症状と病変からわかるオーストリッチの病気

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南アフリカを中心に発展した現代オーストリッチ
産業は,1993 年の南アフリカからのダチョウ種
鳥・種卵輸出解禁にともなって急速に世界各国
に拡がりました。我が国においては 1991 年に初
めてダチョウをイスラエルから沖縄に導入して以
来,飼育羽数は増加を続けています(日本で飼
育されている羊の頭数よりも多いとの話もありま
す)。現在では日本全国でオーストリッチが飼育
されており,飼育農家の皆様は,飼養管理や衛
生管理・病気対策などの面で様々な困難に直
面しながらも,着実に実績を上げてこられまし
た。
そ の 間 , 日 本 オ ー ス ト リ ッ チ 協 議 会 ( JOC )
( 1997) , 日 本 オ ー ス ト リ ッ チ事 業 協 同 組 合
(JOIN)(2001),さらに日本ダチョウ・走鳥類研
究会(2001)が設立されました。これらは,皆さ
んとともに我が国のオーストリッチ産業を発展さ
せることを目的として設立されたものであり,同
時に色々な面で皆さんをバックアップ出来るよう,
組織整備がなされたわけです。2001年にはダ
チョウ専用処理場も開設されています。
我がオーストリッチ産業は,本格的な飼育を開
始してからまだ 10 数年しかたっていないわけで,
伝統ある養鶏産業と比べると,まだ子供のような
ものかもしれません。色々な病気があるにもかか
わらず,深くはわかっていない点が多くあります。
オーストリッチも同じ鳥類ですから,ニワトリの病
気との共通性があり,この点においては鶏病の
知識がたいへん参考になります。一方,同じ病
気でも発症の様子がニワトリとは異なるものも存
在します。悪名高いニューカッスル病やトリインフ
ルエンザにしてからがそうです。オーストリッチの
ニューカッスル病はニワトリのそれと比較して非
常に穏やかで,親鳥は症状を出さないのが普通
です(ただし,幼鳥は腸管などの激しい病気で死
にます)。また,インフルエンザで死んだオースト
リッチから分離したウイルスは,ニワトリに病気を
起こさないことが多く,反対に,高病原性のトリイ
ンフルエンザウイルスがオーストリッチを発症させ
ない事実も知られています。
このようなことがありますので,これからは,オー
ストリッチの病気と養鶏産業とのかかわりもたい
へん重要になってくると思われます。現時点で
は高病原性トリインフルエンザ対策が最重要課
題であり,オーストリッチは「家畜伝染病予防法」
で,輸入に際し検疫を受けなければならない動
物の 1 つとなりました(同法施行規則,2005)。
従って,オーストリッチの感染病については,法
律に則って対応する必要が生じました。ただしこ
れは,感染病の検査,予防措置など防疫体制
を確立し,オーストリッチ産業を発展させるため
には必要欠くべからざるものです。
今年度から実施されている個体識別管理・登録
制度は,防疫対応のため個体の管理を適切に
行うことで,オーストリッチ生産物の安全性と信
頼性を確保することを目的としています。
皆さんが日々経験されているとおり,特に,飼育
羽数が多くなり,過密飼育の傾向が続きますと,
それまで散発していた病気が集団発生するよう
になり,また,かくれていた病気が発生するように
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なります。動物を飼育している以上,病気との付
き合いは避けて通れません。しかし,いったん病
気が発生した場合,それがどのような病気であ
るかの知識を持っていると,的確な対応をとるこ
とが出来,病気の拡大や,地域・社会へのご迷
惑も最小限にとどめることが出来ます。
異常が認められます。これらの病気の原因は
様々で,ウイルスや細菌,カビなどによる感染症,
寄生虫病が知られていますし,栄養疾患もそれ
ぞれ特有の症状が現れます。また,ガンは生体
のどの部分にも発生します。これら千差万別とも
いえる原因を,出来るだけ症状や病変ごとにまと
めて,診断を進めていく上での一助にしたいとい
うのが,本企画の目的です。
病気は,それぞれ症状や病変に特徴があります。
ですからこの新連載は,症状や病変の出来方ご
とに病気をまとめて説明することによって,皆さ
んが病気を観察する上で参考になるようにした
いと思い,企画しました。私たち専門家が病気を
調べる場合,まず次のような分野ごとに分けて
物事を考え,調査した結果をもとに最終的に総
合判断を下します。呼吸器病は鼻や気管支,
肺に起こる病気です。循環器の病気は,心臓や
血管・血液に異常が現れます。神経系疾患には,
中枢神経系が侵される場合と,末梢神経に異
常が起きる場合があり,いずれも運動障害が観
察されます。消化器の病気は,もちろん胃や腸
管,肝臓,膵臓などの病気です。解剖してみな
ければわからない部分もありますが,下痢や血
便などが観察される場合,腸管の病変が疑わ
れます。リンパ球の機能が低下する免疫系の病
気もあります。筋肉・骨格の病気は運動機能に
影響を及ぼしますし,生殖器の病気により異常
卵を産卵したり,産卵率低下や産卵停止が起こ
ります。もちろん皮膚病も存在し,体表・外貌の
ただ,気をつけていただきたいことは,万一の病
気の発生に際し,皆さんが今回のような連載や
これまで出版された優れた著書を見て,自分の
判断でのみ処置をしないということです。特に微
生物による感染症は伝染性を持っていますから,
獣医師による診断と迅速な対応が必須です。法
律にも定められているように,伝染性の病気を
診察した獣医師(獣医師による診断を受けてい
ない場合は飼育者)は,ただちに都道府県知事
に届け出なければなりません。このような手続き
をふむことによって的確な対応をとることが出来,
病気の重大性に応じて段階はありますが,地域
の獣医師,家畜保健衛生所や動物衛生研究所,
また大学との協力体制が作られ,これが日本の
オーストリッチ産業が守られることにつながりま
す。
次号からいよいよ本論の連載開始となります
ので,楽しみにしてください。
Unusual Appetite:
Bad Case of Indigestion
One ostrich living in London Zoo swallowed a
spool of film, 3 gloves, a comb, a bicycle valve, a
pencil, some rope, several coins,
bits of a gold necklace, a collar stud,
a handkerchief and a clock.
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