重畳符号化変調を用いた適応無線分散符号化方式

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
重畳符号化変調を用いた適応無線分散符号化方式に関する一検討
高田 直幸
衣斐
信介
三瓶
政一
大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 〒 565-0871 大阪府吹田市山田丘 2-1
E-mail: [email protected], {ibi,sammpei}@comm.eng.osaka-u.ac.jp
あらまし
本稿では,AF(Amplify and Forward) 伝送を採用した上り回線マルチプルアクセス通信路 (MARC :
Multiple Access Relay Channel) において,中継処理として重畳符号化変調を適用した伝送を考える.この MARC は
通信路-重畳符号化の直列連接構造を有する符号化として捉えることができ,この構造に対して符号化利得拡大を目的
とした重畳割合の制御を考え,EXIT(EXtrinsic Information Transfer) 解析結果に基づいて,その重畳割合を伝搬路
状況に応じて適応的に制御する手法を提案する.一般に,フェージング環境では,MARC を構成する回線に劣悪な受
信状況の回線が含まれると,連接構造の復号に有効である繰り返し復号法を利用した全ユーザ信号の一括検出精度に
その回線が悪影響を及ぼす.そこで,繰り返し検出の収束性を把握する EXIT 解析を基準に,重畳割合を適応的に制
御することを考える.ただし,フェージングの影響により,MARC 回線のうち受信状況の劣悪な組み合わせによって
は,適応制御を適用しても符号化利得拡大が見込めない.本稿では,EXIT 解析により算出可能な全ユーザの相互情
報量に着目し,符号化利得が見込めるか否かの指針を設け,重畳割合の制御で伝送特性の改善が可能な範囲内で,重
畳割合を適応的に制御することにより,全ユーザに対する符号化利得拡大を図り,その有効性を確認する.
キーワード
通信路符号化 重畳符号化変調 直列連接符号化 繰り返し復号法 EXIT 解析 適応符号化
A Study on Adaptive Wireless Distributed Coding
using Superposition Coded Modulation
Naoyuki TAKADA, Shinsuke IBI, and Seiichi SAMPEI
Graduate School of Engineering, Osaka University 2-1 Yamada-oka, Suita-shi, Osaka, 565-0871 Japan
E-mail: [email protected], {ibi,sammpei}@comm.eng.osaka-u.ac.jp
Abstract This paper proposes a methodology of adaptive coding based on extrinsic information transfer (EXIT)
analysis for a joint channel-superposition coding in multiple access relay channel (MARC) over uplink amplify-and–
forward (AF) relaying. In this scenario, it is reasonable to consider the transmission model as concatenated structure
of channel code and superposition modulation. This consideration brings us to a joint detection with iterative manners. However, when a bad quality link is included in the MARC, accuracy of information detection is severely
deteriorated at the destination node. To address this problem, we focus attention on mutual information of iterative
behavior in EXIT analys. The EXIT analysis reveals a mechanism to adaptively control optimum weighting factors
in the superposition coding at the relay node with the aid of knowledge on channel state information in the MARC.
Numerical results given in this paper show the adaptive weighting factor control is effective in 80% or 90% channel
realizations.
Key words channel coding, superposition modulation coding, joint channel-superposition coding, Iterative
decoding, EXIT analysis, adaptive coding
1. ま え が き
ナ本数を増やすことでダイバーシチ効果を獲得し,受信機にお
ける空間信号処理を司る検出器が出力する希望信号電力レベル
一般に,移動無線通信環境においては,フェージングの影響
の変動を抑圧することで,そのレベルの深い落ち込みを補償す
により受信信号電力が落ち込むことで通信品質が劣化する.こ
る検討がなされてきた [1].また,送信機が放射する電波が面
の問題を解決する一つの手法として,従来では,送受信アンテ
的に伝搬することに着目し,送受信アンテナ本数を増加するこ
—1—
となく,送受信機の間に位置する中継ノードを活用し,高いダ
U1
イバーシチオーダの獲得を図る中継伝送も検討されている [2].
h1-D
N0
h1-R
しかし,この場合には,中継伝送にかかる所要無線リソースが
R
増加してしまうという問題が生じる.この問題に対して,複数
h2-D
マルチプルアクセス通信路 (MARC : Multiple Access Relay
U2
Channel) による伝送が有効となる.この伝送では,所要無線リ
する複数の情報生起ユーザの信号を多重することが可能となる.
U1:User1, U2:User2, R:Relay, D:Destination
:Time Slot 1,
:Time Slot 2,
:Time Slot 3
図 1 ネットワークモデル
また,宛先ノードにおいて各ユーザから直接届く信号および中
継器から届く多重信号から,全ユーザの情報を一括検出するこ
とが可能となる.このような MARC モデルにおいて,ユーザ
D
h2-R
ユーザが遍在する環境においては,中継器を活用する上り回線
ソースを低減することを目的として,中継ノードにおいて到来
N0
hR-D
h1-D
d1[(kd)] Channel c1(ks)
b1(ks)
s1(ks)
Π
Mod.
×
Encoder1
の送信機と中継器における通信路符号器が直列連接構造を有す
×
h1-R
ることに着目し,その構造を一つの統合符号器として捉え,繰
nR,1(ks)
り返し復号法を適用することで,高いダイバーシチ効果と符号
化利得を獲得しつつ,ユーザの情報を一括検出する手法が提案
されている [3] [4].さらに,伝搬路状況に応じて中継器におけ
nR,2(ks)
る符号化処理を適応的に変更することで,より高い符号化利得
+
SPC
×
sR(ks)
rR,2(ks)
h2-R
を獲得する手法も検討されている [5].しかしながら,これらの
Channel
Encoder2
rD,1(ks)
+
rD,3(ks)
h2-D
nD,2(ks)
×
+r
Mod.
Π
+
hR-D nD,3(k )
s
rR,1(ks)
+
×
nD,1(ks)
s2(ks)
方式は,ユーザと中継器間を結ぶ回線である 1 ホップ目の通信
d2[(kd)]
に誤りがないことを前提としているので,中継器の位置は,そ
Mod. : Modulator Π : Interleaver SPC : Superposition Coding
の前提条件が成立する場所に限定されることになる.
そこで本稿では,1 ホップ目で信号検出誤りが生じる状況に
c2(ks)
b2(ks)
D,2
(ks)
図 2 MARC の統合符号器構成
よび宛先ノード (D) における雑音の分散を同一の N0 とする.
おいても中継が成功する可能性を保持するため,情報を検出す
さらに,本稿が考える MARC の統合符号器の構成を図 2 に示
ることなく中継を行う AF(Amplify and Forward) 伝送を採用
す.この統合符号器において,U1 ,U2 および R の送信信号
し,重畳変調により信号多重を行う中継処理について考える.
は,時分割で伝送するものとし,各ノードの送受信アンテナは
また,MARC の各回線の受信状況に応じて,中継信号の重畳割
それぞれ 1 本とする.時間スロット 1,2 では,U1 ,U2 がそ
合を適応的に変更することで,符号化利得を拡大する手法を提
れぞれ伝送を行う.
案し,そのメカニズムを明らかにする.この適応制御は,繰り
各ユーザの情報ビット系列 di (kd )(i = 1, 2; kd = 1, ..., Kd )
返し検出における EXIT(EXtrinsic Information Transfer) 解
は,符号化率 τ の通信路符号器に入力され,符号ビット ci (ks ) ∈
析 [6] を基準に制御することで,繰り返し処理による符号化利
{ 0,1 } (ks = 1, ..., Ks (= Kd /τ )) が生成される.また,ci (ks )
得を拡大することを特徴としている.
はビットインターリーバにより離散時間インデックスが並べ
しかし,伝搬路がフェージングの影響を受ける場合,各回線
替えられ,bi (ks ) となり,これを用いて BPSK (Binary Phase
の受信状況の組み合わせによっては,重畳割合を制御するだけ
Shift Keying) 変調された送信シンボル si (ks ) が生成される.
では,符号化利得を改善できない場合が存在する.このような
したがって,時間スロット 1,2 における R および D での受
場合には,その現象の発生確率を抑制することが本質的に不可
信シンボルは,等価低域系表現で,離散時間インデックス ks
欠なので,別途,受信におけるダイバーシチオーダを高める等
についてのみ考えると,以下のように表現できる.
による改善が必要となる.本稿は,そのオーダを高めることは
rR,1 (ks ) = h1−R s1 (ks ) + nR,1 (ks )
(1)
状況において,適応制御による繰り返し処理による符号化利得
rD,1 (ks ) = h1−D s1 (ks ) + nD,1 (ks )
(2)
の拡大を主題とする.つまり,100% の確率で改善できる符号
rR,2 (ks ) = h2−R s2 (ks ) + nR,2 (ks )
(3)
化利得を追及するのではなく,80% あるいは 90% のような任
rD,2 (ks ) = h2−D s2 (ks ) + nD,2 (ks )
(4)
別の手段で解決することを前提とし,重畳割合の制御が可能な
意確率で獲得可能な符号化利得の改善について評価する.
ただし,U1 , U2 の送信信号における 1 シンボル当たりの平均
2. ネットワークモデルおよび送受信機構成
エネルギーを Es とし,雑音 nZ,t (ks ) は,時間スロット t にお
本稿で想定するネットワークモデルを図 1 に示す.図 1 に
いてノード Z ∈ {R, D} で付加される平均 0,複素分散 N0 の
おいて hX−Y は,ノード X , Y を結ぶ伝搬路のフェージング
白色性ガウス雑音とする.また,rZ,t (ks ) は時間スロット t に
係数であり,平均 0,複素分散 1 で互いに独立な複素ガウス過
おいてノード Z での受信シンボルを表す.
程に従うと仮定する.ただし,式中では ユーザ 1(U1 ), ユーザ
2(U2 ) はそれぞれ 1,2 と略称する.また,中継ノード (R) お
時間スロット 3 では,rR,1 (ks ), rR,2 (ks ) を受信した R が,
中継伝送を行う.この時,各受信シンボルをそれぞれ異なる時
—2—
λ[b1(ks)] λ[c1(ks)]
rD,1(ks)
Π-1
MAP Detector
rD,3(ks)
rD,2(ks)
Channel
Decoder1
κ[b1(ks)] κ[c1(ks)]
Π
∝
Π
Channel
Decoder2
d^2[(kd)]
bj (ks )
j=
| i
p [r(ks )|b1 (ks ), b2 (ks )] Pr[b1 (ks ), b2 (ks )]
(9)
さらに,rD,1 (ks ) は b1 (ks ) のみ,rD,2 (ks ) は b2 (ks ) のみから
構成されているのに対して,rD,3 (ks ) は b1 (ks ) および b2 (ks )
λ[b2(ks)] λ[c2(ks)]
Π-1 : Deinterleaver
∑
Pr [b1 (ks ), b2 (ks )|r(ks )]
bj (ks )
j=
| i
Π
κ[b2(ks)] κ[c2(ks)]
-1
∑
Pr [bi (ks )|r(ks )] =
^
d1[(kd)]
から構成され,各スロットで受信される雑音が独立に生じるこ
Π : Interleaver
とから,尤度確率密度関数 p [r(ks )|b1 (ks ), b2 (ks )] は次式に示
図 3 宛先ノード (D) の受信機構成
すガウス分布で与えられる [8].
間スロットで伝送すると,中継伝送にかかる所要無線リソース
が増大することから,送信回数を削減するために,R では多重
p (r(ks )|b1 (ks ), b2 (ks ))
することを考える.本稿では,AF 伝送を採用しているため重
= p (rD,1 (ks )|b1 (ks )) p (rD,2 (ks )|b2 (ks ))
畳変調によりこれを実現する.また,R では,受信シンボルの
·p (rD,3 (ks )|b1 (ks ), b2 (ks ))
(10)
電力レベルのみ調整処理を行う.この調整処理が施されたシン
ボルを用いて,重畳割合 γ の重畳変調を施すと,重畳変調され
rR,1 (ks ) √
rR,2 (ks )
+ 1 − γ2 ·
|h1−R |
|h2−R |
(5)
したがって,時間スロット 3 における D での受信シンボルは
(
√
hR−D
h1−R
h2−R
γ
s1 (ks ) + 1−γ 2
s2 (ks )
σR
|h1−R |
|h2−R |
(
+
)
(
)
|rD,2 (ks ) − h2−D s2 (ks )|2
p (rD,2 (ks )|b2 (ks )) ∝ exp −
(12)
N0
p (rD,3 (ks )|b1 (ks ), b2 (ks ))
 [
]2
√
rD,3 (ks )− σ1R hR−D γs1 (ks ) + 1−γ 2 s2 (ks ) 

[
])
∝ exp− (

次式で表される.
rD,3 (ks )=
(
|rD,1 (ks ) − h1−D s1 (ks )|2
p (rD,1 (ks )|b1 (ks )) ∝ exp −
(11)
N0
たシンボルは次式で与えられる.
sR (ks ) = γ ·
ただし,
nR,1 (ks ) √
)
1+
)
nR,2 (ks )
hR−D
γ
+ 1−γ 2
+nD,3 (ks )(6)
σR
|h1−R |
|h2−R |
1
2
2 |hR−D |
σR
γ2
|h1−R |2
+
1−γ 2
|h2−R |2
N0
(13)
ただし,σR は sR (ks ) の分散を表す.この統合符号器は各ユー
とする.また,b1 (ks ), b2 (ks ) は,独立な情報源を元に生成され
ザの通信路符号器と R での重畳変調器の直列連接構造とみな
るので,事前確率 Pr[b1 (ks ), b2 (ks )] は,次式で与えられる.
すことができ,復号法としては繰り返し復号が有効である [7].
Pr[b1 (ks ), b2 (ks )]
D における繰り返し復号法は,図 3 に示すように,中継多重信
号とユーザからの直接信号に対する MAP(Maximum A - Poste-
riori) 検出器と通信路復号器 (Channel Decoder) 間で最大事後
=
2 ( [
∏
1
i=1
2
1 + (2bi (ks ) − 1) tanh
(
κ [bi (ks )]
2
)])
(14)
確率推定から算出される外部対数尤度比 (LLR : Log-Likelihood
式 (7) で与えられる MAP 検出器出力外部 LLR λ [bi (ks )] は
Ratio) を繰り返し交換することで情報ビットの検出精度を高め
デインターリーバが施された後,符号ビット ci (ks ) に関する外
る [7].MAP 検出器出力外部 LLR λ[bi (ks )] は,bi (ks ) に関する
部 LLR λ [ci (ks )] として通信路復号器に入力される.
事後 LLR から,MAP 検出器の事前 LLR として入力された復
号器出力外部 LLR κ [bi (ks )] を差し引いたものとして定義され,
T
受信シンボルベクトル r(ks ) = [rD,1 (ks ), rD,2 (ks ), rD,3 (ks )]
一方,復号器出力外部 LLR κ[ci (ks )] は,符号ビット ci (ks )
に関する事後 LLR から,MAP 検出器より渡された外部 LLR
λ[ci (ks )] を差し引いたものとして定義され,次式で与えられる.
を用いて次式で与えられる.
λ [bi (ks )] = ln
= ln
κ[ci (ks )] = ln
Pr [bi (ks ) = 1|r(ks )]
− κ [bi (ks )]
Pr [bi (ks ) = 0|r(ks )]
Pr [r(ks )|bi (ks ) = 1]
Pr [r(ks )|bi (ks ) = 0]
= ln
(7)
ただし,復号器出力外部 LLR κ [bi (ks )] は次式で定義されて
いる.
Pr [bi (ks ) = 1]
κ [bi (ks )] = ln
Pr [bi (ks ) = 0]
s
Pr ci (ks ) = 0|λ[ci (ks )]K
ks =1
Pr [ci (ks ) = 1]
Pr [ci (ks ) = 0]
]
] − λ [ci (ks )]
(15)
s
なお,λ[ci (ks )]K
ks =1 は,外部 LLR λ[ci (ks )] 系列を意味する.ま
[
]
s
た,事後確率 Pr ci (ks ) = 1|λ[ci (ks )]K
ks =1 は,使用する通信路
符号化のトレリス構造に基づき,BCJR (Bahl-Cocke-Jelinek-
(8)
また,確率の周辺化により,事後確率 Pr [bi (ks )|r(ks )] は,次
式で与えられる.
[
[
s
Pr ci (ks ) = 1|λ[ci (ks )]K
ks =1
Raviv) アルゴリズムにより算出できる [9]. この復号器出力外
部 LLR κ[ci (ks )] には,インターリーバが施され,bi (ks ) に関
する外部 LLR λ[bi (ks )] として MAP 検出器に渡される.
これら一連の処理を複数回数繰り返し,十分に MAP 検出
—3—
器と復号器間で外部 LLR を交換した後,復号器において情報
ビットを検出し dˆi (ks ) を得ることで,情報ビットの検出精度を


rD,1


r =  rD,2  , s =
高めることができる.しかしながら,式 (7) を構成する確率密
[
]
s1
(21)
s2
rD,3
度関数の式 (11)-(13) から,MARC を構成するノード間の回線
に一つでも劣悪な受信状況の回線が含まれると,MAP 検出器
における各ユーザの確率に基づく信号分離精度が劣り,この信
頼性に劣る外部 LLR が復号器に入力されることから,全ユー
ザの検出精度が劣化してしまう.この問題に対して,本稿では,
繰り返し復号における外部 LLR の交換を相互情報量の交換と
捉え,その繰り返し特性を把握する EXIT 解析 [6] に基づいて,
両ユーザに対し高い符号化利得を獲得するよう重畳変調器の重
となる.また,η の各要素は平均 0 であり,分散はそれぞれ,
σ12 = σ22 = N0
σ32 =
|hR−D |
2
σR
2
σR
γ
1−γ
+
|h1−R |2
|h2−R |2
2
|hR−D |2
+
2
(22)
)
N0 (23)
は互いに独立であるため,雑音成分の共分散行列は,


σ12
0
0
Rη = E ηη H =  0
σ22
0 
0
σ32
{
}

0
3. 1 EXIT 解析

(24)
となる.ただし,E{A} は A の集合平均を表す.式 (19) およ
ここで,統合符号器における MAP 検出器と復号器の適合性
を知るために,EXIT 関数を考える.MAP 検出器および復号
Ks
s
器の外部 LLR 系列 λ [ci (ks )]K
ks =1 , κ[ci (ks )]ks =1 は,MAP 検
出器出力相互情報量 Iidet , 復号器出力相互情報量 Iidec に変換
でき [6],MAP 検出器 EXIT 関数,復号器 EXIT 関数を次式
び式 (24) を用いて,U1 の MAP 検出器 EXIT 関数の終点にお
(
E
ける外部 LLR の分散 σU
1
)2
は以下のように定式化すること
ができる (付録参照).
)
(
2
E
σU
1
(
=8
のように定義できる.
|h1−D |2
|hR−D |2 γ 2
+
2
2 2
σ1
σR
σ3
)
(25)
(
dec
dec
Iidet = Ldet
i (I1 , I2 , h, Es /N0 )
(16)
det
Iidec = Ldec
i (Ii )
(17)
なお,Iidet
(
である.また,各受信アンテナで付加される白色性ガウス雑音
畳割合を決定し,統合符号器を制御する手法を提案する.
3. EXIT 基準重畳割合決定法
2
は,式 (7)-(13) より
I1dec
,
I2dec
,伝搬路利得ベク
トル h = [h1−D , h2−D , h1−R , h2−R , hR−D ] ,R および D にお
ける雑音の分散 N0 により決定される.送信信号 si に関する完
dec
全な情報を得るためには,両 EXIT 特性が 0 <
= Ii < 1 にお
いて交差しないことが必要条件となり,この条件を満足するた
めには,MAP 検出器 EXIT 関数の終点における
Iidet
が,復
号器 EXIT 関数における Iidec = 1 を出力するために必要な最
小の Iidet よりも大きな値をとる必要がある.したがって,本稿
では,MAP 検出器 EXIT 関数の終点における検出器出力相互
E
また,式 (22)-(23) を式 (25) に代入すると, σU
1
)2
は γ の関
数として次式のように定式化できる.
(
E
σU
1
)2

= 8
≡ f1 (γ)
|h1−D |
+(
N0
(
E
同様にして, σU
2
(
E
σU
2
)2


2
)2
γ
γ2
|h1−R |2
+
2
1−γ 2
|h2−R |2
+
2
σR
(26)
)
N0
|hR−D |2
も次式のように算出できる.
≡ f2 (γ)

|h2−D |2
= 8
+(
N0
情報量について考える.この相互情報量は終点における MAP
1 − γ2
γ2
|h1−R |2
+
1−γ 2
|h2−R |2
+
2
σR
(27)
)
|hR−D |2
N0
検出器出力外部 LLR の分散から J 関数を用いて算出可能とな
これら MAP 検出器 EXIT 関数の終点における外部 LLR の分
る [10].以降では,この分散値を算出する.
散値から下記に示す J 関数を用いて MAP 検出器 EXIT 関数の
3. 2 終点における検出器出力外部 LLR の分散の算出
2 節で述べた信号モデルは,伝搬路行列 H ,雑音ベクトル η ,
送信信号ベクトル s,受信信号ベクトル r を用いて次式のよう
終点における検出器出力相互情報量が算出できる [10].
(
E 2
Iidet = J(σi ) ≈ 1 − 2H1 (σi ) H2
)H3
(28)
ただし,H1 = 0.3073, H2 = 0.8935, H3 = 1.1064 である.ま
に表される.
r = Hs + η
(18)
た,MAP 検出器 EXIT 関数の終点における検出器出力相互情
報量から,復号器出力相互情報量も式 (17) より算出できる.
ただし,各変数の離散時間インデックス ks は省略するものとし,

h1−D

H=

0
0


h2−D
hR−D
h
γ |h1−R
σR
1−R |
hR−D
σR
√
1−
h2−R
γ 2 |h2−R
|
nD,1

η =


hR−D
σR
nD,2
(
γ
nR,1
|h1−R |
+
√
1 − γ2
nR,2
|h2−R |
)
+ nD,3
3. 3 終点における EXIT 基準重畳割合決定法
MARC を構成するノード間の回線に劣悪な受信状況の回線
(19)
が含まれると,繰り返し復号における MAP 検出器の信号分離
精度に信頼性がなく,復号器入力相互情報量に差異が生じ,達

成しうる最大の相互情報量である復号器出力相互情報量に差異

(20)
 が生じる.これが原因で,時間変動する瞬時伝搬路に対して,
両ユーザの送信信号に関する完全な情報を得ることができると
は限らない.この問題に対して,両ユーザが高い符号化利得を
—4—
表 1 シミュレーション諸元
認するために,計算機シミュレーションを行った.表 1 にシミュ
Modulation
BPSK
Channel Coding
Non-Systematic Convolutional
レーション諸元を示す.また,伝搬路モデルとして準静的レイ
(Coding rate τ = 1/2)
(Constraint length = 4)
Detector
リーフェージングを考える.ただし,R と D の無線機器は固定
され,見通し内伝搬路と仮定し,受信信号対雑音電力比 (SNR :
Signal to Noise Ratio) が揺らがない,AWGN(Additive White
Max-Log-MAP
Gaussian Noise) 環境(注 1)を考える.
with Jacobian logarithm
本稿では,AF 中継の特徴である,1 ホップ目の誤りがあり
frame length
1024 symbols/frame
Interleaver
Random
得る場合に焦点を絞り,1 ホップ目の回線品質に対する中継伝
Number of iterations
8
送品質の評価を行う.まず,適応制御適用時における復号器
出力相互情報量の累積分布 (CDF : Cumulative Distribution
100
a
Function) を考える.ここで,伝搬路 R-D を AWGN 環境下,
受信 SNR が 6 [dB] ,伝搬路 U1 -D,U2 -D の平均受信 SNR が
0[dB] である場合に, 伝搬路 U1 -R, U2 -R の平均受信 SNR を 5
[dB](条件 1),および 10[dB](条件 2) に設定した時の CDF を
CDF
それぞれ adaptive U-R=5[dB],adaptive U-R=10[dB] として
10-1
図 4 に示す.ただし,この CDF は,受信特性が U1 , U2 の復
号器出力相互情報量の小さい方の値に支配されることを考慮
adaptive
fixed
adaptive
fixed
-2
10
U-R=10[dB]
U-R=10[dB]
U-R=5[dB]
U-R=5[dB]
し,各瞬時伝搬路における U1 および U2 の達成可能な復号器
出力相互情報量のうち小さい値を示したものである.比較対
象として,適応制御を行わず R における重畳割合を γ 2 = 0.5
a
0
0.2
0.4
0.6
0.8
Mutual Information at Decoder Output
1
に固定したときの CDF をそれぞれ fixed U-R=5[dB],fixed
図 4 条件 1,2 における復号器出力相互情報量累積分布
adaptive
fixed
adaptive
fixed
adaptive
fixed
100
の制御で効果が得られる状況について考察する.図 4 におい
-100%channel
-100%channel
- 90%channel
- 90%channel
- 80%channel
- 80%channel
a
て,相互情報量の小さな領域では,重畳割合を固定化しても適
応的に制御しても相互情報量の改善は小さい.これは,1 ホッ
プ目のいずれか,あるいは双方の回線の伝搬路利得が小さく,
10-1
Average-FER
U-R=10[dB] として示す.ここで,本稿の主題である重畳割合
重畳割合の制御の効果が得られないことを示している.また,
CDF 値 0.1,0.2 に着目すると,条件 1 では,CDF 値 0.1 で約
0.05,CDF 値 0.2 で約 0.20 の,適応制御を適用することによ
る相互情報量の改善が見られる.同様に,条件 2 でも,CDF
-2
10
値 0.1 で約 0.20,CDF 値 0.2 で約 0.30 の相互情報量の改善が
見られる.
相互情報量の CDF の下位 10%,あるいは 20% は,劣悪な
10-3
0
5
10
15
20
25
Average-SNR for links 1-R and 2-R [dB]
a
図5
伝搬路状況の下位 10%,あるいは 20% に相当するので,ここ
では,それらを,それぞれ 90% channel, 80% channel と定義
平均フレーム誤り率特性
獲得するためには,U1 と U2 の MAP 検出器 EXIT 関数の終
点における検出器出力相互情報量が一致するよう γ を調整す
る必要があり,これは,先に算出した U1 と U2 の MAP 検出
器 EXIT 関数の終点における外部 LLR の分散が等しくなるよ
う γ を制御することと等価である.この最適な γopt は,以下
の方程式を解くことで一意に算出できる.
f1 (γopt ) = f2 (γopt )
し,1 ホップ目の伝搬路 U1 -R,U2 -R の平均受信 SNR に対す
る両ユーザの平均フレーム誤り率 (FER : Frame Error Rate)
を検討した.結果を図 5 に示す.ただし,U1 -R,U2 -R の平均
受信 SNR 以外のパラメータは図 4 の場合と同じとする.ま
た,比較対象として,MARC 回線のうち受信状況の劣悪な組
み合わせも含む全ての状況を 100% Channel として図 5 に示
す.図 5 より,100% Channel では,FER=10−2 を達成する
(29)
ために,平均受信 SNR が約 1.5[dB] 程度の符号化利得しか獲
得できない.これは,重畳符号化の重畳割合の制御だけでは対
したがって,この式 (29) から得られる最適な γopt を変動する
伝搬環境下において適応的に変更することで,両ユーザに対し
処しきれない場合の発生確率がフレーム誤り率を支配している
ためである.当然,重畳割合の制御だけで対処しきれない場合
高い符号化利得を獲得することが可能であると考えられる.
4. 計算機シミュレーション
提案する EXIT 基準の適応無線分散符号化方式の有効性を確
(注 1)
:本来,見通し内伝搬路では,ライスフェージングを仮定すべきであるが,
ここでは h1−R および h2−R の変動の影響を評価するため,R-D 間の伝搬路
は,時間変動のない AWGN 伝搬路を想定する.
—5—
には,別途,ダイバーシチ技術などで対処する必要がある.そ
この式 (33) における第二項は雑音成分に相当することから,
れに対して,80% channel, 90% channel は,重畳割合の制御
この雑音成分をさらに解析する.W = H −1 = (H H H)−1 H H
で対処しきれない場合を一定量だけ除外して評価しているの
と定義し,行列 W の 1 行目の構成要素ベクトルを w1 ,2 行
で,1 ホップ目の回線品質に応じた符号化利得の改善が得られ
目の構成要素ベクトルを w2 で表すと,式 (33) における第二
−2
ており,FER=10
において 80% channel で約 3.5[dB],90%
項は,これらの構成要素ベクトル w1 , w2 と n ≡ [ν1 x2 ]T を
用いて次式のように書き換えることができる.
channel で約 3.0[dB] の改善値が得られている.
以上のことから,EXIT 解析を基準に重畳割合を伝搬路状況
(4Ω11 ℜ[ν1 ] + 4ℜ[Ω12 x2 ]) = 4ℜ [(Ω11 w1 + Ω12 w2 )n]
に応じて適応的に変更し,統合符号器を制御することで,両
ユーザに対し符号化利得の拡大が可能となり,この符号化利得
の効果は,MARC を構成する伝搬路の状況が,重畳割合の制
ここで,Ω11 w1 + Ω12 w2 = [ Ω11
Ω12 ]H
−1
= X とし,式
(33) を書き変えると次式のようになる.
λE = 4Ω11 s1 + 4ℜ[X n ]
御で対処できる範囲内において,大きく表れる.
(34)
(35)
こ の 式 を ,さ ら に ガ ウ ス 近 似 で あ る と み な し ,λE =
5. ま と め
µλE b + υλE とする.ここで,λE の振幅利得 µλE および,
本稿では,上り回線 MARC を考え,フェージング環境にお
いて,可能な限り全ユーザに対し符号化利得の拡大を図ること
目的とし,繰り返し検出による EXIT 解析を基準に,中継ノー
υλE の関係を考えると υλE の分散 δλ2 E は,次式で表現できる.
(
δλ2 E = 8 ℜ[X]ℜ[n]ℜ[nT ]ℜ[X T ] + ℑ[X]ℜ[n]ℜ[nT ]ℑ[X T ]
ドの重畳割合を適応的に変更し,統合符号器を制御する手法を
= 8[ Ω11 Ω12 ]H −1 Rη (H −1 )H [ Ω11 Ω12 ]H
提案した.計算機シミュレーションの結果,全ユーザに対し符
= 8[1 0]Ω H −1 Rη (H −1 )H Ω H [1 0]H
号化利得の拡大を確認し,さらに,この符号化利得の効果は,
= 8[1 0]Ω (Ω
MARC 回線の伝搬路の組み合わせのうち,重畳割合の制御で
)
−1 H
) Ω H [1 0]H
= 8Ω11
(36)
対処可能な範囲内において大きく表れることを確認した.
したがって,この解析により送信信号ベクトル s1 に関する,
付
録
MAP 検出器 EXIT 関数の終点における外部 LLR の分散は,Ω
ここでは,MAP 検出器 EXIT 関数の終点における外部 LLR
の分散を算出する過程を示す.本稿で想定する MARC モデル
は,式 (18) で表される.また,この MARC モデルの繰り返し
復号法における MAP 検出器出力外部 LLR は式 (9) で与えら
れ,尤度確率密度関数 p[r|s] は,式 (19)-(24) を用いて次式で
与えられる多変量ガウス分布に比例する.
(
p(r|s) ∝ exp − (r − Hs)H R−1
η (r − Hs)
(
)
)
= exp − (z − s)H H H R−1
η H (z − s)
(
= exp − (z − s)H Ω (z − s)
)
(30)
ただし,z = (H H H)−1 H H r (AH は,行列 A のエルミート
転置である.) とし,H H R−1
η H は,以下のように定義した.
]
[
H H R−1
η H ≡ Ω =
Ω11
Ω12
Ω21
Ω22
(31)
以下,z = [z1 z2 ]T , s = [s1 s2 ]T とし,EXIT 関数の終点の
状況である送信信号 s2 の完全な情報が得られた場合,送信信
号ベクトル s1 に関する MAP 検出器出力外部 LLR は次式のよ
うに与えられる.
λE
1 = 4Ω11 ℜ[z1 ] + 4ℜ[Ω12 x2 ]
(32)
ただし,ℜ[A] は,A の実数部であり,x2 ≡ z2 − s2 とする.
ここで,式 (32) の第一項において,z1 がガウス雑音の影響
のみを受けた信号であると近似し (以下,ガウス近似と呼ぶ),
z1 = s1 + ν1 とすると,式 (32) は次式のように書き換えられる.
λE
1 = 4Ω11 s1 + (4Ω11 ℜ[ν1 ] + 4ℜ[Ω12 x2 ])
(33)
の対角成分要素である Ω11 により表され,この Ω11 は式 (19)
に示す伝搬路行列,式 (24) に示す共分散行列から式 (31) を用
いて一意に表される.同様にして,送信信号ベクトル s2 に関す
る,終点における MAP 検出器出力外部 LLR の分散は,Ω の
対角成分要素である Ω22 により表され,8Ω22 で与えられる.
文
献
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—6—