所得ではない「外国所得」 - ストックオプション課税問題の真実

ストックオプション課税問題で隠された根源的問題(所得ではない「外国所得」)
1 国内・国外・外国の違い
日本の税法(法令も含む)の条文には、基本的で大事な言葉が納税者に十分に説明されていない。
その言葉の一例は「国内」「国外」「外国」である。それぞれに関連づけた定義がなく、特に「国外」と
「外国」はその使われ方が違い「外国」の定義がない。下図はその関連説明である。
日本での課税範囲
外国での課税
日本の租税法の効力が及ばない
日本の租税法の効力が及ぶ
外国企業の特定株主などの立
場で得た外国所得
居住者
国内源泉所得
国外(源泉)所得となる外国所得
所得税
外国所得(日本法で所得ではない)
国外(源泉)所得
所得税
外国所得税 国外(源泉)所得となる外国所得が外国の課税に影響を及ぼす
ことはない(外国から見て日本の課税は無関係)
外国税額控除(上記所得税から控除)
注): 外国所得とは便宜的表現であり、日本の税法に定めは無く、所得ではない。
国内とは: 日本の税法(他の法律も同様)の効力が及ぶ地域 → 税法に定義あり
国外とは: 日本の税法(他の法律も同様)の効力が及ばない地域 → 税法に定義あり
外国とは: 日本以外のそれぞれの国。独自の税法があり、日本の税法は及ばない。(それぞれの独立国
には国家主権が存在することが理由) → 税法に定義なし
上の説明図に現れる、「所得税」「国外(源泉)所得」「外国所得税」にすべて関連するのが、二重課税
の防止策として所得税法に定められた95条(外国税額控除)である。この条文に関係する法令を追跡する
と、国内源泉所得と国外(源泉)所得(以下、「国外所得」とする)が日本の税法の課税所得であり、外国
所得そのものに課税する法律の定めは無いことが判る。外国所得税とはその外国で生じた所得に(日本の所
得税法や地方税法に相当する外国の法律で)課される税金で、日本の課税と無関係である。
まず所得税法施行令に「国外所得総額」という言葉が突如現れる。これは外国所得を得た場合、日本でも
課税する対象を税法に定め国外所得としており、それらの総額をいう。所得税法95条は、外国所得税を納
付することになる場合、限度額を設けて控除するための法律である。この限度額は国外所得がある場合に適
用されるのであり、外国所得そのものは日本の税法で所得と見なさない。控除の対象は外国所得税である。
外国税額控除は、所得総額(「国内源泉所得」+「国外所得」)から計算した所得税額を算出した後で、そ
の所得税額から外国税額を控除し最終的な申告税額を求めるためにある。
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具体的な外国税額控除限度額の計算式は
その年分の国外所得総額(国外所得以外の外国所得は含まない)
その年分の所得税の額 X ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー である。
(外国所得税額は含まない) その年分の所得総額(国外所得以外の外国所得は含まない)
この計算式から、外国所得税を納付しても国外所得が無ければ、分子が0となり、限度額が0円となるか
ら控除が生じないことは明らかだ。混乱するが外国所得と国外所得の違いを理解する必要がある。
外国所得そのものに対し日本の税法に定めが無いが、国外所得に税金を課すことは法令に定めがあるの
だ。もとをただせば国外所得は外国所得であるから、外国で課税され、日本でも国外所得として課税される
と二重に課税される。この二重課税の防止策が外国税額控除であり、その限度額が前式で導かれる。
この国外所得が何かを知ることは重要である。国外所得は色々あるが、株式に関するもので国外所得とさ
れるのは、租税特別措置法に定められている外国法人(特定外国法人)に係る所得がある。このような外国
法人に係る課税対象者は、その外国法人の株式或いは出資(直接或いは間接的)比率などが5%(或いは5
0%、80%)を超える人または100%のオーナーなどである。(特定株主という。)
株式保有比率或いは出資比率が5%に満たない条件(特定株主ではない)で得た外国所得は、国外所得と
ならない外国所得であり、日本の法律に国外所得とする定めが無く、税法上、所得ではない。
2 (特定株主関係がない)外国法人から付与されたストックオプションの場合
外資系の日本法人などで起きたストックオプション課税問題に巻き込まれた人の中に、付与外国法人(外
国で設立・商業登記された)との関係において、株式或いは出資比率が特定株主と認定される人はいるだろ
うか。皆無とは言い切れないが、存在するとしても極めて稀であろう。
結論を言えば、外国法人から付与されたストックオプションを行使して購入した株式を外国の証券市場で
譲渡し譲渡益を手にしても、日本の税法上課税できない外国所得(所得として定めが無い)を得るのであ
り、国外所得も国内源泉所得も得られない。知り得る範囲では、ストックオプション付与もその行使もまた
行使により取得した外国株式の譲渡取引も外国での取引であり、その受け渡しや譲渡益の支払は外国で行わ
れる。
これはストックオプション課税問題で、重大な意味を持つことになる。そもそも国外所得が生じない外国
取引で外国支払の株式に係る所得に対して、日本では課税することができない事が判明する。
まとめてみると、ストックオプション課税問題で、以下の根源的矛盾点が浮き彫りとなる。
① 国外所得以外の外国所得に対して法律の定めが無く、日本では課税できない。
② 外国法人が付与するストックオプションの行使は、株式の購入である。それは資本取引であり、損金も
益金も存在できず所得の源泉が存在しない。
③ ストックオプション行使により購入した株式が値上がりし利益が出たとき、殆どの場合、外国の証券市
場で取引された外国で譲渡益の支払が生じる。その結果、譲渡益が出ても特定株主に当たらなければ、
日本の税法に定めが無く①の外国所得に相当し日本では課税できない。(注*)
④ 勿論、ストックオプション被付与者が給与所得を得ることはあり得ないが、給与所得を得たと想定して
も、給与受給者ではなく給与を支払う源泉徴収義務者が法定の納税者である。給与受給者が直接納税す
ると、源泉徴収義務者が粉飾を行い、脱税したと認定される。
(注*) 日本の株式等が外国証券市場で取引される場合、又は外国証券が日本の証券市場で取引される場合は法律
に定めがあり(日本の税法上、株式等になる)、①と同じではない。これらを外国証券と表現するので、
混同しないように注意を要する。
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ストックオプション行使により外資系企業社員が給与所得(所得税法28条1項に定められた)を得たと
して追徴されたストックオプション課税問題は、課税の根拠となる法律の定めが何処にも無いのだ。税務当
局の公務員は完全に租税法律主義を無視しており、無法状態にあることを露呈した。
3 関係税法の検証結果
説明のために使用した「外国所得」という言葉に対して、日本の税法に「所得」とする定めが無く、日本
では「外国所得」は所得ではない。
下表は、上記事実を実証するために、関係各租税法令中に現れる言葉の調査・検索を行った結果である。
外国税額控除の定めに関する「外国所得税」と「外国所得税額」は存在するが、「外国所得」は存在せず定
めが無いことが判る。
各法令中に現れる言葉とその数
外国所得税
外国所得税額
外国所得
所得税法
20
5
0
所得税法施行令
59
20
0
租税特別措置法
10
0
0
租税特別措置法施行令
15
0
0
法人税法
0
0
0
法人税法施行令
0
0
0
所得税法(課税所得の範囲)
第七条 所得税は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。
一 非永住者以外の居住者 すべての所得
所得税法第7条1項1号の条文は誤解を招くが、税法上所得ではない「外国所得」に適用することができな
い。立法により法律で定めない限り、課税もできないし、納税の義務も生じない。これが租税法律主義であ
る。
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。(憲法第30条)
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