マーケティング研究報告 - 全日本印刷工業組合連合会

平成 19 年度
マーケティング研究報告
経営革新・マーケティング委員会
マーケティング部会
マーケティング(営業)委員会
目 次
Ⅰ 平成 19 年度マーケティング部会報告
全日本印刷工業組合連合会マーケティング部会長
東京都印刷工業組合副理事長(マーケティング(営業)委員会所管)
花崎博己
Ⅱ 平成 19 年度マーケティング
(営業)
委員会報告
東京都印刷工業組合マーケティング
(営業)委員会委員長
全日本印刷工業組合連合会マーケティング部会
萩原 誠
Ⅲ 事例研究報告
1.業態変革におけるマーケティング活用と組織のイノベーション
−守りから攻める印刷業へ− ……………………………………………………………………… 8
ハイデル・フォーラム 21
根本安規
2.価格競争から脱却する高付加価値印刷とは? …………………………………………………… 11
(1)印刷業界の動向
リョービイマジクス㈱
藤澤孝次
(2)リョービユーザーによるビジネス成功事例紹介
㈱小松総合印刷
小松肇彦
3.顧客の創造価値を高めるための「ブランド戦略」を考える
−自社変革の柱として− ………………………………………………………………………… 16
グラムコ㈱
山田敦郎
4.戦略営業のための実践マーケティング講座
−選択、差別化、集中で勝ち残る!!− …………………………………………………………… 21
㈱ビジネスコミュニケーション研究所
田中信一
5.今日からできるビジネスコラボレーション
−仲間 6 社からのプレゼンテーションと商品紹介− …………………………………………… 27
奥村印刷㈱、㈱陽成社、㈱プロスト、
㈱新興グランド社、美創印刷㈱、田中産業㈱
6.営業の差別化「メディアユニバーサルデザイン」………………………………………………… 33
(1)メディアユニバーサルデザインとは
弘和印刷㈱
瀬田章弘
(2)色とメディアのユニバーサルデザイン
CAN 有限責任事業組合
伊藤裕道
(3)ユニバーサルデザインフォント
㈱イワタ
阿部浩之
(4)動画対応色覚シミュレーションモニター
㈱ナナオ
丸山啓司
(5)色覚 UD 関連技術のご紹介
東洋インキ製造㈱
小幡昌生
7.−経営者のための SP 講座−
新しい営業武器「プロモーショナル・マーケティング」………………………………………… 39
譖日本 POP 広告協会
坂井田稲之
8.次世代印刷ビジネスを切り拓く
−ソフトインフラ構築を急げ− ………………………………………………………………… 49
㈲ゲイン
杉山伸一
平成 19 年度マーケティング部会報告
●――――――――
全日本印刷工業組合連合会 マーケティング部会長
東京都印刷工業組合副理事長
花崎博己
全日本印刷組合連合会では業態変革推進プランを
すすめてまいりました。
印刷業界においても時代の変化の中で過去の事業
定義を再点検する必要があるのではないでしょう
しかしアンケート調査などの結果を見ると、実践
か。情報手段において印刷は今まで最も媒体価値が
に一歩足を踏み出せない現状があります。環境変化
高く、そのため情報伝達の手段イコール印刷物を作
に対応しなければならないということは認識してい
ることとほぼ一致していました。その結果として印
るが、なかなか実践につながらない現実があります。
刷物という製品を作ることが手段であり、また目的
全印工連ならびに東京工組のマーケティングの研究
でもありました。
は、総論ではなく各論が中心で非常に具体的なテー
まさに製品を中心に発想した事業であった訳で
マを取り上げておりますので、本報告書をぜひ日常
す。しかし環境が変わった現在、顧客を中心とした
の業務にお役立ていただければと考えております。
事業定義を再確認してみると、我々の役割は顧客の
目的を達成するための効果的な提案と手段を提供す
マーケティングの視点に立った事業
目的
ることであると考えられます。
顧客の目的とは、例えばメーカーであればセール
スプロモーションで自社の商品をより多く売ること
デジタル化そしてインターネットの出現と、印刷
であったり、会社の魅力を伝える広報活動であった
界を取り巻く環境も大きく変わりました。情報伝達
り、財務内容を投資家に正確に伝える IR 活動であ
の技術が変わり市場環境も共に変化しました。アメ
ったりします。それら顧客の目的を最大限効果的に
リカの著名なマーケティングの学者である元ハーバ
達成する役割が今の我々に求められる事業目的では
ード・ビジネススクール名誉教授のセオドア・レビ
ないでしょうか。
ット氏は 1960 年に「マーケティング近視眼」とい
顧客は目的達成のために我々に専門業者としての
う有名な論文の中で、「製品を中心に発想される事
的確な提案、コンテンツ制作、そして最大限効果を
業はやがて衰退する。顧客を中心とした事業目的で
上げるメディアミックスなどのソリューションを求
定義すべきで、そのために重要なのはマーケティン
めています。結果的にこれらの手段に印刷は大きく
グである」と述べています。
貢献していますが、他のメディアと連動する提案も
たとえばアメリカの鉄道会社は自社の事業を輸送
必要です。
事業ではなく鉄道事業と考えたために、顧客をほか
印刷会社は単に印刷物という製品を作ることのみ
に追いやってしまったとあります。事業定義で輸送
を考えるのであれば、顧客中心とはいえません。大
を目的と考えず、鉄道を目的と考え顧客中心ではな
事なのは顧客と同じ視線で顧客の目的達成のために
く製品中心に考えてしまった結果です。映画の都ハ
共に考え悩みを共有できるパートナーとしての関係
リウッドでは鉄道会社と同じように映画産業もエン
ではないでしょうか。印刷の再現性、視認性、美し
ターテイメント産業と考えるべきところを、映画を
さすべてを見てもこれに勝る媒体の出現は今後とも
制作する産業であると考えてしまっていたと指摘し
難しいと思われます。我々に期待されているソリュ
ています。
ーションを提供することにより、我々業界は結果的
4
平成 19 年度マーケティング活動報告
に顧客中心のビジネス展開に結びつくことになりま
仕事も取り込み、ワンストップサービスの提供で顧
す。
客満足を高める事も大事です。
もう一つ必要なのは、我々印刷業界で永年築き上
印刷媒体価値と顧客満足の向上を
目指して
げた技術や新しい技術を顧客の考えている目的達成
のために紐づける提案です。こういう技術がありま
す、こういうことができますの言いっぱなしではな
今までとは違い、情報伝達の手段は印刷以外にも
く、顧客の困っているこのことは我々のこの技術を
多様化されてきています。それぞれ特性があり、上
使ってこの様に解決でき、この様な効果が出ますと
手く補完したり組み合わせたりして効率的に成果を
いう一歩踏み込んだ提案です。顧客の困っているこ
上げるということが求められています。媒体別の広
とに対し、我々の技術を使って解決策を提案するソ
告費の推移を見ても、ネット広告がラジオや雑誌を
リューションプロバイダーとしての役割です。
上回り、テレビ、新聞に次ぐ位置付けになってきて
この様なことは自分の会社だけで行おうとしても
います。しかしネットも受動的な媒体であり相手が
難しい場合があります。その分野に強い我々業界の
アクセスしてくれないと足も手も出ない媒体です。
仲間や周辺業界とのコラボレーションにより対応し
そのためにダイレクトメールなどの印刷媒体や他
ていく必要があります。我々印刷業に課された役割
の広告媒体との組み合わせが欠かせません。これが
を再認識して、それに応え顧客満足度を高めること
所謂クロスメディアと言われているものです。我々
が、これからの印刷媒体の価値向上に繋がると確信
印刷業界も他のメディアとの整合性、補完性も考慮
しています。
に入れ印刷物の媒体価値をより一層発揮できる提案
をしていかなくてはなりません。またネット関連の
平成 19 年度 全日本印刷工業組合連合会 マーケティング部会メンバー
真壁 敏
コダックグラフィックコミュニケー
花崎 博己
大東印刷工芸㈱ 代表取締役社長
宮本多題詩
元㈱電通・㈲扶桑コンサルティング
ションズ㈱ マーケティング本部エ
代表取締役
ンタープライズ製品統括部部長
㈱博報堂 コーポレートコミュニ
西川 誠也
西川印刷㈱ 専務取締役
ケーション局 CC スーパーバイザー
小森 洋一
明祥印刷㈱ 代表取締役
牧 兼充
慶應義塾大学 環境情報学部講師
藤田 良郎
瞬報社写真印刷㈱ 代表取締役社長
関本 仁志
ハイデルベルグ・ジャパン㈱ マー
中村 元彦
㈱プレシーズ 専務取締役クリエイ
秋庭 慎一
ティブ・ディレクター
ケティング本部企画宣伝課課長
野々山義郎
コダックグラフィックコミュニケー
萩原 誠
萩原印刷㈱ 代表取締役社長
ションズ㈱ マーケティングコミュ
ニケーション部部長
5
平成 19 年度マーケティング(営業)委員会報告
●――――――――
東京都印刷工業組合 マーケティング(営業)委員会委員長
全日本印刷工業組合連合会 マーケティング部会
萩原 誠
平成 19 年度マーケティング委員会(営業)のご
報告をさせていただきます。
一昨年に業態変革推進プラン第3ステージが発表
③印刷業のソフト化・サービス化の方向性探
求
④セールスプロモーションに関する研究
され、活動のテーマがワンストップサービスとなり
⑤クロスメディアへの対応
ました。それを実現するためには、印刷業における
⑥関連業種とのコラボレーションの可能性へ
マーケティングの研究が重要となります。お客様の
の研究
ことを良く理解し、分析し、マーケティング戦略を
一緒になって考えていく『ビジネスパートナー』と
本章で報告させていただきますが、本年度は各テ
しての役割に少しでも近づいていくことが必要とさ
ーマに沿った内容に則り、より身近にかつ実践的に
れています。
マーケティング戦略を感じられる勉強会やセミナー
を開催いたしました。①の『顧客への提案営業手法
本年度当委員会では、印刷会社がマーケティング
の紹介』では、日本 POP 広告協会の坂井田専務理
対策を推進し、かつソリューション営業(問題解決
事をお招きし、プロモーショナル戦略企画の手順と
型提案営業)を実践するにあたり必要な内容として、
プロモーショナルマーケッターの認定資格試験の制
以下のテーマを設定しました。
度を学びました。②の『高付加価値印刷の研究』で
①顧客への提案営業手法の紹介
はリョービイマジクス㈱様より【価格競争を脱却す
②高付加価値印刷の研究(FM スクリーニン
る高付加価値印刷とは】のテーマで UV 印刷のマー
グ・ UV 印刷・加工等)
ケティング戦略的優位性を、デモンストレーション
マーケティング・アプローチの重要性
クライアントのマーケティング戦略への参画(提案営業とソリューション提供)
6
平成 19 年度マーケティング(営業)委員会報告
とリョービユーザーによる成功事例紹介を併せてご
けるマーケティング活用と組織のイノベーション』
紹介いただきました。③の『印刷業のソフト化・サ
をテーマに、印刷業にとって必要なマーケティング
ービス化の方向性探求』では日本のブランディング
戦略と組織作りの勉強会を開催しました。また、平
の第一人者である㈱グラムコの山田社長をお招き
成 20 年 2 月には㈱ビジネスコミュニケーション研究
し、顧客の企業価値を高めるブランド戦略を、多く
所の田中社長をお招きし、【戦略営業のための実践
の国内外の事例を挙げてわかりやすく説明していた
マーケティング講座∼選択、差別化、集中で勝ち残
だきました。また平成 19 年7月には全印工連で正
る!!】と題して、マーケティング志向の営業戦略へ
式事業として決まったメディアユニバーサルデザイ
の取り組みと『顧客接点』での現場力(営業力)を
ン(MUD)を、浅野理事長から東京の組合員の皆
再生するための“組織力(戦略力)”の確立と実践
さんにもぜひこのスキームをお伝えするようにとお
の必要性を勉強し、多数の参加者とマーケティング
話をいただき勉強会を開催しました。
戦略を学ぶ良い機会をいただきました。
⑥の『関連業種とのコラボレーションの可能性へ
本年度マーケティング(営業)委員会で行った勉
の研究』では経営革新委員会および全印工連マーケ
強会およびセミナーを抄録したこの報告書が、皆様
ティング部会との共催で【今日からできるビジネス
の御事業の発展のための参考やヒントとなりますこ
コラボレーション−仲間6社からのプレゼンテーシ
とを、委員会メンバー一同心より願っております。
ョンと商品紹介】をテーマに、今回は初めての試み
またこの場をお借りしまして、当委員会にご多忙に
として、新しい DM や販促ツールなどユニークな印
も関わらず、貴重なご意見をいただき、かつ快くご
刷関連物を得意とする委員がプレゼンテーションを
協力いただいた多くの講師はじめ、メーカー・ベン
行い、その後各社のブースで商品説明と商談を進め
ダーの皆様、また最後になりますが、各委員会勉強
る機会を設営させていただきました。
会をご担当いただいた副委員長の木村篤義様、瀬田
この他にも東京都印刷工業組合会員向けにマーケ
章弘様、塚田司郎様、渡邊一正様はじめ毎回ご出席
ティング(営業)委員会主催セミナーとして、10
いただいた委員の皆様に心より御礼申しあげます。
月に HDF21 の根本顧問をお招きし、『業態変革にお
平成 19 年度 東京都印刷工業組合 マーケティング(営業)委員会メンバー
花崎 博己
大東印刷工芸㈱
(所管副理事長)
鈴川 光哉
㈱気生堂印刷所
(城南支部)
萩原 誠
萩原印刷㈱
(委員長)
中川 幸雄
中川精巧印刷㈱
(山之手支部)
塚田 司郎
錦明印刷㈱
(千代田支部)
山田 秀夫
㈱山田写真製版所
(城西支部)
渡辺嘉一郎
秀和印刷㈱
(日本橋支部)
峰岸 佳典
㈲峰岸印刷社
(杉並支部)
横山 明夫
㈱白橋印刷所
(京橋支部)
有泉 誠幸
㈱シティプリント
(豊島支部)
臼田 真人
㈱アドピア
(港支部)
田中 裕
田中産業㈱
(板橋支部)
武内 暁
㈲企画社プランニングワン (新宿支部)
亀田 由人
三映印刷㈱
(練馬支部)
白倉 昌夫
㈱陽成社
(文京支部)
渡邊 一正
㈱杏林舎
(北支部)
仲川 和伸
伸和印刷㈱
(上野支部)
木村 篤義
創文印刷工業㈱
(荒川支部)
五十嵐直也
㈱英雲堂印刷所
(浅草支部)
瀬田 章弘
弘和印刷㈱
(足立支部)
横山 明弘
横山印刷㈱
(墨田支部)
古市 久也
三報社印刷㈱
(墨東支部)
安達 宏充
勝進印刷㈱
(江東支部)
小池 正雄
小池印刷
(三多摩支部)
7
事例研究報告〈1 〉
業態変革におけるマーケティング活用と組織の
イノベーション
―守りから攻める印刷業へ―
●――――――――
ハイデル・フォーラム 21
1. 業界環境の変化
業界環境の変化には次のようなものがあると思い
顧問
根本安規
うとしているのに、印刷会社は顧客満足度を知らな
いのです。印刷業界も新しい価値、ビジネスチャン
スを創造しながら企業のモデルを転換することが不
ます。
可欠になってきています。そこに、業態変革という
・ IT に伴う印刷産業の変化(IT 基盤整備)
言葉が出てきました。
・メディアの多様化による顧客のビジネススタイル
変化への対応
印刷業には請負型製造業とソリューション型製造
業があります。請負型は印刷物を請け負う形で、こ
・顧客の役に立つ「ワンストップサービス」
れは今後もなくならないと思います。ソリューショ
・新しいビジネスモデルの登場
ン型製造業は印刷技術や加工技術のノウハウを提供
・生産技術のデジタル化
します。そして3つ目として情報サービス業があり、
・部分最適から全体最適を目指す経営へ
いわゆるペーパーメディアからクロスメディアまで
・ SCM(Supply Chain Management)
広げた展開ができる会社です。印刷会社は請負から
・印刷業のソフトサービス化
情報産業に向かうのではなく、経営戦略や顧客によ
・印刷と IT の融合
ってこの3つを選択していくべきです。
・マネジメント新時代
業態変革と言ってもこのベースは変わりません。
変えていくのは創革型経営、つまり「創造と革新」
2.印刷業の業態変革
顧客はクロスメディア戦略を求めて販売を広げよ
8
を継続している企業こそ、安定した成長を遂げ、付
加価値ビジネスを生み出すのです。請負型製造業、
ソリューション型製造業、情報サービス業の3つの
業態変革におけるマーケティング活用と組織のイノベーション
タイプは、各々やり方は違いますが、それぞれグレ
ィング)、④マーケティングミックス(4 P の組合
ードアップしていくことが印刷業界に必要なことで
せ)、⑤市場調査でのデータ・情報入手の5つです。
す。
5.印刷業のマーケティング戦略
3.無形資源の強化(差別化)
印刷業の営業は「新規顧客の獲得」と「既存顧客
設備などの有形資源はどの会社でもいずれ追い付
の深耕」の2つしかありませんから、顧客のニーズ
くことができますが、無形資源(=人材)は真似し
の変化に対応したサービス・製品を作ることによっ
難いため差別化の中心になります。ノウハウ・知
て価値を認めてもらうということが重要です。言い
識・クリエイティブ・技術・企業文化・モチベーシ
方を変えれば、顧客のビジネス価値を創造するため
ョン等が他社とどう違うのかを考え、その上でマー
のお手伝いをします。それによって顧客とのパート
ケティング力による差別化を図るのです。
ナーシップの確立と共生が可能になります。そのた
めには営業がマーケティングセンスを身に付け、信
4.なぜマーケティングが必要なのか
頼のあるコーディネーターを目指す必要がありま
す。
バブル期以前の時代は、メーカーは生産志向で作
れば売れる、安ければ売れるという時代でマーケテ
生活が豊かになって顧客が欲しいと思わなければ売
6.マ ー ケ テ ィ ン グ セ ン ス を 身 に
つける
れなくなり、メーカーは生産志向から顧客志向にな
営業職のモチベーションを効果的に高めるため
って、何が欲しいのか、なぜ欲しいのかということ
に、まず自社の現状を把握し、印刷営業の方々はマ
が重要になってきました。そこでマーケティング活
ーケティングセンスを身につけるという目標設定を
動が必要になってきたのです。ここで大事なのは、
します。そうすると必ずその会社のギャップ(課題)
①環境分析(3 C 分析)、②目標設定(売上、シェ
が出てきます。このギャップを埋めるためには、①
ア、利益)、③マーケティング戦略(STP マーケテ
マーケティングマインド、②問題解決力、③コミュ
ィングは必要ありませんでした。ところが消費者の
9
事例研究報告[1]
ニケーションの技術、④マネジメントシステム、⑤
風土づくりの5つが必要で、これによって顧客のニ
ーズを掴むのです。
8.まとめ
差別化競争時代に勝ち抜くためには、高度な技術
力、機械設備と効率的なオペレーションを武器に積
7.営業マンの質を高める
極的なソリューション営業を提供し、顧客満足度を
高める関係性志向型を展開する必要があります。そ
印刷営業で大事なのは問題解決型です。そのため
して長期的な強い信頼関係を維持し、良好なパート
には顧客の動向を探って市場環境を把握することで
ナーシップを確立することです。そのためには営業
す。それによって顧客のニーズや競合印刷会社を調
戦略に基づいたコミュニケーションの技術と優れた
べながら仕事を取れる仕組みを考えていくのです。
マーケティング能力を備えた営業マンの育成が必要
そのためにはマーケティングセンスを身につけるこ
です。また、顧客側を考えたワンストップサービス
とが大事です。どうやって身につけるかというと、
を提供していく必要があります。企業は「創造と革
プロモーショナル・マーケターを目指す人間を作る
新」を継続し、高い付加価値ビジネスにチャレンジ
ことです。これによって営業力に差をつけることが
しなければなりません。
できて、顧客の信頼を得ることができるのです。
※本稿は平成 19 年 10 月5日現在のものです。
10
事例研究報告〈2 〉
価格競争から脱却する高付加価値印刷とは?
―印刷業界の動向―
●――――――――
リョービイマジクス㈱ CS 本部技術支援課長 藤澤孝次
現在の印刷市場は単価の下落、小ロット・小部数
化へとマーケットが動いています。この中で今後印
刷業界はどのような方向性で進めていけばいいのか
ヒッキーの削減効果)
・両面印刷時の裏キズ、コスレの解消(8色両面印
刷(UV 仕様)による問題解決)
という相談を地方の印刷会社からよく受けます。そ
・ブロッキング(裏づき)の解消
の声を整理してみると、3つのキーワードが挙がっ
③印刷作業スペースの縮小
てきます。①高生産性を極める(小ロット化・短納
・印刷物の乾燥エリアの削減
期化)、②高付加価値性を極める(高付加価値化)、
④用紙以外の材料への印刷
③デジタルを極める(フルデジタル化)です。どの
・アルミ紙、PET、ユポ、フィルム、ビニールな
方向性を極めるのかは各印刷会社によって変わって
きます。
どの特殊材料
(3)UV 印刷システムとは?
大きなポイントとなるのは、印刷機上に紫外線発
1.今なぜ、UV 印刷が話題なのか?
(1)なぜ UV 印刷が増えているのか?
IGAS2007 でも9割くらいの印刷機メーカーが
UV 仕様機を展示していましたが、なぜ UV 印刷を
生装置(UV 乾燥装置)が取り付けられていること
です。印刷されたものが UV 乾燥装置を通過する時
に、0.3 秒∼ 0.5 秒で硬化します。また材料に関して
も UV 用のインキが使われます。
(4)UV 印刷の使用用途
始める印刷会社が多いのでしょうか。1番大きな理
由は新規マーケットへの営業アプローチへの期待で
す。UV 印刷ビジネスによる印刷売上拡大と、非紙
媒体へのアプローチや高付加価値印刷へのアプロー
チといった新規マーケットの拡大を期待しているの
です。
(2)UV 印刷によるメリット
UV 印刷には次のメリットがあります。
①乾燥待ち時間のカットによる短納期対応
・印刷後、すぐに次工程への移行が可能
・納期が読める(乾燥待ち時間がゼロ)
②クレームカット
・スプレーパウダー未使用(クリーンな印刷環境と
11
事例研究報告[2]
2.高付加価値印刷サンプルと製造
方法の紹介
(1)小ロット短納期のクリアファイル印刷システム
透明なクリアファイルの大半は中国製です。中国
から仕入れてきたものに、従来であれば箔押しをし
てロゴを入れるという加工が大半でした。最近では
クライアントがノベルティグッズとして配布すると
いう需要が高まり、フィルムにカラーの印刷をして
コマーシャルをするという用途がここ 1 年半でブー
ムになっています。
行い、次にエンボス効果のある OP ニスという印刷
6色 UV 印刷機で印刷した場合、どのようにイン
ユニット用のニスをセットします(上図)。その後
キをセットしていくかを見ていくと(下図)、右側
に圧胴上の UV 乾燥装置を使って4色と OP ニスを
からフィルムが流れていって、KCMY の4色の刷
硬化し、全面に光沢ニスを乗せて紫外線を当てて全
り重ねを行い、その後に白インキを2回セットして
面を乾かすという形になります。プリプレス側での
おきます。ご存知のようにフィルムの印刷は逆像で
準備として、OP ニス用の刷版(ニスを弾かせたい
の印刷になるので、4色刷り重ねをした後に白引き
絵柄版、最終成果物としてザラザラになる所)を作
をしていきます。乾いていないと白が濁るので、圧
成しますので、プロセス4色+ OP ニス版の5色分
胴上に UV 乾燥装置をセットして、4色分の表面を
の刷版を出力します。
乾燥させ、その後に白を2回印刷します。本来なら
白の印刷も1回で終わらせたいのですが、オフセッ
(3)印刷物にメタリック感を出すメタリックカラー
印刷
ト印刷機のインキ膜厚に限界があるので2回印刷し
4色と銀を組み合わせてメタリック感を出す技法
ます。物によっては3回、4回印刷して白で裏写り
です。アルミの蒸着紙を使わずに通常のコートボー
しないようにします。
(2)2種類のニスによるエンボス調印刷
ル紙を用いて専用の銀インキを足してメタリック感
2種類のニスを使うことで、光沢感とエンボス感
を出します。1つの色で 615 色のメタルカラーが再
を引き出し、印刷物自体に立体感を出させることで
現できたり、デザインによってはホログラム的に見
付加価値を高めることができます。
えたり、立体的に見えるようにすることができます。
最初に KCMY と通常の4色のように刷り重ねを
12
印刷機のセッティングは1ユニット目で銀を刷
価格競争から脱却する高付加価値印刷とは?
り、1ユニットと2ユニットの間に UV 乾燥機をセ
プリンタのイメージドラムを痛めることがありませ
ットして銀を乾かします。その後4色を重ねて、物
ん。
によっては光沢ニスを引いたりします。これによっ
(5)レンズシートによるレンチキュラーシート印刷
て通常のプロセスとは違うメタリック感を出すこと
3次元効果や移り絵効果が出せるレンズフィルム
に直接印刷を行ないます。レンズの表面は蒲鉾状に
ができます。
(4)DM 向け圧着ハガキ印刷
なっていて(下図)、ここに下から逆像で印刷しま
ニスで密着させることができる DM 用のハガキ印
す。猫と犬の移り絵にする場合、猫と犬の絵柄を専
刷です。従来は紙ベースであれば糊、場合によって
用ソフトでズレた状態で合成させます。それを4色
はフィルムを貼って熱加工をして圧着させるという
で刷り重ねます。その時にレンズ面と絵柄面の見当
手法がありましたが、最近の傾向では環境保護の問
がしっかり合っていないと移り絵ができないので、
題でフィルム系は嫌われつつあり、環境に優しい印
通常の4色の見当調整をした後に、レンズフィルム
刷ということで UV ニスを使用するというテクニッ
と4色の見当調整を行ないます。
クがあります。なぜ今、圧着ハガキが増えているか
というと、1つはプライバシー保護です。もう1つ
は通常のハガキに比べて情報量が2∼3倍になるか
らです。
DM などで要求されるのは、住所録等のバリアブ
ルデータ(可変情報)のプリントです。通常の油性
印刷システムの場合、パウダースプレーを飛散させ
て印刷するため、そのままプリンタで出力を行なう
と、スプレー粉がプリンタのイメージドラムに定着
してイメージドラムがすぐに痛んでしまいます。一
方、UV 印刷の場合ノンパウダーによる印刷のため、
―リョービユーザーによるビジネス成功事例紹介―
●――――――――
1.会社概要(長野県伊那市)
(1)創 業:昭和 23 年
(2)従業員数: 30 名
(3)取得資格
㈱小松総合印刷 代表取締役社長
小松肇彦
2.設備
(1)枚葉オフセット印刷機
RYOBI 686P(菊半 6 色反転装置付 UV 仕様機)
RYOBI 756(B2 6 色ストレート UV 仕様機)
平成 12 年5月 ISO9002 取得
(2)オフセット輪転機: B2 サイズの 4 色輪転機
平成 13 年5月 経営革新支援法認定
(3)CTP :菊全サイズの CTP
平成 16 年1月 ISO9001、2000 認証取得
(4)製本設備
平成 18 年 10 月 プライバシーマーク取得
平成 19 年5月 個人情報保護士認定証
(PiiP)取得
平成 19 年5月 環境保護印刷ゴールド+取得
13
事例研究報告[2]
3.なぜ UV 印刷を手掛けたのか?
2000 年頃に JAGRA の米国視察ツアーに参加し、
UV 印刷は乾燥待ちがないので、クレームがあっ
た場合、他の仕事を止めてそちらの作業を行なえば
1日で対応できることが多い。
アメリカの印刷会社を 20 社程度見学し、そこで6
色の輪転機を見て驚きました。アメリカで6色の印
刷需要があるのなら、いずれ日本でも需要が出てく
6.商品の種類
るだろうと思い、今までできなかった新しい印刷が
① UV シックスカラー印刷
できる方法を探すようになり、結果的に UV 印刷に
②圧着ハガキ印刷
辿り着いて、菊半サイズの6色機(UV 乾燥装置+
③スクラッチカード印刷
ニスコーター搭載)を導入しました。
④メタル FX 印刷
⑤エンボス調印刷
4.UV 印刷機導入で最初に手掛け
た仕事
上記の5つの印刷それぞれの商品だけなく、5種
類の印刷を組み合わせて、新たな高付加価値を生み
出しています。
当初仕事のメドもないまま印刷機を導入しました
が、リョービ営業担当から圧着ハガキを提案され、
手始めに圧着ハガキ印刷を行なうことにしました。
7.取り組み
現在も圧着ハガキ印刷のウェイトはかなり高くなっ
(1)全国に営業展開
ていますが、UV の印刷機があって後ろにコーター
が1つ付いていれば誰でもできるものなので、少し
ずつ価格競争の時代に入ってきています。今では通
常より大判のハガキや、バリアブル対応など付加価
値を付けた形で仕事をしています。
印刷に関わる展示会にブース出展し、サンプルを
大量配布しています。
(2)サンプル作り
良い武器(サンプル)を持たなければ、ビジネス
に結びつきません。
(3)インターネットによる IT ソリューション
5.UV 印刷で苦労した点
(1)ノウハウの習得に苦労した
UV 印刷の資材は、通常の印刷資材の仕入れルー
ホームページからの見積依頼や資料請求が多くな
っていますので、SEO 対策としてちゃんとしたホ
ームページを作り、こまめに更新をして、新しい情
報を常にアップしていくようにしています。
トと違うので、その点から苦労しました。例えば紙
屋さんのルートだと UV 印刷の資材が非常に高かっ
たりします。
(2)クライアントに提案するための商品開発
8.クライアントの評価
(1)高付加価値印刷のリピートが多い
お客様がいない中で始めた UV 印刷の仕事なの
製版技術を要求されるシックスカラー印刷は看板
で、サンプルを沢山作り、そして少しずつ小さな展
にはなります。4色の場合でも色にうるさいお客様
示会に出展するようになりました。当初、印刷会社
の仕事はだんだん増えてきています。
をターゲットとしていましたので、印刷会社の方が
(2)クライアントからの新商品開発要望があります
見てそのまま真似ていただけるようなサンプルを作
要望に応えることにより、新しいノウハウも生ま
るということを一生懸命やっていました。
(3)早期クレーム対応は新たなビジネスチャンス
14
れます。
価格競争から脱却する高付加価値印刷とは?
9.環境への配慮
(1)環境保護印刷は大きな企業 PR となる
大手の仕事だと環境保護は重要な要件となるの
で、現在はクリオネマークを取得していますが森林
考えています。
(4)まとめ
①「売れ筋商品」を作る
・見せ筋
シックスカラーでエンボス調の印刷物が
「見せ筋」
認証の取得も検討しています。また UV インキは
になりますが、実際にはこれだけ手間をかけた印刷
VOC を排出しないので、これも環境保護の面でメ
物をご発注いただくことはありません。しかし、あ
リットがあります。
る程度関心を持っていただくことはできますので、
(2)UV 印刷でも無処理版は使用可能か
現像処理をするとどうしても現像液の濃度や温度
によって網点が変わってくるというようなことがあ
それがだんだんと「売り筋」「売れ筋」になってい
けばいいと考えています。
・売り筋
りますので、印刷品質を安定化させる上で、全てデ
バリアブルな圧着、パスワード等が入った圧着・
ジタルで完結するのが無処理版のメリットで、UV
スクラッチカードなどが増えてきています。またエ
での高品質な印刷物(シックスカラーなど)には必
ンボス調の印刷も少し増え始めています。
要不可欠です。
・売れ筋
(3)今後のビジネスの方向性
①製版技術をさらにレベルアップする
高品位印刷をするためには、製版のレベルアップ
は必要不可欠で、きれいな印刷物を目指すという、
ある意味では原点回帰が必要です。
②印刷物とネットワーク(IT ソリューション)を
絡めた企業の手伝い
ホームページ等のネットワークを使った仕事の受
注では、現状は北海道から九州までのお客様がいま
通常の圧着ハガキ、大判の圧着ハガキ、スクラッ
チの印刷物が8割程度を占めます。
②最新トレンドに耳を傾ける
・ UV 印刷が今後どのようになるのかということに
しっかり耳を傾けます。
・ニスによる塗工ノウハウを貯めることで付加価値
印刷物が生まれてきます。
・マーケットトレンドは、市場の声をしっかり理解
することが重要です。
すので、このお客様とのパイプを太くしていきたい
ということと、企業の販促担当の方が直接覗きにき
※本稿は平成 19 年 11 月 13 日現在のものです。
てくれるようなホームページを整備していきたいと
15
事例研究報告〈3 〉
顧客の創造価値を高めるための「ブランド戦略」を
考える ―自社変革の柱として―
グラムコ㈱ 代表取締役社長
●――――――――
山田敦郎
ブランド戦略を顧客のためにご活用いただけるよ
事情があります。両者のブランドに関する思いが繋
うに、また印刷会社でもブランド化を図っていくこ
がったことで、今日のブランド戦略の時代が到来し
を視点に、ご自身の会社に当てはめながらお聞きく
ました。
ださい。当社は広告代理店や IT コンサルと協業し
たり、印刷会社とも組んで仕事をしたこともありま
(3)消費者ブランドロイヤリティ価格反応度
公正取引委員会の「ブランド力と競争政策に関す
す。印刷業界を近接領域として認識していますので、
る実態調査」によると、10 %の価格差で他社へ乗
印刷会社の参考になるような視点で、お話しします。
り換えない割合は、食料品、日用雑貨では約 50 %、
耐久消費財、時計・宝飾品、靴・バッグなどのブラ
1.そもそもブランドとは何か?
(1)「ブランド」とは
ブランドの定義としては、好まれ選ばれる、値崩
ンド力が強い物では約 80 %となり、購入する上で
ブランドが大きな判断材料になっています。
(4)なぜ企業ブランド戦略に取り組むのか
構築取り組みの目的としては、①消費者の反復継
れしない、確固たる良い評判をもたらす等があり、
続購入(長期的な取引)、②社会的信用の獲得、③
これによる長期的な取引により利益を生むことがで
他社との差別化による高収益、④既存ブランド活用
きます。ブランドは CI と異なり、事業戦略と直結
により事業拡張が容易、⑤取引条件交渉での自社主
し商いに繋げていく考え方が重要です。
導などがあります。
ブランドは企業経営にとって欠くことのできない
(5)ブランドの5つの定義
重要な経営資源(無形資産)です。ブランド戦略と
①ステークホルダー(顧客、取引先、株主投資家、
は、他と峻別できる自社の強みを見つけ出し、経営
社員、消費者生活者、社会)の記憶の中に蓄積さ
戦略として積極的にブランド構築に取り組み、ブラ
れる、プラスになる良い体験、良い印象の総体。
ンド力を高めること、即ち企業価値を高める戦略で
②企業からステークホルダーへの約束と実行であ
す。米国に始まり、欧州、中国でも積極的に取り組
り、その結果生まれるステークホルダーから企業
みがなされ、世界的な潮流になってきています。グ
への期待と共感。
ローバル企業は、ブランド戦略を引っ提げて新たに
市場に参入してきます。
(2)企業がブランド戦略に注力している理由は?
法人・組織側には、①技術レベルが進み他社との
③良い記憶の蓄積や、期待共感を表すシンボルであ
り、ステークホルダーが選択する際のより良い目
印となっている。
④企業構成員、関係者にとってのプライドの源泉。
差異化が図れず、付加価値が生み出しにくい、②顧
社員が誇りを持てないような会社は、ブランド構
客・ステークホルダーの好感を得て主体的に選別さ
築できない。
れなくてはならない等の事情があります。ステーク
ホルダー側には、①間違いのない物を選びたい、②
⑤プロフィットを生み出す無形資産であり知的財
産。
共感できる物を選びたい、③自分のライフスタイル
・高く売れる…プレミアム価格(価格の利益)
にあったものを選択することで心を満たしたい等の
・多く売れる…優先的選択(量の利益)
16
顧客の創造価値を高めるための「ブランド戦略」を考える
・長く売れる…ごひいき筋(期間の利益)
(6)ブランドは企業とステークホルダーを結ぶ深
い絆
ブランドは外へ向けての発信は当然ですが、発信
源となる社員を啓発するプログラムを組んで教育
⑦ブランドポジショニング
競合他社と市場における明快な地位の差異化はど
うするのか。
⑧ブランド構造
重層的なブランド構造をどうすべきか。事業ごと
し、経営トップ層からマネジメント層、一般社員、
に、またはサービスや商品ごとに別ブランドを賦与
パート、アルバイトまでブランドコンセプトを共有
するのか、ワンブランド・ワンボイスで貫き通すの
していくことが重要です。
か。どのブランドに、ブランド価値を蓄積させてい
(7)ブランド企業の条件
著名なブランド 100 社を調べてみると、卓抜性
(匠の気質)、広知性(顧客の評判)、独創性(革新
発想)
、伝説性(ちょっといい話)を持っています。
くのか。
⑨体験コミュニケーション設計
戦略顧客が、「自分のもの」と思える顧客接点の
在り方とは何か。各接点でボイスが一貫性を持って
いること。
2.ブランドコンセプト基盤
(ブランドモデル開発大概念)
(2)ステークホルダーの心に響かせる「体験」
機能的価値の設定と情緒的価値の設定がありま
す。現在は技術革新が進み、他に比べてとりわけ秀
(1)ブランドモデル
でた特別な技術や特性だけでは差異化が難しくなっ
①ブランドバリュー
てきています。顧客の情緒的な欲求を満たし、ステ
ブランドがステークホルダーに提供を約束する価
値。当該企業が顧客たちに提供可能な他社に真似の
ークホルダーの心に響かせることで差異化を図るこ
とが求められます。
できない絶対的な価値。
②ブランド理念(あるいはブランドプロミス、ブラ
ンドビジョン)
提供価値の約束と、提供の実行行為を裏付ける信
念とは何か。
③ブランドメッセージ
ブランドの価値や理念をステークホルダーに分か
3.ブランド構築事例
(1)千疋屋総本店(東京・日本橋)
日本でいち早く新しい食文化(果物)を取り入れ
普及定着させ、果物を通じて食文化に新たな豊かさ
(高級感・本格志向)を付加させました。40 代以上
りやすく伝えるためのメッセージ。
の認知度は 100 %ですが、顧客が高齢化しているの
④ブランドデザイン
で若年層を取り込む必要がでてきました。
ブランドを体現する VI(ビジュアルアイデンテ
時代の流れに即応した、拡張力、チャレンジ精神を
ィティ)等デザインをどうすべきか。あるいはブラ
持った革新的な方向性が、ブランディングによって
ンドを感じさせる可視化させた世界はどうあるべき
見えてきます。千疋屋ブランドが、これからも約束
か。
し続ける価値(コアバリュー)は、「千疋屋でしか
⑤ブランドパーソナリティ
味わえないワンランク上の豊かさ」です。伝統を守
当該ブランドを、例えば人に与えるとどんな人格
になるかを考える。
⑥戦略顧客
りながらブランドを進化させています。
(2)㈱損害保険ジャパン
安田火災海上、日産火災海上、大成火災海上、第
特に注力すべきターゲット像とはどのようなもの
一ライフ損保の4社合併案件として、損保業界トッ
か。互いに響きあえるステークホルダー像の規定。
プの東京海上と同列の立場や先進的保険グループと
17
事例研究報告[3]
しての若返り等を目的に、「これまでにない全く新
しい保険会社へ」をコンセプトに取り組みました。
業態名をブランド名の前面に出すことにより、事
なった。
⑤顧客の決裁権者が上層部の場合、著名企業が選択
される。
業ドメインのわかりやすさと日本を代表する損保と
してのメジャー感を表現しました。昇る朝日にジャ
パンの「J」を重ね合わせた VI を開発し、各種展開
アイテムには統一感を際立たせるために、「J」をモ
チーフしたサブエレメントを付加する手法を用いま
した。
4.ブランドは資産
(1)企業ブランド調査(日経リサーチ)
2006 年4月実施、評価対象は各業種を代表する
530 社で、回答はビジネスパーソン 16,520 人、消費
新 VI を社員全員と共有し、ブランド管理の重要
者 46,634 人。価格が高くてもその企業の商品を買う
性についても理解を促すために、簡易マニュアルと
か(プレミアム)、その企業の商品をどの程度人に
ブランドブック(ブランドコンセプトの解説書・教
薦めたいか(推奨度)について調査したところ、1
科書)を全社員に配布しました。ブランド接点にお
位はマイクロソフト、2位はキヤノン、3位はトヨ
ける一貫したブランド表現を体現する各種アプリケ
タ自動車でした。
ーションを開発し、フォーマット化することでコス
(2)商品分野別代表ブランドの想起
ト削減も実現しました。
2004 年5月のグラムコ独自のブランド調査によ
(3)㈱インテリジェンス
ると、各分野での1位は、食品が味の素、自動車が
同社は人材総合サービス業として大きく飛躍すべ
き時を迎えて、企業信頼を高めたいとの思いがあり
ました。徹底的に社内グループインタビュー、トッ
トヨタ、家電がソニー、腕時計がセイコー、デジカ
メがソニー、化粧品が資生堂でした。
(3)CB バリュエーター(企業ブランド価値評価)
プヒアリングなどの内部の思いを救い上げるリサー
日本経済新聞社が一ツ橋大学副学長の伊藤邦雄氏
チを行い、また個人顧客と企業顧客にもヒアリング
と組んで、2001 年 10 月から年1回、日本企業約 700
を実施し、ブランドモデルに基づく価値やビジョン
社を対象に実施している調査では、2002 年以来ト
を規定しました。ブランドビジョンは Positive
ヨタが連続首位で、そのブランドの値段を換算する
Work Choice、コアバリューは Fit & Grow、ブラン
と 2007 年版の公表数字で9兆 8,600 億円、キャノン
ドパーソナリティは Intelligence & Humanity、ブ
は4兆 9,900 億円、ホンダは3兆 5,000 億円、ソニー
ランドスローガンは「はたらくを楽しもう」となり
は1兆 9,400 億円となっています。
ました。人の職業人生を左右する重要な仕事である
ことを再認識するため、改めて社内教育活動を行い
ました。
(4)中堅企業・ B2B 企業事例
B2B 企業、中堅企業がブランド戦略に注力してい
る理由は次のような点です。
①同業、他社製品・サービスとの差異化が困難。
②企業間競争に加えて、内なるグローバル化の進展
でさらに競合激化。
③優秀な人材の採用が困難、定着率も悪化(しかし
知名度が低くイメージも悪い)
。
④取引先企業の購買にあたって、チェックが厳しく
18
(4)米・ハリスボール(人気ブランド)調査
2007 年6月、米の成人 2351 人を対象に、最も優
れていると思うブランドを3つ挙げてもらう方法で
実施した調査では、ソニーが7年連続で1位に選ば
れ、以下はデル、コカコーラ、トヨタ自動車と続い
ています。
(5)グラムコ上海・ブランド意識調査
2004 年調査では1位 IBM、2位コカコーラ、3
位ナイキです。2006 年は1位ソニー、2位 IBM、
3位 LENOVO で、ソニーは日本より海外で依然と
して人気が高くなっています。7位に SAMSUNG
が入り、韓国企業が伸びてきています。
顧客の創造価値を高めるための「ブランド戦略」を考える
5.ブランド構築手法
(1)プレリサーチ
内部ヒアリング(トップ、社員グループ)、外部
ヒアリング(取引先、消費者グループ、有識者)、
各種環境調査(自己・競合・市場・顧客)、ブラン
ド体系把握調査、視覚監査、統合分析などを徹底し
て行ないます。これにより社内と社外のギャップ、
キーワードの一部を都合の良い文字に変えたり削
除したりする方法。
例 adherence(粘着、執着)→ ADERANS
⑤その他の造語法
擬人化、繰り返し、擬音・擬態語、記号化、掛声、
方言など。
(5)ブランドステートメントの主な構成要素
ステートメント=声明文は企業(ブランド)のこ
自社の強み・弱み、競合他社の状況を、向かうべき
れからのあるべき姿を明確に定義し、正確に明文化
方向を整理し、ブランドモデルでコンセプトを創っ
するものです。
ていきます。
・ BRAND VISION ―企業の将来像、企業の夢や未
ブランドが主に獲得したい顧客像(戦略顧客)が
明確でないと、自社のブランドの立ち位置が不明確
来のありたい姿
・ BRAND MISSION ―社会的存在意義、企業が社
になります。競合他社との差異化を図ることからも、
会に果たすべき役割、存在
戦略顧客像の規定が必要になります。
意義
(2)マルチブランド戦略
マルチブランドの各種戦略体系には市場網羅型、
顧客育成型、顧客囲い込み型があります。トヨタは
マルチブランド戦略で顧客を切り分け、新車市場の
・ BRAND VALUE ―提供価値、将来像を実現する
過程で提供する価値
・ BRAND ACTION ―提供姿勢、企業の持つべき
精神、行動の姿勢
48.5 %を占めています。
(3)ブランドの明文化(社名開発基準の必要性)
プレリサーチや統合分析を踏まえて、最低限のル
ールを設定することで、社名開発に関わる人々が、
6.ブランド体験接点連鎖と主要な
接点設計
自分の好き嫌いに左右されず同じ土俵で同じゴール
ブランドは人、店舗、印刷物、商品、看板など
を目指し、効率的に開発することができます。また、
様々な接点で、顧客に与えられなければなりません。
社名絞り込みの際に、基準と整合性の度合いで絞り
二度以上の良い体験、良い記憶がブランドをつくり、
込むことができます。
ブランド接点は同じ「ボイス」
(話法)と「トーン」
(4)社名開発手法
①プラス造語法 A+B=AB
二つの単語を組み合わせる方法。例 ポストイッ
(調子)で連鎖しているべきです。ショールームは
ブランドの世界観を伝える最も重要な体験接点(ブ
ランドスペースという概念)で、店舗・売場もブラ
ト(POST+IT=POST-IT)
ンドワールドの効果的な発信拠点となります。ブラ
②減量造語法 A+B=ab
ンドスペースは商品・映像・音響・手触り・香りの
二つの単語を組み合わせ、発音しやすいように文
五感へ訴求する複合体験型になっています。
字を省略する方法。
例 ハンディーカム
(HANDY+CAMERA=HANDYCAM)
③頭文字造語法
例 JAPAN RAILWAYS → JR
④変形造語法 A=A’
7.なぜ中国でブランドが必要なの
か?
(1)世界の工場から世界の市場へ
中国は人口約 13 億人、都市部住所者4億 6,500 万
19
事例研究報告[3]
人、約 15,000 万所帯の巨大市場であり、その中で特
にした調査で、購入時に最も重視するポイントの中
に富豪層 0.3 %、上流中間層2%、中間層 15 %を効
で、機能や味に次いでブランドが重視され、特に食
率よく獲得していくことが重要です。また、GDP
品・飲料ではその傾向が著しくなっています。
も大きく伸びており、都市市外部で GDP が最も大
きいのは上海市の約 6,180 億元(約9兆 2,700 億円)、
次いで北京市の約 3,557 億元(5兆 3,300 万円)です。
(2)グラムコ上海・ブランド意識調査
2006 年に自動車、パソコン、食品、飲料を対象
20
※本稿は平成 19 年9月 19 日現在のものです。
事例研究報告〈4 〉
戦略営業のための「実践マーケティング講座」
―選択、差別化、集中で勝ち残る!!―
●――――――――
㈱ビジネスコミュニケーション研究所
1.売上拡大の限界
売上拡大の前提は「人口増加」です。それによっ
代表取締役
田中 信一
4.印刷業は、みな同じ…?!
(1)競争要因が「類似同質化」に陥っている
て、①経済活動が活発化し、②投資が増加し、③所
市場の成熟、技術の進歩、デジタル・ IT 化の進
得が増え、④消費意欲が高まり、⑤モノが売れます。
展により、印刷業における競争要因は、品質、価格、
しかし、2005 年から日本の人口は減りはじめ、
納期の3大基本競争要因に加え、デザイン、IT 対
2012 ∼ 13 年あたりから毎年恐ろしい勢いで減ると
応など、同業他社とほぼ横並びであるため、究極的
言われています。人口が減っていけば売上拡大の前
には「価格」に落ち着いてしまっています。
提が崩れます。
2.価格競争の限界
(2)技術進歩が進むほど、
「製品のコモディティ化」
が進む
技術の進歩により、製品の高品質化、低コスト化、
世の中には儲からない商売があります。それは
短納期化が進み、しかも競合他社との差別性が薄れ
「売価の決定権」が「買い手」に握られている商売
てきます。加えて、IT 化やグローバル化がコモデ
です。どんなに安くても、売り値を売り手が決めて
ィティ化のスピードを速め、先行者利益をも危うく
いる商売は儲かる商売です。しかし安さだけの勝負
は長続きしません。価格勝負は早い時期に限界が訪
れます。なぜなら、それは提供する側の問題ではな
します。
(3)印刷会社自身が、「業界の常識」に捉われすぎ
ている
く、買い手の「慣れ」と「飽き」があるからです。
印刷会社にとって企業成長の要とは「高品質、低
価格勝負をしながら価格以外の勝負の土俵をみつ
価格、短納期」ですから、設備投資は欠かせません。
け、作るのが経営者の使命です。
印刷会社にとってよい顧客とは、印刷発注量、案件
3.お客様の悩みや嘆き
少子化、高齢化、規制緩和、デフレ、出店過多、
グローバル化、個性化、多様化など、時代を表すキ
ーワードはいろいろありますが、いずれにしても今
数の多い顧客です。顧客毎に要求される仕様、価格、
対応が異なりますので、顧客毎の個別対応が不可欠
です。
(4)一貫体制を構築するほど、「高コスト体質」に
なる
後「簡単には売れない時代」が続くでしょう。われ
生産、製法デジタル化による恩恵は、社内一貫製
われのお客様がこのような状況で商売や事業が大変
造体制の構築が前提です。社内一貫体制の構築は、
なのに、印刷会社の多くは十年一日の如く、相変わ
付加価値の向上(低変動費)と引き換えに、企業を
らず“印刷をいただく”活動をしています。そして
高コスト体質の、つまり燃費の悪い車にしてしまい
誰でもできる、1番手っ取り早い方法で受注し、や
ます。高コスト体質を維持することは、さらなる低
るべきことを先送りしているのです。
価格受注に拍車をかけていきます。
21
事例研究報告[4]
ンターに在庫を持っていて必要に応じて販売すると
5.差別性の少ない印刷業の商売
いうことはできません。
印刷業は営業の受注がビジネスのスタートです。
Promotion(販売促進)は基本的に行なっていま
かつては量や品質が競争力の源泉でしたが、これは
せん。マーケティングで言う Promotion は広告活動、
工場の製造能力です。営業は“実を刈り取る”のみ
狭義の販売促進、PR、人的販売と言われています
で、“種蒔きや育成”はやったことがありません。
が、これは印刷会社ではやっていません。印刷会社
つまり経営そのものが類似同質化しています。(図
は広告をあまり出していません。商品広告、技術広
1)
告がしにくいし、企業広告も差別化が困難です。販
売促進はキャンペーンやイベントやバーゲンです
6.印刷業には戦略がなかった
が、“売り物”がないのでやりにくいのです。PR も
マーケティングの 4P 戦略(Product, Price, Place,
顧客は地域内で、しかも特定少数なので効果は薄く、
Promotion)とよく言いますが、これを印刷業に当
残るのは人的販売です。人的販売とは営業活動のこ
てはめて考えてみます。
とです。
Product(製品)は印刷物です。製造技術のデジ
印刷業にはマーケティング戦略という視点から見
タル化によって付加価値が下がってきました。どん
ても戦略がありません。製品の差別化ができないし、
なに品質の良い印刷物を作ってもお客様からは余計
価格の差別化もやりにくく、流通・販売網という差
にお金をもらえません。
別化もしにくいのです。Promotion もしていません。
Price(価格)を見ると、売り手が売価を決めら
れなければ価格による差別化はできません。また、
印刷業は元々製造原価を下げにくい商売なので、他
社が追随できないコストで作ることは難しいので
す。
Promotion の中で見つけていくとすると、唯一人的
販売活動が差別化できます。
7.
“勝つ”
ためには「戦略」
が不可欠
営業マンが標的顧客、顧客ニーズ、ライバル企業
Place(流通)は販売網や流通網のことですが、
残念ながら印刷業はオーダーメイドなので、流通セ
の調査と報告を会社に行ない、この調査と報告を元
に、標的顧客の選定、ライバルの設定、自社の売り
(図1)
22
戦略営業のための「実践マーケティング講座」
開発、営業投入量の決定、部隊の編成を行なうのを
戦略・方針の決定と言います。そして営業マネージ
ャー、
企画部などに戦略・方針を指示します(図2)。
9.競争戦略の印刷業への応用
市場を決めた後は競争の勝ち方を決めなければな
りません。
8.成長戦略の応用(市場の選択)
(1)コストリーダーシップ戦略
勝つ「場」を決めます。勝てる場は少なくともそ
広い地域や様々な顧客層に対して、量産効果や生
こで儲からなければいけません。まず「現在の市
産合理化などによって、徹底的にコストダウンを図
場・顧客×現在の製品分野」を起点に考えます。こ
ったり、あえて徹底的なプライスダウンでシェアを
こで生き残るにはライバル潰し、優良顧客に対する
高める戦略です。しかし量産効果による他社が追随
特典付与、提案営業等で顧客深耕、顧客囲い込みを
できないコストを実現するのが難しい印刷業では取
行ないます。ここを起点に「新しい市場・顧客」
(新市場、エリア拡大戦略)もしくは「新しい製品
りにくい戦略です。
(2)差別化戦略
分野」(新製品、新サービス開発戦略)へ事業拡大
広い地域や様々な顧客層に対して、“製品”、“サ
します。それから「新しい市場・顧客×新しい製品
ービス”、“製法”、“価格”、“販売方法”、その他の
分野」(多角化戦略)がありますが、これはなかな
いずれか、または組み合わせで、他社にはなかなか
か難しいでしょう。
真似のしにくい方法をとる戦略です。「製品差別化」
事業拡大にはいくつか決め手があります。軸足と
「顧客差別化」「営業差別化」などがあります。
なる既存の市場・顧客に対して今できることを売り
(3)集中戦略
つくしたのか、営業し尽したのかという問いかけが
①差別化集中
必要となります。深耕余地、囲い込み余地は意外に
狭い地域や特定の顧客層や、特定のニーズに対し
多いのです。 新規開拓には現製品、現サービスの
て、“製品”、“サービス”、“製法”、“価格”、“販売
競争力が決め手となり、そして既存顧客に対して新
方法”、その他のいずれか、または組合せで、他社
しいサービスを売る場合には、既存顧客に対する理
にはなかなか真似のしにくい方法をとる戦略です。
解度が決め手となります(図3)
。
その領域では圧倒的な優位性を目指します。印刷か
(図2)
23
事例研究報告[4]
けない
ら企画、コンサルティング、情報処理、マルチメデ
ィアなど、業態が変化する場合もあります。
・「集中」…使える資源には制約がある。
②コスト集中
3S の裏返しは、「網羅する」「模倣する」「分散・
狭い地域や特定の顧客層や、特定のニーズに対し
拡大」です。“何でもやって、他社のマネをして、
て、ロープライスを実現させます。これは地場の零
あれもこれも中途半端に手を出していく”のは、一
細印刷会社に多い戦略です。
見リスクが少ないように見えますが、これでは『ど
10.勝ち残るための戦略基本方程式
勝ち残るためにはどこで成長し、どうやって競争
するかを決めます(図4)。
の競争にも勝てない』のです。
12.営業リーダーのための視点①
「顧客視点」
■顧客視点のポイント
11.戦略立案の 6 つの視点
(3C + 3S)
・顧客の顧客やライバルの視点で顧客を評価す
る。
(1)顧客から選ばれるために、顧客を選ぶ
戦略立案の基本原則は 3C + 3S で考えます。
■第1の視点は、3C(Customer 顧客、Competitor
①顧客の業種・業態、規模、地域、求める機能、
ニーズなどの切り口で分類する。
競合、Company 自社)。
(2)選んだ顧客を徹底的に知る
・「顧客」のニーズを選択する。
・「競合」を把握しないと自社の優位性は分から
①顧客のビジネスを、顧客の客やライバルから理
解する。
ない。
②顧客の魅力度を定量的に掴む。
・「自社」の視点や都合だけで判断しない。
■第2の視点は、3S(選択、差別化、集中)で方
③顧客との親密度を定性的に掴む。
向性を決断する。
④顧客の悩みを掴み、打ち手を検討する。
・「選択」…全ての顧客には満足してもらえない。
・「差別化」…競合と異なる土俵を持たないとい
(3)選んだ顧客に選ばれるための営業を実践
①担当者との人間関係を強化する。
(図3)
24
戦略営業のための「実践マーケティング講座」
・ライバルの視点で自社を評価する。
②競合との差別化ポイントを営業する。
(1)自社の強み、持ち味は何か
③自社の強みや持ち味を集中営業する。
13.営業リーダーのための視点②
「競合視点」
①現在の自社の強みや持ち味は何か、またそれは
どの顧客に、どんなメリットを提供しているの
かを把握する。
(2)自社の強み、持ち味が通用する顧客は?
■競合視点のポイント
①他の既存顧客に、その強みや持ち味を提供でき
・顧客の視点でライバルと自社を比較する。
るか?
・ライバルの視点で自社を評価する。
(1)顧客は競合と比較して発注(選択)する
②また買ってもらうために強化する必要がある
か?
①まず基本要件で違いを出せるかを検討。
②次に人間関係、営業対応、サービス力で違いを
(3)競合から見て自社の何が脅威か
①競合から見て、自社の強みや持ち味は脅威にな
出せるかを検討。
(2)違いを出す(差別化する)ために競合を知る
っているか?
①ライバルの情報を集め、潰すライバル、無視す
②ライバルにもっと脅威を与えるにはどうしたら
いいか?
るライバル、友好関係を結ぶライバルなどを選
別する。
15.競争の勝ち方の基本セオリー
(3)競合と違いを出せるかが勝つポイント
①潰すライバルに対して、差別化ポイントをベー
スに徹底して攻め続ける。
自社のポジショニングによって「強者の戦い方」
14.営業リーダーのための視点③
「自社視点」
■自社視点のポイント
・顧客の視点で自社を評価する。
(1)戦い方を分ける
と「弱者の戦い方」を明確に使い分ける。
(2)弱い企業を狙う
競争相手と攻撃相手を分けて戦うこと。競争相手
は自社より上位、攻撃相手は自社より下位。(弱い
者いじめの原則)
(図4)
25
事例研究報告[4]
(3)ニッチ No.1を作る
地域、製品分野、顧客などを細分化し、集中する
ことで No.1を作る。
16.印刷業の3つの誤解
(1)
「戦略」なんて、大企業の話だから…。
傾向。加えてインターネット、電子メディア、異
業種参入が続く。
(3)当社にはそもそも人材がいないから…。
→よい人材がいれば生き残れるわけでもない。現
在の人材を戦略志向に変えるには、ゴールを見せ
なくてはならない。
→戦略とは、生き残る「場」作りのこと。変わり
身の早さが重要。従って大企業より小企業に向い
ている。
(2)景気が多少上向きになれば…。
→景気が仮に上向いたとしても、印刷需要は減少
26
※本稿は平成 20 年2月 26 日現在のものです。
事例研究報告〈5 〉
今日からできるビジネスコラボレーション
―仲間6社からのプレゼンテーションと商品紹介―
●――――――――
奥村印刷㈱(千代田支部)、㈱陽成社(文京支部)、㈱プロスト(文京支部)
、
㈱新興グランド社(東京スクリーン印刷産業協同組合)、美創印刷㈱(三
多摩支部)
、田中産業㈱(板橋支部)
東京の印刷会社の仲間6社が行ったプレゼンテーションおよび商品紹介は次のとおりです。
―奥村印刷㈱(東京工組千代田支部)―
―印刷事業の高付加価値戦略について―
(1)奥村印刷・新規事業開発室について
①スピード感を最重視
②従来の印刷の枠にとらわれない活動範囲
③印刷事業に対するアンチテーゼ
④新しい価値の創造
(6)奥村印刷の取り組み(技術開発)
①遠山式立体表示法(高精細な立体印刷物)の印刷
技術確立
② OHDITS(Okumura High-speed Digital Image
Transfer System)の開発
高解像度画像、ビデオ動画などの大容量データの
(2)現状認識の明確化→課題の定義
伝送に最適なソリューション(通信技術)
①国内市場に対しての認識
②世界市場に対しての認識
③業界全般に対しての認識
→変貌しながら急成長する市場にタッチできるか。
(7)奥 村 印 刷 の 取 り 組 み ( 新 市 場 へ の 進 出 )
OHDITS の事業化
①従来にない高速通信を実現
通常の FTP 通信と比較して、約 20 倍(理論値)
(3)業界の発展に関する方法論
①市場の拡大
②収益性の向上
の実行スピードを実現。
②一般回線による接続
専用線は必要なく、既存の ADSL や FTTH など
→異業種の取り込み・異業種との連携→事業構造
の高度化
(4)戦略論
①新しい事業分野への進出
②上流の産業へのシフト
③費用対効果の明確化
(5)戦術論
①印刷物=商品の高収益市場を開拓
②初期市場は自ら開拓
③ナレッジの事業化
27
事例研究報告[5]
により接続可能。
部からの侵入を遮断。
③分散化された大容量アーカイブス
データーセンターでミラーリングされ、災害など
でデータが失われる危険を回避。
④高い保守性
独自 VPN を構築し、専用プロトコルによって外
続いて、等身大のビッグスケールポスター
(1800mm × 1000mm)、高品位印刷を前面に出した
ポスター、立体オンデマンド写真集などが紹介され
ました。
―㈱陽成社(東京工組文京支部)
―
㈱陽成社の新潟事業所となる第一コンピュータ印
刷㈱では主に3つの部門があり、B 3のオフ輪印刷、
仕事がちょうど良い。
㈱陽成社では UV を使った印刷を主体としていま
Web の企画・デザイン、厚紙小ロット印刷があり
す。もともと製版を行なっていましたので、画像処
ます。今回は厚紙小ロット印刷をご案内します。
理の技術には自負があります。
(1)厚紙小ロット印刷
・新潟事業所の地域では金物の製造会社が多く、試
作品等のパッケージ、ブリスター台紙等でニーズ
がある。
(2)UV 印刷とレンチキュラーシートを使った
2 D ・3 D の3次元画像表現
・見る角度によってアニメーションのように見えた
り、立体的に見える視覚効果が得られる。
・インクジェットプリンタ等の品質向上により、空
いた校正機で厚紙小ロットを手掛けているため、
安価でできる。
・校正機で印刷しているため 100 通し以下くらいの
28
続いて2 D ・3 D の3次元画像表現を使った名
刺、パッケージ、カード、ポスター、パズル等が紹
介されました。
今日からできるビジネスコラボレーション
―㈱プロスト(東京工組文京支部)
―
―ペーパーで作った立体 POP の紹介―
(1)会社沿革
1957 年に写真凸版を専業に創業。顧客は出版社
ノウハウの少ない若い営業マンでもある程度の営
が多く、印刷はすべて協力会社にお願いしています。
業活動ができるように、今までに培ったノウハウの
95 年に社内の製版工程をフルデジタル化し、2001
標準化を進めています。
年にはデザイン室(現クリエイティブ事業部)を設
②クリエイティブ部門との連携
置しました。この頃、製版業界では印刷機械を導入
営業マンは広く浅い知識でも対応できますが、デ
する動きも出てきましたが、当社はすでに印刷機械
ザイナーやクリエイター等と同行して顧客を訪問す
を導入している会社と競っても厳しいと考え、ソフ
ることで詳細な説明ができ、その場で質問にも回答
ト分野へ展開することにしました。02 年に京セラ
が可能となりました。
のアメーバ経営・課単位の独立採算制を導入しまし
③協力会社とのコラボレーション
た。
広告デザインを撮影からすべて請け負うことで、
店頭周りの POP、販売店向けの印刷物へ展開する
(2)営業の方向転換(出版印刷から販売促進支援へ)
ことができました。顧客が望んでいる物をどのよう
新規開拓は一般企業からの直受け比率を 80 %
に形にするか、120 %の物を提案できるかが重要で
(2011 年)とする目標をたて、テレアポ、会社案内
あり、製版から脱皮して納品までできる制作会社を
送付、アポイントをとっていますが厳しく、提案型
目指していきます。
営業を目指し勉強中です。顧客の要望は多岐にわた
っており、協力会社とのコラボレーションを拡げて
いきます。
続いて、色再現・画像処理から納品まで行なった
化粧品関係のポスター、展示会でのブース設営事例
などが紹介されました。
(3)営業活動
①新規開拓の標準化
29
事例研究報告[5]
―㈱新興グランド社(東京スクリーン印刷産業協同組合)―
主にシルク印刷を手掛けています。もともと特殊
(1)技術紹介
印刷の分野では、特に機能的な印刷を追い掛けてき
機能的な印刷をシルクスクリーンで演出させてい
ました。最近ではデジタル化の流れに乗り、試作・
ただいています。またスピードを求められる時代に
開発・校正でデジタルプリントを併用しています。
なっていますので、デジタルプリントを併用してい
きながら印刷物に付加価値をつけていく技術でご愛
顧いただいています。
技術
特徴
①スクラッチ印刷
シルバーに限らず、ゴールドやその他の色がある。
②点字印刷
ダイレクトに UV 樹脂を厚盛することによって点字ができる。スクリーン印刷での特徴として両面の
点字が可能。
③発泡印刷
発泡体をペーストに混入させて、印刷した後に加熱すると膨張する効果を利用。
④香料印刷
香料カプセルをインキに混ぜ、印刷表面に香りを持たせる技術。
⑤ちぢみ印刷
UV 硬化型インキの表面を縮めることで、磨りガラス的な風合いを表現。
⑥疑似エッチング
専用チップを混ぜた特殊インキによる印刷で、素材を傷つけずに浮き彫りの効果を表現できる。
⑦感温印刷
温度や湿度で色の変わる液晶をカプセル化し、そのカプセルをインキ等に混ぜて刷り込む印刷。
⑧スポットクリア
印刷表面を部分的に「艶出し」の風合いに仕上る特殊加工技術。
⑨厚盛印刷
印刷表面を部分的に「艶出し」の風合いに仕上げ、なおかつエンボスの効果を出す特殊加工技術。
⑩ラメ印刷
UV 硬化型インキの中にラメの粒子を混ぜキラキラ感を表現。
⑪蓄光印刷
蓄光顔料に光を吸収させる事で暗がりなどで発光する技術。
30
今日からできるビジネスコラボレーション
―美創印刷㈱(三多摩支部)
―
― 1 枚の紙にどれだけの付加価値が付けられるのか
フラッパー TM のご紹介とその他の製品―
(5)費用対効果(ある専門学校の事例)
(1)会社概要
当社は化粧品パッケージ、プロモーション用
POP 関連など商業印刷全般を扱っています。製本
総予算
抜き、折りなど、後工程から始めた会社で、その後、
1枚あたりの単価
印刷機械と CTP 設備を導入しました。平面印刷だ
総数
けでなく3次元的構造を要する製品の製造を得意と
返答率
しています。
説明会来場者数
従来印刷物
フラッパー
比較
500,000 円
500,000 円
同じ
5円
15 円
3倍高い
100,000 枚
33,333 枚
1/3 の枚数
1.80%
6.00%
3.3 倍 UP
1,800
2,000
約 11 % UP
(6)販売代理店
(2)フラッパーとその他の製品説明
フラッパーはアメリカの特許であり、約6年前に
遠方からの問い合わせも多く、サンプルを送るだ
フラッパーが日本でも使用できるように取り組み始
けでなく商品説明が必要なことから全国7社の代理
めました。11 種類の製品があり、製品名やロゴを
店と提携しています。
入れブランド化も目指しています。DM、カタログ、
続いて、名刺、地下鉄マップ、ポップアップ・ス
会社案内、キャンペーン告知、ポストカード、会社
タンド、オープンカードなどフラッパー商品が紹介
案内など、多岐にわたるプロモーションツールとし
されました。
て様々な場面で使われています。サイズは5 cm ×
5 cm から A 4、A 3など様々なものがあります。
(3)年齢別フラッパーの開き方リサーチ
各年代 20 名に調査し、正しく開けた割合。
年齢
9歳以下 10 代
人数
12
20 代
30 代
40 代
50 代
60 代
20
19
16
9
6
17
(4)製品使用事例
業種別
告知内容
①教育・学習塾・学校
体験学習 DM、高校・大学学校案内、入学手続き案内
②自動車ディーラー
新車発表会告知、低金利キャンペーン告知、新車発表 DM
③食品・飲料
ビール工場見学コース案内、ボトルネック用告知、新しい飲み方カード
④出版・広告
雑誌綴込付録、新刊付録、幼稚園向け冊子付録
⑤携帯電話・ゲーム・電気機器
ワンセグおすすめ告知、新製品ゲームソフト告知、FOMA 告知
⑥金融・保険・証券
新型投資信託告知、セールスレディーの販促ツール、金利キャンペーン
⑦音楽・映画・スポーツ
映画パンフレット、新規オープン告知、NEW アーチスト告知ツール
⑧不動産・建設・ホテル
ホテル設立記念クーポン、展示場案内告知、耐震技術説明
⑨医薬品
医師に対する新薬告知
31
事例研究報告[5]
―田中産業㈱(東京工組板橋支部)―
20 年程前から設備の差別化で会社を変えてきま
した。3年程前からは印刷技術を持った製造業にな
ろうという切り口で変わってきています。
(4)フィルム製造部門
・3 D フィルム、PP クリアファイル共に材料から
加工を社内一貫を行なっている。
・ PP バック、クリアファイル共にエコマークを取
(1)大型オフセット部門
・ B 倍以上の印刷が可能。用紙、CTP 刷版、印刷、
後加工まで大型印刷のノウハウを持つ。
得。
・材料から製造しているので、再生 70 %という材
料での印刷が可能。
・印刷から断裁まで社内で行なっている。
・用紙はコート紙・マット紙・ヴァンヌーボ(ポス
ター用)からアルミ蒸着紙やユポなど 20 種以上
在庫。
(5)サービスのコンセプト
・より印刷会社様向けのワンストップサービスをご
提供
(パターン例)
(2)厚紙・特殊材オフセット部門
・菊半サイズから A 倍サイズまでの UV 印刷機のバ
リエーションがある。
・両面 UV 機も L 全・ K 全の2台ラインナップ。
・御社「校正、製版」
弊社「刷版、印刷、加工、
納品」
・御社「製版∼印刷」
弊社「シルク、納品」
・弊社「製版、刷版、印刷」 御社「シルク、納品」
・全ての機械が6色以上の多色機。
特色ある設備の強みを活かして、皆様の仕事の幅
・両面機でワンパスで印刷することにより、見当精
を広げます。
度も向上しキズも入りにくくなる。
※本稿は平成 20 年2月 20 日現在のものです。
(3)シルク・ラミネート部門
・オフセット同様、L 4裁∼ B 倍まで、幅広いサイ
ズへの対応が可能。
・フィルムにラメシルク、マット紙にラメシルク、
蒸着紙にツヤシルク、マット紙にツヤシルク等
様々なシルク印刷が可能。
・ UV シルク印刷で透明インキを盛り上げることに
より点字印刷が可能。
・ K 判コーター機によりホロとホイルの転写を行
なっている。
32
事例研究報告〈6 〉
営業の差別化「メディアユニバーサルデザイン」
―メディアユニバーサルデザインとは―
●――――――――
1.だ れ も が 違 和 感 な く 見 や す い
印刷物をめざして
弘和印刷㈱ 代表取締役
瀬田章弘
2.色覚異常とは…?
色覚異常がなぜ起こるのかというと、人間の目に
今、我々が見ている印刷物は、正常な人にとって
は赤と緑と青を感じる部分と、明暗を感じる部分が
は何の違和感もなく見えています。しかし日本人の
ありますが、このうちのどれか1つが染色体の異常
男性の 20 人に1人、女性では 500 人に1人の方が、
で使えなくなっている状態のときに、赤が見えなか
何らかの色覚異常を持っていて、その方々は我々が
ったり、緑が見えなかったり、その組み合わせによ
見えている色や文字が見えていないというような不
る色が識別できないということがおこります。
都合な状態が続いています。
今、ユニバーサル社会と言われていますが、20
人に1人の人を置き去りにしていいのかという大き
な課題が我々の社会には存在します。色覚異常をお
持ちの方は日本国内では 320 万人いると推定されて
います。これは先天性のものがほとんどで染色体に
異常があって、そのお子さん、お孫さんに同じよう
な症状が出ます。しかし色覚異常をお持ちの方は見
た目では分かりません。
また、色覚異常をお持ちの方は、印刷物や公共の
看板などで見えるはずのものが見えなくて困ってい
るという現実があります。また、高齢化に伴う白内
障や緑内障などで色覚機能が衰えていく方もおり、
高齢化社会を迎える中で、ますます色覚に対する配
慮が社会的に必要になるという背景があります。
3.色覚異常の呼称について
昔は色盲や色弱という呼び方をしていましたが、
バリアフリーという観点から言えば、印刷物は全
差別用語に繋がるので最近はあまり使われていませ
てモノクロにしてしまえばいいのですが、逆に健常
ん。全国青年印刷人協議会(全青協)では日本眼科
者の方々には見づらくなってしまいます。そこで、
学会による新呼称で統一しています。
色覚異常の方にも健常者にも見やすい印刷物を目指
そうというのが、メディアユニバーサルデザイン
(MUD)の考え方です。
4.色はどのように見えているのか
1型と2型の色覚異常の方は赤と緑の識別がほと
33
事例研究報告[6]
んどできていない状態です。3型もありますが、0.
カバーできる色のユニバーサルを考えようという取
5.
「色のユニバーサルデザイン」
取組 3 原則
り組みをしています。色覚異常の方には、「青と紫」
我々には印刷のプロとして多くの人に情報を伝え
数%の人口比となりますので、我々は1型・2型を
「水色とピンク」
「深緑と茶色」などの組み合わせは
るという責任があると考え、先にこのノウハウを勉
ほとんど識別できませんから、この色の組み合わせ
強して社会に発信していこうと考えています。その
でデザインをしたときには、色の識別による表現が
際に色の組み合わせだけではなく、文字情報やデザ
伝わっていないということになります。例えば色鉛
イン上の技法も必要になります。また常に創意工夫
筆では色覚異常をお持ちのお子さんに色だけで識別
を取り入れてユニバーサル社会を実現していくとい
させることが不可能になってきます。ここになんら
う理念も必要になると思います。
かの配慮がないと、学校で「赤を取って」と言われ
ても赤を取れないということになってしまいます。
―色とメディアのユニバーサルデザイン―
●――――――――
CAN LLP(CAN 有限責任事業組合)
伊藤裕道
現代社会ではカラー化が進み、色は重要な情報手
色覚障がい者は特定範囲の色が、一般の方と違って
段となっています。色覚が一般の人と違う人は色の
見分けづらいのです。しかし、色覚障がい者は一般
識別が難しく、情報が伝わらない場合があります。
の方よりも明度差を敏感に感じやすくなっていま
色覚障がいにも色々ありますが、2色覚の1型の方
す。
は赤色がほとんどこげ茶色に感じてしまいます。そ
色覚障がいのなかで、RGB のうち R が欠けてし
うすると黒い色のなかで強調の意味で赤色を使って
まっている人を1型、G が欠けてしまっているのが
も、こげ茶色になってしまい、ほとんど目立たずに
2型、B が欠けてしまっているのが3型です。先ほ
強調になりません。
どの図でもお分かりのとおり、第1色覚障がいと第
色の UD は、色覚障がいの方に配慮して、なお且
2色覚障がいはほとんど見え方が同じです。違うと
つ一般の方にも見やすく配慮することが重要です。
ころは赤の部分が1型の方が暗く感じるというとこ
ろです。3型は全体の 0.02%程度しかいらっしゃら
ないので、どちらかというと1型と2型の方に配慮
することで 99.98%の方に配慮しているということ
になります。色覚異常の呼称もいろいろあり、
NPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構
(CUDO)では1型・2型・3型をそれぞれ P 型・
D 型・ T 型と呼んでいます。
34
営業の差別化「メディアユニバーサルデザイン」
1.色覚障がいのシミュレーション
ソフト
・「Vischeck」(インターネットで検索して無償ダ
ウンロード可)
・東洋インキ製造㈱「Color Finder for Universal
Design(CFUD)」
(無料配布)
を上手く利用します。
ホームページなどで UD を使う場合は、モニター
によって色の再現が全く違ってしまいます。明暗も
非常に分かりづらいので、印刷物よりも色・明度差
を極端に変えなければ見やすくならないので気を付
けて欲しいものです。
私が提案するものは UD であって、一般の方も色
・ EIZO 色覚シミュレーションモニター
覚障がい者の方にも綺麗に見えるデザインでなけれ
・㈱地理情報開発「カラー UD パレット」
ば、それは UD ではないと考えています。一般の方
以上のようなシミュレーションソフトやモニター
を使用して、色の確認を行うことができます。
MUD を考える上で注意しなければならないの
も色覚障がい者の方にも色を楽しんでいただきたい
のです。
CAN カラーユニバーサルデザインシステムでは、
は、色覚障がいの方への配慮を考えすぎると、一般
濃淡法、色彩変化法、色相変化法を使った配色をし
の方が見づらくなる場合があるということです。例
ています。明度を変えて色を選定・調整する方法を
えば、今まであった路線図を線の種類を変えたり、
濃淡法、色相・明度・彩度をすべて変えて色を選
模様を入れたりすることによって見分けやすくする
定・調整する方法を色彩変化法、色覚障がい者の感
ことはできますが、今までの見慣れた路線図と変わ
じる色相を主に変えて色を選定・調整する方法を色
りすぎると一般の方は違和感を覚えます。一般の方
相変化法と呼んでいます。色の選定・調整以外の方
が違和感を覚えてしまってはユニバーサルデザイン
法では、セパレーションカラーやハッチングを使い
(UD)とは言えません。
ます。
用途をよく理解して、UD の技法、色使いを上手
く変えることで使いやすい UD ができるので、その
あたりもデザインする側は考慮して欲しいもので
3.まとめ
す。まず多くの方に見やすいようにデザインを配慮
気を付けなければならないのは、シミュレーショ
すること、そして色覚障がい者に配慮します。これ
ンソフトも完全ではないということです。色だけに
からは高齢者に対しても配慮することがとても大切
頼ったデザインではなくて、色の他に色々な手法を
です。その上で一般の方に違和感を与えないという
使って区別させることが大切です。MUD を使って
配慮も当然必要となります。
企画力をアップさせて、今までの印刷業の受注型産
業から、提案型の産業に是非移行して欲しいと思い
2.色のユニバーサルデザインでの
配色
ます。官公庁・観光・交通関連には MUD はとても
有効なので、できるということをアピールしてほし
いのです。MUD は経験が大切で、制作してみなけ
色でいちばん気をつけなければならないのは、色
れば分からない部分が多く、シミュレーションしな
同士がくっ付いているところが問題になります。そ
がら作っていくことによって、経験を積んでほしい
の場合に色覚障がい者の色の見え方を考えて色相を
と思います。
変えます。極端に言えば1型と2型の色覚障がい者
MUD は全印工連の正式な事業となり、品質の確
の見え方では「茶色・黄色系」と「ブルー系」に分
保が重要な課題となってきました。ある企業が
かれます。それを上手く使うことによって色相を変
MUD に対応しているといって不完全な製品を作っ
えることができます。また明度差に敏感なので濃淡
てしまうと、信頼性を失って MUD 自体の価値を欠
35
事例研究報告[6]
いてしまいますので、各社が責任を持って製作し、
で、我々 CAN LLP と全青協等で検討して、最終的
然るべき機関に確認してもらうことが大切です。然
には技術認証制度にしたいと考えていますが、とり
るべき機関というのは現在、NPO 法人カラーユニ
あえずは CAN LLP が実費程度で確認をしたいと考
バーサルデザイン機構(CUDO)というところがあ
えています。もし MUD の仕事が来た場合は CAN
り、ここで監修をしてもらえます。ただし、監修料
LLP に連絡をいただければ協力をさせていただき
金が1つのものに対して 12 万円かかります。そこ
ます。
―ユニバーサルデザインフォント―
㈱イワタ 営業部西日本担当部長
●――――――――
1.ユニバーサルデザインフォント
開発の目的
㈱イワタでは、高齢者の方にも白内障の方にも
「より読みやすく」を目的に「イワタユニバーサル
デザインフォント」を開発しました。この UD フォ
ントは松下電器産業㈱と2年間掛けて共同開発をし
た商品です。なぜ松下電器かというとリモコンやマ
ニュアル等の文字で見にくいという声があり、それ
に対応するために新たに書体を作ることになったの
です。
阿部浩之
・明朝体では線が細くて見えづらい。
・外形が似ている文字は見分けがつきにくい。
3.UD 視点での書体評価ポイント
①視認性:文字ひとつひとつを構成する要素が視認
しやすい。
②判読性:誤読しにくく・他の文字との判別がしや
すい。
③デザイン性:外観のシンプルさ、美しさ、整理、
整合
④可読性:文字列になったときの単語、文章の読み
2.見えにくいとは?
見えにくいフォントとは次のようなものです。
・線が太い文字が潰れてしまう。
36
やすさ。
4.イワタ UD フォントの特徴
営業の差別化「メディアユニバーサルデザイン」
5.UD フォント使用事例
UD フォントを使用した事例には次のようなもの
があります。
・松下電器産業の電化製品(平成 18 年4月から
100%)
・京都市役所の「暮らしの手引き」
・読売新聞の株式欄の銘柄
・全印工連「日本の印刷」など
―動画対応色覚シミュレーションモニター―
㈱ナナオ 営業1部法人販売課係長
●――――――――
1.色覚シミュレーション
色覚シミュレーションモニターというのは、色覚
丸山啓司
変換に時間がかかる等の課題がありました。しかし、
モニターを使ってシミュレーションすれば時間がか
からず、画面表示を瞬時に変換することができます。
異常者の見え方をシミュレーションするツールで
す。これによって一般色覚者が色覚異常者の見え方
を疑似体験することができます。従来はソフトウェ
2.U シリーズの特徴
アを使ってシミュレーションを行っていましたが、
①3モードによる表示(オリジナル(一般色覚)/
P 型(1型)/ D 型(2型)
)
画面上のアイコンもしくはファンクションキーで
切り替えが可能。
②リアルタイム変換
ハードウェアによる瞬時の変換。
③動画にも対応
動画や点滅文字、ビデオ、Web フラッシュなど
も瞬時に変換。
④画像キャプチャに対応
シミュレーション表示した状態で画像をキャプチ
ャし、プリントアウトして確認作業が行える。
37
事例研究報告[6]
―色覚 UD 関連技術のご紹介―
東洋インキ製造㈱ (ga city 所属)
●――――――――
色の配色をシミュレーションする以下の支援ツー
小幡昌生
① UDing シミュレーター
ルをご紹介します。いずれも東洋インキ製造の
UDing シミュレーターは、すでに制作されたデ
Web サイトから申し込めば、無料で入手できます。
ザインが、色覚障がいがあった場合にどの様に見え
ているかを確認するとともに、見えづらい色を自動
的に色変換できるツール。
② CFUD(Color Finder for Universal Design)
CFUD は、色覚障がいを意識したデザインをす
る場合に、どのような色をどのように配色すればよ
いかを確認しながら作業を進められるカラーパレッ
ト状のソフトウェア。
※本稿は平成 19 年7月 24 日現在のものです。
38
事例研究報告〈7 〉
新しい営業武器「プロモーショナル・マーケティング」
―経営者のための SP 講座―
●――――――――
譖日本 POP 広告協会 専務理事
1.プロモーショナル・マーケティ
ングの戦略企画
プロモーショナル・マーケティング計画の具体的
坂井田稲之
リー分析)や競争、消費者の現状や将来について十
分に検討する必要があります。市場環境分析が必要
になります。すなわち戦略企画は、市場分析から始
まり、次の手順で行います。
な内容を決める前に、どんな目的で、誰に向けて、
手順1:市場情報の収集と整理
どこで、プロモーショナル・マーケティングを展開
手順2:市場の問題点と機会の抽出
するかを明らかにします。勝つために最も重要な要
手順3:市場の問題点と機会の各「まとめ」
件である“戦う場”すなわち「戦略」を設定します。
手順4:市場の問題点と機会の「総まとめ」
何をするかの検討の前に、プロモーションの投下計
手順5:
「プロモーション戦略課題」の設定
画(重点展開市場の絞り込み)を行います。
手順6:
「プロモーション・ターゲット」の設定
戦略企画では、7つの手順を踏みます。手順1か
ら手順4までが、市場を読み込むプロセスです。こ
の市場読み込みの作業を踏まえて、手順5から手順
7までのステップで“戦う場”の絞り込み(戦略の
設定)を行います。
手順7:プロモーショナル・マーケティング展開
の「基本要項」の設定
[手順1]市場情報の収集と整理
戦略企画作業は、市場情報の収集から始まります。
的確に、全体的視点(マーケティング視点)から判
断を行うには、マーケティング活動全体についての
偏りのない情報収集が必要です。情報収集分野に偏
りがあると、判断にも偏りが生じます。
次の①∼⑥の6つの分野について、情報収集と整
理とを「市場情報収集ワークシート」を用いて行え
ば、どの情報が欠落しているか、ひと目で分かりま
す。また情報収集すべき分野が決まっているので、
誰にでも効率的に作業を進められます。さらに、お
のずと分野別に情報をグルーピングすることになり
ますので、整理・検討が行いやすくなります。
①商品カテゴリー(商品総需要)動向
第1の情報分野は、ブランドが属する商品カテゴ
(1)戦略企画の手順
リー全体の動向です。全体市場の傾向をよく知るこ
戦略目標を的確に絞り込むためには、市場をよく
とで、ブランドが対象にする市場の特徴も、より鮮
点検する必要があります。「どこに」プロモーショ
明に理解できます。具体的には、全体市場(商品カ
ン努力を集中すれば、最大の成果が得られるかを発
テゴリー全体の需要)の大きさや成長性、また全体
見するには、そのブランドについてだけではなく、
市場を構成する需要タイプ別市場
(サブカテゴリー)
そのブランドの属する市場全体の傾向(商品カテゴ
の規模や伸び等の情報です。
39
事例研究報告[7]
②商品競争動向
第2の情報分野は、ブランドを取り囲む競争環境
に関わる情報です。
これから戦おうとする市場では、
ブランドの特徴や評価、ユーザーの特徴等の情報で
す。
⑤流通・営業体制の特性と動向
どんな競争が繰り広げられているのか、また、自分
第5の情報分野は流通と営業の体制に関連する情
の競争力はどの程度かを知っておくべきです。敵を
報です。プロモーショナル・マーケティングの特徴
知り己を知ることが、戦いに勝つ原則です。
は、「買い手」への働きかけだけでなく、「売り手」
プロモーショナル・マーケティングの重要な役割
に対しても働きかける点にあります。販売店におけ
は、最終の購買決定時点で、「最後のひと押し」を
る状況や営業体制についての情報は消費者情報と同
行うことです。この最終決定の多くは、競合ブラン
様に重要です。具体的には、その商品カテゴリーと
ドとの比較の中で行われます。プロモーショナル・
ブランドの小売業態別の商品取り扱いや売上げ状
マーケティングには、競争対抗力が期待されていま
況、競合他社とブランドの営業活動等に関する情報
す。特に競争状況を詳しく知る必要があります。
です。
一般に、市場シェアを拡大させているなら、強み
⑥広告・プロモーション展開動向
とする優位市場への対応はもちろんのこと、弱み市
第6の情報分野は、広告やプロモーションの展開
場への対処も可能です。しかし、市場シェアを縮小
に関する情報です。今後のプロモーション施策を考
させているなら、優位市場への対応が原則です。
えるうえで、そのブランドがどんな内容の展開を行
プロモーションの投下市場を的確に判断するうえ
い、どんな成果を得ているか(特に商品認知と購入
で、売上げの現状と、その問題(あるいは課題)の
率の状況)を知る必要があります。具体的には、広
発生市場の把握が重要になります。具体的には、市
告活動の内容と成果、プロモーション活動の内容と
場全体での、また、サブカテゴリー別(需要タイプ
成果等に関する情報です。
別)の市場シェアやその推移等、ブランドの優位市
場や弱み市場に関する情報です。
③消費者動向
[手順2]市場の問題点と機会の抽出
市場環境分析は、単なる市場状況の読み込みでは
なく、プロモーションが最も効果的に機能できる好
第3の情報分野は、ターゲットとなる消費者の情
機の探索です。何に注意しながら、どこにプロモー
報です。誰が、どのような目的で購入しているのか。
ション活動を集中すれば最大効果が得られるかを判
どんな特徴に期待して買っているのか。これらから、
断するプロセスです。すなわち、プロモーショナ
ブランドを訴求するヒントが得られます。商品への
ル・マーケティングにおける市場環境分析とは、最
期待がどのように変化しているかを知ることは、新
も効果的なプロモーション機会を発見するための、
鮮な訴求アングルの開発に役立ちます。また、どの
問題分析と市場機会評価です。具体的には、「市場
ように買っているかを知ることは、売り方の開発に
情報収集ワークシート」に記載の市場事実を、「問
役立ちます。具体的には、商品カテゴリーの購入や
題点」とプロモーション展開に有利に作用するであ
使用に関する現状、ブランド選択への影響要因等の
ろう「機会」に選別します。
情報です。
④ブランド特性
第4の情報分野は、ブランドの特徴に関する情報
この段階では、問題点と機会を、すべて(6分野
にわたり)洗い出すことが重要です。ここで重要な
問題点や機会を見逃すと、重大な欠陥を持つ計画を
です。とりわけ具体的な特徴をよく理解しておきま
策定することになりかねません。大多数の情報は、
す。ブランドの訴求とは、結局、「確かな強み」を
誰の目にも問題点か機会かの判断は明らかです。し
訴えることです。最終のブランド選択の場面では、
かし、一部の情報については、機会ととらえるべき
ブランドの機能や品質が重視されます。具体的には、
か、問題点と考えるべきかの判断が分かれます。こ
40
新しい営業武器「プロモーショナル・マーケティング」
のような場合には、さらに上位の「ブランドの戦略
彫りにし、それぞれの中での因果関係を明らかにす
方針(=どのような資源と体制のもとで、どの市場
る点にあります。
を、どのような差別化方針で攻略するかの方針)」
①問題点のまとめ
に立ち返って判断します。
①市場の問題点
市場の問題点とは、ブランドの成長にとって障害
問題点のまとめでは、ブランドの「市場地位」と
「売上げ状況」
、またその「原因」を明らかにします。
・市場リーダー以外は、より上位の市場地位の獲得
になっている事柄です。問題点を抽出する目的は、
を目指します。そのため、一般に、市場リーダー
取り組むべき課題を洗い出すためであり、また注意
以外は市場地位を問題点(課題)ととらえます。
すべき事項を浮き彫りにするためです。プロモーシ
・ブランドの売上げ状況も多くの場合、問題点とと
ョンを展開するうえで特別に注意を払うべき弱点や
らえられます。たとえ市場シェアが高まっていて
脅威を、6つの領域について偏りなく点検します。
も期待値に達していなければ、依然、売上げ面で
②市場機会
の“課題”を抱えていることになります。また、
「市場機会」とは、ブランドの成長に有利に作用
もしも売上げ面での課題がまったくなければ、購
する市場の事実や傾向です。市場機会を抽出する目
買の動機づけ展開の必要性もなくなります。した
的は、ブランドが攻略を検討すべき好機市場とブラ
がって、売上げ面の“課題”は常に提起されます。
ンドが活用できる武器(商品上の、流通上の、認知
・売上げ面での問題点(あるいは課題)の発生源
上の強み)を明らかにする点にあります。この場合
(課題市場と呼ぶ)を明らかにします。どの市
も、6つの領域について偏りなく点検します。
場/どのタイプの需要が課題市場かを明らかにし
ます。どの市場に、プロモーションの“取り組み
課題”があるかを明確にします。
②市場機会のまとめ
市場機会のまとめは、ブランドが攻略を検討すべ
き好機市場と、ブランド固有の機会(活用可能な武
器)を明らかにするものです。ここでも、単なる期
待ではなく、実現性や効率性等から冷静に判断した
提示が重要です。
市場機会のまとめ(市場機会評価)では、次を明
示します。
・ブランドが有利に戦っている優位市場(たとえ全
[手順3]市場の問題点と機会の各「まとめ」
体が不調な中でも、相対的には優位である市場)
このように6つの領域について、市場の問題点と
を明らかにします。プロモーション展開は、優位
機会を明らかにしてから、市場の問題点と機会の
市場でより明確に効果を現します。そのため、多
“それぞれ”のまとめを行います。この時、「文章」
くの場合、優位市場がプロモーション展開の足が
としてまとめることが重要です。個々バラバラの事
柄を一連の文章にすることは、全体を見渡し、軽重
かりになります。
・ブランドが属する商品カテゴリーの中心需要を示
を検討することになります。また、相互の関連性を
します。一般に需要の中心層(うまみ市場)が、
整理することにもなります。
最終的にブランドの目指す市場になります。また、
“それぞれ”のまとめを行う目的は、問題点や機
どこに需要のピークがあるかを知ることで、ブラ
会の全体をとらえ、それぞれの重要ポイントを浮き
ンドの優位市場や弱み市場の位置づけが分かりま
41
事例研究報告[7]
ドの基本的な販売力だけでなく、「市場機会」の加
担が必要です。もしも問題解決に有効な市場機会が
確認できれば、解決可能性は高いと考えられます。
問題点と機会の「総まとめ」では、問題提起だけで
なく、ブランドが活用可能な「市場機会」を明らか
にして、問題解決の可能性を示すことが重要です。
①問題点と市場機会のまとめ方
すでに手順3で「問題点と機会」は、まとめられ、
重要ポイントは明らかになっています。
したがって、
それらを再確認したうえで、大きくプロモーション
展開の方針を示します。
す。
具体的には、
・攻略市場に円滑に到達する重要条件である「販売
・このプロモーション展開では、直接的な動機づけ
の基本的対応力」を整えていれば、「まとめ」の
を用いた新規顧客の獲得が適しているか、あるい
中で明示しておきます。具体的には、狙うべき市
はこの役割以外の働きが適しているかを、市場の
場に対してブランドは、顧客の志向にマッチした
事実から理由づける(プロモーショナル・マーケ
商品特性を持っている、あるいはその市場への接
ティングの基本機能を果たすべき状況か否かを、
近に有利な商品認知の資産を持っている、さらに
まず、判断する)。
その市場に適した販売チャネルを確保していると
いう(商品・認知・流通の基本的な販売力の)整
備状況です。
なお、この「販売の基本的対応力」に決定的な欠
・どの層をターゲットとして狙うべきかを、市場の
事実から理由づける。
・彼らの獲得のために、プロモーショナル・マーケ
ティング展開の場をどこに集中すべきかを、市場
陥があると、プロモーションは有効に機能しません
の事実から理由づける。
から、この確認は重要です。
プロモーショナル・マーケティング戦略を方向づ
[手順4]市場の問題点と機会の「総まとめ」
さらに「問題点」と「機会」をまとめます。どん
な問題点を警戒しながら、どんなチャンスを活用し
てプロモーションを展開するかを判断するためで
す。「問題点」と「機会」をまとめることで、市場
の事実から、プロモーション展開の基本方針が定ま
ります。
問題点と機会の「総まとめ」とは、単に、問題点
と機会を列挙するだけでなく、双方を分析し評価し、
プロモーシヨナル・マーケティングの基本方針を設
定することです。目的は、市場環境の概括ではなく、
あくまでもプロモーシヨナル・マーケティングの基
本方針設定にあります。
一般に、問題の指摘より、問題解決への「道筋の
発見」の方が難しいのです。問題解決には、ブラン
42
ける上記の3点は、「まとめ」の文章の中に織り込
みます。断片的な箇条書きにはせず、文章化するこ
とで、
相互の関係や因果関係等を十分に説明します。
新しい営業武器「プロモーショナル・マーケティング」
特に、元来矛盾する「問題点と機会」を、どのよ
うに解釈したうえで打開策を導き出したかの説明が
重要です。また、この段階は「市場環境分析」であ
り、戦略設定は次の段階になります。あくまでも、
市場事実の読み込みに重点があり、どのような「市
場理解」が、プロモーション展開方針の「前提」か
を、明確に示さなければなりません。
②「総まとめ」での記載項目
問題点と機会の「総まとめ」では、次を明らかに
しておきます。
・ブランドの競争地位
・ブランドの売上げ動向
・商品カテゴリーの中心需要
①「試用/試し買い」促進戦略(新規客の購買促進)
ブランド固有の顧客を形成し、シェア・アップを
・ブランドの優位市場
図ろうとする場合に用いる戦略です。多くのプロモ
・ブランドの課題市場
ーシヨナル・マーケティングは、この戦略のもとに
・ブランドの販売の基本的対応力
展開されます。「試し買い」戦略は、新発売時だけ
・促進すべき購買行動
と考えられがちですが、シェア・アップしようとす
・狙うべきターゲット
る限り、また、マーケットを拡大しようとする限り、
・重点展開すべき市場
この戦略を取る必要があります。
[手順5]
「プロモーション戦略課題」の設定
プロモーション戦略課題の設定とは、プロモーシ
ョナル・マーケティング活動の焦点を定めることで
②「まとめ買い/連続買い」促進戦略(既存顧客の
購買促進)
基本は、競合ブランドの新商品導入や大規模な広
す。どの役割にプロモーション活動を集結すれば、
告キャンペーン等から、ブランドのユーザーを守る
ブランドの買上げが最も活性化するかを判断しま
戦略です。ただし、適切に用いないと、放っておい
す。漫然と、販売促進を考えるのではなく、どの役
ても買ってくれた顧客への投資になり、需要を前倒
割にプロモーションを特化させるかを判断します。
ししただけに終わることにもなりかねません。
プロモーション戦略課題の設定では、プロモーシ
③販売関与者に対する「ブランド支援」促進戦略
ョナル・マーケティングが、他のマーケティング要
流通や営業員等販売関与者の「売る気作り」にプ
因よりも有利に問題解決できる役割を選ぶことが重
ロモーション展開を「集中」させる戦略です。彼ら
要です。プロモーションは、ブランドのすべての必
要を満たす万能薬ではありません。
果たせる役割は、
限定されています。ある必要に対しては、他のマー
ケティング・ツールがより的確に問題解決します。
ブランドが抱える多様な課題の中から、重要度が高
く、しかもプロモーションがより効率的に機能する
役割を厳選します。
43
事例研究報告[7]
への直接的な動機づけ施策の導入で、あるいは彼ら
・プロモーションの重点展開時期
の販売活動を支援することで、ブランドへの特別な
・プロモーションを重点展開すべき販売店のタイプ
販売努力を引き出します。
④「商品認知」促進戦略
主として SP 媒体で、商品認知促進を図る戦略で
(重点販売チャネル)
・強調すべき商品アイテム(重点展開商品アイテム)
①設定理由検討での重要視点
す。プロモーション手法で特別な購買の動機づけを
以上の戦略目標の設定では、「設定理由の明確化」
付加するよりも、情報面での「最後のひと押し」が
が重要です。マーケティングでは、“答えはひとつ”
有効な場合に用います。
ではありません。答え、つまり対処の方法は無数に
[手順6]
「プロモーション・ターゲット」の設定
プロモーショナル・マーケティングを展開する対
あります。いずれの対処方法にも“正解”の可能性
があります。“答え”だけで即断はできません。判
象層は、広告やその他のマーケティング施策の対象
断に至った「前提」の点検が必要になります。もし、
層と原則的に同一ですが、次の3点に注意します。
その判断が多面的に検討されていれば、その判断は
①商品の使用者と購買者が違う場合には、原則的に
多様な場面で的確に機能しますが、一側面からだけ
購買者をプロモーション・ターゲットにします。
購買の動機づけがプロモーションの基本的な役割
だからです。
②すべての購入想定者を対象にするのではなく、相
対的に購入意向の高まっている層を対象にしま
す。プロモーションは、購買の時点で二者択一を
迫り、広告のように基本的な購買意向の形成に機
能するものではないからです。
の判断なら、多様な市場場面に適応できません。
具体的には、次の検討を行います。
・戦略的な必要性からの検討(企て、試み、願望、
命題、義務等からの理由づけ)
・必要であるだけでなく市場性(十分な需要量があ
るか? また成長性はどうか?)の点検
・競争力(ブランドは、そこでの戦いに活用できる
強みを持っているか?)の検討
③ブランド・スイッチを狙う展開の時には、対抗ブ
ランドを明確にします。ブランド・スイッチ促進
ショナル・マーケティングの最大の役割です。こ
2.プロモーショナル・マーケティ
ングの戦術計画
の展開は、どのブランドのユーザーからスイッチ
戦略企画に基づき「戦術計画」を策定します。ど
(=ブランドの新しい顧客の獲得)は、プロモー
ングさせるかを明確にして的確に行えます。
こで戦うか(戦略)を受けて、どう戦うか(戦術)
[手順7]プロモーショナル・マーケティング展開の
を決める。戦術計画は、アクション・プラン(実行
「基本要項」の設定
プロモーションの重点展開市場を絞り込みます。
計画)の立案です。
「プロモーション手法」を決め、
次いで表現展開の基本である「プロモーション・テ
一般に、収益はどの市場からも均等に生じるわけで
ーマ」の開発を行い、最後にプロモーションの訴求
はありません。多くの場合、収益の大多数が(例え
媒体や運営に必要な道具類の計画を行います。手順
ば収益の7割が)、ほんのひと握りの限定市場(例
8から手順 10 までのステップを踏んでください。
えば、数からすると3割に過ぎない販売店)で形成
購買の動機づけが、プロモーショナル・マーケテ
されます。加えて、効果は一定の閾値(いきち)を
ィングの基本的役割です。そのため、購買を直接的
超えた時に大きく表れます。予算は常に限られてい
に動機づける施策開発(手順8「プロモーション手
るので、必然的に選択と集中とが必要になります。
法(プロモーション・テクニック)
」の選定と設計)
具体的には、次を規定します。
・プロモーションの重点展開地域
44
が戦術計画の中心になります。
またプロモーショナル・マーケティングは、計画
新しい営業武器「プロモーショナル・マーケティング」
的で体系的な活動です。ブランドの「価値規定」に
に試してもらう手法。
基づくプロモーション・テーマで表現展開の全体を
②モニター制度
括り(手順9)、多様なメディアやツールによる訴
求の求心力を高める必要があります。
さらにメディア・ツール計画(手順 10)では、
耐久財等の場合に“テスト・ユース”してもらう
手法。消費財では、感想文を書いてもらう等。何ら
かの条件(返却や感想文提出等)をつけて商品を試
戦略目標に向けた効果的で効率的なプロモーション
してもらう。
到達の実現が求められます。
③デモンストレーション(イベント/強調陳列)
[手順8]
「プロモーション手法(プロモーション・
テクニック)」の選定と設計
商品の良さを、見込み顧客の前で、実際に試して
見せる展開。販促イベントの多くは、この手法のバ
すでに設定されている「戦略課題」を、最も的確
リエーションです。また、商品の強調陳列も、まさ
に解決するプロモーション手法(プロモーション・
しくブランドのデモンストレーションであり、この
テクニック)を選び出し、具体的な展開の内容を決
手法の一形態です。
めます。プロモーション手法とは、特典の提供で、
④封入プレミアム
購買(あるいは販売活動)を動機づける施策の総称
プレミアム品を封入する等、商品を買えば、必ず、
です。ただし一般には、動機づけ手法の展開を知ら
プレミアム品がもらえる仕組み。
せる媒体(例えば DM やチラシ)も、プロモーショ
⑤プレミアム容器
ン手法と呼びます。しかし、プロモーション手法と
商品パッケージを、そのまま後利用できるプレミ
メディアやツールとの役割の違いを、明確に認識す
アム品にしてしまう手法。
る必要があります。
⑥応募もれなく進呈プレミアム
プロモーション活動は知らせるだけでなく、動機
購入証明となる物(シリアルナンバー・シール等)
づけの仕掛けを展開して、初めて「プロモーション
を送れば、もれなくプレミアム品が進呈される仕組
活動」になります。特に、中心的役割を果たす動機
み。
づけ施策(キードライバー)は成否を握る鍵となり
⑦自己精算式プレミアム
ます。手法と媒体の違いを、はっきりと理解してお
く必要があります。
購入証明と、規定の金額を送れば、もれなくプレ
ミアム品が進呈される仕組み。
⑧応募抽選プレミアム
(1)プロモーション手法の基本分類
プロモーション手法の基本形は、試用手法、プレ
購入証明を送れば、抽選でプレミアム品が進呈さ
れる仕組み。
ミアム手法、プライス手法、制度手法の4つです。
試用手法は、試用機会を提供し、購買を促す手法で
す。プレミアム手法は、特典の提供で購買を促す手
法です。プライス手法は、限定的な価格割引きで購
買を刺激する手法です。制度手法は、販売と一体化
し、長期にわたり制度的に特典を提供し購買を促す
手法です。4手法はさらにいくつかの手法に分かれ、
全部で 18 手法から成り立ち、また 18 手法にはバリ
エーションがあります。
①商品サンプル配布
試用品を見込み顧客に配布し、商品の良さを実際
45
事例研究報告[7]
⑨その場当たりプレミアム
三角籤やスクラッチ・ゲーム等、その場当たり方
ージを作ります。
分かりやすく魅力的で、かつ的確に方向づけられ
式でプレミアム品が進呈される仕組み。
た表現テーマは、プロモーショナル・マーケティン
⑩オープン懸賞
グの浸透力を加速するだけでなく、ブランディング
商品購入とは関係なく、応募すれば、抽選等で賞
(ブランドの価値伝達)にも貢献します。
品や賞金がもらえる仕組み。なお、「オープン懸賞
プロモーション・テーマは、広告キャンペーンの
告示」および「オープン懸賞告示運用基準」は
場合の表現開発基準(コンセプト)に似た役割を果
2006 年4月 27 日に廃止。
たします。ひとつ違う点は、ブランドの訴え方を規
⑪クーポン
定するだけでなくプロモーションの「仕組み」も方
価格割引券を見込み顧客に配布し、購買を刺激す
向づける点です。プロモーショナル・マーケティン
る仕組み。
グの特徴は、購買行動を直接的に動機づけることで
⑫現金払い戻し
す。この動機づけの仕組みを、プロモーション・テ
購入証明を送れば、購入金額の一部が払い戻され
る仕組み。
ーマが方向づけます。
①価値ルール整合
⑬オフ・ラベル/オフ・プライス(メーカー実施値
引き品)
メーカーが限定実施する、お買い得価格特別品の
販売。
⑭お試しサイズ品
試し買いしやすい小サイズで、しかもお買い得価
格とした特別品の販売。
⑮増量パック
通常価格であるが増量し、お買い得感を高めた特
別品の販売。
⑯ポイント・インセンティブ
購入の都度、ポイントを加算し、一定量貯まると
プロモーション展開は多様な手法を用い、メディ
プレミアム品がもらえる仕組み。
アやツールも多岐にわたります。どうしても断片情
⑰会員組織
報の集積になりやすく、印象が散漫になりやすく、
自社商品ユーザーや見込み顧客を組織化し、さま
相乗効果が生じ難いものです。それだけに、プロモ
ざまな特典を提供する仕組み。
ーショナル・マーケティング展開では、求心力を強
⑱サービス制度
める配慮、具体的にはテーマに基づいた一貫展開が
物ではなく、サービスをプレミアムとして提供す
る仕組み。
[手順9]
「プロモーション・テーマ」の開発
どんな「語りかけ」で、プロモーショナル・マー
必要です。それも、ブランド価値に根ざした表現展
開で求心力を高める必要があります。
このようにプロモーショナル・マーケティング展
開では、「価値ルール」すなわちブランドの価値規
ケティングを展開するかの“要”がプロモーショ
定に基づいて表現展開を律する配慮が求められる。
ン・テーマです。プロモーション展開の「キーワー
重要な点は、ブランドの価値規定を行い(どんな効
ド」と理解してください。プロモートする商品価値
用をお客さんに約束するかを規定し)、その路線管
が、その世界観が、一番魅力的に感じられるメッセ
理をきちんと行うことです。表現の細部に介入する
46
新しい営業武器「プロモーショナル・マーケティング」
ことではありません。コンセプトの具現化管理が、
ディレクションの具体的な作業内容です。
商品の価値を端的に訴えるキャッチ・フレーズを
作る。(キービジュアル化)
具体的には、ブランドの価値規定に基づき、プロ
各種のメディアで共通的に用いる中心的なビジュ
モーション展開のキーワード、キービジュアル、キ
アルのアイディアを考えます。商品満足を、どんな
ードライバー(動機づけ施策)のタイトルと内容を
シーンで訴えるか、どんなキャラクターやタレント
整合します。
の、どんな動作や表情で表すかを考えます。絵を描
②プロモーション・テーマの開発手順
く必要はありません。こんなシチュエーションで商
ブランドの価値規定を行い、整合性のある表現展
品満足を表現してはどうかのアイディアを短い文章
開を行うために、次の手順でプロモーション・テー
にします。こうすることで、訴えたい商品満足を
マの開発を行う。
・ブランドの強みを絞り込む(セリング・ポイント
「具体化」できます。抽象的なイメージを、具体的
なモノやコトに置き換えて人々に伝えます。具体的
の明確化)
なモノやコトに置き換えて「アイディア」になるの
ブランドの絶対的な優位点を期待できるのは稀で
です)
す。しかし、当面の攻撃ブランドとの「違い」はど
こかにあります。もし、この「違い」がまったくな
いのなら、そのブランドにスイッチしてもらう“理
由”もなくなってしまいます。プロモーションで
“試させる”根拠も消滅します。すべての競合ブラ
ンドに通じる優位点を探し出そうとする必要はあり
ません。当面の攻撃ブランドに対して、ブランドの
最も優位な特徴を見つけ出し、具体的な利点を探し
出します。まず物のレベルで、“試させる理由”を
明確にすることが大切です。
・プロモート・ポイントを開発する(バイング・ポ
イントへの転換)
ブランドのセリング・ポイントを、消費者のベネ
③プロモーション・テーマの施策展開
プロモーション・テーマが決まれば、次に、購買
フィットに置き換えます。ターゲット層の“生活の
を直接的に動機づける施策を検討します。さらに、
中”で、商品を意味づけます。商品特性を一方的に
具体的なプレミアム品のアイディア出しなどを行い
押しつけても、人々は動きません。ブランドの特性
ます。プレミアム・アイテムを訴えるだけでなく、
と、ターゲット層の生活ニーズやウォンツとの接点
「ブランドの世界(ストーリー)」を描き出します。
を見つけ出します。
ユーザー・ベネフィットを見出すためには、次の
手順で検討を進めます。
−どんな感覚(性格/ライフスタイル)の人が…、
このように、プロモーション・テーマは、実際の施
策内容を方向づけます。
[手順 10]メディア・ツール計画
ターゲット層に向けて、プロモーションの仕組み
−どんな時/どんな場で/どんなふうに…、
を伝える媒体を選択し、運営に必要な道具(ツール)
−何をするためのツールとして、この商品をプロ
類を制作します。
プロモーション・メディアの数は、
モート(意味づけ)すべきか?
・プロモーション・テーマを開発する(キーワード
化)
無数とさえ言われます。この中から必要なものを選
別し、効果的で費用効率のよいターゲット到達を実
現するプロモーション・メディアミックス、ツー
47
事例研究報告[7]
ル・ミックスの計画を行います。
個別のメディアやツールの検討に入る前に、全体
交通広告/ポスター・ボード
フリー・ペーパー/マガジン
像をきちんと描くことが重要です。「機能別」に予
新聞折り込み
算の配分を行い、そのうえで個々のメディアやツー
その他
ルを決め、表現内容を詰めていきます。具体的には、
②詳細/個別に・応答的に伝えるメディア
次の手順を踏みます。
パンフレット、リーフレット、CD-ROM
・戦略計画に基づき、必要な「メディア機能(下の
ダイレクト・メール、電話、ネット系広告
①∼⑥)
」別に予算配分する
↓
・各「メディア機能」ごとに、媒体やツールを選定
その他
③店頭で訴えるメディア
各種 POP 広告
販売ラック
する
↓
・選択された媒体やツールに予算の配分を行う
↓
・各媒体やツールの使用目的を明らかにする
↓
・主要なメッセージ内容や主要訴求項目を決める
↓
・原稿サイズ/基本的な形状を決める
↓
エンド陳列/アイランド陳列/関連陳列
パッケージング
その他
④プロモーション展開に伴う用具
プレミアム品
サンプル品
割引き券/エントリー・シート
その他
⑤流通を説得するメディア
・製作数量、基本的な製作仕様を決める
各種プレゼンテーション・ツール
①広く伝えるメディア
流通向け広告
ディーラーズ・ミーティング
パンフレット/リーフレット
その他
⑥営業員向けメディア
「売り場作り」提案マニュアル
キャンペーン・ニュース
その他
※本稿は平成 19 年6月 27 日現在のものです。
48
事例研究報告〈8 〉
次世代印刷ビジネスを切り拓く
―ソフトインフラ構築を急げ―
●――――――――
1.はじめに
企業とは「環境適応業」だとあるセミナーで聞き
ましたが、まさにそのとおりだと思います。環境に
適応できない企業が去っていくことを如実に表した
のが、この 1997 年と 2006 年の工業統計の比較で、
㈲ゲイン 代表取締役
杉山伸一
います。
(1)収益が増えない。
(2)差別化が難しく、オンリーワンになかなかなれ
ない。
(3)新規開拓を推進するも消耗戦になってしまう。
これは自社にとっては新規顧客でも、すでに印刷
印刷産業の総出荷額が 8.9 兆円から 6.9 兆円に、事業
会社が何社も入っていて価格競争になってしまうと
所数が約4万件から約3万件に落ちています。顧客
いうことです。
企業では印刷物の内製化が進んでいますから、この
落ち込みはある意味で仕方がない動きという気がし
ます。
印刷業のみならず、あらゆる業界が変革の時代に
あるのです。よく印刷業界の経営者が、なぜ我々だ
けいじめられなければならないのかなどと言います
が、顧客も課題を抱え、生存競争に直面しているこ
(4)重要顧客の維持が難しくなっている。
これが最も大切なことで、この顧客は絶対に自社
から離れないと思うのは大きな勘違いであって、今
は平気で離れていってしまいますので、いかに重要
顧客を維持していくかが大事です。
(5)オンデマンド印刷機を導入してはみたが、稼働
率があがらない。
とを認識しなければなりません。つまり、顧客と自
このようになるのは、仕組みとして対応しないか
社との関係も変化を余儀なくされているのです。そ
らです。オンデマンド印刷機は普通のオフセット以
れなのに、残念ながらセンサーが働かず、今までど
上の工数をかけても、そこからの上がりはかなり低
おりでやっていこうという部分が見受けられます。
いので、営業マンにとって売上の予算が達成できる
経営者と話すと「変わらなければ」と思っている
かどうかという時に、仕事を取りには行かないから
だけで、なかなか変われないでいるケースが多いの
ですが、思っているだけでは変わりません。今後も
です。
(6)新規事業に挑戦するも中途半端になってしまう。
「印刷すること」が中心であることに変わりはない
これは今持っているハードのインフラがあまりに
のですが、大切なことは所有するハードインフラお
も大きすぎるのです。それに人、金、組織、マイン
よび顧客のビジネスを支援できる仕組みと、人材を
ドが集中していて、新事業の芽が出て実るまで待て
含めた「ソフトインフラ」の構築だと思います。そ
ないのです。これは大きな問題で、せっかく新しい
して、目指すべき次世代印刷ビジネスの方向として
事業を立ち上げても、どこかで潰れてしまうという
は、「プリント・プロバイダー」から「プリント&
ことが多く見受けられます。
サービス・プロバイダー」への変身を提案します。
(7)人材を確保しにくい、人材が育たない。
新しい人を外から連れてきても、生き延びること
2.変わらなければと思いつつ…
印刷経営者の悩みには次のようなものがあると思
ができなかったり、現状に溶け込んでしまったりす
ることが多く、難しいのです。社内的に人材を育て
たいという意識があっても、今の仕事に足をすくわ
49
事例研究報告[8]
が特徴で、印刷業で今話題となっていることがずっ
れてしまうケースも多く見受けられます。
(8)営業マンに提案型営業になってもらいたいが…
と昔に進んでいたのです。
提案型営業という言葉はよく耳にしますが、なか
なか提案型営業になれません。それは印刷ビジネス
で良い時代が続いてきて、その間に考えなくても済
むようになってしまったのではないでしょうか。こ
れを変えるには時間がかかると思います。
4.デジタル技術の変化
デジタル技術の変化は私にとっての歴史でもあり
ます。1970 年代に CTS(Computer Typesetting
(9)形として見えない「ソフト」への投資が増えつ
つある。
System) が出て、サイテックスが始まった 80 年に
CEPS(Color Electronic Pre-press System)が出
(10)業態変革の必要性は十分認識しているが…
てきて、90 年代に DTP(Desk Top Publishing)が
出てきて CEP がなくなっていきます。DTP と同時
以上の点を踏まえてみると、解決のヒントは「ソ
フトインフラ」にあるとみています。
に CTF(Computer to Film)というイメージセッ
ターの時代があって、CTP(Computer to Plate)
が出てきて、その後にオンデマンド印刷機
(POD = Print on Demand)が出てきて、今、W2P
3.流通業にみる業態変革例
− スーパーマーケット −
(Web to Print)またはクロスメディア(Cross
Media)と呼ばれる、どちらかというとソフト系の
流通業の旧モデルというのは、カウンター越しに
対面し、手作業で順次処理していくもので、複数店
舗へ足を運ぶというものでした。それが超効率なモ
技術革新が進んできて、この後には製造ラインの自
動化が進んでいくという流れになると思います。
CTS、CEPS、CTF、CTP は印刷業界内の技術革
デルとしてスーパーマーケットが出てきましたが、
新です。DTP と POD が出てきて、ここで顧客と関
ここでは、①顧客が自分で商品をとってくる、②強
わる重さが変わってきました。
それは顧客にとって、
力な IT 処理(POS、電子調達、在庫管理、トレー
それまでは印刷業界というのはどんな作業をしてい
サビリティなど)がある、③複数の顧客を平行処理
るのかわからないブラックボックスだったのが、
する、④ワンストップサービスとなっている、など
DTP が出てきてどういうことをしているか分かる
(図1)
50
次世代印刷ビジネスを切り拓く
ようになり、POD が出ると印刷物まで自分の身近
でできるようになるという、顧客にも関わる技術革
新が行われました。
5.顧客ニーズの多様化と拡大
先ほどから、顧客側の話をしていますが、図2で
W2P、XM は顧客に深く関わる技術革新ですが、
コスト削減、短納期、高品質、セキュリティ確保、
それだけではなく、自動化を推進する技術革新でも
環境対応、フルフィルメント、販売促進・クロスメ
あるのです。これを頭に入れて考えると、顧客に深
ディア、コミュニケーション改善の8つを表しまし
く関わる技術革新であるがゆえに、顧客を巻き込む
た。小さい楕円は現在、印刷会社が持っている提供
インフラ構築ができる可能性を持っている、または、
可能なサービスおよびレベルを概念的に表してお
顧客に巻き込まれるインフラ構築になりうる可能性
り、右に大きく楕円が広がっています。ところが、
もあります。
顧客ニーズは楕円が大きく拡大されています。これ
たとえば、文房具は ASKUL や大塚商会などに全
部コンピュータで発注しています。しかし、なぜか
は、顧客ニーズとの間に大きなギャップが発生して
いることを意味しています。
印刷物はそうはいきません。営業を呼んでやりとり
今までは両者のニーズが比較的合致していて、そ
しています。しかし、顧客は印刷物もコンピュータ
の間で仕事が発生していました。しかし、現在、ギ
で発注できるものなら、そうしたいと思っており、
ャップが発生していることを指摘してくれる顧客は
彼らからすると印刷もサプライチェーンマネジメン
いません。顧客を訪問する中で、問いかけられるこ
トの中の一部と思っているはずです。
とはあるかもしれません。その問いかけの裏にある
顧客はそういう仕組みを持っていても、その仕組
ものを理解できず、
「当社ではできない」と答えて、
みを持っていないのが印刷業界なのです。だからそ
こういう話をする相手ではないと思われてしまって
こで切れてしまっているのです。顧客の側からみる
仕事を失っているケースはよくあるのです。ギャッ
と、自分たちが何かするとちゃんと印刷会社に行っ
プがあることを理解せず、そのままにしておくと競
て、ものが届く仕組みを持ってもらえればつなぐの
合他社参入の驚異になってしまうのです。ギャップ
です。あるいは印刷会社から顧客に提案してつない
を敏感に感じ取って対応することができれば、大き
でいくといった顧客を巻き込む、巻き込まれるイン
なビジネスチャンスになります。(図2)
フラ構築が必要なのです(図1)
。
(図2)
51
事例研究報告[8]
6.顧 客 ニ ー ズ の 多 様 化 と 拡 大 に
デジタルプリントで応える
様からはワンストップという見方ができますので必
要です。販売促進は印刷会社が上流の方に入ってい
ける素地を持っているとマーケットをどんどん取っ
これもオンデマンドの話で、たとえば、プリント
ていけるのです。販売促進がなくて印刷だけでやっ
オンデマンドを導入した時にギャップの部分をどう
ていると、なかなか入っていけませんし、顧客がど
していくかという話です。
ういう苦労をしているかが分かりません。印刷会社
コスト削減、短納期、高品質とありますが、これ
は販促物を多く印刷していながら、販促とは何か理
までは印刷物の在庫が貯まり使えなくなって廃棄す
解できていません。自分独自のサービスを持ってい
ることあったのが、オンデマンドの導入により、実
ないのです。販売促進をすることによって顧客がど
際に必要な時に必要なだけ印刷すれば済むようにな
んなに苦労しているかを実体験できるのです。
るのです。
顧客を訪ねて四方山話をしていたのは昔のこと
また品質ももう市民権を得たと思います。ハイエ
で、今の顧客は忙しくて情報のない話をする時間が
ンド製品がサカタインクスの Xeikon、HP の Indigo
もったいないという気持ちが強くあって、ただ見積
などを始め、色々なメーカーから出されています。
もらせてくれと言う営業マンは大嫌いという方もい
それに Fuji Xerox、RICOH、Canon、KONICA
ます。ですから、コミュニケーションの改善が必要
MINOLTA も製品を出しています。
になってきます。
Web to Print とオンデマンドが連携してくると
重要顧客とつながっているのは自分だという意識
仕事はほぼ自動で流れ、人が関わる可能性が低くな
は良いのですが、お客様のビジネスに心だけでは通
りますのでセキュリティも確保できます。環境対応
じなくなっており、いかに貢献できるかがポイント
では無駄な印刷をしないということです。Fuji
となっています。それができれば、おのずから仕事
Xerox では Web to Print +オンデマンドの時と、
は来るわけで、そのためには提案しなければならな
普通にオフセットで印刷した時とでは CO2 の排出量
いし、そのためには他の印刷会社と差別化できる仕
が異なるという、CO2 削減の切り口で展開しようと
組みが必要となります。そこで、Web to Print と
しています。
いうコミュニケーションを改善していく道具も必要
先日、再生紙の偽装問題がありましたが、用紙1
になってくるのです。
t を作るのに、木を伐採してから紙になるまで CO2
が1 t 出るそうです。その再生にも1 t、白くする
のにも1 t 以上、焼却にも1 t 以上出るそうです。
植林することで CO2 を吸収しようとしていますが、
いずれにせよ、無駄な印刷物はない方が良いのです。
7.次 世 代 印 刷 業 に お け る 超 効 率
ワークフロー− BFA の構築
これまでは、営業マンが顧客から仕事を取ってき
今まではたくさん刷って捨てていましたが、これ
て工務に渡してきたのですが、営業も工務も、スケ
を企業側が気にするようになってきました。製造業
ジュール、請求、配送、在庫など色々なところとコ
では製造ラインで発生する CO2 の削減に相当努力し
ミュニケーションをとっていました。今後は BFA
てきて、他に削減するものはないかと見た時に、印
(Business Flow Automation)といって、プリン
刷物を無駄に刷って捨てていることが目に付くので
ト・バイヤー(お客様)の方からスタートして、自
す。これは顧客同士のつながりで広がって印刷業界
動的にプリント・サービス・プロバイダーの方に動
に向かってくるのが環境という意味でも恐いところ
いていく仕組みが必要になってくると思いますし、
です。
実際にそうなってきています。おそらく、顧客の側
フルフィルメントは差別化という意味でも、お客
52
も自動化に進んでいきますから、JDF や JMF もこ
次世代印刷ビジネスを切り拓く
CMS、MIS、Web to Print の仕組み、クロスメデ
れをサポートする要素の一つなのです(図3)。
ィアがあります。これらを包括してソフトインフラ
― BFA プラットフォームと呼ばれるものが今後の
8.次世代印刷ビジネスの構図
テーマになります。
プリント・サービス・プロバイダーにはハードの
ソフトインフラの現在の現状部分とのつながりで
インフラがあって、ここには Mac ・ Win、プルー
は、営業または製造の支援かつ付帯サービスの支援
ファ、CTP、印刷機・オフ・ POD、後加工機、倉
を行います。お客様との間では、お客様の Supply
庫といった器があり、営業、制作・製造、組織運営、
Chain Management に対応することと、最も大事な
経営戦略があるという流れがあります。これに対し
のは顧客のビジネスを支援するという接点が出てく
て、プリントバイヤーには、総務・管理、広報・宣
るということです。もちろん、すべての営業がこう
伝、システム、購買、マニュアル制作、販促・企
なるわけではなく、従来どおりの営業マンとこのよ
画・営業といった部署がありますが、今までは購買
うなかたちの営業マンに分かれてくる可能性はあり
と営業の間で印刷の受発注が行われていました。こ
ます。アメリカでは 25 %くらいがこの仕組みにな
の場合、営業マンの興味はお客様のビジネスではな
ってきているそうです。
お客様が何をやっているか、
く、印刷物なのです。先ほどお話ししたように、忙
キーマンは誰かといったことを営業マンはリサーチ
しいプリントバイヤーと話をするには、何らかの興
して入り込む必要があります。そのためには、図4
味をもってもらえる話を持っていかなければ会って
は重要な構図と言えるでしょう。
もらえません。
これを打開するために、今日のテーマになってい
るソフトインフラの BFA プラットフォームと呼ぶ、
9.既存インフラ vs. ソフトインフラ
ISO9001 ・ ISO14001 ・プライバシーマークといっ
既存インフラとソフトインフラを別のかたちで比
た標準化、品質・環境・セキュリティの部分、
較したのが下の図です。
何かを変えようとした時に、
ERP ・ MRP といった計画自動化の部分、また、
既存インフラは人・物・金・組織・意識がハードに
JDF/JMF は部分的にはスタートしていますし、カ
かなり依存していると考えてください。これは想像
ラーマネージメントはソフトの部分です。それに、
以上のもので、大きな岩があるような感じです。そ
(図3)
53
事例研究報告[8]
の周りで新規事業をしようとするのですが、付け足
(9)オリジナルのサービスを持つ。
しという感じです。経営者2世で、指導力、パワー
(10)プロジェクト業務でお客様のイベント等に関
がないとできません。そこに社内の優秀な人材を充
わっていく仕組み。
てたとしても、その周りの岩が大きく、なかなか崩
(11)ビジネスマインドを持つ。
していけるパワーのある人はいないのです。
つまり、
(12)標準化、IT 関連知識が必要になる。
人・物・金・組織・意識に硬直化の傾向があるとい
以上により、顧客指向・マーケティング的な発
想・超効率化・差別化戦略などが出てきます。この
うことです。
一部を使ってスタートすると中途半端で終わってし
ソフトインフラは次のものです。
(1)Web 入稿は水と空気のように皆が使っている
まいます。真剣に取り組んでいくと、おそらく変わ
ってくるはずですが、なんといっても既存インフラ
もので、使わない手はありません。
(2)商圏は拡大します。
が大きいのです。
マインドが一番大きいと思います。
(3)オフセット中心からオンデマンド+ハイブリッ
ソフトインフラを作った時に、社内で、ねたみやや
っかみが出てくるのです。だから、経営者がよくみ
ド W / F になる。
(4)紙 メ デ ィ ア だ け で な く 、 W e b 、 携 帯 な ど の
色々なメディアを使ったクロスメディアへの対
て融合させなければなりません。
しかし、今は融合のレベルまで行っていません。
融合化させることで既存インフラも活性化してき
応が必要になってくる。
(5)B to B だけではなく、B to B to C(お客様が B
て、人・物・金・組織・意識がもっと効率化や省人
to C のビジネスをしていることへの支援)や、
化に進み、利益率の向上ができるようになるのです。
おそらく印刷会社が考えたことのない B to C
これまでのセミナーで既存インフラを示して、今
後のビジネスを聞いたところ、95 %の方は右肩下
が視野に入ってくる。
(6)専用ワークフローの提供(開発ではなく購入し
がりだと答えました。だから、しっかりとソフトイ
ンフラを作らなければなりません。そうすることで、
た専用システムの活用による)
(7)ソフト化、システム化
印刷会社がプリント & サービス・プロバイダーに
(8)対応する相手がビジネス担当者になるため、発
なるのです(図5)。
想が違う。
(図4)
54
次世代印刷ビジネスを切り拓く
連携が必要になる。
10.ソフトインフラとしての Web
to Print に求められるもの
ソフトインフラとしての Web to Print に求めら
CTP /オフセット、デジタル印刷、後加工装
置
・標準の可変データフォーマットに対応しなけれ
ばならない。
れるものをまとめてみました。
PPML, VDX, VPS, etc.
(1)拡張性
初期開発はできてもメンテナンスのコストが高
(8)主要機能
・テンプレート入稿、可変情報入稿、ファイル
く、拡張性がないと陳腐化する。
アップロード入稿
(2)柔軟性
(3)継続性
・見積り機能、PDF プリフライト機能
(4)簡易操作
・スキン機能
・トラッキング機能
操作が簡単でないと使ってもらえない。
・承認機能など
(5)周辺アプリケーションとの連携機能
Web to Print は印刷業界にある次のようなソ
フトと連携して初めてインフラになる。
・ダイレクトマーケティング関連
Print Shop Mail, XM Pie, Darwin/WCS,
Direct Smile, etc.
・ MIS 関連
(6)カスタマイズ対応機能
11.事例:
Greetingcardscafe.com
Direct Smile + Web to
Print
ダイレクトマーケティングのソフト「Direct
・ SDK(Software Development Kit)
Smile」と「iWay」という Web to Print が連携した
・プロフェッショナル・サービス(個別対応)
仕 組 み の も の で B to C の 事 例 を 紹 介 し ま す 。
(7)出力連携機能
Greetingcardscafe.com はイギリスの会社で個人を
・Web to Print から入ったものが自動的に印刷
ターゲットとしたものです。HP にグリーティング
される仕組みになるためには、JDF/JMF との
カードのテンプレートがあり、好きな文字を入れる
(図5)
55
事例研究報告[8]
と、すぐにイメージを見ることができますし、価格
ます。このデザインで OK だと、送付先の住所を入
12.事例:クロスメディアキャン
ペーン(提供: XMPie 社)
力し、クレジットカード決済をすれば何日か後に送
XMPie 社のクロスメディアキャンペーンの事例
られてくるというものです(ただし、このサイトか
で、クロスメディアに入っていくということはどん
らはイギリス、アイルランドのみに送付)。ユニー
なことなのかを、かいま見ることのできるものを紹
クなソフトと連携した事例です。
介します。
も表示されて PDF をダウンロードすることもでき
Web to Print に取り組んでいるのは、日本では
下の画像は Pantone という色関連の事業を行って
まだ 12 社程度ですが、アメリカ、ヨーロッパでは
いるメーカーが、Pantone Spyder というカラーモ
1,200 社を超えていて、印刷会社で Web to Print の
ニターの色調整をする装置があって、印刷物とモニ
ような仕組みを入れるメリットはかなり出ているよ
ターのカラーマッチングを訴求するキャンペーン
うです。たとえばオーストラリアの cjking という
DM です。これはデザイナー向けに出しているもの
会社では、この仕組みを入れて商圏がアメリカまで
で、個人向けの URL が記載されています。
広がったそうです。
この URL にアクセスすると DM と同じ内容が表
また、今まではメールの添付ファイルでデータが
示され、ここで DM とモニターの色が合っていない
来ていたり、FTP でアップロードしていましたが、
ということを示して、この Web から Pantone
入った後に色々な人が関わって処理するので、その
Spyder を買えますよと誘います。そして、注文す
過程で間違いが多く起こっていたのが、解消されて
ると Pantone Spyder が何日後かに送られてきて、
大成功しています。ほかにも、お客様とのやりとり
その後で HTML メールが送られてきて、Pantone
が効率化されたというメリットもあります(図6)。
Spyder 使用後の色確認はどうでしょうかと聞いて
くるのです。この方法で Pantone Spyder の売上計
画の 113 %を達成しています。DM を見た人の約
8%は Web を閲覧し、約6% はデータ入力をした
そうです。
(図6)
56
次世代印刷ビジネスを切り拓く
クロスメディアやマーケティングに取り組むに
(2)人材確保、育成、パートナーシップへの積極的
な投資
は、こういったことを訓練された人が必要になりま
すし、彼らを支援してあげる仕組みを提供する必要
印刷会社が抱えている、従来からの人材では対応
があります。ソフトインフラはこのような仕組みを
が難しい部分もありますので、クロスメディア、マ
お客様に提供できるのです。これまでは、印刷物や
ーケティング等に対応できる人材、パートナーへの
Web や携帯に連携する仕組みがなかったのですが、
投資が必要になってきます。IT 知識を持つ人材、
今はソフトを買えばできるようになってきていま
パートナーへの投資も必要です。また、お客様とき
す。この仕組みを印刷会社からお客様に提案できる
ちんと話ができ、かつ、社内的にもその気にさせて
ようになっただけでも、これまでとは違ってきたと
いけるようなコミュニケーション能力の高い人材へ
思います(図7)
。
の投資も必要になってきます。
(3)フロンティア精神
最後に、印刷業界は歴史が長い業界ですから、フ
13.まとめ
ロンティア精神というと今さら何を言うのだと思わ
(1)ソフトインフラへの積極的な投資
れるかもしれませんが、実はこれだけ世の中が変わ
ソフトインフラへの投資能力はすでにあります。
っていくとフロンティア精神を持たないと、変われ
ハードに対してはお金を産むということで投資して
ません。先代、先々代はものすごいフロンティア精
きましたが、ソフトに対してはお金を産むかどうか
神で、リスクを背負いながらやってきたのだと思い
分からないということでなかなか投資できませんで
ます。ところがいつの間にか良い時代になり、今は
したが、現在ではソフトインフラは開発しなくても
厳しい時代になってきているのですが、起業家精神
買える時代になってきました。ソフトインフラはビ
というものをどこかで忘れているのではないでしょ
ジネス領域を拡大する、製造の超効率化を推進する、
うか。現在、成功している人達は本当に起業家精神
コスト削減を実現するといった仕組みでもあるとい
でやってきている人達です。だから、それを覚醒し
う、大きなインパクトを持っているのです。
なければならないのです。
(図7)
57
事例研究報告[8]
参考資料:略語解説 (アルファベット順)
□ CTS −Computer Typesetting System または、
Cold Typesetting System
□ BFA − Business Flow Automation
お客様のビジネスからスタートした仕事が
電算写植システム
□ DTP −Desk Top Publishing
自動的に流れていく仕組みのこと
□ Hybrid RIP −オフセット印刷/オンデマンド印
□ CEPS −Color Electronic Pre-press System
レイアウトスキャナ、カラー電子製版シス
刷の両ワークフローに対応する
RIP
テム
□ JDF − Job Definition Format
□ CIM −Computer Integrated Manufacturing
製造情報、技術情報、管理情報といった生
業務定義規格。印刷ワークフローをシーム
産現場で発生する各種情報をコンピュータシ
レスにつなぎ合わせるための枠組み。
ステムによって統括し、生産の効率化を推進
JDF1.0 が 2001 年4月に CIP4 より発表され現
すること
在も規格をバージョンアップ中
□ CIP4 −International
Cooperation
for
Integration of Processes in Prepress,
Press and Postpress
プリプレス・プレス・ポストプレスのプロ
□ JMF − Job Message Format
MIS と生産設備、ないしその制御システ
ム間でコミュニケーションを行うときに用い
られるデータ書式
セス統合管理のための国際標準化団体。JDF
□ MIS − Management Information System
規格の立案や普及促進を目的に、2000 年に
□ POD − Print on Demand
ハイデルベルグ、アグファ、アドビ、マンロ
ーランドの4社により設立
□ CTF − Computer to Film
オンデマンド印刷機
□ W2P − Web to Print
□ XM − Cross Media
イメージセッター
□ CTP − Computer to Plate
58
※本稿は平成 20 年 3 月 25 日現在のものです。