日時: 5/18(水)3講目 授業テーマ: 基礎生命科学 第 3 回: 動物の体内環境の維持(自律神経による調節,ホルモンによる調節) 担 当: 鈴木健史 主な項目: 恒常性.ホルモンと自律神経による調節. 目 恒常性がどのように維持されているかについて学ぶ. 的: 恒常性の維持にかかわる器官の機能と機能を学ぶ. ホルモンと自律神経系の働きについて学ぶ. 行動目標: 恒常性について説明できる. ホルモンと自律神経系について説明できる. 学習目標と要点: 1. 泌尿器系:腎臓 2. 神経系: 中枢神経 :脳 + 脊髄 感覚神経 末梢神経 運動神経 自律神経系(交感神経 + 副交感神経) 3. ホルモンによる調節 内分泌系,視床下部,下垂体,内分泌腺,ホルモン,神経分泌細胞,ネガティブフィードバック 4. 神経による調節:自律神経系 交感神経(ノルアドレナリン),副交感神経(アセチルコリン),二重支配 課題: 1. 血液の酸素運搬機能についてヘモグロビンの酸素結合力を含めて説明しなさい. 2. ホルモンによる調節について説明しなさい. 3. 自律神経による調節ついて説明しなさい. 4. 抗体分子について模式図を描き説明しなさい. 5. 液性免疫と細胞性免疫の違いについて説明しなさい. 1 2016.5.18 by suzuki 動物の体内環境の維持 腎臓の機能 肝臓でつくられた尿素やその他の老廃物を尿として排出する臓器で,尿による水分量(血液量,体液 量)や塩濃度,pH の調節を行う.ネフロンと呼ばれる機能単位からなり,左右の腎臓それぞれ約 100 万個 のネフロンを持つ.ネフロンは腎小体(ボーマン嚢+腎糸球体)と尿細管から構成されている. 神経系: 脊椎動物の神経系は,中枢神経系と末梢神経系からなる.中枢神経系は脳と脊髄からなり,末梢神経系 には体性神経系と自律神経系がある.恒常性にかかわるのは主に自律神経系で,交感神経と副交感神経を 含む.一方,体性神経系は,感覚神経と運動神経を含む. 末梢神経とは,脳や脊髄から出て全身に分布する神経の線維束をいいい,脳からは 12 対の脳神経が,脊 髄からは 31 対の脊髄神経が出る.それぞれの末梢神経の線維束に,感覚神経や運動神経,自律神経の線維 が混在する. 中枢神経系:脳 + 脊髄 末梢神経系 体性神経系(運動神経 + 感覚神経) 自律神経系(交感神経 + 副交感神経) ホルモンによる調節:内分泌系 ホルモンという化学物質が血流中に分泌され,血流に乗って運ばれ標的器官に作用する.特定の化学物 質を分泌する細胞が集まった組織を分泌腺といい,化学物質を血流中に分泌するものを内分泌腺,体外や 消化管内に分泌するものを外分泌腺という.なお,内分泌腺が血流中に分泌する化学物質をホルモンとい う.内分泌系を介した反応は,神経系を介するものに比べ時間がかかるが,反応の持続時間が長く続く場 合が多い. ヒトには多くの内分泌腺がありさまざまなホルモンを分泌しているが,ひとつのホルモンは特定の臓器 のはたらきのみを調節する.この特定の臓器を標的器官という.標的器官の細胞は,特定のホルモンに反 応する受容体を持っており,受容体にホルモンが結合することで細胞の活動に変化が起きる ホルモンの分泌は,自律神経や他のホルモンによって調節されている.脳の間脳にホルモン分泌を調節 する中枢があり,特に視床下部とそれにつながる脳下垂体が中枢として働いている.視床下部には,ホル モンを分泌する神経内分泌細胞があり,脳下垂体後葉に突起を伸ばして脳下垂体後葉からホルモンを分泌 したり,あるいは脳下垂体前葉にいく血管内に放出ホルモンや抑制ホルモンなどのホルモンを分泌し,脳 下垂体前葉に存在する内分泌細胞のホルモン分泌を制御している. 脳下垂体は多くの種類のホルモンを分泌しており(下表) ,その多くは他の内分泌腺のホルモン分泌を調 節する.例えば,視床下部からの放出ホルモンの働きで,脳下垂体前葉から甲状腺刺激ホルモンが放出さ れると,甲状腺が刺激されてチロキシンが分泌される.チロキシンは全身の細胞に作用し,それを活性化 させる.このため,全身の細胞で呼吸量が増え酸素やグルコースの消費量が増え,その結果体温が上昇す る.また,血流中のチロキシン濃度が上がると,視床下部の神経分泌細胞がそれに応答して,放出ホルモ ンの分泌が低下する.また,下垂体前葉にも作用し,甲状腺刺激ホルモンの分泌が抑制される.このよう に,最終分泌物によって,その分泌量が調節されることをフィードバックという.特に,最終産物がその 生産量を抑制するフィードバックをネガティブフィードバック(負のフィードバック)という. 2 下垂体ホルモン 前葉ホルモン ACTH: 副腎皮質刺激ホルモン adrenocorticotropic hormone GH: 成長ホルモン growth hormone PRL: プロラクチン prolactin TSH: 甲状腺刺激ホルモン thyroid stimulating hormone LH: 黄体形成ホルモン luteinizing hormone FSH: 卵胞刺激ホルモン follicle-stimulating hormone 後葉ホルモン OXT: オキシトシン oxytocin VP: バソプレシン vasopressin,抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone; ADH)ともいう 表.ヒトの主な内分泌腺とホルモンの働き 内分泌腺 ホルモン 視床下部 脳 下 垂 体 前葉 後葉 甲状腺 副甲状腺 働き 放出ホルモン 脳下垂体前葉にある内分泌細胞のホルモン分泌を促進する. 抑制ホルモン 脳下垂体前葉にある内分泌細胞のホルモン分泌を抑制する. 副腎皮質刺激ホルモン 副腎皮質ホルモンの分泌促進. 成長ホルモン 血糖量の増加.骨の発育,生長促進. プロラクチン 乳汁生産 甲状腺刺激ホルモン チロキシンの分泌促進. 黄体形成ホルモン エストロゲン,プロゲステロン(卵巣) ,アンドロゲン(精巣)の分泌祖促進 卵胞刺激ホルモン エストロゲン,プロゲステロン(卵巣) ,アンドロゲン(精巣)の分泌祖促進 バソプレシン 腎臓での水の再吸収を促進し,血圧を上昇させる. オキシトシン 分娩時に子宮収縮させる.また乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促す チロキシン(濾胞細胞) 細胞の働きを活性化させる.代謝促進.熱生産. カルシトニン(傍濾胞細胞) 骨吸収の抑制.血中 Ca2+量増加. パラトルモン 骨吸収の促進.Ca2+再吸収の促進.活性型ビタミン D3 産生 膵臓 グルカゴン(α 細胞) 血糖値(血中グルコース濃度)を上昇させる.グリコーゲンを分解する. ランゲルハンス島 インスリン(β 細胞) 血糖値を低下させる.グリコーゲンを合成する. アドレナリン 血糖値を増加させる.交感神経と協調. 糖質コルチコイド(束状帯) 糖新生.血糖量を増加. 鉱質コルチコイド(球状帯) Na+再吸収の促進.血圧上昇.血中 Na+と K+のバランスを調節する. 髄質 副 腎 皮質 自律神経による調節 自律神経は,交感神経と副交感神経からなる.ほとんどの場合,交感神経と副交感神経の両方がおなじ ひとつの器官(各種臓器や血管など)に分布し(二重支配) ,一方が臓器の働きを促進し他方が抑制し,相 互に拮抗的に作用し臓器の働きを調節している.なお,自律神経の二重支配には例外があり,副腎髄質や 皮膚の立毛筋,汗腺,瞳孔散大筋,動脈壁平滑筋は交感神経のみの支配を受ける.逆に,瞳孔括約筋は副 交感神経のみの支配を受けている.交感神経は,興奮したときや活発に活動する時に働き,副交感神経は 身体がリラックスするときや食事中,睡眠中に働く. 交感神経 神経伝達物質 副交感神経 アドレナリン,ノルアドレナリン アセチルコリン 心臓 拍動が早くなる 拍動が遅くなる 血管 収縮する 拡大する 血圧 高くなる 低くなる 呼吸 激しくなる 穏やかになる 唾液腺 分泌量減少.唾液の粘性が高まる 分泌量増大.唾液の粘性が低くなる 消化管 消化液の分泌抑制.蠕動運動抑制 消化液の分泌促進.蠕動運動促進 膀胱 排尿の抑制 排尿の促進 瞳孔 大きくなる 小さくなる 3 交感神経は,脊髄(第1胸髄~第3腰髄)から出て,交感神経幹あるいは腹腔神経節などの自律神経節 で次の神経に接続(シナプス)し,各臓器・器官に分布しそれを支配する.副交感神経は,脳と仙髄(脊髄 下部)から出て,各臓器・器官内の自律神経節で次の神経にシナプスしそれを支配する. ただし頭部のみ各 器官外に存在する自律神経節で次の神経にシナプスする.このように,脳や脊髄から出た神経線維がその まま標的器官に達するのではなく,必ず途中でシナプスを経由することが自律神経の特徴である.脊髄や 脳から出る神経を節前線維といい,自律神経節でシナプスする次の神経を節後線維という.ただし,副腎 髄質のみは例外的に節前線維が直接支配し,節後線維を持たない. 内分泌系と自律神経の共同作業による調節 なお,内分泌系と自律神経系が独立して身体の調子を整えているわけではなく,これらは密接に関連し ており,これらの共同作業によって身体の内部環境が巧みに調節されている. 低血糖状態における身体の反応 血糖値の低い血液が視床下部の血糖調節中枢を流れる 視床下部の神経分泌細胞が放出ホルモンを出して脳下垂体を刺激する. 脳下垂体がホルモンを分泌し内分泌腺を刺激する 副腎皮質刺激ホルモンを分泌 → 副腎皮質が糖質コルチコイドを分泌 甲状腺刺激ホルモンを分泌 → 甲状腺がチロキシンを分泌 成長ホルモンを分泌 同時に交感神経から内分泌腺や臓器・器官に指令が出る 肝臓に直接作用し,肝細胞におけるグリコーゲンの分解を促進する 副腎髄質を刺激してアドレナリンを分泌させる 膵臓ランゲルハンス島のα細胞を刺激してグルカゴンを分泌させる (低血糖刺激は,α細胞を直接的にも刺激する) 糖質コルチコイド:タンパク質からのグルコースの合成を促進する チロキシン:肝細胞を活性化し,グリコーゲンの分解を促進する 成長ホルモン:グリコーゲンの分解を促進し,インスリンを抑制し血糖値を上昇させる アドレナリン:肝臓でのグリコーゲンの分解を促進し,血糖値を上昇させる グルカゴン:肝臓でのグリコーゲンの分解を促進し,血糖値を上昇させる 4
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