201610 華鐘通信№260 260 号巻頭言 日本のマスコミ報道のあり方 今回の国慶節は日本に一時帰国したが、自宅 また、日本の民放各社は朝から晩まで似たよ でテレビを見ていて、“日本は素晴らしい”、 うなワイドショー番組をいくつも放送してい “日本の家電製品の品質は世界一だ”などと、 るが、芸能人のスキャンダルや政治家の不正、 日本在住の外国人に日本のことをやたらと称 殺人事件等の日々のニュースを採り上げて、何 賛させる番組や、「モノ作り大国日本の底力」 人もの芸能人や評論家が論評し合う形式のも といった題名で、日本の製造業が戦後に歩んで のが多い。しかも、こうした場面がそれぞれの 来た歴史を振り返り、日本の製造業の技術力を 放送局で一日に何度も繰り返される。加えて、 再認識させようとする番組が随分多いなと感 土日は土日でその週の主な出来事を振り返っ じた。確かに、日本は水も空気もきれいで、街 て論評する番組がある。例えば、この国慶節期 並みは情緒にあふれ、自然も美しい。また、人々 間中の主な話題は、東京築地市場の豊洲への移 は礼儀正しく親切、食べ物もおいしいので、訪 転問題である。小池新東京都知事が最終的にこ 日外国人旅行者が増えるのもうなずける。この の問題を如何に処理するのか、東京都議会の無 点については筆者も日本人として大変誇らし 責任体質を如何に追及するのかに注目が集ま く思う。しかし、中国から日本を見ていると、 っているが、一週間の間に何度も何度もこの問 逆に世界市場における日本の優位性はかつて 題に関しての報道があるので、移転候補先の土 と比べて明らかに低下していると感じる。これ 壌中から環境基準を超える有害物質が検出さ は日本企業の製品品質や技術力が低下してい れたといった事実関係の情報だけでなく、同時 るという意味ではなく、新興国企業の台頭によ にワイドショーや報道番組に出演している有 り、相対的に日本企業の存在感が薄くなりつつ 名人の小池知事に対する印象や評価について あるということである。中国市場に対する日本 も何度も何度も聞かされることになる。 企業と諸外国企業との戦略の差異についても こうした報道体制は、さまざまな意見に触れ 気になるところで、アメリカやドイツ企業は中 るという意味では有益かもしれないが、これら 国投資を増加させているのに、日本企業の投資 の意見をテレビ局側が何らかの意図をもって は増えていない。 ある方向に統一することでの世論の誘導も可 もちろん自国の魅力や過去に歩んで来た歴 能な訳であり、そういう意味での危険性も大い 史を正しく認識することは大切なことである にある。特に中国関係の話題については、中国 が、過剰な自国称賛は、本当に重要な問題から に対して批判的、否定的な方向に誘導されがち 一般大衆の目をそむけさせようとする意図が である。幸いこの国慶節休暇中には、中国関連 あるように思えてならない。世界市場における のニュースはほとんど何も無かったので、気分 日本企業のプレゼンス低下なり、対中国戦略で の悪い思いをすることも無かったが、中国につ 日本企業が諸外国比遅れを取っていること等、 いて全く何も知らない有名人達が中国問題を 日本国民に対して警鐘を鳴らして危機感を煽 議論する様は実に滑稽であると同時に、これら るような内容のテレビ番組がもっとあっても の人達の生半可な知見によって日本国民の対 良いと思う。日本のテレビ局の番組作成方針が 中国観が形成されているのかと思うと本当に バランス感覚を欠いていることも原因であろ 腹立たしい。賛否両論どちらも公平に報道し、 うが、日本の一般大衆自身が海外の経済情勢に 一般大衆側にこれらの情報や意見を取捨選択 対して関心が無さすぎることも大きな要因で して採り入れる機会が与えられるなら良いが、 あろう。 中国に対して肯定的な意見を持つ人は日本の 1 201610 華鐘通信№260 テレビ番組にはあまり出演させてもらえない 人の日本に対する理解は確実に深化している。 ので、そもそも日本の一般大衆が中国に関して また、北京に出張した際には、どこのホテル 肯定的な意見に触れる機会が極めて少ない。 に泊まっても、毎回季節を問わず多数の欧米人 一昨年の 11 月の日本出張時に飛行機の中で 旅行者を見かける。朝食時には、ホテル内の朝 中国旅行を終えて帰国途上の初老の日本人と 食会場が欧米人旅行者で埋め尽くされる。フラ 席が隣になった。ここ数年、中国を訪れる日本 イトも北京便には欧米人旅行者が多数搭乗し 人旅行者をほとんど見かけなくなり、めずらし ている。欧米で中国のことが如何に報道されて かったので話かけてみたところ、「テレビを見 いるのかは知らないが、この旅行者の数を見る ていると、中国と日本が戦争を始めそうな勢い 限りは、少なくとも日本のような否定的な報道 なので、その前にどうしても敦煌を一度見てお ばかりではないということであろう。 きたかった」、「家族から中国は危ないから止 このように日本だけが世界の潮流に逆行し めておけと反対されたが、戦争が始まると中国 ているようで、世界のトレンドに乗り遅れてい に一生来られない可能性もあるので、家族の制 るのではないかと非常に危うさを感じる。もち 止を振り切って来た」とのことであった。本当 ろん、これまで天安門事件や領土問題等、日本 にそんなことを思っているのかと開いた口が 人の対中国観を形成するうえでマイナス要素 ふさがらなかったが、同時に、中国文化に関心 となる事件も沢山あったが、一衣帯水の隣国と を持つ日本人は多いはずなのに、誤った情報操 して中国とは切っても切れない関係にあるの 作によって訪中機会が失われていることは日 で、そういう日中関係の根本的な部分をベース 本にとっても大きなマイナスである。これはあ に、感情に流されることなく、これらの事件の くまで一例に過ぎないが、今年 3 月に公表され た内閣府の「外交に関する世論調査」で、中国 経緯や背景、中国の国内事情等をもっと冷静且 に対して「親しみを感じない」「どちらかとい つ客観的に分析し、日本国民に情報を提供する うと親しみを感じない」の割合が 83.2%に達し、 ことがマスコミの本来の役割である。 特に最近の中国の成長鈍化、景気悪化の報道 1975 年から続くこの調査で過去最悪の数字と なったこと、しかも、1980 年代の調査では「親 は日本の経営者に多大な心理的影響を及ぼし しみを感じる」が 8 割近くもあったのに、今で ており、中国事業においても否定的な判断につ は全く逆の状態になっていることからも、日本 ながることが多い。本当に中国そのものがダメ 全体が反中方向に傾いていることは確実であ になる、中国経済が崩壊するのであれば、その る。テレビを始めとするマスコミ報道の影響で 為の警鐘を鳴らすことは重要であるが、6%台と あろう。 いう他国比十分な高成長率、中国人民の平均所 一方、訪日中国人旅行者の急増により中国人 得(今後の所得増加の潜在力)、街を歩く人々 の日本に対する関心は急速に高まっている。中 の購買意欲等、プラス要素の方が明らかに大き 国人旅行者のマナーも年々確実に改善されて いように思うのだが、日本のマスコミは中国の 来ている。筆者が責任者を務めている「中日之 プラス面を報道したがらない。それでは日本国 橋卓球クラブ」への加入希望者も最近は半分以 上が日本語の話せる中国人である。日本で仕事 民が喜ばないからというのが最大の理由であ をしたことがある、日本に行ったことは無いが り、こうした日本国民一人一人の意識を改善す 日系企業に勤めている等、日本との関わり方は ることが先決かもしれない。訪日中国人旅行者 様々であるが、卓球という切り口でもっと日本 の増加がその一つのきっかけになることを期 のことを理解したい、日本人と交流したいとい 待したい。 うのが彼らの加入動機である。このように中国 (常務副総経理 能瀬徹 2016/10/10 記) 2
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