デニス・カイン(Dennis Kyne)氏プロフィール 米軍に15年間在籍し、湾岸戦争では第18 空挺部隊として、「砂漠の嵐」作戦の最前線 に立つ。現在、障害退役軍人。1995 年カリ フォルニア州立サンノス大学政治学部修士 課程修了。在学中、特に核拡散を中心に研 究。軍の欺嚇を追求した書籍・DVDを いくつも発表している。 2006 年 8 月には、 『真実を聞いてくれ / 俺は 劣化ウランを見てしまった』(阿部純子訳)が 出版された。ギターの弾き語りをするミュージ シャンでもあり、平和のメッセージを込めたC Dなども発表している。 連絡・問い合わせ先 075―314―5011 京都民医連事務局 担当 勘解由(かげゆ) 劣化ウランはどのようにして環境を汚染し、人々を被曝させるか ①劣化ウランのエアロゾル(浮遊する微粒子)は何十キロメートルも拡散する 湾岸戦争では総量約 320 ㌧の劣化ウランが、5∼6千発の戦車砲弾、95 万発の機銃砲弾とし て使用されました。劣化ウラン弾は、優れた装甲貫徹能力だけでなく、激しい燃焼性を持つ徹甲 焼夷弾です。ターゲットとなった戦車、あるいは装甲車輌に当たると瞬時に燃焼し、車輌内の兵 員を殺傷し、車輌を炎上させます。そして、弾芯の金属ウランは燃焼の結果、二酸化ウランや八 酸化三ウランなどの酸化物の微粒子(エアロゾル)となります。これらの微粒子は大気中に浮遊 し、風に乗って広く拡散します。現地調査等から、最低でも 40km、あるいはもっと遠距離まで 劣化ウランのエアロゾルが到達すると指摘されています。そしてゆっくりと土壌へと降下した劣 化ウランの微粒子は、土壌を汚染し、水を汚染し、食物連鎖を通じて食料を汚染します。また、 風が吹けば土壌中の劣化ウランは粉塵として再度大気中に巻き上げられます。イラクの人々、戦 闘区域周辺の住民は、微粒子となった劣化ウランを呼気を通して吸入し続け、汚染された水や、 食物を摂取し続けなければならないのです。しかもウランの半減期は 45 億年です。太陽も燃え 尽きてしまうような遠い未来でも、まきちらされた劣化ウランの半分は残り続けるのです。 ②劣化ウランのエアロゾル(浮遊する微粒子)は呼吸と共に吸入され肺に長期間残留する エアロゾル化した劣化ウランは非常に危険です。なぜなら、それはマイクロメーター(1mm の千分の1)単位の小さな微粒子であり、呼吸を通して容易に肺に取り込まれるからです。劣化 ウランが体内に入り込む経路は、呼気からの吸入、経口摂取、傷口から血流への侵入の3つがあ りますが、その最大のものは、呼吸を通しての肺への吸入だと考えられています。肺に入った劣 化ウランの微粒子は、まず肺組織に付着します。エアロゾル化した劣化ウランは、そのほとんど が不溶性の酸化ウランの形態を取っていますので、血液に非常に溶け難く、そのため長期間残留 します。残留した劣化ウランはアルファ線と呼ばれる放射線で周囲の肺の細胞を損傷し続けます。 陸軍兵器研究開発技術センター(ARDEC)報告書は、吸入に適したサイズのほとんど(52%から 83%)は肺の血流中に溶けず、肺に残留するとしています。また、衝突時の燃焼による熱で焼結 され、セラミック形態となった劣化ウランの特別の危険性も指摘されています。NRPB(英国 放射線防護庁)のマウスを使った実験によると、セラミック形態のウラン酸化物は、通常の酸化 ウランよりも2倍長く、肺に残留することが分かっています。 ③血流に乗って劣化ウランは全身の臓器・組織を汚染する これまで、ウラニウムは比較的早く、尿または糞便に排出され、一時的な被曝後も速やかに体 内のウラニウム濃度は下がるとされてきました。しかし、帰還兵の追跡調査の結果、体内に劣化 ウランの破片が残されたままの帰還兵はもちろんのこと、戦争時に被曝しただけの帰還兵からも、 被曝から7年が経過した後でも、通常よりも高い濃度で尿中、あるいは精液からウラニウムが検 出されるのです。 おそらく、肺に残留した劣化ウランの微粒子が、徐々に血流に入りこみ続け ることで、慢性的な体内組織の汚染を引き起こしているものと考えられます。 従来からの知見ではウランはもっぱら腎臓および骨に蓄積し、化学的毒性による腎障害のみが 問題であるとされてきました。しかし、最近の動物実験の結果、身体のあらゆる組織、睾丸や胎 盤、リンパ節、脳髄にまでウランが蓄積され、免疫の低下を引き起こしたり、脳活動に影響を与 えたりする可能性があることが分かってきました。また、胎盤を通して胎児にも蓄積し、骨変形 等の奇形を引き起こすことが明らかにされています。
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