本社移転で10年振りLAN刷新 IP電話で機器の移動を楽に

三菱自動車工業
ギガビット・イーサネット
無線 LAN
IP–PBX
本社移転で10年振りLAN刷新
IP電話で機器の移動を楽に
ポイント
1. 幹線 LANを FDDI からギガビット・イーサネット
(GbE)
にして帯域を増大
2. DHCP,IP 電話,無線 LAN の導入で機器の移動を簡単に
3. WAN 再構築で全社にグループウエア導入
三菱自動車工業は2003年5月,
本社移転と同時に本社LANを全面的に刷新した。
共通ファイル・サーバーや,eラーニングなどに活用する。連休中に全クライアン
ト・パソコンの設定を変更し,
トラブルを最小限にとどめた。
移転費用の1/3をLAN刷新につぎ込む
新本社LANでは,①幹線系LAN を
100Mビット/秒のFDDIから☞ギガ
ビット・イーサネットに変更,支線系
旧田町の本社では,1993 年から
LANもトークン・リングから ☞100
東京都心では様々な再開発が盛んに行
☞FDDIと☞トークン・リングのLAN
BASE–TXに変更,②固定IPアドレス
われている。三菱自動車工業は5 月,
を使い続けてきた。同社のネットワー
から☞DHCP による動的な割り当てに
その一つである品川グランドコモンズ
ク担当にとって,LANの刷新は長年の
変更,③内線電話を☞IP電話に変更,
に本社を移転。4月26 日から5 月5日
悲願。96年にビルの移転が決まり,2
④各フロアの会議室に☞ 無線LAN を
のゴールデンウイーク休暇中に,パソ
重投資を避けるため今回まで我慢して
導入――などを行った(図1)
。設計は
コンやサーバーなどをすべて移動した。
きた。
三菱自動車,シスコシステムズ,ネッ
「☞2003年問題」といわれるように,
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NIKKEI COMMUNICATIONS 2003.7.14
本文中 ☞ の付いた用語を解説
トークン・リング=媒体アクセス制
御(MAC)
として,
トークン・パッシ
ング方式を使うLAN。米 IBM が
開発し,その後IEEE802.5 で標準
化された。伝送速度は4M ビット/
秒または16M ビット/秒。
ギガビット・イーサネット=伝送速
度 1G ビット/秒のイーサネット仕
様。伝送媒体に平衡型ケーブル,
光ファイバを使う1000BASE–X や,
より対 線 ケ ーブル を 使 う 1000
BASE–T などがある。
トワンシステムズが共同で実施した。
競争力の源泉になる」
(グローバルIT
新しいアプリケーションで業務効率を
LAN 刷新ではネットワーク機器に約
本部ITインフラマネージメント部の武
上げることと,ファイル・サーバーを
5億円,配線工事に約 1億円,☞IP–
田雅治部長)と言及(p.109の別掲記
統合してセキュリティを向上させると
PBXに約1 億円,電話機に約1 億円を
事を参照)
。金額を惜しまなかった。
いう二つの狙いがあったからだ。
アプリケーションでは,米IBMのグ
投資。ネットワーク以外の情報システ
広帯域を生かし新アプリを投入
ムも含めたIT 関連費用は,移転費用
ループウエア「ロータス ノーツ/ドミ
50億円のうち16億円を占める。2001
実はこれまでのLANでも,帯域が
ノ」を導入し,全社的な情報共有を始
年2月に始まった全社規模の「ターン
足りないという不満はほとんど出てい
めた。このほか,eラーニングの導入
アラウンド計画」で,
「ITへの投資が
なかった。それでも高速化したのには,
や,業務アプリケーションの見直しな
図 1 2003 年 5 月に移転した三菱自動車の本社 LAN 幹線をギガビット・イーサネット
(GbE)
に変更し,スイッチと配線を2 重化。内線電話をVoIP
(voice over IP)化し,電話の移動を容易にした。会議室には無線LANを導入。2003年のゴールデンウイーク休暇に,一気に機器の引越しと設定をした。
無線LANの導入
L2 :レイヤー2スイッチ
(米シスコ・システムズのCatalyst3550または2950)
ユーザー部門フロア
L3 :レイヤー3スイッチ
(米シスコ・システムズのCatalyst6509または3550)
・各フロアの会議室に無線LAN基地局
を設置
・IEEE802.1xによる認証と暗号化によ
りセキュリティ確保
FW :ファイアウォール
R :ルーター
100
BASE-TX
LANをギガイーサに変更
… L2
レイアウト変更などで電話機を移動しても,
内線番号を変えずに済む
ディストリビュー
ション・スイッチ
GbE
L3
L3
GbE×4
認証
サーバー
DHCP
サーバー
L3
L3
無線LANアクセス・ポイントと
IP電話機にはイーサネットで給電
L2
L2
DHPCでIPアドレスを割り当て
設定変更なしでパソコンを別の部署に移動できる
100BASE-TX
100BASE-TX
100BASE-TX
L2
FW 100BASETX
×4
L2
R
インターネット
L3
L3
コア・スイッチ
・サーバー負荷分散装置
・プロキシ・サーバー
・サブシステム・サーバー
・ファイル・サーバー
ATM専用線
10Mビット/秒
L2
GbE×2
L3
L3
100BASE-TX
L2
:無線LANアクセス・ポイント
(米シスコ・システムズのAironet1200)
内線電話をIP化
機械室
…
:タグVLAN,
スイッチ機能付きIP電話機(NECのDterm85(IP))
アクセス・
スイッチ
・旧田町本社時代は,
幹線部分に100M
ビット/秒のFDDI,
クライアントにつなが
る支線部分に16Mビット/秒のトークン・
リングを使用していた
・品川への新本社移転に際し,
幹線部
分をギガビット・イーサネットに,
支線部
分を100Mビット/秒のイーサネットに変
更した
サーバー・ルーム
通信制御装置 :米IBMの3745通信制御装置
R
L2×6
100BASE-TX
R
R
IP-PBX
NECのAPEX7600i
R
R
100
BASE-TX
FDDI
100Mビット/秒
通信制御装置
ATM専用線
3Mビット/秒
ATM専用線
1.5Mビット/秒×2
NTTコミュニケーションズ
Arcstar IP-VPN
加入電話網
…
…
国内拠点
FDDI:fiber distributed data interface
VLAN:virtual LAN
ATM専用線
18Mビット/秒×2
NTTコミュニケーションズ
Arcstar IP-VPN
音声VPN
販売会社
GbE:ギガビット・イーサネット
DHCP:dynamic host configuration protocol
R
R
ホスト・コンピュータ
IBMのデータ・センター
…
国内拠点
海外拠点
VPN:仮想閉域網
ATM:非同期転送モード
NIKKEI COMMUNICATIONS 2003.7.14
105
企業ネット最前線
FDDI = fiber distributed data
interface。伝送速度 100M ビット
/秒のリング状のLAN 方式の一つ。
標準的な伝送媒体はマルチモード
光ファイバ。アクセス制御にトーク
ン・パッシング方式を使う。
2003 年問題=2003 年前後に東京
都心部に大型オフィス・ビルの建設
が相次ぐことで発生する問題のこ
と。供給過剰による空室率の上昇
が危ぐされている。
100BASE–TX =非シールドより対
線(UTP)を利用して,伝送速度
100M ビット/秒で伝送するイーサ
ネットの物理層の仕様。利用する
ケーブルはカテゴリ5 の2 対(4 心)
UTP。伝送距離は100m。
DHCP = dynamic host configuration protocol。クライアントの起
動時に動的にIP アドレスを割り当
て,終了時にIP アドレスを回収す
るためのプロトコル。DHCP サー
バーでIP アドレスを管理する。
IP 電話=電話音声をIP パケットに
変換するVoIP(voice over IP)技
術を使う通話システムやサービス
の総称。ユーザー企業の内線利用
だけでなく,広くサービスとして提
供する通信事業者も登場している。
無線 LAN =伝送路にケーブルを
使用せず,無線を利用する LAN。
利用する電波周波数や変調方式の
違いなどで多くの種類がある。
2.4GHz 帯,5.2GHz 帯の電波を利
用する製品が主流。
図 2 電話を移動させても内線番号に変更がなく,そのまま使える NEC の IP–PBX が持つ独自の内線番号割り当て機能を使用。内線番号は IP 電話
機の MAC アドレスで決まる。電話機をLAN に接続するだけで設定される。
IP電話機1
MACアドレス : a
内線番号 : 100
DHCPサーバー
①オフィスの別の場所から
移動してきたIP電話機
をLANに接続
IP電話機1の
IPアドレスはA
LAN
MACアドレスはa
IPアドレスはA
内線番号の変更がない!
②IP電話機のIPアドレスを
割り当てる。同時に,
IPPBXのIPアドレスを通知
③IP電話は自動的にIPア
ドレスとMACアドレスを
IP-PBXに通知
③IPアドレス「A」のIP電話
器を呼び出す
IP電話機2
MACアドレス : b
内線番号 : 200
④MACアドレスと
IPアドレスの対
応表を更新する
②内線番号「100」のIP
アドレスは「A」
100
200
a
b
A
B
…
…
:IP電話器(NECのDterm85(IP)) DHCP:dynamic host configuration protocol
:IP-PBX(NECのAPEX7600i)
MAC:madia access control
内線番号 MACアドレス IPアドレス
…
①これまで通りの内線番号
「100」をプッシュ
内線番号とMACアドレスを結び付けて
管理している
どの検討も進めている。
「コスト削減
るようになった。このトラフィックに
ても,その部署用の IP アドレスを
ではなく,将来への投資が目的。まだ
対応するためにも今回の帯域増が必要
DHCPサーバーが自動的に割り当て
効果が数字として表れてはいないが,
になった。
る。これにより,異動のたびにパソコ
ンのIP アドレス設定を変更する必要が
新ビジネスの早期立ち上げなどに効果
が出ると期待している」
(武田部長)と
IT投資の目的を強調する。
DHCPで移動時の設定を不要に
高速化以外の LAN刷新の目的は,
なくなった。
また各フロアの会議室に,米シス
また,以前は部署ごとにファイル・
機器の移動を楽にすること。
「当社は
コ・システムズの無線LANアクセス・
サーバーを運用していたが,全社共通
レイアウト変更や人事異動が多い。機
ポイント「Aironet 1200」を導入した。
のファイル・サーバーを導入。2003年
器を移動するたびに設定変更していて
全社ファイル・サーバーに保存してあ
3月末までに本社内のファイル・サー
は,運用が大変になる」
(長田マネー
るプレゼンテーション・ファイルにア
バーを統合した。部署のサーバーは,
ジャー)からだ。そのために,DHCP
クセスしたり,会議中にファイルを共
と無線LAN,IP 電話を導入した。
有するなどの用途に使用している。
「運用がどうしてもいいかげんになり,
セキュリティ上の問題点があった」
(IT
パソコンの移動を楽にするという目
☞IEEE802.1x に準拠したシスコ独自
インフラマネージメント部の長田正美
的を達するために用いたのは,DHCP
のプロトコル「☞LEAP」による認証
マネージャー)からだ。
による動的IPアドレス割り当て。従来
で,セキュリティを確保した。
以前のLAN で帯域が足りていたの
は部署単位で固定IPアドレスを割り当
は,ファイル・サーバーへのアクセス
て,各パソコンに設定していた。そのた
が部署の外には行かなかったから。統
め別部署に異動した場合,IPアドレス
合により,幹線LANにファイル・サ
の設定を手動で変える必要があった。
機器の移動を簡単にするためだ。電話
ーバーを参照するトラフィックが流れ
新しいLANでは別の部署に異動し
機を移動しても,LANに接続するだけ
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IP電話機がアドレスを自動登録
内線電話をIP電話に変更したのも,
IEEE802.1x =LAN 機器のポート
単位でユーザーのアクセス権を認
証するための標準手順。無線LAN
か ら 有 線 LAN へ の 接 続 で は ,
RADIUS サーバーで認証し,ユー
ザーごとに秘密鍵を発行する。
LEAP =light–weight extensible
authentication protocol。米シス
コ・システムズが開発した IEEE
802.1x 向けのクライアント認証手
順。
で以前と同じ内線番号が使える。IP–
チが内蔵されており,LAN に接続する
め,担当者がすべて手動で設定した。
PBXが内線番号とMACアドレスを結
だけで音声VLANに所属する。音声用
主な変更点は,トークン・リング・
び付けて管理しているからだ。NEC の
のVLANタグのID番号は,全フロア
カードをイーサネット・カードに差し
IP–PBX「APEX7600i」が持つ機能を
で同じものを利用している。
替え,固定IP アドレスをDHCPサー
ただし,LANの障害や停電に備え,
使っている(図2)
。
バーによる動的IP アドレス割り当てに
例えば,内線番号が「100」でMAC
全体の1割程度はアナログ電話機を残
変更,無線LAN,プリンタなどの各種
アドレスが「a」のIP電話機を移動し
した。IP電話機は,スイッチからイー
ドライバのインストールなど。この作
て,別の場所に持っていったとする。
サネット経由で給電している。そのた
業は常時20∼30 人がかかりきりで,4
このとき電話機をLANにつなぎ直す
め,停電が起こると給電が停止し通話
月27日から5 月1 日までの5日間を要
と,IPアドレスがDHCP で割り当てら
できなくなるからだ。
した。
サーバーは4月28日∼5月1日,ホ
れる。電話機はそのアドレスを自動的
にIP–PBX に登録。IP–PBXではMAC
5日間で1300台のパソコンを設定
スト・コンピュータは4 月30日∼5月
アドレスと内線番号を対にして管理し
品川新本社のパソコンは全部で2000
1日に設定を変更した。パソコン,サ
ているので,新しいIP アドレスを内線
台。そのうち700台は新規導入である。
ーバー,ホスト・コンピュータの設定
番号「100」の電話機のIP アドレスと
同一機種にそろえて自動で設定できる
変更が終了次第,接続テストを開始。
して登録する。このため,
「100」番が
ようにした。イーサネット・カード,
2日間の接続テストの後,パソコンを
呼び出されたとき,正しく新しい移動
DHCP,プリンタ/無線LAN カードの
配布した(図3)
。
先に接続できる。
ドライバを組み込んだ「品川標準環
IP 電話の音質を確保するため,音声
パケットに☞QoS 制御をかけている。
境」のマスターCDを作成し,それを
コピーして設定を簡略化した。
技術的トラブルはほとんどなし
5月6日の業務再開日は20 人以上の
そのため,データ用の☞VLANと音声
残りの1300 台は,田町から移動し
ヘルプデスクを用意し,トラブルの発
用のVLANを分けて運用。音声VLAN
た従来からのパソコン。機種も様々で
生に備えた。初日,最も多かった問い
のパケットは,優先的に伝送される。
あり,マスターCDをコピーして一括
合わせは,
「Windowsにログインでき
電話機には☞ タグVLAN対応のスイッ
変更というわけにはいかない。そのた
ない」というもの。これは,移転に伴
図 3 本社移転に伴うシステム変更のスケジュール 引越しの担当者以外は 4月26日から5月5日の 10日間が休暇だった。その間にパソコン,サーバーな
どすべてを移動し再設定した。5月6日に新しいネットワークを稼働した。
4月
26日(土)
27日(日)
28日(月)
29日(火)
みどりの日
30日(水)
5月
1日(木)
2日(金)
3日(土)
憲法記念日
パソコンの設定変更
パソコンを
田町から搬出
4日(日)
5日(月)
こどもの日
6日(火)
7日(水)
パソコンを
各部門に配布
サーバーの設定変更
接続テスト
パソコンを各人に
配布,
稼働開始
ホスト・コンピュータの
設定変更
三菱自動車の休暇期間
NIKKEI COMMUNICATIONS 2003.7.14
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企業ネット最前線
IP–PBX =構内に張り巡らせたイ
ーサネットを,内線電話網の回線と
して使う際に必要となるLAN 直結
型 の PBX 機 能 内 蔵 サ ー バ ー 。
LANと従来の内線電話網を,一元
的に管理できる。
VLAN = virtual LAN。物理的な
LAN 構成とは独立に,ネットワーク
に接続した端末をレイヤー 2レベ
ルでグループ化する機能。または
その機能を使って論理的に構成し
たLAN のこと。
QoS =quality of ser vice。ネット
ワークのサービス品質を制御する
こと。音声や動画など一定の帯域
やリアルタイム性を要求する通信
に,優先的に帯域を割り当てるな
どの制御を行う。
タグVLAN =VLAN を実現する方
式の一つ。MAC フレームにVLAN
を識別するタグをつけて識別する。
IEEE802.1Q で 標 準 化 されて い
る。
ATM =非同期転送モード。セルと
呼ぶ53 バイトの固定長フォーマッ
トでデータを転送する通信方式。
転送すべきデータがある時だけネ
ットワークにセルを転送するため
「非同期」
と呼ばれる。
表 1 本社移転後に発生したトラブル 事前テストを十分にしたために,純粋に技術的なトラブルはほとんどなかった。主なトラブルは,エンドユーザーとのコ
ミュニケーション不足によるものだった。
トラブル
原因
解決方法
Windowsにログインできない
移転時にパスワードを変更。移転前に紙で新パスワードを伝えたが,認
知していないユーザーがいた
パスワードを再通知
クライアント・パソコンから
プリンタで印刷できない
プリンタの機種や接続方法を変えたため,パソコンの設定ミスが生じた
パソコンを再設定
ホスト・コンピュータから
プリンタで印刷できない
プリンタの接続方法を変えたため,ホスト・コンピュータの設定を変え
る必要があった
漢字出力できるよう設定
ホスト・コンピュータに
ログインできない
ホスト・コンピュータのイーサネットからの最大接続台数が 200 台に 稼働初日(5/6),朝はクレームがなかったが,昼以降クレー
なっていた。ホスト・コンピュータの事前テストができなかったことと, ムが続出。最大接続数が原因とは翌日に判明。ホスト・コン
ピュータの設定を変更し,5/9 に最終的に解決
イーサネットに変更したのが原因
インターネットに接続できない/
ファイル・サーバーに接続できない
パソコンの設定ミス
パソコンを再設定
パソコンが行方不明
①移転時にパソコンを持って帰ってしまった社員がいた
②引越し時に所定の箱にパソコンを入れておくことで回収していた。
しかし,パソコンを所定の箱以外に入れた社員がいた
担当者が社内中を探し回った
いパスワードを変更していたのに,そ
持っていく予定の様々な種類のパソコ
の4月25日,指定の箱に入れてもらい
のことを把握していないユーザーがい
ンで接続テストを実施した。
回収していたが,指定の箱に入れてい
設計をサポートしたネットワンシス
ない社員がいた。また,二十数台のパ
テムズ・エンタープライズ事業本部第
ソコンがゴールデンウイーク中に持ち
ホスト・コンピュータにつながらない
2 事業部技術第1チームの阿部豊彦氏
帰られてしまった(表1)
。
ことがあるという問題。同じパソコン
によると,
「最も苦労したのはテスト
「今回の周知の方法では,エンドユ
からでもつながったりつながらなかっ
内容の決定。刷新前後のネットワーク
ーザーとは直接話をしていない。これ
たりするため,なかなか原因が分から
環境差を洗い出し,それにより何をテ
が問題点だったかもしれない。今後の
なかった。
「この問題は午前中は起こ
ストするかを決めた」
。
課題として生かしたい」
(武田部長)
。
コミュニケーション不足を反省
WAN再構築で開発時間を短縮
たためである。
6日午後から急浮上してきたのは,
らないが,昼以降急増するという特徴
があった。そのため,接続台数の設定
に問題があると考え調査した」
(長田
「引越しでの反省は,エンドユーザ
三菱自動車では今回の本社LAN 刷
マネージャー)。5 月 7日午後,ホス
ーとのコミュニケーション不足」と,
新以外にも,
「ターンアラウンド計画」
ト・コンピュータのイーサネット経由
武田部長は振り返る。Windowsのパ
に基づいたIT 関連のプロジェクトを進
での最大接続数に設定ミスを発見。5
スワードの変更は,事前に紙でエンド
めている。
月9日に問題個所を修正した。
ユーザーに通知。さらに部門代表者向
2002 年前半には,国内の拠点間
サーバーやパソコンでは,技術的な
けに,2,3回説明会も開催した。しか
WANを刷新。自社運用の ☞ATM 専
トラブルはほとんどなかった。これは
し前述した通り,稼働初日は「Win-
用線を,NTTコミュニケーションズの
「事前テストを十分にしたため」
(長田
dows にログインするためのパスワード
☞IP–VPNサービス「Arcstar IP–VPN」
マネージャー)である。旧田町本社で
が分からない」という質問が最も多か
に変更した。一方,海外拠点間WAN
2003 年3 月より,実際の環境を模した
った。
は,ディジタル専用線から,KDDI の
接続テストを開始した。一部イーサネ
パスワードの問題以外にも,コミュ
ットが導入されていた部署に,品川新
ニケーション不足に起因する問題はあ
本社で使用する予定のサーバーを接続。
った。移転するパソコンは引越し前日
108
NIKKEI COMMUNICATIONS 2003.7.14
「フレームリレー/セルリレーサービス」
に変更した(図4)
。
これにより,国内の拠点間WANの
コストは月額2600万円から1600 万円
sssssssss
に減り,帯域は4 倍になった。海外拠
点間WANのコストは月額2100万円か
武田 雅治
ら3500 万円へと増えたが,帯域は6 倍
三菱自動車工業
グローバルIT 本部
ITインフラマネージ
メント部 部長
になった。
拠点間WANの帯域増により最も恩
変わるITインフラ投資
競争力の向上が使命
を結び,協力して作成した。
ターンアラウンド計画で最も変わっ
た点は,ITインフラへの投資に対す
恵を受けたのは開発部門だ。自動車の
デザインに使うCAD(コンピュータに
よる設計支援)データは,大きいもの
2001年2 月,業務プロセスの根本
る考え方だ。以前は☞TCOを下げる
的な見直しをする「ターンアラウンド
という考え方が基本だった。ターン
計画」を開始。それに伴い,情報シス
アラウンド計画後は,
「ITインフラへ
だと数Gバイトにもなる。そのため,
テムの全社共通化を狙った「グローバ
の投資は競争力の源泉になる」とい
以前はテープに記録し郵送していた。
ルIT本部」を同年6 月に設立した。
う考え方に変わった。
WAN刷新後は,夜中にデータを送受
ネットワークの見直しは,投資の
これにより,新しいネットワークが
信してデザインのデータをやり取りし
方針を決めるところからスタート。同
可能になった。例えば海外拠点間の
年10 月までに投資の基本方針をまと
WANなどがそう。ネットワークを整
めた「コンセプトペーパー」を,シス
備して,業務プロセス見直しの基盤
コシステムズとコンサルティング契約
を作るのが我々の仕事だ。
ている。これにより,開発時間を短縮
(白井 良)
できた。
図 4 三菱自動車の社内ネットワーク概要 2002 年前半に,国内拠点を結ぶネットワークをATM 専用線によるメッシュ接続からNTTコミュニケーションズ
の「Arcstar IP–VPN」に切り換えた。
グローバルWAN
(KDDIのフレームリレー/セルリレーサービス)
KDDIの局
ロンドン
欧州拠点
セル・リレー
3Mビット/秒
セル・リレー
1Mビット/秒
KDDIの局
東京
生産拠点のホスト・
コンピュータを集約。
運用をアウトソーシ
ング
水島工場
IBM
データセンター
南港
・販社ネットワークのデータ・センター
・品川新本社のホスト・コンピュータ
を一部移設。運用をアウトソーシン
グ(芳賀に移設予定)
ATM専用線
16Mビット/秒×2
ATM専用線
27Mビット/秒×2
岡崎工場
VPN:仮想閉域網
ATM:非同期転送モード
iisc:日本IBMインダストリアルソリューション
MFTB:三菱ふそうトラック・バス
(2003年1月分社化)
ATM専用線
10Mビット/秒
大江工場
ATM専用線
5Mビット/秒×2
MFTB
(川崎)
ディジタルアクセス
1.5Mビット/秒
国内WAN
(NTTコミュニケーションズの
Arcstar IP-VPN)
ATM専用線
8Mビット/秒×2
京都工場
北米拠点
セル・リレー
5Mビット/秒
ATM専用線
5Mビット/秒×2
ATM専用線
13Mビット/秒×2
ATM専用線
8Mビット/秒×2
KDDIの局
ロサンゼルス
ATM専用線
18Mビット/秒×2
ATM専用線
1.5Mビット/秒×2
ATM専用線
20Mビット/秒×2
10Mビット/秒×2
品川新本社
ATM専用線
3Mビット/秒
IBM
データ・センター
栃木県芳賀
品川新本社のホスト・
コンピュータを移設。運
用をアウトソーシング
iisc
(川崎北)
ホスト・コンピュータのデータ
を印刷,
テープ保存するため
のリンク。品川新本社の通
信制御装置に直結
販社ネットワーク
(NTTコミュニケーションズの
Arcstar IP-VPN)
…
販売会社
NIKKEI COMMUNICATIONS 2003.7.14
109
企業ネット最前線
TCO =total cost of ownership。
企業情報システムにおけるハード
ウエア,ソフトウエア,メンテナンス
などを含めた運用コストの総額。
IP–VPN =伝送プロトコルをIP に
限定した仮想閉域網サービス。通
信事業者のネットワーク上に,第三
者がアクセスできない仮想的な閉
域網を設定。特定のユーザー拠点
間で通信できる。