確かな力をつける音楽科の授業実践 「心をこめて豊かに表現する力」 が

平成18年度中学校音楽科課題研修講座
実践発表
確かな力をつける音楽科の授業実践
∼1学年「歌詞の内容を味わい表現を工夫しよう」∼
新潟市立新津第五中学校 教諭 相馬 直子
Ⅰ
授業改善のポイント
(生徒の実態)
歌唱表現をする際、音程を間違えずに歌うことには注意するが、歌詞や曲の
内容を考え、表情豊かに歌うことには無頓着である。どの曲を歌っても同じよ
うな調子で歌ってしまう。
↓
(目指す生徒の姿)
歌詞と旋律のかかわりや強弱や速度による曲想の変化を感じ取って、表現の
の工夫に生かせる生徒
今回の実践の実践に関わる学習指導要領の内容は以下の通りである。
A 表現
(2)音楽表現の豊かさや美しさを感じ取り、基礎的な表現の技能を身に付け、
創造的に表現する能力を育てる。
ア 歌詞の内容や曲想を感じ取って、歌唱表現を工夫すること。
キ
音色、リズム、旋律、和声を含む音と音とのかかわり合い、形式など
の働きを感じ取って表現を工夫すること
ク
速度や強弱の働きによる曲想の変化を感じ取って表現を工夫すること
(工夫ポイント)
1
「歌詞の内容や歌詞と音楽の結びつ
きを感じ取らせるための手だて」
本時の方策(1)
①歌詞やその背景を参考に群読のシナ
リオを考えさせる活動を取り入れる。
②「言葉に思いを込める力」を養うた
めに群読練習を取り入れる。
2「表したいイメージを歌で表現でき
るようにするための手だて」
本時の方策(2)
①聴き手に伝わる表現ができるよう
に発声ワンポイントカードを例示
する。
群読
※「群読」は、この二つの橋渡しをする手だてにもなる。
「心をこめて豊かに表現する力」
が高まる
1
Ⅱ
「歌詞の内容を味わい表現を工夫しよう」(教材曲「旅立ちの日に」) の指導
構想
◎めざす生徒像
歌詞と旋律のかかわりや強弱や速度による曲想の変化を感じ
取って、表現の工夫に生かせる生徒
意欲をもって取り組む姿
○歌詞をよく読み、言葉の意味を考え、群
読のシナリオを考えることに意欲的であ
る。
○歌詞の内容や曲想に応じた発声、言葉の
特性(抑揚、アクセント、語感)に関心
をもち、群読や歌唱表現をすることに意
欲的である。
○強弱や速度の変化による曲想の変化に関
心をもち、歌唱表現をすることに意欲的
である。
「分かった」「できる」を実感できる姿
○音楽の諸要素に着目して設定した表現内
容や表現方法を楽譜やワークシートなど
に適切に書き表すことができる。
○自分たちで工夫した表現内容が聴き手に
伝わるように豊かに表現することができ
る。
○仲間の発表を聴いて、どのように工夫し
ているかを聴き取ることができる。
その姿を具現化するために
授業では、次の方策を講じる
↓
(1) 歌詞の内容や歌詞と音楽の結びつきを感じ取らせるための手だて
○歌詞やその背景を参考に群読のシナリオを考えさせる活動を取り入れる
曲への思いを広げるために、歌詞の内容を参考にしながら群読のシナリオを考えさせ
る。生徒は作曲者の言葉や歌詞を手がかりに想像力を働かせてシナリオをまとめていく。
普段はさらっとしか歌詞を読まない生徒も何度も読み返すうちに、歌詞の世界に入り込
んでいけると考える。
○群読の練習を取り入れることにより、言葉に思いを込める力を養う
音程やリズムに気をとられずにストレートに感情を表出できるので、言葉を発してい
る側も聞いている側も分かりやすいと思われる。言葉の特性(抑揚、アクセント、語感)
を生かし、その場の雰囲気を出すために、適切な強弱や速度を考えて、言葉を発する練
習を取り入れることにより、並んでいる言葉を何となく歌うという感覚を脱して、言葉
に思いを込める力を養いたいと考える。
(2) 表したいイメージを歌で表現できるようにするための手だて
○聴き手に伝わる表現ができるように 発声ワンポイントカード を例示する
曲想を考えて表現の設定をすることができても、どのように歌ったらよいか分からな
かったり、発声の仕方が適切でなかったりすると、他者に自分たちの思いを十分に伝え
ること ができないので、発声ワンポイントカード を例示して、試すことができるように
する。自分たちで考えながら、練習に取り入れ、イメージに近い発声法が見つけられる
ようにする。
2
Ⅲ授業の実際
1 歌詞の内容や歌詞と音楽の結びつきを感じ取らせるための手だて
①歌詞やその背景を参考に群読のシナリオを考えさせる活動を取り入れる
曲への思いを広げるために、歌詞の内容を参考にしながら群読のシナリオを考
えさせる活動を取り入れた。普段はあまり歌詞の内容を考えずに歌っている生徒
も言葉の意味を考えながら歌詞を読み、作詞者の思いを知ろうとするのではない
かと考えたからである。実際、生徒は作曲者の言葉や歌詞を手掛かりに想像力を
働かせてシナリオをまとめようと何度も歌詞を読んでいた。更に、楽譜の表現記
号にも目を向け、群読する時の声の出し方や声の大きさの参考にしようとする姿
が見られた。しかし、十分な時間を確保することができなかったため、シナリオ
作りを最後まで完成させることができた生徒は少なかった。それでも、シナリオ
完成が目的ではないので、曲への思いを広げるための活動としては効果があった
と思われる。
②「言葉に思いを込める力」を養うために、群読の練習を取り入れる
音程やリズムに気をとられずにストレートに感情を表出できるので、言葉を発
している側も聞いている側も分かりやすいと考え、取り入れた活動である。言葉
の特性(抑揚、アクセント、語感)を生かし、その歌詞の世界や曲の雰囲気を表
現するために、適切な強弱や速度を考えて言葉を発する練習を行ってみた。この
練習を取り入れることにより、並んでいる言葉を何となく歌うという感覚を脱し
て、一つ一つの言葉を大切にし、思いを込めるという姿勢が少しずつ養われてき
たように思う。しかし、思いきって豊かに表現してほしいと願っていたのだが、
聴き手にはっきりと伝わるところまでには至らなかった。
2 表したいイメージを歌で表現できるようにするための手だて
①聴き手に伝わる表現ができるように 発声ワンポイントカード を例示する
曲想を考えて表現の設定をすることができても、どのように歌ったらよいか分
からなかったり、発声の仕方が適切でなかったりすると、聴き手に自分たちの思
いを十分に伝えること ができないので、発声ワンポイントカード を例示して、試
すことができるようにした。自分たちで考え設定した表現に近づくために、発声
カードを練習に取り入れ、イメージに近い発声法が見つけられるようにと考えて
いたのだが、実際のグループ活動の中ではあまり生かされていなかった。その理
由として、発声カードの内容がうまく消化できていなかったということが挙げら
れる。一人一人の生徒がもっと自信をもって使いこなせるように早い時期から少
しずつ取り入れ、身につけておくための指導が必要であった。また、カードの内
容をもっと分かりやすく、使いやすく工夫することが出来れば良かったと思う。
Ⅳ
成果と課題
1
成果
今までは振り返りの学習カードを書かせても「姿勢」や「声の大きさ」「音程やリズ
ムの違い」といったことしか触れることができない生徒がほとんどであった。今回の取
り組みをきっかけに音楽と歌詞の結び付きに目を向け、「こんな風に工夫して歌ってみた
い」という思いが出始めてきたように思う。
「歌は大きな声を出して、音程やリズムがあ
っていれば良い」という意識から少し進歩したと感じる。また、
「ここはこの記号を生か
して∼のように歌いたい」といった感想も見られた。楽譜に書かれている表現記号に興
味をもったり、表現の工夫に生かそうと努めたりする姿勢が養われてきたと思われる。
更に「∼のように工夫して歌いたいと思ったけれど伝わらなかった」
「工夫して歌うのは
難しい」と書かれた感想もあり、工夫した表現になるようにこだわろうとする思いが出
てきたと感じる。この点を大切にし、自分なりに曲のイメージをもって「こんな風に歌
いたい」という思いと、音楽の技能が上達したり、知識が増えたりするということが
別々なものにならないようにしていきたいと思う。
3
2
課題
表したいイメージ
→
表現の工夫
→
豊かに表現できる技能
これらを結びつけていくための手だてについて改善を図る
①表現の工夫をさせたい部分を更に絞り込む
自分たちの曲への思いと表現の技能が結び付いていない(強弱記号など音楽的な要素
を正確に歌って表現できない)状態の中で、仲間の演奏表現の違いを耳で聴き分けると
いうことは無理であった。そのようにならないために、事前に検討し、生徒に表現の工
夫をさせたい部分を絞り込んだつもりでいたのだが、もっと選りすぐって絞り込み、工
夫をしたということが、はっきりと聴き取ることができるようにできれば良かったと思
う。
②発声ワンポイントカードの取り入れ方と内容の改善を図る
表現の工夫をする時の参考になるように用意したカードがうまく活用できていなかっ
たので、一人一人の生徒がもっと自信をもって使いこなせるように早い時期から少しず
つ活動に取り入れ、自然に使えるようしておくための指導が必要であった。4月からの
教材曲の中で、意図的に取り入れ少しずつ習得しておくと良かった。今後は更に、カー
ドの内容をもっと分かりやすく、使いやすいように工夫していきたい。また、発声ワン
ポイントカードだけではなく、もっと生徒の表現する力を高めるための手だてを考え、
取り入れていきたい。
③表現効果が高まるような学習形態を生徒の実態と照らし合わせて吟味する
個人で工夫点を書き込んだワークシートを使い、パートで工夫する表現内容の検討を
させたが、話し合うにはこの位の人数(7∼9人程度)が丁度良かった。しかし、表現
する時にはもっと人数が多い方が(クラス全体で一斉に取り組んだ方が)表現効果が高
まったように思う。技能が未熟な段階で少人数の活動を取り入れても、かえって生徒に
は難しく、音程やリズムが正しく歌えているかというところにばかり意識がいってしま
い、思いきった表現ができない、といったことが起こるからである。学習形態は生徒の
実態やその時の学習活動のねらいに合わせて、よく吟味する必要がある。
4