イギリスの数学教育を知る 98E13003 芦崎 礼奈 98E13010 今井久美子 98E13017 河合 隼人 98E13019 工藤 優弥 等学校数学の先生 12∼15 名より成る。そ の実験の結果に基づいて大改訂を行ない、 63∼64 年に第二の草案を作り、さらにそれ に基づいて、1963 年に設けられた改訂小委 員会(指導者A.G.ホーソン博士)で改 訂した。 SMP(11 才の9月から 16 才を対象とし た)の取り組みは、1977 年に始まり、その 結果の試験版が、ある 50 の学校によって、 1980 年から使われた。一般的に出されたの は 1983 年からである。 このような慎重な手続きがとられるの も、イギリスらしい堅実な歩みだといえる。 (2)SMPと現代化の関係 佐々木元太郎氏は数学教育の現代化と SMPの関係について次のように述べてい る。 イギリスでの現代化の方向は、サザンプ トン会議の報告書にも見られるように、技 術革新と産業界の要求に応えることにあっ た。SMPにおいては、さらに前進して、 集合を基礎概念とし、現代数学の本質的な アイディア、考え、手法を全面的にとり入 れて、数学教育の指導内容を一新し代数的 構造、特に群の考えによる統合化を目指し 数学を統一体として理解させようとの意図 が、テキスト全体に見られる。これは伝統 的な数学教育に固執する保守的なイギリス において、教材および考え方における根本 的な変革と言えるであろう。 SMPでは、学校数学教育は現代化によ って「数学教育は大学の数学の難しい公理 的手法を水で薄めるようなものであっては ならない。」という趣旨が生かされている。 1.はじめに 現在、日本では数学離れの子どもが多い と言われている。我々は、日本の現状を詳 しく知るためにIEAによる国際調査比較 を見た。 日本の場合、数学の成績は良いが嫌いで ある生徒が多い。一方、成績は思わしくな いが好きである生徒が多い国にイギリスが あった。 イギリスにおける代表的な数学教育は SMP(The School Mathematics Project) である。これは、数学のレベル向上を目的 とした大規模なプロジェクトである。 数学研究室にこのテキストがいくつか あったので研究してみることにした。 2.研究方法 ア.SMP の単元の中で興味を持ったもの を取り上げ、SMP の内容を研究した。 イ.SMP の Y(Yellow)について研究した。 ウ.イギリス数学教育の現代化と SMP と の関連について調べた。 3.SMPについて (1)SMP ができた背景 1961 年のサザンプトン会議を契機とし て、同年 The School Mathematics Project が、B・スウェーツ教授を指導者に、大学 および中等学校の数学教師を中心に結成さ れ、サザンプトン会議での成果をもとに、 数学教育の現代化のための、新しい要目と テキストの草案が 1961∼62 年に書かれ、 62∼63 年に 8 つのグラマー・スクールで 実験を始めた。著者グループはこれらの中 1 4.SMP で特に興味を持ったものの紹介 ア . 関 係 と 関 数 ( Relationships Proportionality Function) 教材の提示の仕方においても、具体から 出発し、生徒の学習意欲、関心を高め、構 成的に把握させるように工夫されていると ともに、再び具体に戻り、数学の応用分野 への関心も強調されている。 現代化における悩みのひとつは、どのよ うな考えや方針の元に、現代数学的な考え、 概念、内容をとり入れるかであるがそれ以 上に問題となるのは、伝統的教材をどんな 観点から軽減又は削減するかにある。 しかも、この後者は我が国において数学 教育の改善に関心のある人々の当面する課 題である。この点についてSMPは大きな 示唆を与えるだろう。 (3)SMPの内容と構成 SMP11−16 は数学と身の回りの世界と における関係に重点をおいたセカンダリー スクールでの数学のコースである。 SMP は 2 つのパートから構成されてい る。 パート1は最初の 2 年間で booklet を使 って学習を進めていく。 パート2は第3∼5 学年で学習を進めて いく。そのパート 2 では、大まかに成績順 で 4 つのレベルに分かれる。4 つのレベル とは Y(Yellow) 、R(Red)、B(Blue)、G (Green)である。 SMPの教科書では、関係の概念が book 1で導入される。この考えは、図形の対称の 章でも扱われる。Book2以下では、関数が代 数的な題材、幾何的な題材(変換)を通じて、 写像としてつかわれている。内容では、指数 関数と対数関数、三角関数;および、一次変 換の簡単なものまで扱われている。 参考文献『佐々木元太郎,イギリスの SMP』 近代新書出版,1968 より 我々は、Y2の教科書をみていく中で、 Relationships(関係)の単元がとても興味 深かった。この単元は、関数の導入にあた ると思われる。我々は,詳しく見ていく中 で、日本とSMPでは関数において、その 導入の指導の仕方が異なると感じた。 日本では、関数の導入において、与えら れたXとYが関数であるかそうではないか を判断する問題を取り扱い、その後すぐに 比例や反比例の具体的な内容に入ってしま う場合が多いのではないか。 一方、SMPでは、児童生徒に関数を学 ばせるための導入として、一般の関数に数 多く触れさせることを重視している。これ はSMP全体の特徴である、 具体⇒抽象⇒具体 の流れが意識されたものであると感じる。 SMPでは、そうした様々な関数に触れた 後で、代表的な関数について詳しく学ばせ るスタイルになっている。 我々日本人は、関数といわれると、まず 特殊な形である比例、反比例のグラフや放 物線を描くグラフを思い浮かべるであろう。 日本の教科書では、導入において一般の関 数が取り上げられていないわけではないが、 2 Investigative work では、具体的には、 以下のようなことを試みる。 ・ 表にする(tabulation) ・ 関 係 を 発 見 す る ( looking for relationships) ・発見された関係を用いる (using the relationships) ・ 真 偽 を 明 ら か に す る(trying to find explanations) 児童生徒は、新しい問題に取り組むなか で、今まで習ってきた数学の解法テクニッ クを用いることとともに、いろいろな試み を必要とする場合もある。授業を通して、 問題を考え、調べ、そして議論しながら問 題解決学習を経験する。 SMP 全般において問題解決を意識する 単元は多々あるが、Investigations では、 特にそれを強調している。児童生徒には問 題解決のプロセスを考えたり、調べたり、 議論をするなどして経験させている。そう した学習の積み重ねが、将来において未知 なる事象や疑問点にぶつかった時に、児童 生徒がより抵抗無く、スムーズに問題解決 や研究に取り組めると考えられる。さらな る研究が進めば新たな発見にたどり着く可 能性がある。 それほど取り扱う必要性がないと思われが ちで、軽視される傾向にあると思う。 しかし、周知の通り、本来関数というも のは連続なものや、不連続なものなど、さ まざまな形状をしたものが存在する。 S MPは、 一般事象や全体像を把握してから、 特有な形や具体的概念を深く学んでいくこ とから、児童生徒に関数はいろいろなもの があるという印象を与えることができると 考えられる。それは、児童生徒に、関数が 比例や反比例などの特定のものしか考えつ かないような固定観念を植え付けないよう にするためにも重要であると感じた。 日本の教科書を見る限り、関数の導入に あたる小学 4 年次に、 『ともなって変わる 2 つの量』としていくつかの関数が例示され ている。しかし、日本の教科書では、やは り SMP ほど強調はされてはいない。SMP ではそのことをかなり強調した構成になっ ていることに我々は印象を受けた。 イ.Investigations(Y1、Y2) この単元では、日本でいう問題解決能力 を育むのことを目的としている。 学校の数学授業時数の多くが、公式のよ うな特有の数学的な考え方や知識、技術の 育成に使われている。 それに対して、この単元では一般事象を 数学的視点に立って考えていくような問題 を取り扱っている。 ウ.他の教科との関わりが深いもの 例1)The Earth(Y5) →地理的な要素を含む ここで興味を持ったことは、日本では地 理の科目で扱っていることを数学で扱うこ とにより、この単元を数学的視点に立って 児童生徒に学ばせているということである。 そのことにより、ただ地図の図法や特徴に ついて覚えるだけでなく、投影によって球 状のものから平面に変換される方法につい ても学ぶことができる。もちろん、地理で も投影によって変換されていることにふれ るかもしれないが、実際にどのようにして 3 投影されたものかその仕組みを厳密に学ぶ ことはなかなかないと思われる。 このことにより、根本的なことを学ぶこ とでそれぞれの図法の特徴に対する理解を 助けるのではないかと思われる。 例2)Money Matters(Y5) →公民的な要素を含む ・income:所得税 ・VAT(value added tax) :付加価値税 ・foreign exchange:外国為替 ・saving and borrowing:預金と借金 この Money Matters は、1 つの単元と して扱われているのではなく、単元の間に 載せられているコーナーである。内容とし ては社会人として実際に役に立つお金に関 する一般常識を身につけるコーナーである。 日本の教科書にも単元に含まれないコーナ ーが見られる。その内容は実際に生活で使 う事柄よりも、学問的数学に関する事柄が 多く載せられているように感じる。もちろ んそうした内容は数学的関心を膨らませる と考えられるが、数学にとどまることなく 日常生活により密接した事柄に触れること で児童生徒に数学が日常生活で使われてい ることを気付かせるのではないだろうか。 よって、我々が思うに、このように生活に 密着した数学を学ぶことから、児童生徒は 世の中に数学は役に立つということを実感 しやすいのではないだろうかと感じた。 る概念を理解するのは難しいのではないか と考える。ここで、SMP では図に対応させ て視覚的にその仕組みを理解させている。 (資料 1) 図を用いることで、資料2に示したよう に、負の数のかけ算とわり算においても、 正の数に負の数をかけると負の数になるこ との理解につながるのではないだろうか。 エ.かけ算とわり算 この単元では、小数におけるかけ算とわ り算を扱う。特にここでは、かける数とわ る数が1より小さいまたは大きい数を取り 扱っている。児童生徒はある数にある数を かけると増え、わると減るという考えをも ちがちである。したがって、我々は児童生 徒がかける数が1より小さい小数をかけた り、わる数が1より小さい数でわったりす (資料2) 5.おわりに 現在のイギリスは、 「はじめに」で既に 触れた IEA の調査によると、児童生徒の 「数学が好きだ」と思う割合が、他の国と 比較しても標準値を越えている。また、長 年にわたりその割合の水準を維持している。 我々は、イギリスの数学教育で代表的な 4 SMP に関心をもち、 調べていく中で上記の 3つの『よさ』に気付いた。 イギリスの SMP の改革と比較するわけ ではないが、新年度から我が国は新学習指 導要領に移行する。今回我々は、イギリス の数学教育に触れてみて、日本で教育を受 けたものと異なった新しい教養を得ること ができた。今後その培ったものを新しい教 育現場に生かしていきたい。また今後の 我々の課題として、他の国についても調べ ていきたい。 近代新書出版,1968 (参考) IEA の調査1)から興味深い資料をみつ けた。(数学の好き嫌い、数学を学ぶ理由) 表1【数学の好き嫌い(1999 年)】 国・ 大好き 好き 「大好き」およ 平 地域 び「好き」の合 均 計 生徒の 生徒の 生徒の 1995 割合 割合 割合 年 と の差 イギ 23 54 77 −3 3.0 リス 日本 9 39 48 −5 2.4 2.9 国際 24 48 72 2 平均 値 ※国際平均値は調査に参加した国の平均値 を示す。 ※平均は、大好き:4 点,好き:3 点,嫌 い:2 点,大嫌い:1 点として計算したと きの値である。 参考文献: 1)IEAによる国際調査 2)佐々木元太郎,イギリスの SMP〔Ⅰ〕 , 近代新書出版,1968 3) 佐々木元太郎,イギリスの SMP〔Ⅱ〕, 近代新書出版,1968 4)佐々木元太郎,イギリスの SMP〔Ⅲ〕 , 5
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