日本冶金の 高耐食合金

日本冶金の
高耐食合金
Fe Ni Cr
高機能材を
創造する
Fe
Cr
Ni
Fe Cr
Fe
Fe Ni Cr
Mo N
日
日本
本冶
冶金
金の
の
世
界に
に誇
誇る
るコ
世界
コア
ア技
技術
術
・
・製
製造
造プ
プロ
ロセ
セス
スの
の革
革新
新
・
・高
高機
機能
能材
材の
の創
創造
造
で
未来
来を
を担
担う
う
で未
C O N T E N T S
■はじめに
■ステンレス鋼の腐食形態
■ステンレス鋼の局部腐食機構
■ステンレス鋼の全面腐食機構
■ステンレス鋼の耐食性の位置付け
■スーパーステンレス鋼
■ステンレス鋼の選定における留意点
■スーパーステンレス鋼の適用例
■海洋鋼構造物
海岸地域屋根
温泉貯湯槽
食塩製造プラント
食品製造プラント
排煙脱硫装置
次亜塩素酸環境
1
2
3
4
5
6
10
11
12
13
14
15
17
18
はじめに
さまざまな環境因子を基に設計された弊社の高耐食合金は、食品、海洋、化学工業を中心に各方
面のお客さまからその性能と経済性が高く評価されております。
環境によっては、高ニッケル基合金や純チタンに匹敵する耐食性を有するスーパーステンレス鋼
(NAS185N、NAS254N、NAS354N)をはじめとする弊社の高耐食合金について紹介致します。
ステンレス鋼とは
ステンレス鋼の表面は、安定で薄い皮膜
以上の Cr を加えた鉄基合金のことをいいます。
で覆われ保護されて、錆の内部への進行を
下図に不動態皮膜の厚さについての概念を示します。
防止しております。その安定な皮膜を形成
ステンレス鋼の不動態皮膜厚さ
ステンレス鋼の不動態皮膜厚さ
させる元素が Cr(クロム)です。Cr は空気
中の酸素や水分と反応して水酸化物∼酸
化物となります。この皮膜が鋼の表面に形
皮膜厚
約3.8mm
不働態皮膜厚さ
約2nm=2×10−9m
成されると錆は内部へ進行しません。この
状態を不動態といい、その膜を不動態皮膜
といいます。この不動態皮膜はたいへん薄
拡大
3776m
ステンレス板
板厚2mm
富士山
いため(1∼3nm)目には見えません。不動
態皮膜ができるためには Cr は 11%以上必
要です。したがって、ステンレス鋼は 11%
厚さ2mmの板を富士山の高さに拡大して見たら
ステンレス鋼の種類
現在実用に供されているステンレス鋼
ステンレス鋼の金属組織による分類
の種類は実に数多く、JIS 規格(SUS 記号)
は 80 種類に達しており、標準化されてい
金属組織による分類
ステンレス鋼
Fe-Cr系
ないメーカー独自のものを加えると 200 種
類以上になります。ステンレス鋼は化学成
Fe-Cr-Ni系
分上、Fe-Cr 系と Fe-Cr-Ni 系に分類され、
さらに金属組織により、マルテンサイト系、
鋼種例
SUS410
17
フェライト系
SUS430
15
オーステナイト系
SUS304
43
オーステナイト
・フェライト系
SUS329J1
3
析出硬化型
・マルテンサイト系
SUS630
・オーステナイト系
・セミオーステナイト系 SUS631
・オーステナイト・フェライト系
フェライト系、オーステナイト系、オース
テナイト・フェライト系(ニ相系)および析
出硬化型に分類されます。
右図はステンレス鋼の金属組織による
分類と代表的鋼種名、SUS 鋼種数を示した
ものです。
−1−
JIS(SUS)鋼種数
マルテンサイト系
1
2
ステンレス鋼の腐食形態
ステンレス鋼は表面に不動態皮膜を形成することにより耐食性が優れることを先に述べましたが、
環境によってはその一部が破壊され金属の溶解が集中的に進む局部腐食を形成します。中でも特に
懸念される腐食は塩化物イオン(Cl−)が関与する局部腐食であり、特に孔あきが生じる「孔食」、す
きま構造部に生じる「すきま腐食」
、溶接などによる残留応力がある部位に生じ易い「応力腐食割れ
(SCC)」があります。これらの腐食は主に塩素等のハロゲン化物イオンが関与し、電気化学的な反
応が進行し腐食が発生・成長します。
腐食形態の分類
〔腐食性物質例〕 〔プラント、機器例〕
全面腐食 酸(硫酸、塩酸、ギ酸) :化学プラント
局部腐食 孔 食 ハロゲン化物(海水、漂白剤) :海洋鋼構造物、臨海建築
すきま腐食 ハロゲン化物(水道水、海水) :製紙・食品プラント、温水器
湿 食 応力腐食割れ ハロゲン化物(水道水) :温水器、熱交換器
硫黄化合物(ポリチオン酸) :石油精製プラント
:原子力発電高圧水
高温高圧水
腐食疲労 ハロゲン化物(海塩粒子)
粒界腐食 硝酸、硫酸 :核燃料再処理プラント
電 食(迷走電流)
局部腐食形態の実例
名称
孔食
すきま腐食
応力腐食割れ
SUS304
製紙パルプ黒液配管
SUS304
マヨネーズ製造配管
SUS304
水飴製造タンク
模式図
(断面)
腐食した
サンプル
の外観
断面ミクロ
組織
材質と
腐食環境
−2−
ステンレス鋼の局部腐食機構
ステンレス鋼は、材料の不均一性、応力の影響、環境側の条件(主に塩化物イオンの存在)によ
り、不動態皮膜の一部が破壊され局部腐食が発生します。以下に代表的局部腐食の3つについて、
その腐食機構を示します。
孔 食
孔食は、ある特定の場所で腐食
孔内で金属原子が
イオンとして溶出
が集中し、ピット状に侵食される
腐食現象です。孔食が発生する条
件は、①皮膜を局部的に破壊する
ハロゲンイオンの存在、②水に溶
孔内で金属イオン
が Cl−を引き寄せ
濃度を上昇
けやすい非金属介在物等の欠陥
部の存在です。孔食は、右に示す
ように自己触媒的に進行します。
金属イオンが加水
分解し孔内を塩酸
酸性にし腐食する
孔食成長のメカニズム
すきま腐食
すきま腐食は、フランジ部や重
ね合わせ溶接部など構造上のす
すきま内の溶存酸
素が消費される
きまおよび貝付着、沈殿物などの
すきま部で発生する腐食です。す
きま内ではその部分の溶存酸素
すきま内の金属イ
オンが Cl−を引き
寄せ濃度を上昇
が不足し、時間と共に不動態の維
持ができなくなって腐食が発生
し孔食と同様な機構で腐食が進
行します。この腐食は孔食よりも
金属イオンが加水
分解し、孔内を塩
酸酸性にし皮膜が
破壊して腐食する
すきま腐食のメカニズム
マイルドな環境条件でも発生し、
すきまのクリアランスが大きく
影響します。
応力腐食割れ
応力腐食割れは、応力と腐食の
応力による金属原
子のすべり、Cl −
による皮膜の破壊
相互作用により材料に割れが発
生する現象です。
応力により不動態皮膜が破壊
皮膜破壊部で金属
原子がイオンとし
て溶出
されて腐食が発生し、その先端で
は応力集中により腐食が加速さ
れて割れ状に腐食が進行します。
腐食先端部では応
力集中により溶解
が促進されき裂状
に腐食が進展する
−3−
応力腐食割れのメカニズム
ステンレス鋼の全面腐食機構
全面腐食は、金属の表面が広い範囲にわたって均一に侵食される腐食現象です。最も典型的な例
は酸による活性溶解であり、寿命予測が比較的容易です。硫酸酸性での全面腐食性を改善するため
には、Mo、Cu の添加が有効となります。
全面腐食
全面腐食は、不動態化皮膜が全
面的に破壊され、全面に腐食が発
生する現象です。硫酸、燐酸およ
び塩酸等の還元性の酸環境で使
用された場合、ステンレス鋼の不
動態皮膜は再生できず、全面腐食
を起すようになります。
酸環境中での不動
態皮膜の破壊
不動態皮膜が再生
されず腐食が進行
する
金属イオンの溶出
と水素ガスの発生
が表面全体にラン
ダムに移動しなが
ら全面が腐食する
全面腐食のメカニズム
高耐食ステンレス鋼 NAS155N
NAS155N は重油専焼火力発電プラントの熱交換器、煙道、煙突などでの耐硫酸露点腐食用として開
発された弊社独自の高耐食ステンレス鋼で、耐硫酸腐食性の観点から、Mo を4%、Cu を3%複合添
加したオーステナイトステンレス鋼です。 その用途として公害防止機器、硫酸関連設備の材料とし
て使用されています。
火力発電プラントの熱交換器、
煙突、煙道などでは燃焼排ガス中
の硫酸が結露して高濃度硫酸環
境となります。
図 1 は硫酸露点に相当した硫酸
濃度、温度条件に対する耐硫酸腐
食性を既存の各種ステンレス鋼
の腐食速度と比較して示したも
のです。
NAS155N は耐硫酸露点腐食性に
優れており Alloy 20 相当とほぼ
同等の耐食性を有しており、各種
化学工業用装置および機器、特に
腐食性の著しい場合に適してい
ます。
−4−
ステンレス鋼の耐食性の位置付け
ステンレス鋼は、使用環境に対応した機能を付加するために、種々の元素が添加されます。その
ためひとくちにステンレス鋼といっても、物理的・機械的性質も異なり、化学的性質である耐食性
に対しても種々の位置付けがされています。 海洋鋼構造物や製塩プラント及び食品工業などの高
塩化物を含んだ環境中で懸念される局部腐食を低減あるいは防止するためには、耐食性向上に効果
のある Cr、Mo、および N を多く含有した高耐食ステンレス鋼が必要となります。また、硫酸露点環
境においては上記元素に加え Cu を含む鋼が適しています。
ステンレス鋼の耐食性の位置付け
弊社では汎用的なステンレス鋼 SUS304、SUS316 等の他に
・スーパーステンレス鋼 :NAS185N、NAS254N(SUS836L)、NAS354N
・高耐食二相ステンレス鋼 :NAS64(SUS329J4L)
・高耐食ステンレス鋼 :NAS155N
等を取り揃えています。図に示す鋼種系統図は、SUS304 をベースとした各腐食形態に対するステン
レス鋼の位置付けを示したものです。この系統図では下に行くほど、耐食性に優れることを表します。
耐食材料
孔食、すきま腐食
(海水など塩化物環境)
SUS 304
応力腐食割れ
(高温塩化物溶液)
SUS 304
耐酸性
(硫酸、燐酸)
(塩酸)
SUS 304
SUS 304
SUS 316
SUS 316
SUS 316
SUS 316
NAS 64
NAS 64
NAS 254N
NAS 64
NAS 185N
NAS 185N
NAS 354N
NAS 185N
NAS 254N
NAS 254N
NAS 185N
NAS 254N
NAS 354N
NAS 354N
NAS 155N
NAS 354N
ステンレス鋼の耐食性の指標
塩化物環境中でのステンレス鋼の耐食性は、Cr、Mo、および N の含有量から算出する“孔食指数”
(Pitting Resistance Equivalent:PRE= %Cr + 3.3×%Mo + 20×%N)で整理することができます。
表1は各種ステンレス鋼の化学組成と PRE 値を示したもので、NAS254N および NAS354N は Cr、Mo、
N 含有量が高いので、ステンレス鋼の中でも最上級の耐食性を有します。
表1 各種ステンレス鋼の代表組成と耐食性指標
区 分
鋼 種
JIS 鋼種
UNS No.
SUS304
SUS304
S30400
汎用ステンレス鋼
SUS316L
SUS316L
S31603
NAS155N
―
S31727
高耐食
ステンレス鋼
NAS64
SUS329J4L S32506
NAS185N
―
S31254
NAS254N
SUS836L
S32053
スーパー
NAS254NM
―
N08367
ステンレス鋼
NAS255NM
―
N08926
NAS354N
―
N08354
−5−
化学組成
18Cr-8Ni
17Cr-12Ni-2Mo
18Cr-15Ni-4Mo-3Cu-0.15N
25Cr-6Ni-3.3Mo-0.15N
20Cr-18Ni-6Mo-0.8Cu-0.2N
23Cr-25Ni-5.5Mo-0.2N
21Cr-25Ni-6.1Mo-0.2N
20Cr-25Ni-6.1Mo-0.8Cu-0.2N
23Cr-35Ni-7.5Mo-0.2N
PRE
18
24
34
39
44
45
45
44
52
スーパーステンレス鋼
スーパーステンレス鋼は、高 Ni、高 Cr、高 Mo を含有する高耐食ステンレス鋼で、海洋鋼構造物
や製塩プラント及び高塩化物を含んだ食品工業で優れた耐食性を有しており、環境によっては高ニ
ッケル基合金や純チタンに匹敵する耐孔食性、耐すきま腐食性を有する経済性の高いステンレス鋼
です。
スーパーステンレス鋼の位置付け
良
↑
耐食性
スーパー
ステンレス
Ni,Cr,Mo,N
含有量増
NAS64
(SUS329J4L)
NAS354N
NAS254N
NAS254NM
NAS255NM
NAS185N
二相
ステンレス
Cr,Mo,N
含有量増
汎用
ステンレス
SUS30
SUS316
コスト → 高
スーパーステンレス鋼の耐食性
耐孔食性
各種ステンレス鋼の臨界孔食
発生温度(CPT) と孔食指数(PRE)の
関係を図2に示します。PRE の増
加と共に CPT は上昇し NAS254N お
よび NAS354N は 80℃以上でも孔
食の発生は認められず、汎用ステ
ンレス鋼、あるいは二相ステンレ
ス鋼よりも優れた耐孔食性を有
しております。
<試験方法>
・試験片:2×20×25mm、#400
・試験液:6%FeCl3+1/20N HCl
・試験時間:24 時間
・CPT:腐食が発生しない最高
温度
−6−
Ni基超合金
Ti
Alloy 276
Alloy 625
耐すきま腐食性
テフロン柱
試験片
各種ステンレス鋼の臨界すきま腐食
発生温度(CCT) と孔食指数 PRE の関係を
図3に示します。PRE の増加と共に CCT
輪ゴム
も上昇し、NAS254N は 50℃、NAS354N で
は 80℃と何れも汎用ステンレス鋼、あ
るいは二相ステンレス鋼よりも優れた
耐すきま腐食性を有しております。
<試験方法>
・試験片:2×20×25mm、#400
・試験液:6%FeCl3+1/20N HCl
・CCT:すきま腐食が発生しない最高
温度
・すきま形成方法:両端よりテフロン柱
で挟み輪ゴムで固定
孔食電位:電気化学的測定
孔食電位は、試験片に電圧をかけて強
制的に酸化性(腐食性)の環境にして腐
食が発生する電位を測定するものです。
この電位が高い程耐食性が良好である
ことを示します。図4に示すようにスー
パーステンレス鋼 NAS354N、NAS254N は
20%食塩中でも 90℃まで孔食は発生し
ません。また、図5に示すように
NAS254N は溶接部でも母材と同等に良
好な耐食性を示します。
−7−
耐候性
(1)海水環境暴露試験
海洋環境は高耐食を有するスーパーステン
レス鋼の適用が進みつつある分野であり、海
水を定期的にシャワーする過酷な条件で耐候
性を評価しております。
・試験場所 :港湾空港技術研究所内
・試験条件 :1 日 2 回、2 時間海水を汲
み上げ試験片に噴霧
・試験期間 :2000 年 12 月開始
写真 海水シャワー試験状況
表 2 海水暴露試験による発銹状況の経過
SUS316
NAS64
NAS254N
NAS354N
試験開始
1年後の
試験片
発銹状況
溶接部
試験片概要
発銹有無
発銹
発銹
なし
なし
発銹部位
全面
溶接部
―
―
(2)大気暴露試験
表 3 大気暴露試験データ(暴露期間2年)
PRE
内陸地
(枚方)
都市住宅地
(東京)
海岸清浄地
(外房)
臨界工業地帯
(川崎)
海洋環境
(スプラッシュ条件)
SUS304
18
○
△
×
×
×
SUS316
24
○
○
×
×
×
NAS64
39
○
○
○
○
△
NAS254N
45
○
○
○
○
○
NAS354N
52
○
○
○
○
○
合 金
○ 発銹なし
△ 発銹 最大ピット深さ≦15μm
× 発銹 最大ピット深さ>15μm
−8−
耐応力腐食割れ性
表 4 各種合金の応力腐食割れ試験結果
合 金
主要化学成分
42%
(142℃)
38%
(134℃)
35%
(126℃)
30%
(115℃)
25%
(110℃)
20%
(108℃)
SUS304
18Cr-8Ni
×
×
×
×
×
×
SUS316L
17Cr-12Ni-2Mo
×
×
×
×
×
○
NAS64
25Cr-6Ni-3.3Mo-0.15N
×
×
×
×
○
○
NAS155N
18Cr-15Ni-4Mo-3Cu-0.15N
×
×
×
○
○
○
NAS185N
20Cr-18Ni-6Mo-0.8Cu-0.2N
×
×
○
○
○
○
NAS254N
23Cr-25Ni-5.5Mo-0.2N
×
○
○
○
○
○
NAS354N
23Cr-35Ni-7.5Mo-0.2N
○
○
○
○
○
○
Alloy600
17Cr-75Ni
○
○
○
○
○
○
試験条件:U-曲げ試験片、沸騰 MgCl2 水溶液 300 時間 ×:応力腐食割れ発生、○:腐食割れなし
機械的性質
表 5 各種ステンレス鋼の機械的性質
0.2% 耐力
合 金
(N/mm2)
引張強さ
(N/mm2)
伸び
(%)
硬さ
(Hv)
SUS304
243
602
57.2
160
SUS316L
245
520
58.0
158
NAS155N
322
690
41.0
167
NAS64
647
853
23.0
258
NAS185N
379
744
41.4
182
NAS254N
363
745
48.7
184
NAS354N
393
795
51.8
188
物理的性質
表 6 各種ステンレス鋼の物理的性質
密度
固有電気
抵抗
熱伝導率
g/cm3
μΩ・cm
W/m・k
SUS304
7.93
72
SUS316L
8.00
NAS155N
比熱
熱膨張係数
(30∼200℃)
J/kg・K
10-6/℃
縦弾性
係数
(x104)
MPa
16.3
500
17.8
19.3
1398∼1462
なし
74
16.3
500
16.0
19.3
1370∼1397
なし
8.02
86
21.8
460
16.4
20.3
1370∼1422
なし
NAS64
7.80
89
12.6
460
10.5
19.6
1420∼1462
あり
NAS185N
8.03
90
12.3
500
15.6
19.3
1360∼1405
なし
NAS254N
8.06
93
12.0
460
14.9
18.8
1330∼1390
なし
NAS354N
8.16
103
11.4
440
14.1
19.3
1362∼1391
なし
合 金
−9−
溶融点
範囲
磁性
℃
ステンレス鋼の選定における留意点
耐食性の観点からステンレス鋼の適用を検討する場合は、腐食形態により適正材料が異なることに留意する
必要があります。ステンレス鋼における局部腐食は、塩化物イオン濃度と環境温度の影響が大きく、また、耐
食性の順列は腐食形態が変わると逆転したり耐食性の差が大きく変化します。したがって、環境条件から懸念
される腐食形態を想定し、その腐食形態での適材を選択する事が重要です。
塩化物環境でのステンレス鋼の耐食性
250
NAS254N と二相ステンレス鋼 NAS64、
225
汎用鋼種の SUS316 を例に、
図 6 に耐
200
食性限界線図を示します。
175
高温域では応力腐食が発生します。
耐応力腐食割れ性の材料比較は表 4
に示してあります。
100℃以下の低温領域で、
かつ高濃
温度 (℃)
高耐食ステンレス鋼の代表である
応力腐食割れ限界曲線
SCC発生
すき ま腐食限界曲線
NAS254N
150
NAS64
125
すき ま腐食発生
100
SUS316
75
度塩化物イオンとなる条件では、耐
50
すきま腐食性が重要となります。
25
0
100
101
102
103
104
105
106
塩素イオン濃度 Cl−(ppm)
溶接部の耐食性
図6 塩化物環境でのステンレス鋼の耐食性
溶接部の耐食性を母材並に維持す
二相ステンレス鋼の場合は母材に比較し溶接部の耐食性の劣化が認
るためには、母材よりも耐食性の高
められます。
い溶接材を用いることが必要です。
100
45 以上のスーパーステンレス鋼の
場合は、溶接材として、高耐食ニッ
ケル基超合金であるハステロイ C 系
を推奨しております。二相ステンレ
ス鋼については、溶接部の相バラン
スを確保するために、母材よりも Ni
含有量の高い溶接材が必要です。ま
た、二相ステンレス鋼の場合は、溶
接近傍の母材で組織の変化が生じ、
その部分の特性が変化することがあ
臨界孔食発生温度 (℃)
NAS254N のような PRE(孔食指数)が
●▲母材
●▲TIG溶接部
90
NAS254N
80
70
母材
60
NAS64
50
溶接部
40
ります。そのため溶接部の耐食性劣
化について特に注意が必要となりま
す。図7に、NAS254N と NAS64 につ
30
0.1
1
いて溶接部と母材部の耐食性を比較
した例を示します。NAS254N は溶接
部の耐食性に劣化は見られませんが、
10
NaCl濃度 (%)
図7 溶接熱影響部の耐食性
−10−
100
スーパーステンレス鋼の適用
海洋鋼構造物
海洋鋼構造物においては長期耐久性(100 年)、メンテナンスフリーの要求が高まり、そ
のライニングに高耐食材料の適用が進みつつあります。この要求に応える優れた耐海水性
を有しているのがスーパーステンレス鋼であります。
海上プラットフォームへの鋼管杭保護用ライニング材への適用
z 場 所 :東京電力東扇島火力発電所 LNG 荷上用プラットフォーム
z 被覆防食工法 :GRC 工法、耐火性の観点からステンレスを適用
z 被覆ステンレス :NAS254N
z 開 始 :10 年におよぶ海洋暴露実績を経て、2001 年より NAS254N
に更新中。
NAS254N
NAS254N
1991 年設置(アングルは SUS316)
SUS316
SUS316 は本体に著しい
腐食が見られ、剥離が
生じています。
−11−
スーパーステンレス鋼の適用
海岸地域屋根
海岸地域では海塩粒子の飛来と、太陽光による温度の上昇によって、屋根材の使用環境
を著しく過酷なものにしております。そこはまさにスーパーステンレス鋼の世界となりま
す。
国立久里浜養護学校の屋根への適用(施工:平成 12 年 2 月)
z 被覆ステンレス : NAS254N 0.4mm(R1 仕上げ)
z 溶接施工 : NZ 工法(シーム溶接)
z 海岸距離 : 海岸まで約 10m
施工後2年以上経過した現在、NAS254N は母材・溶接部ともに発銹は認められず、良好
な耐発銹性を確認しています。
−12−
スーパーステンレス鋼の適用
温泉貯湯槽
温泉水、特に塩化物を含む高温の源泉は、金属にとっては厳しい腐食環境となり、普通
鋼や汎用ステンレス鋼では短期間で漏水に至ることが多くみられます。そこはまさにスー
パーステンレス鋼の活躍の場となります。
塩化物温泉貯湯槽内面ライニング加工へのスーパーステンレス鋼の適用
z 内面ライニング材料 : NAS254N 2mm(研磨仕上げ)
z 溶接施工 : TIG 溶接
z 施工者 : ナストーア㈱加工品部
z 泉 質 : 塩化物イオン濃度 520ppm、約 61℃
↑ 天井板
← 側板・底板
外観 →
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スーパーステンレス鋼の適用
食塩製造プラント
食塩製造は、海水の加熱濃縮により製造され、その環境は高温・高濃度塩化物となりま
す。スーパーステンレス鋼は、汎用ステンレス鋼では不可能とされてきたこのような食品
機器に、初めてハステロイ、チタンに替わり適用されました。
濃縮食塩貯蔵タンクへの適用
z 適用ステンレス : NAS254N 6mm(研磨仕上げ)
z 溶接施工 : TIG 溶接
z 使用環境 : 高濃度食塩、温度(常温∼100℃)
設置後、母材・溶接部ともに孔食、すきま腐食とともに応力腐食割れもなく、良好な耐
食性が確認されています。
製塩プラントせんごう缶(蒸発缶)
NAS254Nライニング:2mm
使用期間:平成9年∼
使用環境:約120℃
濃縮食塩貯蔵タンク
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スーパーステンレス鋼の適用
食品製造プラント「醤油諸味タンク」
醤油諸味タンクの材質には、従来ライニング鉄や FRP 等が使用されていましたが、この
たびメンテナンスの軽減化や維持管理費の削減が期待できるスーパーステンレス鋼が初め
て採用されました。諸味は極めて高い濃度の食塩を含有するため、汎用ステンレス鋼では
孔食やすきま腐食、応力腐食割れ等が発生する懸念がありますが、スーパーステンレス鋼
はこの苛酷な腐食環境でも十分な耐食性を有しております。
醤油諸味タンクへの適用(施工:平成 14 年)
z 適用ステンレス : NAS254N(研磨仕上げ)
z 溶接施工 : TIG 溶接
z 使用環境 : 約 17%食塩、温度;40℃max
NAS254N
腐食なし
200μm
SUS316L
応力腐食割れ発生
200μm
加速試験による醤油中の耐食性評価
60℃の醤油中に 115 日間浸漬したすきま
付きスポット溶接試験片の断面組織光学
顕微鏡写真
スポット溶接
切断
醤油諸味タンク外観
試験片
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断面観察位置
スーパーステンレス鋼の適用
食品製造プラント「塩みりんタンク」
最近、食品製造プラントへのスーパーステンレス鋼の適用が注目されています。
従来より、塩分を含まず比較的温度の低いビールやワイン醸造タンク等には汎用ステンレ
ス鋼が使用されていました。高濃度塩化物および有機酸を含む調味料の場合、その醸造過
程において、pHの低下と温度の上昇により汎用ステンレスにとっては厳しい腐食環境とな
ります。スーパーステンレス鋼の優れた耐食性は、その過酷な環境に耐え、食品プラントの
長寿命化を実現します。
塩みりんタンクへの適用(施工:平成 13 年)
z 適用ステンレス : NAS254N 4mm(研磨仕上げ)
z 溶接施工 : TIG 溶接
z 使用環境 : 約 8%食塩、50%アルコール 温度;50℃max
塩みりん醸造 50kl タンク外観
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スーパーステンレス鋼の適用
排煙脱硫装置
図は排煙脱硫環境での塩素イオン濃度に
対するスーパーステンレス鋼の耐食性と耐
食性指標との関係を示したものであります。
塩素イオン濃度が 10,000ppm を超える領
域では、NAS254N、NAS354N スーパーステン
レス鋼が低コスト、長寿命化を実現します。
耐食性限界塩素イオン濃度(ppm)
排煙脱硫装置は、大気汚染公害防止機器としての火力発電所の付帯設備であります。
石炭火力発電プラントの排煙脱硫装置内は、燃料中に含まれる塩素が濃縮し、高濃度の
塩化物腐食環境となります。
環境温度:60℃
10 5
●
石炭燃焼脱硫装置環境
NAS354N
○
ハステロイC
●
NAS254N
10 4
10 3
●NAS64(SUS329J4L)
重油燃焼脱硫装置環境
10 2
10
1
10
○
304
20
○
316
30
40
50
60
耐すき間腐食性指標(PRE=%Cr+3.3×%Mo+20×%N)
石川県七尾市七尾太田火力発電所 茨城県鹿嶋市鹿島北協同発電所
・塩素イオン濃度:8000ppm ・塩素イオン濃度:800ppm
・温 度:55∼60℃ ・温 度:5
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70
スーパーステンレス鋼の適用
漂白・殺菌装置
次亜塩素酸ソーダは、塩素の強い酸化力を利用し、食品製造ラインの殺菌洗浄および
繊維、パルプなどの漂白に多く用いられている薬品です。その使用環境は、貯蔵におけ
る高濃度・高アルカリ性領域から殺菌洗浄で用いられる低濃度・中性または弱酸性領域
まで広い濃度範囲で用いられています。その環境は腐食性が高いため、汎用ステンレス
鋼では孔食やすきま腐食、応力腐食割れを発生させますが、スーパーステンレス鋼はこ
のような環境でも優れた耐食性を有しております。
0.16
溶液条件:有効塩素濃度;6,000ppm
pH6.0、50℃
浸漬試験:14日間
0.14
0.12
重量減(g)
図は 50℃の中性次亜塩素酸ソーダ中
に 14 日間浸漬した各種合金の腐食減量
を示したものです。
スーパーステンレス鋼は優れた耐食性
を示しており、環境によっては高ニッケ
ル基合金よりも良好な耐食性を有してい
る経済性の高いステンレスです。
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
パルプ洗浄装置への適用
z 適用ステンレス : NAS254N
z 適用場所 : 洗浄機内ドラム
z 使用環境 : 有効塩素濃度(∼12%、∼pH12)
SUS316L
NAS254N
Alloy22
パルプ洗浄機外観 洗浄機内ドラム外観
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Alloy276
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本
社
〒104-8365東京都中央区京橋1丁目5番8号(三栄ビル)
高 機能 材販 売部
TEL 03-3273-4619 FAX 03-3273-4635
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Rev.F 2005年 2月14日
発刊日 2002年 9月 4日