話であった。その中で,中国に「International
Potato Center launches CIP-China Center (CCCAP) to serve Asia and the Pacific」の研究所を作ったとの
話には愕然とし,日本の研究体制や連携の強化の必要性を感じた(図 4-2)。おいしいドイツ料理
をいただき,拙い英語での DLG の担当者との会話や到着日であり長時間の飛行機の疲れや時差を
感じ,早めに引き上げた。
Potato Europe 開催期間中に 49 カ国より 8,200 人の来場者(主催者発表)があり,来場者は主に
ドイツ,オランダ,ロシア,チェコ,オーストリア,フランス,スペイン,デンマーク,ポーラ
15
ンドなどの EU 圏,アジア,北南米,アフリカか
らの来場者とのことである。
展示会場は畑の中に設定されていた。通路部分
は踏み固められ,芝生が植えられているため,前
日の降雤にもかかわらず歩きやすい。また,この
付近はドイツの中でもばれいしょ反収が多い地
域であることから,展示会場に選定したというこ
とであった。
畑では品種の展示が行われ,展示圃のそばのテ
ントでは,パンフレットとともに多数のばれいし
ょ品種のサンプルを展示しており,また,担当者
図 4-2 CIP-CHINA 設立(2010/2/4)
への質問などが個別に行われていた。各社より展示されている品種は形状や外皮色などは様々で,
品種の特徴とともに用途別の説明が多く,日本とは異なった様相であった。
また,展示会では大型のテントが設営され,防除,貯蔵,品種,加工などが展示されていた。
屋外では,ハーベスタ,プランタ,スプレーヤ,砕土整地機など,ばれいしょ関連の農業機械が
展示されていた。日本ではスチールコンテナがほとんどであるが,スチールコンテナは見あたら
ず種々のサイズの木製コンテナが多く展示されていた。
実演会は,ポテトプランタ,ポテトハーベスタおよび搬送車両,搬送車両からトラックへの積
込み機の実演があり,実演は黒山の人が熱心に見ていた。ポテトハーベスタの実演では実演が終
了した圃場端で,停止したハーベスタ乗り,収穫したばれいしょの状態を見る人が多かった。茎
葉がそのまま残ったばれいしょを収穫していたが,土砂や茎葉の混入は尐なく,また皮むけなど
の損傷は尐ない。雤上がりで土壌水分が高く,埴土系の土壌であることを考えると北海道のばれ
いしょより損傷に強いという印象を受けた。別なところで,高さ1m 位からコンクリートの床に
落下させてみたところ,ばれいしょは割れたが,表面の潰れは尐ないとの印象を持った。表皮が
ざらざらしているラセットのせいか,いも強度や弾性値が違うのか,調査が必要と感じた。
今回の Potato Europe は品種,農業機械,その他諸々の企業の参画であったせいか,こじんまり
とした展示会であった。ばれいしょ加工関係の会社が参画すると規模が大きくなるとの話であっ
た。収穫時のいもの状態を確認することができ,有意義な Potato Europe であった。
2)展示実演機械
実演を行ったメーカーと機械は表 4-1 に占め下。また,展示機械等は図 4-3,4-4 に示した。
表 4-1 実演を行った作業機とメーカー
収穫機・搬送車両
荷降ろし・積み込み機
播種機
BIJLSMA HERCULES,Frankeker
ALL IN ONE,Pförring
(オランダ)
(ドイツ)
DEWULF NV,Roselate
Climax,La Veendem
GRIMME,Damme
(ベルギー)
(オランダ)
(ドイツ)
Euro Jabelmann lttebeck
GRIMME,Damme
MIEDEMA,Winsum
(ドイツ)
(ドイツ)
(オランダ)
AVR,Roselare (ベルギー)
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GRIMME,Damme
MIEDEMA,Winsum
Schmidbauer,MIntraching-Moosham
(ドイツ)
(オランダ)
(ドイツ)
KJK,Buxehude
Oldenhuis & Prinsen,Emmeloord
tks/UNDERHAUG,Naerbo
(ドイツ)
(オランダ)
(ノルウェー)
PLOEGER,Oud Gastel
(オランダ)
tks/UNDERHAUG,Naerbo
(ノルウェー)
WM Kartoffeltechnik,Willich
(ドイツ)
図 4-3 Potato Europe 展示会写真 1
展示会場入口
DLG 開催案内
品種展示圃場
茎葉本数は多い
品種別展示
品種展示(洗ってある)
品種展示
品種展示
2011 ばれいしょ姫
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N-sensor の実演
ばれいしょ色彩選別機
スプレーヤ
ポテトプランタ実演会場
ポテトプランタ(4 畦)
ポテトプランタ(4 畦)
ポテトプランタ(8 畦)
ポテトプランタ
ポテトプランタ(2 畦)
自走式ポテトハーベスタ 1
自走式ポテトハーベスタ 2
自走式ポテトハーベスタ 3
図 4-4 Potato Europe 展示会写真 2
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自走式ポテトハーベスタ 4
けん引式ポテトハーベスタ1
けん引式ポテトハーベスタ 2
収穫時のコンベヤ1
収穫時のコンベヤ 2
土砂・茎葉処理装置
コンベヤ上のばれいしょ 1
コンベヤ上のばれいしょ 2
ダンプボックスのばれいしょ
伴走トレーラ
積み込み機 1
積み込み機 2
土砂・茎葉分離
分離された土砂・茎葉
積み込みコンベヤ上のばれいしょ
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木製コンテナへの投入コンベヤ
ばれいしょ洗浄コンベヤ
DLG スタッフ
5.ばれいしょ選別機等調査(イギリス)
1)Tong 社(イギリス,Spilsby)
ボストンから北に 25km ほど離れた Spilsby にある TONG 社を訪問した。1933 年創業で,社員
は 150 人で,ばれいしょや野菜関係の選別機,洗浄機の製造・販売している。
(1)ばれいしょの選別機
ばれいしょの選別機は角目のワイヤーコンベヤとローラなどを組み合わせた選別機で,北海道で
使用している選別機とは異なる方式である。この方式は,ばれいしょの移動が尐ないため損傷発
生が尐ない。ポテトバーベスタにも組み込まれていたが,選別機には「Evolution Cleaner」という
土塊や茎葉を処理するためのローラも組み込まれていた。また,たまねぎにも利用可能との話で
あった。ワイヤーコンベヤのスクリーンは自社生産しており,網となる鋼材の加工は曲げ治具を
使い全て手作業で行われていた。スクリーンはどのような形でも作ることが可能との話であった。
北海道での利用を考えると,ばれいしょでは選別規格が異なると種々のワイヤーコンベヤを用
意する必要があり,施設設計の検討が必要と思われた。北海道では定置選別方式は利用が始まっ
た段階であり,将来利用が増加すると考えられる。この分野の機械やシステム開発は遅れており,
今後の検討課題である(図 5-1~5-3)
。
図 5-1 ばれいしょ選別機
図 5-2 ばれいしょ選別機のワイヤーコンベヤ
20
(2)にんじん洗浄機
ブラシ式のにんじん洗浄機も製造されていた
が,北海道のにんじんで使用した場合,折れた
り,傷が付きそうな部分があり,現状では使用
不可能である。価格は不明であるが,日本の選
別機の方が性能は良さそうである(図 5-4,5-5)
。
図 5-3 種々のワイヤーコンベヤ
図 5-4 にんじん洗浄機
図 5-5 にんじん洗浄機のブラシ
2)たまねぎ出荷会社 Quality fruit & veg LTD(イギリス,Spilsby)
Tong 社近郊のたまねぎ出荷会社の視察を行った。直播たまねぎのせいか,かなり小粒で品質は
悪かった。簡易な選別ラインにより出荷前の選別調整を行っているが,北海道の選別施設が格段
優れている。出荷規格,たまねぎの品質などの違いと思われるが,北海道の選別経費は高すぎる
と思われた。
図 5-6 受け入れたまねぎ
図 5-7 たまねぎ選別ライン
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図 5-8 調整後のたまねぎ
図 5-5 たまねぎの出荷
6.にんじん関係調査(オランダ)
別日程で調査している中央農試竹中部長ににんじん関係の調査を依頼した。以下,竹中部長の
報告を参考に取りまとめた。
オランダではフランスの SIMON 社製にんじんハーベスタの調査を行った。雤模様の中,農機
ディーラーの Thijs Kramer 氏の出迎えを受けた。彼は KRAMER BANT という会社を経営し,
SIMON 社のにんじんや野菜ハーベスタ,イタリアの GASPARDO 社の野菜播種機,JOHN DEERE
社のトラクタなどを扱っている。
にんじん収穫のシーズンではあったが,降雤のため実際の収穫作業を見ることはできなかった。
にんじん栽培の圃場に案内してもらった。北海道で栽培しているにんじんの形状はコマ型の向陽
2 号であるが,オランダのにんじんの形状はソーセージ型であり,このほかにも色が白い品種も
あり,この形状は向陽 2 号と似ている。
播種は,広幅超密植栽培が行われ,播種は日本のように高価なコーティング種子は用いず。裸
種子を真空播種機で播いている。Kramer 氏の持論は安価な種子を精密に播種すること,筋状に一
列に密植すると競合による変形が起こるので,ある程度幅を持たせ,帯状に播種することで低コ
ストに良い製品を得ることが可能となるというもので,オランダの土壌では適切な播種幅と播種
量に種子の鎮圧を組み合わせるのが重要だと力説された。会社には真空度と播種精度の実験装置
があり,播種状態のモニタリング装置もあった。現在も適切な播種幅と鎮圧の研究を行っていた。
輸入したままではなく,その土地にあった形へと改良を加えるのがディーラーの仕事だと述べて
おり,社会貢献のための起業の考えに同感である(図 6-1~6-6)。
にんじんの収穫は 2 畦用あるいは 1 畦用のけん引式にんじんハーベスタが利用されており,北
海道のにんじんハーベスタと比べて機体が大きい。にんじんの引抜き部はベルト式,茎葉のタッ
ピングはディスク方式であるが,切断精度は確認できなかった(図 6-7~6-10)
。
播種機はたまねぎにも使用されており,生育後のたまねぎを見ると密植でサイズも小さい。日
本では移植栽培で大粒たまねぎの生産を目指しており,これは流通,実需者の要望や価格設定の
相違によるものと考えられる(図 6-11,6-12)
。
22
図 6-1 播種機
図 6-2 播種部
図 6-4 Kramer 氏
図 6-3 にんじん裸種子
図 6-4 定置播種精度試験機
図 6-5 にんじん圃場
図 6-6 Kramer 氏
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図 6-7 2 畦用にんじんハーベスタ(Simon 製)
図 6-8 2 畦用にんじんハーベスタ(Simon 製)
図 6-9 にんじん抜き取り部
図 6-10 1 畦用にんじんハーベスタ
図 6-11 たまねぎ出芽
図 6-12 成長後のたまねぎ
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2009 年 AGRI TECHNICA では ASA-Lift 社製のけん引式にんじんハーベスタが展示されていた
ので,参考までに示す。1 畦用と 2 畦用があり,タンクを備えているが,機体は大型である(図
6-13,6-14)
。
図 6-13 にんじんハーベスタ(ASA-Lift 社製)
図 6-12 にんじんハーベスタのクリーナ(ASA-Lift 社製)
7.まとめ
ばれいしょおよびにんじんに関する播種機,収穫機,選別加工機等の農業機械を中心に視察調
査を行った。
1)ばれいしょ関係
Potato Europe 展示会では最新機械の展示を主としており,このためポテトハーベスタやポテ
トプランタ,搬送用機械などは大型の機械が多かった。その他,防除機,乾燥機械,選別機等
の機械の展示があった。
実演しているポテトハーベスタは,2 畦のけん引式ポテトハーベスタ,2 畦および 4 畦の自走
式ポテトハーベスタで,伴走するトレーラに排出する機種は比較的小型であるが,タンクを備
えた機種は特に大型であった。自走式ポテトハーベスタはけん引式に比べ更に大型で,大区画
圃場でないと効率的な収穫作業ができないと思われる。茎葉枯凋処理を行わなず,収穫機の前
に装着したチョッパで茎葉処理を行う方式で収穫するのが一般的であり,ハーベスタでばれい
しょをストロンから分離するときや落下高さが高いことなどを考慮すると相当の衝撃が発生し
ていると思われるが,皮むけや打撲などの損傷が尐なかった。北海道のばれいしょは柔らかく,
損傷防止のため種々の対策を施している。しかし,実演会のポテトハーベスタによる収穫では
損傷が尐なく,ばれいしょは品種の違いと思われた。収穫したばれいしょは北海道の業務加工
用ばれいしょと比べて形状や大きさが同じであり,北海道のポテトハーベスタでも十分収穫で
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きると考えられる。
現在,EU では 1 畦用のけん引式ポテトハーベスタを利用している例が多く,EU 圏内ではこ
の様な大型機の利用は僅かであると考えられ,主に輸出用と思われる。大型機を前提としてい
るため圃場区画は大きく,従来の EU の縦長の区画とは異なり,長方形の圃場であった。
また,ポテトプランタは 4 畦用および 8 畦用の実演展示があり,ポテトハーベスタと同じ大
型化の傾向であった。しかし,これらのポテトプランタはトラクタ直装式で,施肥機を装備し
ていないため,北海道での利用では改造が必要と考えられる。
北海道の小型ポテトハーベスタは小型で,収穫損失や損傷発生が尐ない,トラクタ直装で機
動性が高い等の特徴を有する。このため,EU 圏の小規模農家,傾斜地帯の農家,Sunday Market
など地元流通主体とする農家,有機栽培農家などに利用される可能性が高く,これらの農家を
対象に北海道の農業機械の優位性を打ち出し,販路開拓を行うことが望ましいと思われた。
2)にんじん関係
フランス Simon 社製のにんじんハーベスタは自走式とけん引式があり,2 畦用けん引式のに
んじんハーベスタは機体も大きく,また収穫したにんじんを収納するタンクを有しないため,
トラックやトレーラなどの伴走が不可欠である。1 畦用のハーベスタでも同様の作業体系とな
り,収穫作業に多数の人員を要する。また,オランダ ASA-Lift 社制の 1 畦用でけん引式のにん
じんハーベスタは,機体も大きい。
北海道の自走式にんじんハーベスタは小型でコンパクトな機体となっており,機動性が高い。
また,頚部で正確に茎葉を切断する機能を有しており,EU 圏のにんじんハーベスタと比べ格段
に優れたタッピング機構である。収穫したにんじんはバッグに収納する方式で,損傷発生防止
装置を備えているため,にんじんの損傷発生が尐ない。バッグでの輸送であるため,輸送中や
選別施設の排出工程での損傷発生は,バラ輸送を行っている EU 圏の方式より格段に損傷発生
が尐ない。
栽培方法は帯状散播による播種法で,たまねぎも同様である。このため,北海道の条播と異
なるため,にんじんハーベスタの利用可能性の検討が必要である。にんじんの形状は北海道の
「向陽 2 号」のような三角形でなくナンテスタイプであるため,引抜きが容易と考えられる。
しかし,選果工程ではきめ細かな対応が必要と考えられる。
以上より,にんじんハーベスタは EU 圏での市場性は高いと判断される。
3)搬送機械および選別洗浄機
(1)搬送機械
収穫後のばれいしょの搬送はバラ輸送が基本であるため,収穫したばれいしょをトレーラに
入れ,ダンプボックスに排出する。ダンプボックスから輸送用の大型トラックへの積み込みは
ベルトコンベヤで行っている。この過程で,土砂分離,茎葉除去など装置でクリーニングを行
っているが,選別施設や加工施設での廃水処理対策と思われるがかなり激しいクリーニング処
理で,北海道のばれいしょを処理すると表皮がほとんど取れてしまうと思われる。また,落下
高さは 30cm 以上あり,15cm で打撲損傷が発生する北海道産ばれいしょとは条件が大きく異な
っている。
EU 圏のばれいしょは表皮がざらついたラセット型であるため,損傷が尐ないと思われる。こ
の分野での市場開拓は流通や販売経路や販売方法等の精密調査,ばれいしょの損傷や打撲等の
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試験等が必要と思われた。しかし,北海道と比べかなり省力的な処理方式であり,今後北海道
でのばれいしょハンドリング方法の再検討が必要と思われた。
(2) 選別洗浄機
ばれいしょはブラシによる水洗であるが,前述したようにラセット型では損傷発生が尐ない
と思われる。また,にんじんも同様の洗浄を行っており,ばれいしょと同様に損傷が尐ない。
以上より,搬送機械および選別洗浄機の市場開拓は当面困難であるが,EU の出荷販売規格へ
の対応を行えば市場性はあると考えられる。
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