日本基準と IFRS の引当金の認識の違い

IAS37 引当金、偶発債務及び偶発資産
初度適用
日本基準と IFRS の引当金の認識の違い
概要
引当金はほとんどの企業において存在しており、企業の判断や見積りが多く含まれるため、財務諸
表への影響は重大です。日本基準と IFRS では引当金の金額の測定方法が異なりますが、その入り
口である引当金の認識方法も異なります。ここでは、日本基準と IFRS の引当金の認識方法の相違に
照らしながら、日本基準と IFRS との考え方の相違点を見てみたいと思います。
解説
IFRS での引当金の認識要件を見ていきます。IFRS では、引当金として認識されるためには、以下
のすべての要件を満たす必要があります。
① 企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的又は推定的)を有している。
② 債務を決済するために経済的便益を持つ資源の流出が必要となる可能性が高い。
③ 債務の金額について信頼性のある見積もりができる。
上記の①の「現在の債務」については、法的債務、もしくは推定的債務であることを要求しています。
法的債務とは、法律や契約により発生した債務です。また、推定的債務とは、企業が債務を履行す
ることを声明や陳述等により外部に対して公表しており、企業が債務を履行することを外部に期待さ
せる債務を言います。
また、企業の今後の経営意思決定によって回避することが可能な債務については、引当金として
認識することができません。例えば、企業の有形固定資産に関する修繕引当金は、企業が当該有
形固定資産を売却することで修繕する必要がなくなるため、当該債務については回避可能であると
いえます。したがって、IFRS では上記の修繕引当金については引当金として認識できません。
上記の②の「経済的便益をもつ資源の流出の発生可能性」については、資源の流出又は他の事
象が起こる可能性が、起こらない可能性よりも高い場合、引当金として認識されます。すなわち、資
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源の流出の発生可能性が 50%超であれば、引当金として認識できます。
上記の③の「信頼性のある見積り」については、企業が支払うであろう債務の合理的な金額を見積
ることができることを要求しています。
このように、企業が有している債務が推定的債務に該当するか、資源の流出の発生可能性が
50%超か、債務を合理的に見積もることが可能であるかなど、引当金の認識について正確に判断す
ることが難しいため、実務上、IFRS にて引当金を計上する際には慎重に判断する必要があります。
日本基準との違い
日本基準では、引当金として認識されるためには、以下のすべての要件を満たす必要がありま
す。
① 将来の特定の費用又は損失である。
② その発生が当期以前の事象に起因する。
③ 発生の可能性が高い。
④ その金額を合理的に見積もることができる。
上記の日本基準の 4 要件の中でも IFRS と大きな差異が生じているのが、①の「将来の特定の費用
又は損失であること」と③の「発生の可能性が高いこと」です。
まず、日本基準では、引当金の対象となる債務について、現在の債務でないものであっても上記の
4 要件を満たせば引当金として認識されますが、IFRS では現在の債務でないものは引当金として認
識されません。また、日本基準では推定的債務についての定めがないため、こちらについても差異が
生じる可能性があります。
次に、発生可能性については、日本基準では、発生可能性を「高」「中」「低」に分け、発生可能性
が「高」に分類される場合に引当金を認識するとしています。一方、IFRS では、資源の流出の発生可
能性が 50%超となった場合に引当金を認識するとしています。
図で表現すると以下の通りです。
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日本基準
IFRS
経済的資源流出の発生可能性
債務
引当金
債務
高
引当金
発生可能性:高
50%超
発生可能性:中
発生可能性:中
発生可能性:低
発生可能性:低
低
いずれにせよ、債務の発生可能性については、判断が難しいため、慎重に検討する必要がありま
す。
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