ULTRASONE edition 10、その魅力と導入

====
ULTRASONE edition 10、その魅力と導入
====
角田
郁雄
私がヘッドホンに興味を持ち始めたのは、3 年前の「ヘッドホン祭」の取材をしてからの
こと。それまでは録音にも携わっている私にとって、ヘッドホンというと解像度が高く、
音像の実体を正確につかめる定番の機種が 1 つあれば事足りるものだった。つまり、忠実
なモニターサウンドに尽きるわけだ。これに対し、今、人気のヘッドホンには、ブランド
独自の技術と音づくりがあり、同じアルバムを再生しても、それぞれ別世界の音楽を聴か
せてくれ、ヘッドホン愛好家がいろいろなブランドのヘッドホンをコレクションされるこ
とが良く理解できた。まさに「ヘッドホンオーディオ」がすでに確立されているのである。
このような経験をして、私はちょうど、1 年ちょっと前、ウルトラゾーン edition8 を手に
した。それは密閉型なのに、ハウジングから音場が飛び出したように感じさせる透明度の
高い音場と基音と倍音の対比の美しさが魅力であり、ルテニウムが使われた美しいデザイ
ン、シープスキンによるイヤーパッドも贅沢で仕上がりの良さを感じさせるもので、今も
大切に愛用している。
そのウルトラゾーンから、今
年、うわさのオープンエア型
edition10 が発売された。私は大
変興味があり、発表会にも出か
け、その後も取材で数回試聴し
たが、自分のシステムで聴かな
いと気が済まない性分なので、
輸入元にお願いし、やっと 12 月
の中旬に試聴機を借りることが
できた。さすがに高級モデルだ
けあり、贅沢な木箱に収容され
てそれは届いた。
本体をあらためて見ると、美しいルテ
ニウムの円形のハウジングには下部か
ら上部に、流れるように美しいスリット
がデザインされ、その間には V 字にナチ
ュラルウッドが埋め込まれ、ブラウンで
仕上げられたシープスキン製イヤーパ
ッドとヘッドレストとともに少し、クラ
シカルなイメージを漂わせていること
が印象的だった。そしてデザインの良い
スタンドはハウジング側面の V 字のナ
チュラルウッドと同じデザインで V 字
を描き、ヘッドホンをかけると、まさに
オブジェのように映える、素晴らしい仕
上がりだ。
さっそく、最近気に入っているピアニスト、ポール・ルイスの演奏するベートーヴェン
協奏曲集*1 の中から、「皇帝」を聴いてみたが、第1楽章、冒頭の強い弦パートの響きは鮮
度が高く、その音色は私の愛用するスモールスピーカー「Raidho Ayra C-1」に似て、リボ
ンツィーターをイメージさせる繊細さ。そして、さらにちょっと爽やかさを加えたような
印象だ。この後、ポール・ルイスのピアノが加わるが、その打鍵した瞬間の音の立ち上が
りには芯があり、透明度が高いだけにその後の倍音はこの上なく美しい。第2楽章は、も
う、洗練の極みといえるほど、穏やかで、しなやかな弦の旋律を聴かせ、テクニックに裏
打ちされた叙情豊かなピアノがデリカシーを持って聴かせてくれる。中でも、音が消えつ
つある音階の深いディテイルの再現性の良さは edition10 の特徴の一つ。
その後、カサンドラ・ウィルソン*2、ダイアナ・クラールのアルバムを聴いたが、印象深
かったのは、ダイアナ・クラールの「When I look in your eyes」*3 で、ヴォーカルの浮き上
がるような定位感と声の響きを鮮明にしながら、ピアノ、ギター、パーカッションとオケ
の位置関係にも自然な定位の良さを感じさせてくれた。前述したようにリボンツィーター
のように広がるストリングスの響きにはたまらない魅力があり、大げさかもしれないが、
空間のマジックを演出してくれる。私は夜中にこの edition10 を何時間も聴き入り、この音
質とこのデザインと質感に魅せられ、ついに自分用をオーダーすることにしてしまった。
現在は edition8 のために選び抜いたヘッドホンアンプ(グレースデザイン m902)を使っ
ているが、また edition10 が届いた時には、過大な入力やエージング CD を使わずにゆっく
りと音楽を聴きながらエージングされていくことを楽しんでみたいと思う。確かに高価で
はあるが、物としても質感が高く、大切にしたいと思わせるモデルである。ある意味で、
スイスの高級機械式腕時計やドイツの高級アナログカメラをイメージさせる品格を伴った
製品といえる。
ULTRASONE edition10 製品ページ
http://www.timelord.co.jp/brand/products/consumer/ultrasone/edition-ultrasone/
角田 郁雄氏
*1
Paul Lewis / Beethoven Complete Piano Concertos
*2
*3
Cassandra Wilson/ New Moon Daughter
Diana Krall / When I look in your eyes
Dec. 2010