病気の予防 イヌやネコの病気には、それぞれの動物種に固有の病気とともに、ヒトにも 感染する病気(人畜共通感染症)があります。とくに濃厚接触する子供は感染 し易く、重症化する恐れがあり、感染を防ぐために動物の健康を維持する必要 があります。そのために、飼い主が最小限の知識を持つことが欠かせません。 国内に現在存在しない病気もありますが、ヒトと物の国際移動が激しい状況で 日本に何時侵入するか判りません。 主な人畜共通感染症 病名 感染する動物 犬、猫、キツネ、アライグマ、スカン 狂犬病 ク、コウモリ、その他の哺乳類 病原体 国内存在 ウイルス なし パスツレラ症 犬、猫 細菌 あり 猫ひっかき病 猫 細菌 あり 細菌 あり サルモネラ症 犬、猫、ウサギ、サル、鳥類、ヘビ、 カメ等 犬ブルセラ症 犬 細菌 あり レプトスピラ症 犬 細菌 あり 皮膚糸状菌症 犬、猫 真菌 あり トキソプラズマ症 猫 原虫 あり エキノコックス症 キツネ、犬、まれに猫、野ネズミ 寄生虫 あり 回虫幼虫移行症 犬、猫 寄生虫 あり かいせん 犬 ダニ あり (リンクは、厚生労働省と東京都動物愛護相談センター) 「狂犬病予防法」 狂犬病は、全ての哺乳動物が感 染し、一旦発症すると治療法がなく 100%死亡する怖い伝染病である。ヒ トの感染の 95%が罹患したイヌに咬 まれることで感染する。世界で 5 万 人以上が毎年死亡し、その大半がア ジアで起きている(インドが最も多 く年間 2 万人死亡と推定) 。ただし、 イヌもヒトも狂犬病予防接種によっ て防ぐことができます。 日本でも関東大震災や戦争によ る社会的混乱の中で飼い主を失った 放浪犬の間で狂犬病が流行し、多く の人命が失われました。しかし、 「狂 犬病予防法」が 1950 年に制定され イヌの登録と狂犬病予防接種が義務 化されたことによって、予防接種を 受けていない放浪犬を減少させるこ とに成功し、1957 年のネコの症例を 最後に国内から狂犬病ウイルスが一 掃されました。 日本とほぼ同じ頃狂犬病を撲滅 した台湾では、2013 年 7 月に野生の イタチアナグマで狂犬病が確認さ れ、現在も毎日 1 頭のイタチアナグ マの狂犬病による死亡が確認され続 けています。半世紀振りで狂犬病が 山中で発見された原因は、密輸した 台湾における狂犬病罹患頭数 野生動物が病気になって山に捨てた ことによると推定されています。日 本でもそうした事態は起こり得るだ けでなく、かつてペットとして輸入 したアライグマを山に捨てたため北 海道から九州まで外来種のアライグ マが増えています。アライグマは繁 日本におけるアライグマ捕獲数の推移 殖力が旺盛で、米国ではニュウヨー ク州などの東部でアライグマの狂犬 病発生が続いています。 麻薬の密輸の際に、台湾のよう にアジアの珍しい野生動物を持込む 無法者がいないとは限りません。そ れが病気になった時、逮捕覚悟で動 物病院へ連れて行くことはできず、 山に捨てるでしょう。狂犬病の診断 は、類似症状を呈する病気があるた 米国東部におけるアライグマの狂犬病発生 め、動物病院で診断することはでき ません。血清学的、ウイルス学的あ るいは病理学的検査を行える国の研 究機関で調べる必要があります。台 湾でも、2013 年に確認される 10 年 ほど前に侵入して広がったものと考 えられています。発見されてからの 対応では遅いのです。密輸入や密入 国の監視は、海上保安庁や警察だけ では行き届かず、一般市民の監視が 重要です。拉致問題が発生した鹿児 狂犬病予防接種はなぜ必要なのか? ヒトの問題 島では、漁港はもちろん海岸線のい 1.狂犬病は、一旦発症すると 100%死亡する たるところに看板が立てられていま 2.咬傷後のワクチン・抗血清の効果が確認さ す。 れるまで、長期の不安がある。 獣医師が監視しているから狂犬 病は国内侵入しないと思っていませ んか? 動物検疫所は正規の輸入を 監視していますが、輸入コンテナに 猫が閉じ込められていた事例があ り、狂犬病発生国からのコンテナだ 動物の問題 1.世界で狂犬病のない国はわずかであり、日 本に侵入する危険性が常にある 2.国内発生すると、予防接種率が 70%以上で ないと、流行を止められない 3.動物とヒトとの良好な関係を維持できる。 った場合に取り逃がしたら大変です (動物検疫所) 。また、貨物船でイヌ を連れて来る乗組員もあり、そのイ ヌの「不法上陸」も多いようです。 こうした状況で、 「狂犬病予防接種は 不要」とするネット上の記事が多数 ありますが、台湾の事例を教訓とし て毎年の狂犬病予防接種を受けてく ださい。獣医師にできるのはそこま でで、密輸入や密入国による狂犬病 侵入に責任は持てません。 発生がないのは靑だけ(拡大図は厚労省) 海外でイヌ等に咬まれて感染する危険性もあり、2006 年にはフィリピンで咬まれた 日本人が 2 名、帰国後死亡しています。咬まれて直ぐに予防接種や免疫グロブリンによ る曝露後処置を受ければ発症せずに済みます。また、海外では野生動物はもちろんイヌ やネコにむやみに触らず、放浪犬には近づかないことが大切です。 日本獣医師会: 狂犬病情報、鹿児島県:狂犬病、厚生労働省: 狂犬病、 犬のウイルス感染症(日本獣医師会) ア.ジステンパー 原因: 病犬との直接または間接の接触によって伝染するウイルス。 症状: はじめ一過性の熱が出た後、すぐ平熱にもどります。次に発熱すれば、せき、 下痢などが起り、さらにけいれんなどの神経症状が出ます。これらの症状は必ずしも定型 的に現われないで、突然神経症状を現わすこともあります。 予防: 十分な免疫を持った母犬の初乳を飲んだ子犬達は 3 カ月問は、この病気に抵 抗力を持っています。有効なワクチンがあり、生後 3 カ月前後に用いることが推奨されて います。毎年 1 回、ワクチンを接種することが理想です。 イ.伝染性肝炎 原因: ウイルスによって起され.感染経路もジステンパーと似ています。 症状: 子犬がかかると突然、死亡することがあり、またときには目やにや食欲不振、 下痢などを起し、長い経過をとる場合もあります。はじめに高熟を出しすぐ下がり、また 上がることが多く、平熱の場合もあります。しかし平熱以下になる場合は危険の徴候です。 予防: ジステンパーと同様にワクチンが有効で.通常混合ワクチンを使ってジステ ンパーと肝炎の両方を同時に免疫させる方法が用いられています。また効果的な免疫を得 るためには、少なくとも毎年予防接種を行う方が安全です。 ウ.パルボウイルス感染症 原因: パルボウイルスの感染によって起る伝染病です。 症状: 1978 年頃から世界的に流行し始めた伝染病で、生後数週間の子犬が最も多く 感染します。血の混った下痢便や嘔吐から始まり、1~2 日で脱水を起して数日で死んでし まうという極めて恐ろしい病気です。ときには心臓病も併発します。 予防: ワクチンを使ってほぼ確実に予防することができます。生まれた子犬は獣医 師の指導を受けて、適切にワクチンを注射してもらうことが大切です。 ネコのウイルス感染症(日本獣医師会) ア.猫伝染性腹膜炎(FIP) 原因: コロナウイルスによる伝染病で、年齢に関係なく感染します。 症状: 食欲がなくなり、体温が高くなって動きがにぶくなります。そのうち、おな かの周囲が大きくなり腹水がみられたり、胸に水が貯る(胸水)こともあります。また黄 疸がみられることもあります。 予防: この疾気に対する有効なワクチンはまだありません。したがって、確実に予 防することは出来ません。 イ.猫汎白血球減少症(猫伝染性下痢症) 原因: パルボウイルスによる伝染病ですが、犬のパルボウイルスとは少し性質が異 ったウイルスです。 症状: 子ねこに多くみられますが、成猫でも感染します。食欲がなくなり、体温が 40℃以上になって嘔吐や下痢がみられます。犬のパルボウイルス感染症と同じように、脱 水が起り数日で死亡することがあり、血液検査によって、白血球の数が急激に少なくなる ことから、汎白血球滅少症とよばれています。 予防: ワクチンを使用することによって、この病気を予防することができます。 ウ.猫白血病(FeLV) 原因: ねこの白血病ウイルスによって感染するといわれています。 症状: この病気に感染したねこの多くに、リンパ肉腫という腫瘍がみとめられます。 食欲がなくなって、少しずつやせてくると同時に、レントゲンによって、胸の中に腫瘍が 発見されることが多く、徐々に体力が低下して死亡します。エ.猫伝染性鼻気管炎(FVR) 原因: 2 種類のウイルスによって起る呼吸器の伝染病です。 症状: 鼻やのどの奥がウイルスによって感染を受けるので、ねこは涙を流したり、 せき、くしゃみおよび鼻汁を出します。とくに子ねこでは、ひどい結膜炎が起り、失明す ることもあります。また、ひどいせきのため呼吸ができなくなることもあります。 予防: この病気を予防するためのワクチンが日本ではまだ開発されていませんので、 完全に予防することはできません。出来る限り早期に発見して、獣医師の指示を受けまし ょう。 寄生虫病(日本獣医師会) 原因: 犬やねこの消化器の寄生虫には回虫、鈎虫、条虫、コクシジウムなどがあり ます。 症状: 食欲のむら、下痢、ときには嘔吐なども見られ、やせて毛づやも悪くなりま す。栄養や発育を妨げるばかりでなく、伝染病に対する抵抗力を著しく弱めます。 予防と駆虫: 多くの寄生虫卵は糞便中に排泄されるので、環境を清潔にすることは とくに大切です。また寄生虫の種類によって薬の種類や投薬方法も異なりますので、定期 的に糞便を検査してから駆虫を行うのが良いでしょう。 皮膚病(日本獣医師会) 原因: 犬やねこの身体を不潔にしておいたために起る湿疹や薬物によるかぶれ、あ るいはノミ、真菌、抗癬虫、アカルスなど、皮膚病はいろいろな原因で起ります。 症状: 湿疹を生じたり、脱毛したり、ときには皮膚の色がかわったり、出血したり、 さまざまの症状を示します。 予防と治療: 一般に皮膚病は症状が軽いうちに処置すれば恐れることはありません が、ひろがった場合には大変治りにくく、長期間、根気良く治療を続けなければなりませ ん。また平素、適宜に入浴させて清潔にし、ノミなどが発生するような悪い環境をつくら ないようにこころがけてください。真菌による脱毛があるとヒトにも感染するので、獣医 師に診てもらう必要があります。 病気のみつけ方とみわけ方(日本獣医師会) 栄養障害など様々な原因による多くの病気があります。口のきけない動物のことです。 どうも様子がおかしいと感じたとき、"どこにどのような異常があるか"をよく観察し、病気 であるかどうかや獣医師に診てもらうかどうかの最初の判断をするのは、飼い主であるあ なたです。 1.健康のバロメーター 常日頃、元気と食欲と便の状態によく注意を払っていることが、病気を早くみつける 秘けつともいえましょう。ほとんどの病気がこのうちのどれか、あるいは全部に影響をも たらすかです。さらに体温を肛門内で計ってみることをおすすめします。高すぎ、低すぎ いずれも注意信号ですので、あなたの愛犬・愛猫の健康なときの体温(平熱)を知ってお くことが大切です。 2.症状によって 1) I~2 日様子をよく観察し、症状の変化に気をつけるもの。 2) 獣医師に相談し、その指示に従った方がよいもの。 3) 早めに診察、検査を受ける必要のあるもの。 4) 一刻も早く治療しないといのちにかかわるもの。 これらの判断が大切ですが、その目安として主な症状を表にまとめてあります。各項 はそれぞれ独立したものではなく、相互に関連があり、また変動します。症状が多くの項 目にまたがり、記載の右側に進むほど注意が必要です。表の一項目だけにとらわれず、全 体的に理解し、判断の材料にしてください。
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