BMA使用に関する 顎骨壊死について 島根大学医学部歯科口腔外科 辰巳博人 BMAとは Bone Modifying Agents 骨代謝調整剤 ビスフォスフォネート製剤(BP) デノスマブ(抗RANKL抗体) BP関連顎骨壊死 ↓ BMA関連顎骨壊死 BMAの意義 骨粗鬆症における骨吸収抑制により 骨形成を促し,骨密度を増やす. 固形がんの骨転移や,多発性骨髄腫に おける骨関連事象の予防,軽減. 高カルシウム血症に対する治療. 骨粗鬆症のメカニズム がん細胞骨転移・浸潤のメカニズム BPの骨吸収抑制のメカニズム 破骨細胞 BP アポトーシス デノスマブの骨吸収抑制のメカニズム BMAの適応 病名 薬剤 骨粗鬆症 ボナロン、リカルボンなど(BP) プラリア(デノスマブ) 骨転移・骨関連事象 ゾメタ(BP) ランマーク(デノスマブ) 高Ca血症 ゾメタ(BP) 骨粗鬆症患者 = 推定1300万人 処方実数 人 6000 内服薬の年次推移 5000 4000 3000 2000 1000 0 年 島根大学医学部付属病院 BP内服薬処方箋数 160000 140000 内服週7回 120000 内服週一回 100000 80000 60000 40000 20000 0 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 島根大学医学部付属病院 BP注射薬処方箋数 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 島根大学医学部付属病院 口腔がん検診時に調査 対象 島根県隠岐の島町ならびに飯南町にて施行した 口腔がん検診受験者にアンケート調査 (2011年) 有効回答が得られた受検者 1,148名 調査項目 経口BP製剤の投与状況・顎骨壊死の発症数 BP製剤の使用状況と原因疾患 1,148名 投与 (11.4%) その他自己免疫疾患 (4.1%) SLE (2.2%) その他 (1.7%) リウマチ(19.8%) 非投与 (88.6%) 骨粗鬆症 (80.2%) 原因疾患 BP投与率 顎骨壊死発症:なし BP関連顎骨壊死 2003年,Marxらによって提唱 Marx RE. Pamidronate (Aredia) and zoledronate (Zometa) induced avascular necrosis of the jaws: a growing epidemic. J Oral Maxillofac Surg. 2003;61:1115-7. BRONJの診断基準 米国口腔外科学会 1 ビスフォスフォネート(BP)系薬剤による治療を行っているか,また過去 行っていた. 2 顎顔面領域に露出壊死骨が認められ,8週間以上持続している. 3 顎骨の放射線治療の既往が無い. 欧州骨粗鬆症WG 1 下顎,上顎あるいはこの両方に見られる骨露出. 2 8週間以上持続. 3 顎骨への放射線治療の既往や転移のないもの. 顎骨壊死検討委員会 1 現在あるいは過去にBP製剤による治療歴がある. 2 顎骨への放射線照射歴がない. 3 口腔・顎・顔面領域に骨露出や骨壊死が8週間以上持続している. BRONJの症例数 2003~2009年 2,408例 内、88%が注射薬による Filleul O, Crompot E, Saussez S : Bisphosphonate-induced osteonecrosis of the jaw: a review of 2,400 patient cases. J Cancer Res Clin Oncol. 136 (8) : 1117-1124, 2010. BRONJの発生頻度 注射薬 米国口腔外科学会(2007) 0.8-12% 豪州口腔外科学会(2007) 0.88-1.15% 顎骨壊死検討委員会(2010) 1-2% 経口薬 豪州口腔外科学会(2007) 0.01-0.04% (抜歯施行の場合 0.09-0.34%) 欧州骨粗鬆症WG 1件/10万人・年 顎骨壊死検討委員会(2010) 0.01-0.02% BRONJの発生機序 1. 骨代謝回転抑制作用 2. 血管新生抑制作用 顎骨の特殊性 •歯は上皮を破って植立のため,感染源は上皮と歯の間隙から 顎骨に直接到達. •口腔粘膜は薄く,咀嚼による粘膜傷害を受けやすい. •口腔内常在菌は800種類以上、1011~1012個/cm3. •歯性感染症(う蝕・歯髄炎,歯周病)を介して顎骨に炎症が波及. •抜歯などの侵襲的歯科治療により,顎骨は直接口腔内に露出. BRONJのリスクファクター 1. BP製剤の種類によるファクター 窒素含有BP>窒素非含有BP 注射用製剤>経口製剤 2. 局所的ファクター 骨への侵襲的歯科治療(抜歯,インプラント埋入,歯周外科など) 口腔衛生状態の不良 歯周病や歯周膿瘍などの炎症疾患の既往 3. 全身的ファクター がん,腎透析,ヘモグロビン低値,糖尿病、肥満,骨パジェット病 4. 先天的ファクター MMP-2遺伝子,チトクロームP450-2C遺伝子異常 5. その他のファクター 6. 薬物(ステロイド,シクロフォスファミド,エリスロポエチン), 喫煙,飲酒 病期と治療法 ステージング 治療法 ステージ 0 骨露出/骨壊死(−) オトガイ部の知覚異常 抗菌性洗口剤の使用 口腔内瘻孔,深い歯周ポケッ 瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄 ト 局所的な抗菌薬の塗布・注入 X線:軽度の骨溶解(+) ステージ 1 骨露出/骨壊死(+),無症状 X線:骨溶解(+) 抗菌性洗口剤の使用 瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄 局所的な抗菌薬の塗布・注入 骨露出/骨壊死(+) 疼痛,膿排出(+) X線:骨溶解(+) 病巣の細菌培養検査,抗菌薬感受性テス ト 抗菌性洗口剤と抗菌薬の併用 難治例:併用抗菌薬療法,長期抗菌薬療 法連続静注抗菌薬療法 ステージ2に加え, 皮膚瘻孔,遊離腐骨(+) X線:進展性骨溶解(+) 正常骨を露出させない壊死骨掻爬 骨露出/壊死骨内の歯の抜歯 栄養補助剤や点滴による栄養維持 壊死骨が広範囲に及ぶ場合:辺縁切除や 区域切除 ステージ 2 ステージ 3 BP製剤投与中の患者の休薬について 注射剤 注射剤 経口剤 経口剤 投与3年未満 投与3年未満 かつ かつ リスクファクター リスクファクター (−) (−) 投与3年以上 投与3年以上 リスクファクター リスクファクター (+) (+) 骨折のリスクが高くない 骨折のリスクが高くない 原則として休薬しない 休薬が望ましい 休薬が望ましい BRONJに関する取り扱い指針 (島根大学医学部附属病院2010年改訂版) 1. BP製剤使用開始前の症例 使用開始前に口腔外科あるいは歯科医院を受診し,顎骨壊死の可能性説明した上で以下の治療を終了させる. う蝕治療,歯周治療(歯周外科),要抜去歯の処置施行,義歯の調整,口腔ケア 2. ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ BRONJを発症していないBP製剤経口投与症例 服用にかかわらず顎骨壊死の可能性について説明を行う. 服用歴が3年以内であれば,口腔外科処置は可能. 3年以上の服用歴があれば,同意を得られた症例のみ休薬3ヶ月後に口腔外科処置を施行する. 口腔外科処置を行う際は主科主治医と相談のうえ,3ヶ月の休薬を行う. 口腔外科処置後,最低2週間の経過観察を行い抜歯窩の上皮下を確認する. 内服再開時期の決定については,1)主科主治医と相談のうえ決定する.2)当科主治医の医学的所見が優先される場合は, 当科主治医が決定し主科主治医に提案する. インプラント治療は十分な説明と同意のうえで施行. 歯肉縁上歯石除去,歯面清掃などの口腔ケアを励行する. 3. ・ ・ ・ BRONJを発症していないBP製剤静脈投与症例 4. ・ BRONJ発症症例 口腔外科処置は原則禁忌(抜歯を避け歯冠削合や歯内治療などを行い,歯牙を可能な限り保存する). 止むを得ず口腔外科処置な場合は,患者の同意を得て行う. 顎骨壊死の可能性について説明のうえ,歯肉縁上歯石除去,紙面清掃などの口腔ケアを励行する. 口腔外科処置の適応は基本的にないが*,外歯瘻形成・病的骨折などによりQOLが低下している場合は同意を得てから行 う. ・ 腐骨が分離していれば腐骨除去術を行う. ・ 腐骨上の歯は抜歯可能. ・ 歯肉縁上の歯石除去,歯面清掃などの口腔ケアを励行する. *必要に応じて外科処置を適応する. 1. BP製剤使用開始前の症例 関連5施設* 303/1117例 5 101 抜歯 179 齲蝕処置 18 口腔ケア その他 *島根大学医学部付属病院、浜田医療センター、益田赤十字病院、隠岐病院、五箇・都万診療所 2008年12月~20014年10月 2. BRONJを発症していないBP製剤経口投与症例 関連5施設* 694/1117例 2 80 122 抜歯 377 113 齲蝕処置 口腔ケア その他 インプラント *島根大学医学部付属病院、浜田医療センター、益田赤十字病院、隠岐病院、五箇・都万診療所 2008年12月~20014年10月 3. BRONJを発症していないBP製剤静脈投与症例 関連5施設* 6 44/1117例 3 抜歯 口腔ケア その他 35 *島根大学医学部付属病院、浜田医療センター、益田赤十字病院、隠岐病院、五箇・都万診療所 2008年12月~20014年10月 4. BRONJ発症症例 関連5施設* 6 76/1117例 3 34 14 口腔ケア 消炎・洗浄 腐骨除去 18 顎骨切除 抜歯 *島根大学医学部付属病院、浜田医療センター、益田赤十字病院、隠岐病院、五箇・都万診療所 2008年12月~20014年10月 図2. 30 男性 BRONJ発症年代 女性 25 20 14 15 19 16 10 5 0 10 3 0 50代 5 60代 5 70代 80代 3 0 90歳~ 図3.原疾患 9 25 悪性腫瘍骨転移 27 42 多発性骨髄腫 15 骨粗鬆症 ステロイド性骨粗鬆症 図4.BP製剤の種類 11 2 29 34 アレンドロン酸 リセドロン酸 ゾレンドロン酸 ミノドロン酸 いかにBRONJの発症を防ぐか ・院内関係各科にBP投与前への歯科受診の依頼 ・投与期間3年未満であっても3ヵ月の休薬 骨代謝マーカー N-terminal telopeptide (NTX) 平均値 男性:9.5-17.7 , 女性:7.5-6.5 (閉経後10.7-24.0) 対象 関連施設・島根県内開業歯科医院にアンケートを依頼 (2011年1月〜2013年3月) 有効回答が得られた70施設の抜歯症例 23,630例 調査項目 経口BP製剤投与の有無・休薬の有無・顎骨壊死等の発症数 経口BP投与と顎骨壊死 相対危険度: 242.1 (>1) *χ2 test : P<0.01 経口BP休薬と顎骨壊死 χ2 test : P<0.05 Dept. Oral & Maxillofac. Surg., Shimane Univ. Faculty of Medicine 当科・関連施設における 経口BP製剤投与患者さんの抜歯症例377例 (2008年12月1日〜2014年10月31日) 経口BP製剤休薬 364例 ステロイド併用 90例(本) 平均休薬期間:118.1日 内服再開が確認できた53例 68.1日 経口BP製剤継続 13例 ステロイド非併用 272例(本) 平均休薬期間:133.7日 内服再開が確認できた149例 49.1日 某内科から 某口腔外科へのお手紙 これまでに、経口BPと顎骨壊死との関連を 確定した報告はひとつもない! 日本口腔外科学会が関与した 欠陥論文を基にパニックが起こった! 3年以上投薬した例でも, 抜歯延期や休薬すべきではない! 口腔ケアのBRONJ予防効果 動物モデルによるBRONJ発症 動物モデルは困難 ゾレドロン酸水和物とA.actinomycetemcomitansより抽出したLPSを投与により作成 Sakaguchi O, Kokuryo S, Tsurushima H, Tanaka J, Habu M, Uehara M, Nishihara T, Tominaga K. Lipopolysaccharide aggravates bisphosphonate-induced osteonecrosis in rats. Int J Oral Maxillofac Surg. 2014 Nov 22. pii: S0901-5027(14)00311-7. doi: 10.1016/j.ijom.2014.08.011. まとめ 患者さんの状況に合わせた 歯科のゴールを設定する 発症したら 投与前の歯科受診 投与中の定期的歯科受診 病変拡大の阻止 新規病変の予防 口腔内の疼痛緩和
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