46 看護と情報 2016;Vol.23 看護と情報 2016;Vol.23:46 50 事例報告 学内外の看護師・看護教員および看護学科学生,大学院生を対象とした 5種類の検索演習 細矢 敬子 近藤 恵美 HOSOYA Takako, KONDO Emi(Kokuryo Library, Academic Information Center, The Jikei University School of Medicine) , Information-Retrieval Instruction for Nurses and Nursing Students. Nursing and Information 2016;23:46 50. キーワード:文献検索,講習会,看護職,看護学生,看護教育 Keywords: Information Retrieval,Nursing Staff,Nursing Students,Nursing Education Ⅰ.はじめに Ⅱ.概要 東京慈恵会医科大学学術情報センター図書館(以下, 図書館は西新橋キャンパスにある本館と国領キャンパ 図書館)では看護師や看護学生,大学院生を対象に平成 スにある分館からなり,本館は学内看護師向けのエデュ 24年から5種類の検索演習を実施している。これらは各 ケーションナース研修と学外の看護教員を対象とする教 担当教員の依頼を受け実施するもので,目的に沿うよう 務主任養成講習会,大学院医学研究科看護学専攻修士課 事前に内容を相談し取り組んでいる。演習後のアンケー 程での演習の計3種類を,分館は看護学科1年生の「オリ ト調査で好評だったもの,回数を重ねるうち正規カリ エンテーション」と3年生の「研究方法論:文献検索」 キュラム扱いとなったものもあり評価を得ていると思わ の2種類を担当した(表1)。 れる。これまでの文献では異なる利用者層に継続して演 習を行う事例は見当たらないようであり,本稿ではこの Ⅲ.演習の特徴 5種類の演習について平成26年度を例に特徴を中心に報 告する。 これらの演習は依頼を受け実施しており依頼者の目的 や要望を取り入れることはもちろんだが,検索から文献 入手までを基本に,時間が許す範囲でデータベース検索 表1 各演習の概要 名称 対象者(数) 看護学科1年生 看護学科3年生 「オリエンテーション」「研究方法論:文献検索」 看護学科1年生(60人) 大学院医学研究科 看護学専攻修士課程 エデュケーション ナース研修 看護学科3年生(40人) 看護学専攻修士課程 附属病院所属の中堅ク 学外の看護教員(23人) (合計8人:3人, 4人, 1人) ラス看護師(46人) 教育センター (本学で医学・看護学の 卒前・卒後教育を支援 する部署) 依頼者 看護学科講義担当教員 看護学科講義担当教員 修士課程担当教員 平成26年度の実 施日時 4月15日14:40 - 16:30 (110分) 10月8日9:00 - 12:10 (うち60分) 4月8日 13:00 - 16:10, 16:40 - 17:50 5月29日15:00 - 16:15 開催場所 図書館担当者数 主な内容 国領分館および国領キ 国領キャンパスコンピュ ャンパスコンピュータ ータ演習室 演習室 4人 教務主任養成講習会 1人 図書館 2∼3人 9月8日9:30 - 12:30 (うち60分) 大学1号館4階講堂 3人 公益社団法人 東京慈恵会 6月18日9:30 - 12:30 (3時間) 高木会館3階情報シス テム研修室・図書館 3人 情報検索概論・医中誌 PubMed・CINAHLでの OPACや医中誌Webの 医中誌Webによる検索 医中誌Webによる検索演 Webによる検索演習・ 検索演習,文献管理ソ 検索結果から該当資料 演習 習 図書館ツアー フトRefWorks を図書館で探す課題 HOSOYA Takako:東京慈恵会医科大学学術情報センター図書館国領分館:〒182 8570 東京都調布市国領町8 3 1:[email protected] (受理日:2015.11.30) 細矢 近藤 学内外の看護師・看護教員および看護学科学生,大学院生を対象とした5種類の検索演習 47 の必要性,目的別の情報ツールの使い分け,文献の評価 シソーラス用語にも言及する。 などを加えている。また,演習場所には1人1台の端末利 看護学科3年生を対象とした情報科学教育への関与は 用が可能な環境を用意し,文献入手においては看護系雑 平成7年度まで遡る1)。当時は医学中央雑誌や雑誌記事 誌を多く所蔵する国領分館からも協力を得る。 索引などのCD-ROMを使用した講習会形式であったが, 各演習の特徴は次のようになる。 平成10年度に3年次必修科目「情報科学」において講義 は教員が,実習は図書館側が担当と分担し実施するよう になった。 1.看護学科1年生「オリエンテーション」 4月実施のオリエンテーション(表2)では図書館が提 供するサービス内容と資料の探しかた・配架場所を知っ 3.大学院医学研究科看護学専攻修士課程 てもらうことが主眼となる。また,これまであまり利用 看護学修士課程の指導教員から,この後の授業がうま する機会のなかった学術雑誌と図書との違いについても くいくようにと年度初めに「図書館利用および検索に関 「探しかた」の中で触れるようにしている。演習では学 する講義」として依頼されるものである。各指導教員か 生が主体的に取り組めるよう,OPACや医中誌Webを検 ら個別に依頼があり図書館に割り当てられる時間が異な 索した後に図書館内で該当資料を探す課題を出す。この るので教員や大学院生本人と相談し内容はアレンジす 課題を解く過程では迷っている学生に積極的に声をかけ る。ここでは3時間の時間配分を示す(表4)。 図書館を身近に感じられるよう心掛けている。 表4 内容と時間配分:大学院医学研究科看護学専攻修士課程 表2 内容と時間配分:看護学科1年生 テーマ 内容 図書館の利用案内 コンピュータ室での説明 テーマ 時間(分) 10 概論 図書館ツアー 検索ツール OPACによる資料の探しかた・医中 誌Webによる情報の探しかた 30 課題(前半) コンピュータ室でOPAC・医中誌Web の検索 15 図書館ツアー (図書館へ移動) 10 前半で検索した資料を図書館で探 し出す 20 他のデータベース CiNii・JDreamⅢ・最新看護索引Web 紹介 15 まとめ 10 課題(後半) 検索演習 文献管理ソフト 内容 時間(分) 検索の必要性・目的別の情報ツー ルの使い分け・データベース比較 など 30 20 PubMed・CINAHL 60 医中誌Web・JDreamⅢ 30 RefWorks 30 まとめ 10 大学院生向けに外国文献情報データベースのPubMed やCINAHLを加え,論文執筆に活用できる文献管理ソフ トRefWorksを取り入れる。 2.看護学科3年生「研究方法論:文献検索」 少人数なので細やかな説明ができる反面PubMedなど 4年次の卒業研究である「看護研究」 (各自テーマを決 既に利用しており,突っ込んだ質問に対応できるようこ めて研究し,発表と論文提出をする)に円滑に進めるよ ちらも勉強が必要となる。平成24年度から開始し平成27 う,3年次の秋に検索演習の依頼を受ける。「研究方法 年度からはカリキュラムに含まれることとなった。 論」という授業時間から60分ほどを充てている(表3)。 担当教員からは,文献データベースを使う必要性,学術 4.エデュケーションナース研修 雑誌の特徴,文献の入手法にも触れるよう要望があっ この研修は新人看護師を育てる中堅クラスの看護師を た。医中誌Webの説明では網羅的な検索ができるよう 対象に学内の教育センター(本学で医学・看護学の卒 前・卒後教育を支援する部署)が数週間にわたり実施す るもので,「研究手法について」という講義の一部とし 表3 内容と時間配分:看護学科3年生 テーマ 内容 時間(分) 概論 看護研究における雑誌論文の必要 性 10 医中誌Web 基本的検索法・シソーラス検索 30 文献の評価 文献を選ぶポイント 10 他のデータベース CiNii・JDreamⅢ・最新看護索引 紹介 Web・CINAHL・PubMed て, 「文献検索や各種電子ジャーナルの利用方法等」を 紹介するよう図書館に依頼があった。 大学附属の4病院に勤務する看護師を対象とし,平成 23年度から実施している。対象者は各附属病院からの希 望者や推薦を受け参加している。初回は中堅クラス向け 10 のみ年1回であったが翌年度以降は監督者向けも開始さ 48 看護と情報 2016;Vol.23 表7 内容と時間配分:教務主任養成講習会 れ年2回となった。ここでは,中堅クラスを取り上げる。 テーマ 内容 時間(分) 学術情報の特徴・各種リソースの 使い分け・情報の評価とEBN 30 基本的検索方法 (演算・絞込) ・表示・ 検索演習1:医中誌 出力・演習問題・所蔵アイコンの見 Web かたと文献入手法 60 休憩 10 図書館に割り当てられた60分(表5)で,①キーワー ド選定と検索式の作成ができること,②医中誌Webを 使い原著論文の情報検索ができること,③必要な文献の 全文を入手できることをゴールとし演習を行う。時間が 限られているので使用するデータベースは医中誌Web のみに限定しJDreamⅢとCiNiiは紹介のみ行う。西新橋 にある大学附属病院(本院)と他の附属病院では文献入 手法が異なるため時間を割いて説明し,電子ジャーナル の利用法や学外からデータベースへアクセスするリモー トアクセスについても触れる。 表5 内容と時間配分:エデュケーションナース研修 テーマ 内容 時間(分) 情報検索概論 検索演習2: JDreamⅢ 基本的検索方法・例題を使い演習 10 検索演習3:CiNii 基本的検索方法・例題を使い演習 10 まとめ・質疑応答 図書館ツアー (図書館へ移動) 15 30 平成24年度の初回は参加者14名からスタートし演習場 所は図書館内の検索コーナーで収まっていたが,年々参 概論 データベース検索の必要性など 10 医中誌Web 演習・文献入手法 35 JDreamⅢ・CiNii 例題を使用しての紹介 10 ペースや端末の確保が困難となり,図書館と同一建物内 5 にあるパソコン室での開催となった。 まとめ 加者が増加していった。23名となった平成26年度はス 学外者ということもあり演習後の図書館利用時に,個 4回目の実施となる平成26年度は参加者の感想・効果 別にコピー申込書の記載方法や資料の配架場所を説明す を知るために演習後にアンケートを実施した(表6)。医 る場面も多々あったが,講習会終了日に図書館に立ち寄 中誌Webの検索法や論文の入手法(アイコンの見方) り,期限までに論文提出できたとお礼を言われると役立 の説明についてはおおむね好評であり役に立ったという てたようで嬉しいものである。 回答を得た。自由記述からは,医中誌Webを使ってい ても自己流である,または機能を使い切れていない,あ Ⅳ.まとめ るいはGoogleなどネット検索に頼っている様子がうか がわれ講習会など説明の機会が必要と感じられた。学内 平成26年度に実施した5種類の検索演習について特徴 の教職員向けに文献検索係が年数回実施するデータベー を中心に報告した。 ス講習会に看護師の参加はほとんどなく,この機会に 検索演習・講習会に関して学生,大学院生,看護師な データベース活用が広まるとよいと思う。 どを対象とした事例はこれまでも発表されている3)。そ の中には複数の利用者層を対象とした報告4),5)もあるが, 学生,院生,学内外看護職といった多様な対象に継続し 5.教務主任養成講習会 図書館が学外の看護教員向けに実施する教務主任養成 2) て演習を実施している点が当館での特徴と言える。これ 講習会の検索演習がある。教務主任養成講習会 は本学 は演習中図書館に残り業務を進めるスタッフや図書館カ の1組織である公益社団法人東京慈恵会が「看護師養成 ウンターで演習参加者に対応するスタッフの協力があっ 事業の一環として看護教育の幹部指導者を養成し社会貢 て成り立つものである。 献を果たすことを目的」に厚生労働省の認定を受け実施 演習後には検索経験が同一レベルではない大勢の利用 する講習会である。図書館へは課題の論文執筆を支援す 者を対象に,限られた時間内で一度の説明で理解しても るよう「図書館利用と文献検索の指導」の依頼があり, らうことは難しいと毎度のように感じる。特に看護学科 文献入手までを視野に入れて演習を行っている。 1年生は,自分の意思で参加するエデュケーションナー 全体で約3時間あり概論を話す座学にも30分充ててい ス研修や教務主任養成講習会とは違い,興味がもてるよ る(表7) 。医中誌Webの演習では理解を深めるため, う工夫が必要と言える。そこでデータベース検索の必要 操作説明以外の演習問題も用意し取り組んでもらう。ま 性は伝えたいが説明のみが続かないよう,間に端末操作 た,参加者が学外者のため図書館ツアーも実施してい を入れる,学生へ問いかけるといったことをしている。 る。 また,演習がどの程度役に立っているかの不安もあっ 細矢 近藤 学内外の看護師・看護教員および看護学科学生,大学院生を対象とした5種類の検索演習 表6 エデュケーションナース研修でのアンケート集計結果 9月8日に行われたエデュケーションナース研修の「データベースを用いた文献検索の実際」に 参加しての感想をお聞かせください。 1.所属先(機関)はどちらですか 附属病院(本院) 19人 葛飾医療センター 7人 第三病院 10人 柏病院 10人 2.これまで医中誌Webを使用したことがありますか ある 17人 ない 29人 3.医中誌Webの検索法の説明について 3-1.内容について とてもわかりやすかった 9人 わかりにくかった 1人 わかりやすかった 36人 とてもわかりにくかった 0人 3-2.課題の文献検索に役立ちましたか とても役に立った 18人 役に立たなかった 2人 役に立った 26人 全く役に立たなかった 0人 3-3.役に立った点,あるいは役に立たなかった点を具体的にお書きください 4.課題の文献検索はどこで行いましたか 図書館 25人 自宅 21人 その他 1人(スマートフォン1人) 図書館以外の院内・学内 28人(具体的に: パソ室,病棟10人,自部署7人) 5.論文の入手法(アイコンの見方)の説明について 5-1.内容について とてもわかりやすかった 7人 わかりにくかった 3人 わかりやすかった 34人 とてもわかりにくかった 0人 5-2.課題の文献入手に役立ちましたか とても役に立った 9人 役に立たなかった 2人 役に立った 33人 全く役に立たなかった 0人 5-3.役に立った点,あるいは役に立たなかった点を具体的にお書きください 6.課題の文献入手の手配はどこで行いましたか 図書館 28人 自宅 4人 その他 2人(取寄せてもらった1人,Web1人) 図書館以外の院内・学内 21人(具体的に: 病棟6人,自部署5人) 7.ご要望やご意見があればお書きください 49 50 看護と情報 2016;Vol.23 たがエデュケーションナース研修でのアンケートではお おむね好評との回答を得ることができた。ただ演習後の 図書館カウンターでのやり取りや質問といった利用状況 をみると電子ジャーナルへのアクセス方法や分館所蔵資 料のコピー申込み法などで説明不足(強調不足)と感じ た点もある。演習参加者からの質問や感謝された補足説 明などを担当者で共有し今後の演習に反映させていきた いと考える。 する情報科学実習: カリキュラムにおける教育とフォロー アップ.看護と情報.2000;7:31 9. 2)小路美喜子,興梠清美,蝦名總子.慈恵での教務主任養成講 習会開催までの道のりと今後.看護教育.2012;53(8) :650 4. 3)加藤和英.看護職者を対象とした文献検索講習会: 岐阜県立 看護大学図書館の取り組み.看護と情報.2010;17:23 6. 4)渡辺さゆり. 「探しものは何ですか?」 : 日本赤十字広島看護大 学図書館の文献検索講習会について.看護と情報.2011;18: 56 60. 5)伊東泰子.日本赤十字九州国際看護大学図書館における利用 教育について.看護と情報.2009;16:51 4. 参考文献 1)阿部信一,荒井邦子,森田奈津子,裏田和夫.看護学生に対
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