ホルモン補充療法: Dos と Don`ts (上田悦子 著、著作権 2009 年) 「天然

ホルモン補充療法: Dos と Don'ts (上田悦子 著、著作権 2009 年)
「天然ホルモン:医者が無知な理由」セクションで説明したように、大多数の医者はいまだに製薬会社が提供する非常
に偏ったガイドラインに従ってホルモン療法を行っています(Premproの製薬会社に対する訴訟を扱っている弁護士
のWebサイト 参照)。安全で効果的な天然ホルモン(人体で分泌されるものと同じ化学構造を持つホルモン。そうでな
いホルモンは擬似ホルモン)の使用方法については皆目見当が付かず、旧来の処方を踏襲して、天然ホルモンでも
間違った処方をする医者が後を絶ちません。
安全で効果的な更年期のホルモン補充方法を臨床実験データと科学的な知見に基づいて dos と don'ts に分け
て説明します。更年期障害の臨床実験データは表にまとめました。
Dos:
1.
人体同一の天然ホルモンを最低限必要な量、経皮投与 (クリーム/軟膏*、パッチ/張り薬、スプレイ、オイル、膣
座薬・リング**):量が多いほど出血が起きやすくなるばかりでなく、ホルモンバランスが崩れて健康を害する元に
なります。不快/危険な副作用も出てきます。閉経数年以内で卵巣がある人の3人に1人は、クリームによる経皮
投与でプロゲステロン(黄体ホルモン)1日 20mg のみで、つまりエストロゲンの補充なしで、ホットフラッシュ(ほ
てり)や発汗を完全に抑えることができるという実験例があります(下表参照)。それで十分効果がなければ、1
日 0.025mgの経皮エストラジオール+ プロゲステロンでほとんどの人が症状を抑えることができます。それで足
りない場合は1日 0.05mgの経皮エストラジオール+ プロゲステロンで十分です 1。子宮内膜の保護という観点
から見ると、膣座薬を使用した実験では1日 10mgのプロゲステロンが1日 0.160mgのエストラジオールで刺激
された子宮内膜を保護します。プロゲステロンの投与量の目安として、通常の月周期では最高1日 30mgしか
分泌されないことを頭に入れておく必要があります。
*要注意: プロゲステロン・クリームが効率よく吸収され、酸化されないようにするには、リポゾームやビタミン E な
どの適切な媒体内に浮遊させておく必要があります。ざらついたり水っぽくなったりしているクリームは効力があり
ません。上質のクリームでも封を切ってから3ヶ月ほど経つと水っぽくなって酸化が進んでいることがわかります。
効率よく吸収されるためには、柔らかい清潔な肌に良くすり込む必要があります。ミネラルオイル(鉱油)は吸収を
妨げるので、それを成分に含む製品との併用は避ける必要があります。全身に回る前に肝臓で処理されてしまう
ことを避けるために、肝臓に近い腹部への適用は避けます。
**要注意: リング形式の膣座薬は摩擦による組織の炎症を誘発する可能性があるので頻繁にチェックする必要
があります。
2.
プロゲステロン補充は生理の変化や異常その他の生殖機能の衰えが最初に現れた時点で開始する。生殖機
能の衰えはプロゲステロンの不足という形で35歳くらいから顕著になってきますが、20代でもまれではありませ
ん。症状はPMS、生理痛、重い生理、卵巣のう腫、乳房の張り、その他個人差がありますが、45歳前後では、
無視できない症状が増え、閉経が近いことを知らされます。プロゲステロンの低下は閉経の何年も前から進行
する一方、エストロゲンのレベルは閉経の直前まで低下せず、FSH(卵胞刺激ホルモン)の上昇で卵巣が過剰
に刺激されるため反対に高くなります 2。35歳から閉経までが女性の健康にとって最も危険の多い期間になっ
ているのは、このホルモンバランスの異常な崩れに由来しています。閉経後でも数年間は子宮内膜の増殖を刺
激するのに十分な量のエストロゲンの生成が続き 3、子宮ガンその他のエストロゲン優勢の弊害を避けるために
もプロゲステロン補充が重要になります。
3.
閉経後にエストロゲンとプロゲステロンを併用する場合は、エストロゲンのみの期間を入れない。以前は閉経後
でも子宮を保護するには高レベルのホルモンで閉経前のホルモン周期を再現して生理を誘発する必要がある
と考えられていましたが、そのアプローチに根拠のないことは証明済みです(D L Moyer et al. 1993 4)。両方を
平行投与した場合、低量のプロゲステロン (膣座薬では1日 10 mg、経皮クリームでは1日 20 mg) が、生理を
誘発せずに、低~中量(エストラジオールの貼り薬で 1 日 0.025~0.050mg)のエストロゲン補充によって刺激さ
れた子宮内膜を保護することが実証されています(下表を参照)。ただし、平行投与を開始した当初は軽い出血
が見られることがあります。エストロゲンのみの期間を入れないことは卵巣癌の予防にも重要であることが知られ
います 5。
4.
定期健診を怠らない。健全なホルモンバランスを正しい方法で維持することによってさまざまなリスクを低減でき
ますが、リスクが完全になくなるわけではありません。
Don'ts:
1.
エストロゲンの単独使用を正当化できる条件はありません。子宮がない人でもエストロゲンは必ずプロゲステロ
ンと併せて使用する必要があります。エストロゲンの単独使用は子宮癌のリスクを高くするだけでなく、乳癌 6、卵
巣癌 7 8、脳溢血 9、痴呆 10、その他のさまざまなエストロゲン優勢症候群のリスクを高くします。通常処方される
擬似の黄体ホルモン剤ではこれらのリスクを低減できません。逆に高くなります。この事実を無視する人は、本
物のホルモンと擬似ホルモンの違いを理解していないばかりでなく、エストロゲン優勢症候群の恐ろしさをっ
まったく理解していない人です。
2.
擬似ホルモンの使用を正当化できる条件はありません。擬似ホルモンが乳癌 11、血栓 12、高脂血症 13などのリス
クを高くすることは良く知られています。本物の黄体ホルモンの薬名は「プロゲステロン」、本物の経皮エストロゲ
ンの薬名は「エストラジオール」または「17 ベータ・エストラジオール」です。それ以外は偽者です。ホルモン補
充用のホルモン剤だけでなく、避妊薬に使用されているホルモンもすべて擬似ホルモンです。プレマリンのよう
に馬の尿から抽出した非人体同一ホルモンもあります。
3.
ホルモンの経口投与 (錠剤やカプセル) を正当化する条件はありません。コレステロール 14、心血管疾患 15、メ
タボリック疾患 16のリスクを高くします。経口プロゲステロンは子宮内膜保護の効果が弱く 17、エストロゲンもプロ
ゲステロンも経口投与では肝臓と腎臓に負担がかかり 18、胆嚢疾患のリスクを高くします 19。プロゲステロンの経
口投与は標準投与量が 100mgと非常に高い上に代謝される率が高いため、プロゲステロンの沈静作用が疲
労感や鬱様の症状になって現れます。エストロゲンとのバランスが取れていない場合は特に過剰投与の悪影響
が顕著になります 20。プロゲステロンとその代謝物は脳内の GABAa 受容体を介して鎮静剤として作用します。
適量なら気分が落ち着き、脳内が静かになりますが、過剰投与すると酔っ払ったときのように認知機能が低下
し 21、消化機能もスローダウンします。
4.
静脈血のホルモン検査でホルモン補充の効果を確認することはできません。子宮内膜の状態と血清のホルモ
ン・レベルの対応関係を調べた研究 (Trévoux, et al. 1986 22, Sojo-Aranda et al. 1988 23) では、両者の間に
はっきりした相関関係がないことがわかっています。ホルモン補充の効果を調べた場合も同じです (Ficicioglu
et al. 2004 24, Tavaniotou et al. 2000 25, Friedler et al. 1999 26)。静脈から取った血液のホルモンレベルの検
査は、血清でも赤血球でも、遊離活性状態のホルモンでも、不活性の結合型ホルモンでも、体内に十分な酸素
が運ばれているかどうかの判断に静脈血の酸素レベルを調べるようなもので、体の各所にどれくらいホルモンが
運ばれたかを知る手がかりにはなりません。唾液や毛細血管の血液を測るとそれぞれの組織に運ばれるホルモ
ンのレベルを知ることができますが、いずれも経皮投与直後から半日間ほどの間に急激な上がり下がりを見せ
る 27
28 29
ので、それを補充レベルの指標として使うことには無理があります。症状が改善するかどうかが問題な
わけですから、補充の効果を見るには症状を見るべきで、子宮内膜が保護されているかどうかは子宮の検査で
確認しないと意味がありません。
表 1.プロゲステロンの経皮投与を閉経後の女性に適用した臨床実験(特に断らない限りプロゲステロンは天然=人
体同一)
実験
Leonetti et al.
1999 30
規模と期間
43人(偽薬47
人) 自然閉経
から5年以内
エストロゲン
なし
(複合ビタミン剤と
カルシウム 1200
mg を毎日)
プロゲステロン
プロゲステロン・ク
リーム小匙 1/4 (プロ
ゲステロン 20mg ま
たは 0mg)を毎日
プレマリン(結合型
の経口エストロゲ
ン) 1 日 0.625mg
プロゲステロン・ク
リーム 1000 mg 経
皮投与 1 日 2 回、濃
度 0%、1.5%(1 日
30mg)、4.0%(1 日
80mg) 体重に合わ
せて調整
1 年間継続
Leonetti et al.
2003 31
32 人、閉経後
7.1 ±6.2 年
28 日(1 周期)
子宮内膜の増殖
を刺激するために
プロゲステロン開
始 2 週間前に開
始
Arvind Vashisht et
al. 2005 32
41 人(44人のう
ち 3 人未完)
1 日 1 mg の経
皮エストラジオー
ルを毎日
1 日 40 mg のプロ
ゲステロン経皮投与
を毎日
48 週間継続
Arvind Vashisht at
al. 2005 33
同上
同上
同上
D de Ziegler et al.
2000 34
67 人
6 ヶ月間
Cicinelli, Ettore et al.
2002 35
26 人
I 年間
エストロゲン(不明)
多分、経皮エスト
ラジオール 1 日
0.05mg
経皮エストラジ
オール 1 日
0.05mg
Hamada et at.
2003 36
20 人
16 週間
4ヶ月間連続使用
の膣座薬リングに
よるエストラジオー
ル 1 日 0.160 mg
プロゲステロン・ゲル
膣座薬 (Crinone
4%= (45 mg) 週に
2投与
プロゲステロン・ゲル
膣座薬 (Crinone
4%= (45 mg) 週に
2投与
4ヶ月間連続使用の
膣座薬リングによる
プロゲステロン 1 日
10mg または 20mg
Ben-Chetrit et al.
2005 37
29 人
4~6 ヶ月
11 人が副作用
のため途中で停
止
同上
同上
結果
ほてり発汗などの改善解消: 30 人中
25 人(83%)、偽薬では 26 人中 5 人
(19%)、30 人中の 11 人は完全解消
効果は1ヵ月後に最大限に達し、その
後変化なし。
骨量変化なし
軽い出血: 8 人
内膜増殖スコア(EPS)
初期 EPS=2 → 最終 EPS=0 (30mg
と 80mg のグループ)、偽薬のグルー
プでは変化なし
0=増殖なし
1=極わずか増殖
2=中程度の増殖
3=本格的な増殖
4=過剰増殖
プレマリンのみの2週間に 3 人に軽い
出血、次の2週間に 3 人に軽い出血(2
人は 0%グループ、1 人は 1.5%グ
ループ)
98%以上が実験を完了
24 週目では 48%が出血なしのまま、
48 週目では 35%が出血なしのまま。
全期間を通じて 50%が出血なしまたは
極軽い出血のみ。出血頻度は全期間
を通じて変化なし。
32 % が内膜の増殖または過剰増殖
24 週後と 48 週後に被験者が報告した
更年期障害の程度を Green
Climacteric Scale で計ると、明確な改
善が見られた。
67 人のうち 54 人 (80.6%) は全6ヶ
月間出血なし。内膜の過剰増殖なし。
82%が出血なし。内膜萎縮 24 人
(92.3%)、脱落膜化 2 人
2週間で早くもほてりと寝汗がはっきり
改善し、気分スコアが著しく改善。
全期間に渡って両投与量とも内膜の厚
さ < 3 mm
出血は 20mg リングで多く見られた。6
週目以降に出血は見られなかった。
更年期障害が軽減、改善は1ヵ月後に
最高に達しその後変化なし
内膜肥厚の抑制
不快な出血パターンなし
子宮内膜肥厚 6 人(20%)
注意: 赤い文字は過剰な投与量、経口投与、擬似ホルモン、その他問題のある条件であり、避けるべきことを示します。
人体同一ホルモンの補充方法に関する実験データについては、その分野の権威である David T. Zava 博士の論
文(第 1 部、第 2 部)を参照してください 。
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プロゲステロン・クリームを経皮投与すると、30 ~ 60 分以内に唾液検査で検出できるようになり、1 ~ 4 時間で鋭
く上昇して最高値に達しその後低下する。
28
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oleic solution of progesterone (Gestone) in fertile women] Minerva Ginecol. 1995 Mar ;47 (3):99-102
オイルに溶かしたプロゲステロン 100 mg を経皮投与。血液検査では 1 ~ 4 時間後に最大値に達しその後急速
に低下するが、24 時間後もベースラインより高い。
29
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after estrogen treatment. Fertil Steril. 1981 Apr ;35 (4):433-7
エストロゲン投与の後プロゲステロンの吸収率が高くなることを示した実験。プロゲステロンのピーク・レベルはベース
ラインの 20 ~ 40 倍。アブストラクトには膣に挿入したプロゲステロンの投与量が明記されていない。
30
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postmenopausal bone loss. Obstet Gynecol. 1999 Aug ;94 (2):225-8
臨床の場で患者にプロゲステロン・クリームを勧めてきた医者の観察では、閉経後の女性の 2/3 はプロゲステロン・ク
リームのみで更年期障害を克服できるという。それを偽薬を使った2重盲検法で確認するために行われた実験。もう1
つの成果は、閉経後の数年間に一般に見られる骨量低下は、複合ビタミン・ミネラルを補給した場合は見られないこと、
その場合ホルモンの影響も見られないことを示したこと。
31
Leonetti H, Wilson KJ, Anasti JN. Topical progesterone cream has an antiproliferative effect on
estrogen-stimulated endometrium. Fertil Steril 2003; 79: 221-222.
プレマリン 0.625mg は米国では当時最も頻繁に処方されていたエストロゲンであり、多くの副作用で悪名高い従来
の擬似プロゲステロンの代わりに天然プロゲステロン・クリームをプレマリンと組み合わせた場合の内膜増殖抑制効果
を証明することがこの実験の目的。
32
Arvind Vashisht, Fred Wadsworth, Adam Carey, Beverley Carey, John Studd. Bleeding profiles and
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progesterone cream as part of a continuous combined hormone replacement regime. BJOG. 2005 Oct ;112
(10):1402-6
1 日 1 mg のエストラジオール経皮投与が使用された理由は? これは通常必要な量の40倍に相当する。1 日
40mg の経皮プロゲステロンが内膜増殖を抑制し切れなかったのも不思議ではない。2000 年に同じ Chelsea and
Westminster Hospital, London, UK で行われた経皮プロゲステロンの実験では血清ホルモンレベルから判断して
十分吸収されなかったという結論を出していたが、今回は血清ホルモンレベルに頼っていいないだけ進歩したと言っ
てもいい。エストラジオール投与量については進歩がないのがいぶかしく思われるが、プロゲステロンクリームが役に
立たないことを証明するためにわざと異常に高いエストラジオールを使用したのかと疑われても仕方がない量である。
いずれにしても、これが同病院を訪れる更年期の女性に処方される通常の量だとしたら、大問題である。
33
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35
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36
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経皮投与の局所効果で、この実験で使用された比較的高いレベルのエストロゲンによる内膜増殖作用を抑えるのに
1 日 10 mg のプロゲステロンで十分であることが示された意義は大きい。ほてりや気分の改善はその効果が脳にまで
及んでいることを示す。
37
Avraham Ben-Chetrit, Drorit Hochner-Celnikier, Tzina Lindenberg, David Zacut, Shlomo Shimonovitz,
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膣に挿入したリングは表面が粗く周りの組織に炎症を引き起こし、28人のうち11人はそのために途中で使用を停止し
ている。同じ製品を使用した日本での実験(Hamada et at. 2003)のアブストラクトではそのような問題については触
れられていないのがちょっと不思議。でもスキン・クリームで十分効果があると知ったら膣に異物を挿入ことを選ぶ人は
少ないはず。