マイクロプロセッサの歴史と今後の動向 目 次 応用分野の要求は発明の母であった システムの構成 電卓のシステム図 マイクロプロセッサへの道 マイクロプロセッサの誕生 マイクロプロセッサの発展 高性能マイクロプロセッサへの道 時代を切り拓く技術と産業の変化 創造的開発とは イノベーション マイクロプロセッサがもたらした社会と経済の変化 2003年10月31日 嶋 正 利 1 © 2000-2003 shima 応用分野の要求は発明の母であった 『初めに応用ありき、応用が全てである』 システムの構成 汎用入出力装置 データストレージ ・FDD ・HDD ・DVD ・CD−ROM ・PCMCIAカード ・VTR 表示 ・CRT ・LCD システムバス データプロセッシング ・メインフレーム ・ワークステーション ・パーソナルコンピュータ ・ネットワークコンピュータ ・ワードプロセッサ ・情報携帯端末機 ・ハンディターミナル ・電子手帳 ・電卓 ドキュメント プロセッシング ・コピー ・LBP ・バブルジェットプリンタ ・インクジェットプリンタ マルチメディア ・デジタルTV ・デジタルカメラ ・デジタルビデオムービー ・セットトップボックス ・インターネットTV ・ゲーム メモリ ・DRAM ・FLASH メディアプロセッサ イメージプロセッサ 3Dグラフィックス DRAM RDRAM SDRAM PROM FLASH コミュニケーション プロセッシング マイクロプロセッサ RISCプロセッサ マイクロコントローラ RISCコントローラ ・モデム ・FAX ・LAN ・テレビ電話 ・携帯電話 ・PBX DSP 通信 2 © 1998-2003 shima 電卓のシステム図 機能の実現方法: ハードワイアード論理方式 基板の配線で論理を組み立てる プログラム論理方式 ステップカウンタ キーボード 制御論理 タイミング回路 手順論理 カード リーダー アキュムレータ 表示 レジスタ ALU 補正回路 10進 印刷 2進データ → 10進データ メモリ 3 © 1998-2003 shima マイクロプロセッサへの道 電卓にも使用可能な汎用LSI開発の提案 1969年6月 ビジコン社 OEMビジネス (電卓、キャッシュレジスタ、銀行端末機器など) 電卓の論理方式(機能の実現方法): ハードワイアード論理方式 プログラム論理方式 1968年に電卓に導入 プログラムを変更することにより機能を変更する マクロ命令 10進演算命令 → 10進コンピュータ LSI化 新プロセッサの提案 1969年8月 インテル社 プログラム論理方式の採用 プロセッサのみ開発 マイクロ命令の採用 2進コンピュータ 4ビット・プロセッサ サブルーチンの使用可能 標準メモリの使用 ALU 4 ビット 汎用 レジスタ 16 x 4 アドレス スタック 4 x 12 PCを含む 提案されたプロセッサの問題点と解決方法 1969年12月 ビジコン社 問題点 解決方法 低性能プロセッサ LSIのみによるシステム構築 ;ファミリー製品 大容量メモリ 10進補正命令 標準メモリ キーボード・コード変換命令 プログラムによる入出力機器制御 外界をセンスする命令 事務用プログラミング言語 インタープリタ機能 メモリ用パッケージの使用 プログラミング言語の翻訳 ;電卓用/事務機用命令 モニター ;リアルタイムOSの核 正式契約 1970年2月 開発費:6万ドル 世界初のマイクロプロセッサ4004の完成 1971年3月 インテル社とビジコン社で共同開発 TI社がワンチップマイコンの特許申請 1971年7月 4 © 1998-2003 shima 世界初のマイクロプロセッサ4004誕生 CPU:中央処理ユニット:4004 RAM :データ記憶:4002 システムバス ALU システム バス 制御 4ビット SYNC 汎用 レジスタ 16x4 CM 命令 テスト アドレス スタック 4x12 RAM アレイ 4x20 ディジット 出力 命令 ポート 制御 制御 出力 ROM :プログラム記憶:4001 SR: 出力許可 出力拡張ポート: 4003 クロック 同期信号 入出力 ポート 入出力 命令 ROM 制御 アレイ 256x8 10ビット シフトレジスタ コマンド 直列出力 データ パラレル出力 5 © 1998-2003 shima 世界初のマイクロプロセッサ4004 6 © 1998-2003 shima 8080 7 © 1998-2003 shima Z80 8 © 1998-2003 shima マイクロプロセッサの発展 ● ▲ ◎ ○ 10000 5000 3000 2000 性能: 動作周波数: トランジスタ数: 命令の平均: 実行クロック数 ◎ 性能値 SPECint95 百万命令/秒(MIPS) MHz 万個 クロック/命令 ◎ ◎ Pentium(Xeon) ● Pentium 4 ● ● Opteron 30 ▲ ▲ 20 PentiumII ● Itanium ☆ ゲーム用プロセッサの性能 1000 PentiumPro ◎ ◎ ● ◆ ▲ 性能 500 300 200 チップ面積( m㎡) トランジスタ数 100 ◆◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ○ ○ ○ ○ ◆ 10 ◆ ◎ ◎ ▲ ○ ○ ○◎ ▲ ▲ ● 80386 ▲ ○ 動作周波数 ○ ▲ ◎ ▲ ◎ ● 80286 8086 ▲ ▲ ◎ ● ●● 68000 Z8000 ◎ ● Z80 ◎ ● 6800 ● * 8080 ◎ 5 3 2 1 0.5 0.3 0.2 1K 4K:200ns 16K:150ns 64K:150ns 256K:70ns 1M:60ns 2 1 * ● 80486 ▲ ◎ 10 8 * ● Pentium ▲ ◆ 実行クロック数 50 30 20 ◆ ◎ ● ☆Playstation2 ◎ ●PentiumMMX ▲ ◆ ▲ * パソコンの主メモリ容量(Mバイト) * * パソコンの ハードディスク容量(Gバイト) * ○ 80486 ○ Pentium ○ PentiumPro ○ Pentium 4 4M:70ns 16M:45ns 64M:30ns 128M/256M:30ns DRAMチップ 0.1 ● 4004 1970 * 1980 1975 1985 1990 1995 2000 2005 年 9 © 1998-2003 shima 高性能マイクロプロセッサへの道 ① CISCプロセッサ 7 0 7 0 7 0 7 ⑤VLIWプロセッサ(超長命令) ② RISCプロセッサ バイト可変長命令、 複合化命令 高級言語(C言語など)で書かれたプログラム 固定長命令、 ロードストア・アーキテクチャ パイプライン・プロセッサ 0 31 24 23 16 15 ロード & 加算 8 7 超長命令(VLI W)にコンパイルされたプログラム ロード ロード 加算 ストア ストア 比較 比較 浮動小数点演算 実 行 ユ ニ ッ ト 分岐 ③スーパーパイプライン技術 高動作周波数化による 高性能化達成方法 F: Fetch D: Decode E: Execution WB: Write Back 整数 スロット1 浮動小数点演算 分岐 命令の解読とスケジュール 高動作周波数に対応 コンパイル 0 F1 F2 D1 D2 E1 E2 F1 F2 D1 D2 E1 E2 F1 F2 D1 D2 E1 E2 スロット2 分岐 分岐 整数 整数 乗算 乗算 浮動小数点 分岐 スロット3 スロット4 分岐 ロードストア ロードストア 整数 浮動小数点 浮動小数点 マルチメディア マルチメディア 整数 浮動小数点 マルチメディア 浮動小数点 マルチメディア WB SIMD WB (128ビット) SIMD SIMD SIMD (128ビット) (128ビット) (128ビット) WB SIMD命令(レジスタを分割して使用) ④ スーパースカラ技術 命令の並列実行化による 高性能化達成方法 命令の解読 :PentiumII(最大3命令) 命令のスケジュールと発行:PentiumII(最大5マイクロ命令) 127 or 63 n 命令 0 n 0 n 0 n 0 0 n 0 n 0 n 0 n 0 演算器 (ALU) ロード ストア 整数 整数 浮動小数点 マルチメディア 命令の実行 SIMD (128ビット) 分岐 レジスタ 10 © 1998-2003 shima スーパースカラ技術を使ったマイクロプロセッサの例 命令キャッシュ 命令解読ビット付き 命令ユニット 分岐予測 分岐先 アドレス キャッシュ 命令バッファ 分岐 履歴 表 命令解読、 スケジュール、 命令発行 命令実行 終了 ユニット 実行予定命令用バッファ 実行予定命令バス(nセット)、 命令実行終了バス(mセット) 分岐 ユニット ロード ストア ユニット 整数 演算 ユニット 浮動小数点 演算 ユニット 命令実行ユニット 整数演算用 汎用レジスタ 浮動小数点演算用 汎用レジスタ リネーム・レジスタ データ・ キャッシュ リネーム・レジスタ リザベーションステーション 11 © 2000-2002 shima 高性能化技術の導入によるマイクロプロセッサの性能の進展 1999年7月作成 性能 向上 技術 プロセッサ パイプライン スーパー パイプライン 第1世代 スーパー スカラ 第2世代 スーパー スカラ 開発 年度 動作 周波数 80486 R3000 SPARC PA-RISC 1989 1987 1988 1991 25MHz 25MHz 25MHz 66MHz R4000PC R4000SC 88110 Alpha 21064 1992 1992 1991 1992 100MHz 100MHz 50MHz 150MHz Pentium SuperSPARC PowerPC601 PA-7100LC PPC604 21164 PentiumPro UltraSPARC PA-8000 1993 1993 1993 1994 1994 1995 1995 1995 1996 66MHz 40MHz 66MHz 100MHz 133MHz 300MHz 150MHz 167MHz 200MHz シス テム バス データ 幅 2次 32 32 32 32/ 64 64 64 64 64/ 128 Ext 64 64 64 64 64 128 64 128 128 y Ext y y y Ext 性能 内蔵 キャッ シュ 制 御 y y データ SPECint バス 幅 SPECfp パイ キャッシュ プラ イン I/D 段数 命令 実行ユニット 解読/ 発行 数 I F/ L B G S Cache 13.3 17.6 12.3 51.5 6.6 15.1 11.6 101.6 8K バイト none 4∼6 1/1 5 1/1 1/1 1/1 128 39.7 54.5 51.0 74.3 2.15 60 52.6 50 2.89 4.45 7.3 6.08 5.6 10.8 46.8 68.5 73.9 120 3.65 55 64.7 80 3.47 3.31 11.6 4.76 9.8 18.3 8K/8K 8K/8K 8K/8K 8K/8K 8 8 6∼8 7 1/1 1/1 2/2 2/2 1 1 1 1 1 1 1 Integer 1 Float 1 1 1 1 3 3/2 1 1 1 1 8K/8K 20K/16K 32K 8K/8K 16K/16K 8K/8K/96K 16K/16K 16K/16K none 5/8 8 2∼6 5 6 7 12 9 5∼7 2/2 3/3 3/3 2/2 4/4 4/4 3/5 4/4 4/4 2 3 1 2 3 2 2 2 4 Cache 64 Cache 1 1 1 2 1 2 1 3/2 3 ① Predecoded Cache ② Dynamic Branch Pre ③ Out of Order ④ Register Rename ⑤ MultiMedia Inst. ⑥ Ext Cache Cont ⑥ ②③ ⑤ ② 1 1 1 ③ ⑤ 1 1 2 1 1 1 ① ① ① ① ① ② ② ② ② ② ③④ ③ ③④ ⑥ ⑥ ⑤⑥ ③④ ⑥ トラ ンジ スタ 数 面積 プロセス m㎡ 1.18M 165 1μ 2M 0.58M 0.64M 1.35M 1.35M 1.3M 1.68M 196/ 164 184 184 225 234 1.0μ 0.8μ 0.8μ 0.8μ 1.0μ 0.75 μ 3M 2M 2M 2M 3M 3M 3.1M 3.1M 2.8M 0.85M 3.6M 9.3M 5.5M 3.8M 2.5M 294 256 112 196 196 314 306 315 345 0.8μ 0.8μ 0.7μ 0.8μ 0.65 μ 0.5μ 0.5μ 0.5μ 0.5μ 3M 3M 3M 3M 4M 4M 4M 4M 4M 80486,R3000,SPARC,PA -RISC,R4000,88110,21064,Pentium,SuperSPARC,PowerPCの性能は SPECint89/SPEC fp89を、 他のプロセッサの性能は SPECint92/SPECfp92 を使っている。 I: Integer unit, F/G: Float/Graphics unit, LS: Load Store unit, B: Branch unit 12 © 2000-2002 shima 時代を切り拓く技術がもたらした産業の変化 「 システム構築技術は時代を切り拓いた技術によって進化し続けている 」 開発年 技 術 時 代 キーワードと新産業 1951年 トランジスタ 回路の時代 電子、 コンピュータ産業 1961年 集積回路 論理の時代 ディジタル、 半導体産業、 ベンチャービジネス 1971年 マイクロプロセッサ プログラムの時代 マイクロプロセッサ、 ソフトウェア、 システム産業、 ゲーム産業 1981年 パーソナルコンピュータ OSとGUIの時代 オープンアーキテクチャ、オープンシステムズ、 ダウンサイジング、 デファクトスタンダード、 パソコン産業、 ソフトウェア産業、 知的財産権、 企業買収 1991年 WWW インターネットと言語の時代 インターネット、 情報技術産業 IT革命:時間の価値 Value of Time 開発 + 製造 + 物流 + 販売 + 支払い マルチメディア(Who, What ) 2001年 携帯電話 モーバイルの時代 SIMD,MIMD,DSP ( How ) 自由であるべき コンテント 13 © 1998-2003 shima 創造的開発とは 創造的開発とは芸術であり宗教である アイデアとは個性のほとばしりである 創造的開発に挑戦する体制 ; 全面的な支持者 市場に未だ無い製品を開発 創造的開発とは人跡未踏の荒野を進むようなもの 希望(成功)と不安(失敗)の抱き合わせ 新規性のあるものを生む開発者 過去と現在を分析・解析し、昇華させ、捨てる ; 現状に執着しない インクリメンタルな改良や改善は創造的開発ではない 過去と現在を捨てることは容易なことではない 新規概念(開発コンセプト)の創造 ; 開発こそ我が道 人の歩んだ道は行かない 新規概念(開発コンセプト)のスト−リ−作成 ; 自分の世界を創る 開発者の頭の中は誰も知らない 新規概念(開発コンセプト)の討論 ; Speak−Out 最初の理解者はほんの少数 Criticize 無視されるか、低い評価 討論には 自分が正しければ主張 柔軟で強く回転の速い 不退転の意志 頭脳 相手が正しければ速やかに受け入れる 会議中に結論を出す 根回しは駄目(特に会議後の個人ベ蠇スの話し合い) 設計は素早く行う ; スピ−ド感のある 製品はなまものと同じで、時間が立つと、 仕事の進め方 陳腐化したり、活きが悪くなって、誰も買わない 真のチ−ムプレイ ; For the team コミュニケ−ション 他人の間違いや欠点を指摘することは難しい 性善説と性悪説 開発タイプの仕事の過程では性善説 検証時や他の人とのインタフェース時や仕事の最後のまとめ時には性悪説 14 © 1998-2003 shima マイクロプロセッサがもたらした社会と経済の変化 マイクロプロセッサは、その誕生と同時に、2つの顔を持つようになった。知的能力とコンピューティング ・パワーであった。およそ人間の発明したもので、マイクロプロセサほど短期間のうちに大きな影響を与えた ものはほかに見当たらない。 マイクロプロセッサが提供する知的能力は、家庭電化製品、オフィス機器、自動車、通信など、あらゆる分 野に広範囲に大量に活用されている。18世紀中葉にイギリスで始まった動力による第1次産業革命は、人類の 機械力学的能力の限界を事実上なくした。次に、 19世紀中葉にアメリカで始まった電気による第2次産業革命 は、通信や放送や電化製品によって速度と快適さのある近代文明を人類にもたらし、大規模なエレクトロニク ス産業を築き上げた。そして、シリコン小片に乗った知的能力を持ったマイクロプロセッサによる第3次産業 革命は、新たなる文化を創造するための『知への道具』を人類にもたらした。マイクロプロセッサの誕生によ り、いかに品質を高くかつ安く物を作るかといった生産という文明を重視した時代から、何を作るかといった 創造という文化を重要視する時代を登場させた。 マイクロプロセッサはコンピュータ会社が独占していたコンピュ−ティング・パワ−を創造に挑戦する若き 開発者に解放し、パソコン、ワークステーション、ゲーム機を登場させ、ソフトウェア産業を大きく花開かせ た。第2次大戦後に日本が強力に押し進め高度成長をもたらした高度技術・大量生産という文明の創造と発展 にかげりがでている。一方、米国はパソコンという文明の上に、マイクロプロセッサ、オペレ−ティング・シ ステム、アプリケ−ション・ソフトウェア、マルチメディアなどの文化を創造し発展させてきた。日本が今の まま生産という文明を重要視しすぎると、日本が莫大な資金を投入して苦労して築き上げた文明の上に、米国 の文化を構築するような体制になってしまい、大きな付加価値を日本が享受できなくなる。また、米国で開発 された技術を重要視しすぎると、翻訳された米国の文化が日本に浸透し、米国流の表現方法、思考方法、仕事 の進め方、価値観が主流となり、会社や社会のあり方までが変化し、日本本来の文化が消滅してしまう恐れが ある。 開発技術者が養成すべき能力は、問題を見つけ、本質を見抜き、創造するための、考え出す能力である。 (知恵) 15 © 1998-2003 shima
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