63 都市科学研究第 1号 却0 7 大規模自然災害時における衛生水準の低下と二次災害としての 感染症発生について 一特に飲料水の安全性確保維持の重要性についてー TheOccurrencesofInfectiousDiseasesFollowingNaturalGreatDisasterinRelationwith DrasticDecreaseofPublicHealthLevel:TheImportancetoKeepSafetyofDrinkingWater 菅 又 昌 実1) ・山折潤子1)・矢野一好2) ・ 瀬 子 義 幸3) ・長谷川達也3) 3 3 l MasamiSugamata , ) 1JunkoYamaori , ) 1KazuyoshiYano2), YoshiyukiSeko , TatsuyaHasegawa ) 要 約 大規模自然災害が発生すると二次災害としての感染症の流行発生の危険性が高まる。それは発災前の衛生水準 が一挙に壊滅的な低下を起こすことによる。感染症流行の危険性の主因のーっとして飲料水の衛生水準低下が挙 げられる。本稿では、阪神淡路大震災、スマトラ地震大津波ハリケーンカトリーナ等で見られた衛生水準の低 下による感染症発生の実態を紹介し、加えて東京の一地域における防災井戸の水、及びインドネシアのジャワ島 山岳地域の生活用水についての微生物測定調査の結果から大規模自然災害時における飲料水の安全性確保維持の 重要性について考察を試みた。 キーワード:衛生水準、伝染病、飲料水、スマ卜ラ地震大津波、ハリケーンカトリーナ、糞便汚染、微量元素 A b s t r a c t h er i s koft h eo c c u r r e n c eofi n f e c t i o u sd i s e a s e s出 ac o l l a t e r a ldamagew i l l F o l l o w i n gn a t u r a lg r e a td i s a s t e r s,t becomeh i g h .百l ed r a s t i cd e c r e a s eofp u b l i chea 1 t hl e v e li sr e g a r d e dt obet h emajorr i s kf a c t o r .E s p e c i a l l yoneoft h e m勾o ronew i l lbet h ed e c r e a s eofs a n i t a r yc o n d i t i o nofd r i n k i n gw a t e r .I nt h i sr e p o r t ,weshowt h ea c t u a lc o n d i t i o n s ぱ Oft 伽 h 恥eo c c u r r e n c e sofi n f e c t i o u s必 di s 問e 邸E 邸ss 叩u c ぬ h邸 紙 , Ha 加n s 凶 h l 首 危 l 由 n 凶 W司 傾iearthquake,Suma 回 e a r t h q u a k e / t s u n a m i,and na d d i t i o n , weshowt h er e s u 1 t sofb a c t e r i a ls u r v e yofd r i n k i n gw a t e rt a k e n企omw e l l s h u r r i c a n eK a t r i n aands oo n .I f o remergencyu s ei nI t a b a s h iward , Tokyoandt h es a m p l e sofmountainousl a n d sofWesteme n d p a r tofJ a v aI s l a n d , I n d o n e s i a .S y n t h e t i c a l l yw i t ht h o s eabovei n f o f f i l a t i o n , t h ei m p o r t a n c eoft h es a f e t yofd r i n k i n gw a t e rt ominimizeo r p r e v e n t i o nofi n f e c t i o u sd i s e a s e sw i l lbed i s c u s s e d . KeyWords:P u b l i cH e a l t hL e v e J,J n f e c t i o u sDiseases,D r i n k i n gWater ,SumatraEarthquake トt sunami,Hu川cane F e c a lC o n t a m i n a t i o n, T I 悶a Elements K a t r i n a, 1)首都大学東京大学院人間健康科学研究科, G r a d u a t eS c h o o l so f H e a l t hS c i e n c e,T o k y oM e t r o p o l i t a nU n i v e r s i t y D e p a r t m e n to f M i c r o b i o l o g yE p i d e m i o l o g i c a lI n f o r m a t i o nO f f i c e , T o k y oM e t r o p o l i t a n 2 ) 東京都健康安全研究センター微生物部疫学情報室, I n s t i t u t eo fP u b l i cH e a l t h e p a r t m e n to f E n v i r o n m e n t a lB i o c h e m i s t r y , Y a m a n a s h iI n s t i t u t eo f E n v i r o n m e n t a lS c i e n c e s 3 ) 山梨県環境科学研究所環境生化学研究部, D 都 市 科 学 研 究 第 1号 6 4 2007 対策のヤマ場として被災地向けの医薬品キ飲料水の 1.はじめに 供給を迅速に行う必要性を強調した。 1 2 月3 0日:日本蜘守医療チーム持l 屑 大規模自然災害が発生すると二次災害としての感染症 流行の危険性が報道等を通じて指摘されることが多し、 2 0 0 5 年 1月 2日:被災地で感染症広がる WHO が警鐘 流行が予想される感染症は、飲み水を介する水系感梁症、 津波の被災地スリランカ、インドなどで下痢など感 食事等を介する経口感染症、それに大規模避難場所にお 染症例の報告が増えていると述べ、感染症の進行が ける呼吸器系感染症である。それに津波や台風の場合等 始まっていることを強調した。 は、創傷感染症が加わる。こうした感謀嘘流行が危慎さ 1月 3日:1 8 0万 人 に 食 糧 援 助 必 要 国 連 子 供 の 感 染 れる理由は、発災を境に災害前に維持されていた衛生水 準が一挙に壊滅的に低下するためである。 本稿では、大規模自然災害時の衛生水準低下一主に飲 症警告 汚水などを原因とする感染症予防のため、安全な飲 み水と衛生設備が食料以上に重要と強調した。 料水の衛当:7k準低下と感染症発生との関連性について述 1月 3日:日本防疫、輸送が支援の中心 べたし、。また、東京都板橋区の防災井戸、およびインド 1月 3日:日本医療チームが本格活動地震被害のア ネシアにおける生活用水の飲料水としての水質について 調査した結果も交えて考察を加えたい。 チェ 清潔な水が不足していることから今後、感染症の拡 大が懸念されるほか、建物侵嬢などで土ぼこりがひ 2 .スマトラ地震大津波と感染症 どく、呼吸器系の病気多発が予想されるという。 1月 3日:被災地“立ち入り禁止"感染症加も、タイ政 2 0 0 4 年1 2 月にインドネシアで発生した本災害を例にと 府 り、発災後の衛跡靴下と感染症発生の推移について、 不明者捜索などで訪れている外国人に対し、ワクチ 報道に現れた感染症に関連する情報(共同通信スマトラ ン投与など感染症予防措置を行っているものをのぞ 津波)句通ら見てみる。 き、被災地への訪問を控えるよう命じた。 以下は報道の見出しと記事の抜粋である。 1月 4日: r 遺体と対面J困難に感染防止で立ち入り 禁止 1 2 月2 6日:ンドネシアのスマトラ沖でマグニチュード 8 .9 の巨大地震が発生 1 2 月2 7日:略奪、水不足、疫病流行も f すべてを失っ たJ住民呆然 遺体に欄金すると細菌によるガス壊痘やコレラ、腸 チフスへの感染の危険がある。 1月 5日:水不足、感染症懸念も 被災地で懸命の支援 被災した 1 0カ国以上の国では、清潔な水の不足や蚊 飲料水もなく、暑さの中で疾病の流行も懸念され始 の発生などで感染症の拡大への懸念が強まってし、る。 めた。 多くの避難所で清潔な水の確保が困難で下痢や肝炎 1 2 月2 8日:国連、感染症まん延を警告被害最大の数十 億ドノレ の発生が懸念されるほか、水溜りに発生する蚊がマ ラリアやデング熱を広げる恐れがある。避難所では 下水や汚れた水による飲料水汚染などの衛生問題が なるべく調理してから食事を支給するなど衛生状態 最大の懸念として感染症のまん延する恐れがあると に配慮。政府は住民への予防接種々嘘素剤の散布に 警告した。被災地ではチフス、肝炎などの発生が懸 よる消毒などを開始、二次的な被害拡大の防止に懸 念されているという。 命 。 1 2 月2 9日:感染症で死者倍増もと警告犠牲者 6万 8千 人 1月 1 4日:児童に重症のはしか発生国連、援助の力点 は防疫 津波による死者数に匹敵する病死者が出る可能性が パンダアチェで少なくとも児童1 0 人が重症のはしか あると警告した。まん延の恐れがある感梨蛭は下痢、 にかかる。援助活動は防疫対策など第二段階に移っ マラリア、デング熱など。今後 2、3週間が感染症 たとの見方を示した。 菅又・山折・矢野・瀬子・長谷川:大規模自然災害時における衛生水準の低下と二次災害としての感染症発生について 6日:アチェで破傷風患者6 7人 国 境 な き 医 師 団 警 1月 1 とじ 65 摘している。水を飲用とするための煮沸消毒が出来ない 場合に対して塩素系薬品による消毒等の支援が 8日目よ ロ 破傷風患者が急速に増加する見通した、と明らかにし た 。 り本格化している。 清潔な水が不足する事態は更に続き、その中で避難施 1月 1 9日: r 消毒液足りなかったJ津波被災地支援の医 師報告 設と周囲の倒壊建物から発生する挨等による空気の汚染 により、はしかなどの呼吸器系感染症の発生も起こって 患者の数が予想をはるかに上回り、持って行った 2日目にははしかの発生や、皮膚の創傷か いる。発災後2 ガーゼや消毒夜はすぐに足りなくなった。患者の大 ら感染する破傷風の増加も見られる。 3 1日目にはコレラ 半が駒ドで傷を負っており、傷口がイ凶農している人 の集団発生が見られ、依然として清潔な飲料水の不足と、 が多かった。 遺体への接触による二次感染の発生が紺続している。こ 1月2 2日:コレラ 2 0 人初めて確認アチェ州予防対策 うした状況に対する対策として、薬物による水キ漣難施 設の消毒、水溜りの殺虫消毒、はしかワクチンの接種等 急務 0 人のコレラ患者が確認されたと報じ これまで、に約2 総針枕防疫活動が行われている。 た。アチェ州では6 0万人以上が避難生活を送ってい 防疫活動と並行して行われた医療活動では、創傷・化 るとされ、避難所で清潔な水やトイレが不足するな 目農創に対する治療や、下痢症に対する治療が行われてい ど衛生状態が悪イ ι感染症拡大が懸念されており、 自衛隊は今月末から同州で防疫活動を行う予患 2月 2日:自衛隊がワクチン接種スマトラ被災地 る。被災地に医療チームとして赴き現地で精力的に救援 活動を行った国境無き医師団2 ) とアジア医師連絡協議会 ( 品I D A ) 3 )に対する聞き取り調査等によれば、感染症が 自衛隊の緊急援助隊は被災民らにはしかワクチンを 発生すると直ちに治療や予防を行い、大きな流行に至る 接種する。 ことは無かったとし、う。 2月 5日:連日 1 0 0 人以上を診察、防疫、空輸フル回転 以上インドネシア・スマトラ地震大津波における主に 避難所暮らしが長引き、住民にはかぜや発熱など内 生活用水を中心とした衛封丈準の低下と感染症発生との 科疾患が多くなった。感染症予防の防疫活動も本格 関連性について示した。 弘 3 0 センチ近く冠水したままの道路で、白い防護 服を着た隊員がタンク車から殺虫剤をまいt : .o 3 .大規模自然災害と二次災害としての感染症流行 4月 6日:生活再建への営み、徐々に復興めどはまだ 先 再建に向けての活動が始まったが、水や食料の配布 が困難な地域が依然として残っている。 3 . 1 阪神淡路大震災 1 9 9 5 年 1月 1 7日に発生した大地震では、発災直後から 通車に支援対策が実施された。感染症対策は神戸市環境 0 万人にもおよぶ 保健研究すによれば 4)、避難所には約3 このように発災後の 4ヶ月間を通して絶えず感染症流 被災者がおり、高齢者が多いことと冬であることから、 行の危側主があり、清潔で安全な飲料水が不足すること インフルエンザの流行が予想、された。しかし、避難施設 が最も大きな問題で、あった。被災地は熱帯地域であり、 においてその場で免疫学的診断を実施、感染拘留、され 高温多湿で微生物の繁殖が容易に起こる。発災後 3日目 た場合にだけその結果に基づき避難者にワクチンの接種 には飲料水の伊場合を活塞に行う必要性が強調されている。 を行うことにより大きな流行を防ぐことが出来たと共に インドネシアでは水は湯冷ましを飲用するよう徹底した ワクチンの浪費を防ぐことも出来t : .o 結核についても迅 指導がされているが、火を使えないためにベットボトル 7日から 5月 1 8日までで約6 0 0 例 速診断を実施し、 l月 1 などの非常用飲料水の寸分な倒的 2 必要となる。っし句、 の検査で1 9 例の感染者を診断して治療を行っている。避 7日目には下痢や腸チフス、コレラなどの発生が見られ 難所用の高金食、弁当、飲料水その他についての細菌検査 るようになり、これは手に入る身近な水を消毒が不十分 は同期間中6 54 検体にのぼったがいずれからも食中毒の なまま飲用するためと考えられる。こうした事態に合わ 原因菌は検出されていない。このように震災に関連した せて 感染症の流行が起こらなかったのは、被災範囲が比較的 都 市 科 学 研 究 第 l号 66 狭く周囲からの飲料水、食糧、衣料品を始めとした支援 2007 3. 4 マルマラ地震(トルコ) が短時間で受けられたこと、冬で微生物の繁殖に適さな 1 9 9 9 年 8月 1 7日に起こったマルマラ地震で、は、上下水 い次期で、あった事などが挙げられるが、感五嘘の原町微 道の停止、簡易トイレの不足から伝湖南の発生が危倶さ 生物を特定して、治療や予防対策を実施するという活動 0 0 4 年1 2 れた。この件について実態はどうで、あったのか2 を発災翌日から実施したことが大きな理由と考えられる。 月にトルコに赴き同国保健省、及び内務省、戦略センター ただ大規模避難施設以外において感染性食中毒の発生が において保健衛生行政関係者等と現地での対策実施担当 一件発生しており、避難施設以外に居住する被災者への 者等に対面聞き取り調査を行った。同国では感染症動向 衛生指導も並行して行う必要がある。 9 9 7 年に立ち上がっ を全国レベルで把握するシステムが 1 たばかりで現在整備中である。そのために統計資料に基 づいた実態は判然としなかった。しかし、加出で対策実 3.2 十勝沖地震 2 0 0 3 年 9月26日に発生した十勝沖地震で震度 5を記録 施にあたった担当者の報告を総合すると、地震に関連し した地域(小樽、釧路、帯広)を所管する保健所に2 0 0 4 た伝染病の大きな流行は起こらなかったということで 年1 2月に出向き、地震に関連する感染症発生について医 あった。その理由として挙げられたのは被災地が比較的 療関係者との対面聞き取り調査を行った。その結果、水 に狭い範囲に限定されていたこと、また発災直後から被 系、経口、呼吸器の各感染症いずれも集団発生例は無 災地周辺の住民による清潔な水と食料の供給等の支援が かったとのことであった その理由として調査地に共通 精力的に行われたことを挙げた。 O して示されたのは、災害時に水源がし、ずれも使用できな くなる事態は起こらず、居住地の上水道が使用不能に なっても近隣の別水道で補完できたとのことで、あった O 3.5 ハリケーンカトリーヌ(米国) 2 0 0 5 年 8月2 9日にハリケーンカトリーナは上陸しノレイ 避葉断も大規模な施設ではなく、地域の集会所のような ジアナからテキサスまで多くの州に被害を及ぼした。感 小型家屋に少人数で分散して避難しており、呼吸器系感 染症についての被害は大きく、その概況が報告されてい 染症の流行も見られなかったとのことである。被災地域 る 。 における人口密度の低さ同惑染症の流行対策の実施を容 易にすると考えているとのことで、あった O 避難所における感染症について、上陸の一週間前にル イジアナからテキサス州ヒューストンに約24万人が避難 0 0 0 人がスポーツ脂支やコンペンショ した。その内約24, 3.3 中越也震 ン施設に収容された。収容者において 9月 2-12日の間 2 0 0 4 年1 0 月2 3日に発生した中越地震について感染症の で下痢や幅吐などの急性胃腸炎症状が多いことから 動向を2 0 0 5 年 1月に新潟県保健環境科学研究所に出向き CDC ( C e n e 路 島I rD i s e a s eC o n t r o l)と H紅白群保健所が 対面聞き取り調査を行った。発災後冬にむかつて避難所 調査を行った。受診した患者約6, 5 0 0人の内、 1 , 1 6 9人 におけるインフルエンザの流行が危慎されたが震災に関 (18%)が急性胃腸炎の症状を呈しており、その約 75% 連した流行は観察されなかった。水系、経口感染症につ が1 8 歳以上で、あった。この間の受診率は成人で14%、小 いても流行は見られなかっ九むしろ余震を恐れて屋外 児で28%であり、小児の下痢が多い。検査した4 4 例の便 の自家用車内で睡眠をとることで、起こった住居の衛生北 検体の2 2 例からノロウイルスが検出された。対策として 準低下による深部静脈血栓症(ロングフライト症候群) は治療は輸液を、二次感占起の予防としては、 48時間の隔 が二次災害として多く見られた。 離、除菌用のゲノレ状アルコールの配布を行ってし、る。避 新潟では冬季に下痢症が流行することが古くから知ら 難者が立ち退く 9月下旬には患者発生は収束した九 れており、現在はその病原体は主にカキ等の二枚貝に由 カトリーナはルイジアナ州ニューオーリンズに壊滅的 来するノロウイルスであることが判明している。このウ な被害をもたらしたが上陸後 1 1日目の 9月 8日から 2 5日 イルスによる食中毒では二次感染が発生しやすく、冬季 の聞にCDCを始めとした諸機関によりニューオーリン における二次災害としての感染症対策においては的確な ズ市内、及び周辺 4地域について健康調査等を行ってい 診断と消毒に留意しているとのことで、あった。 る へ 病 院 4箇所、診療所1 0箇所において、 7 , 5 0 8例の 1 6 9 例、外傷が2, 018 例、その 患者が受診した。疾病が4, 菅又・山折・矢野・瀬子・長谷川:大規模自然災害時における衛生水準の低下と二次災害としての感染症発生について 6 7 他1 , 3 2 1 例で、あった。死亡は 5例、入院は. 5 5 2 例で、あった。 ガソリン簡易型発電機使用による一酸化炭素中毒の発生 疾病患者の内感染症は 1 , 5 7 9 例(皮膚感染症. 6 4 0 例、急性 等新たな問題も見られた。ノロウイルスの集団発生につ 0 5 例、下痢1 4 6 例、その他2 8 8 例)、非感染 呼吸器感染症5 いては、食中毒発生後の二次感染が起こりやすいとし、ぅ 症は9 6 4 例(発疹3 0 0 例、発熱2 0 7 例、下痢を伴わない胃 特徴から多くの患者が発生しやすい。また、食中毒を原 0 8例、腎臓障害8 7例、その他 1 6 2例)、その他が 腸炎 2 因としない感染も発生しやすいと考えられるので、日本 1 , 6 2 6 例で、あった。呼吸器系感染症例は調査期間中に漸 でもノロウイルスや腸管出血性大腸菌ひ1 5 7 等の二次感 増し2 3 例が入院した。 染を起こしやすし、感染性食中毒を意識した消毒対策など 8 1 '1 '~こ設置された約750箇所の避難 カトリーナ上陸後 1 の準備が必要である。 所に2 0 万人以上が避難している。上陸後 3週間の聞に発 生した感染症について報告がまとめられた九小児約3 0 4 . 災害時の飲料水と細菌汚染 例の抗生物質而羽生菌 (MRSA)皮膚感染症が発生した。ビ u l n i f i ω ,s )による創傷感染が2 4 例発生し、 ブリオに ( v .v 日本における飲料水としての上水は厳しい基準に従っ 6例が死亡している。患者の年齢は3 1 8 9 歳で中央値は て供給されており、その安全性は高し、。日本の上水水質 7 3 歳で、心疾患、糖尿病、腎疾患等の基礎疾患を持つも 基準は表 2に示したが、検出されてはならないのは大腸 ので重症例が多かった九下痢感染症はルイジアナ州、 菌の 1項目だけである。その理由はこれが検出された場 ミシシッピ州、テネシー州、テキサス州の避難所におい 合には水がヒトおよひ動物の糞便により直接汚染されて てノロウイルスによる急U 性胃腸炎が約 1 , 0 0 0 例発生して いることを意味するからである。もし上水から大腸菌が いる。呼吸器系感染症は、百日咳、呼吸器症状ウイルス 検出されればサルモネラ等の細菌やノロウイルス等によ (RSV)、連鎖球菌性咽頭炎、およひ精核が各 l例発生し る食中毒の発生や、 A型ウイルス肝炎等の発生の危険性 た。結核については既往症患者については避難状況を確 もある。わが国のように急速に高齢化が進んで、いる状況 認し治療を継炉しして健康者への感染防止に努めた。ルイ 下での腸管出血性大腸菌大腸菌0-157 や、ノロウイルス ジアナ州で、はウイルス'生結膜炎約2 0 0 例が発生した。各 による感染は、高齢者に病原性が強く発揮されることと 種感染症の発生状況に基づき、お品1Rワクチン(はしか、 二次感染が起こりやすいことから大規模災害時には重篤 おたふくかぜ、風疹の 3種混合ワクチン)、 A型肝炎ワ な感染症としての流行が起こる危険性は高い。 クチン等の接種準備を整えている。 追記:フロリダ~J'I'I では、 2004年 8 月 13 日から 9 月 25 日 4 . 1 板橋区の防災井戸水の細菌検査 の聞に 4つのハリケーンに襲われたことから、その影響 板橋区では地震等の大規模災害が発生した時に備えて について 1 0月に電話による無作為調査坊を行っている 井戸を防災オアシスと称し指定設置している。この井戸 3 4 名、女1 , 0 7 2 名)。影響として挙げられた項目で多 ( 男6 の利用は手洗いなど飲用以外で禾リ用することとなってし、 い順に、飲料水の品質低下が51% 、汚水処理が 13% 、食 る。しかし、災害が発生すると空腹を満たすことよりも が携帯型 料品の安全性が 12%の順で、あった 全体の 18% まずのどの渇きを癒すことを優先し、飲用する者も出て ガソリン動力発電機を使用しているが、そのために一酸 くると考えられる。そこで、実際の防災井戸の水につい 化炭素中毒による中毒が 1 7 3例発生し死亡が 6例あっ て、大腸菌による汚染程度を調査した I九謝ヰを採取し た1ヘ 非 致 死 例 1 6 7 例は、男8 0 例女8 7 例、年齢中央値2 9 た1 0 箇所の井戸の内、大腸菌が検出されたのは 4箇所で、 歳 、 1 6 歳以下5 2 例 、 6 5 歳以上1 1例で、あった。 6箇所は検出されなかった。この 6箇所の井戸のうち 2 O ハリケーンは発生から上陸までを予め知ることができ 箇所は大腸菌群が検出された。この 2箇所については人 ることから充分な対策を講じることができると考えられ および勤物の糞便に直接汚染されているとは言えない。 るが、このカトリーナの事例のように感染症だけを取り 本調査は菌の定量を行っていなし、が、大腸菌陰性の井戸、 上げても大きな被害が発生している。その理由のひとつ および陽性の井戸も含めて塩素投入型の簡易消毒装置を は被災地域が広大であり被災から免れた地域からの支援 取り付けることで災害時には飲用に転用出来るので早急 も効果的に実施されにくいということがある。発災後の に改善すべき案件と考えている。 支援の実施とその内容は高く評価できる面が多くあるが、 都市科学研究 6 8 4.2 インドネシアのジャワ島における生活用水の安 全性 第 1号 2 0 0 7 には直ちに大きな健康被害となって顕在化すると考えら れる。 スマトラ地震大津波が発生したインドネシア共和国ス マトラ島の東、ジャワ島の西部にあるジャワ州ボゴール 5 . 災害時飲料水の衛生水準維持の重要性 県ルイジャマン村における山酎主民集落におし、て側諸 準の調査を行った 12)。調査地では2 0 0 2 年 6月に初めて電 災害時においても平常時と同じように清潔な飲用水が 力の利用が始まった。飲料水についても河川の水や、湧 供給されることは第一に望まれることである。東京都に き水を、飲用を始めとして生活用水として使用している。 おいても発災時には、飲料メーカ一等と結んだ協定によ 飲用にする時には煮沸してから湯冷ましとして用いてい る飲料水の提供と都内各所に設けた京制t 拠点とにより安 る。しかし、野菜や果実の出争には汲み置きした水をそ 全な水を供車合する体制を整えている ω。これに加えて防 のまま使用している。こうした生活用水を試料として日 災井戸の飲用水としての活用も具体化を検討すべきであ 本に持ち帰り、細菌検査(表1)、及て潮量元素の測定 ろう。個人としても自己防衛として成人一人一日 3リッ ( 表 2)を行い、日本の水質基準と比較し丸 トルで 3日分を確保するということは必要である。しか 細菌検査の結果は 9試料全てでヒトおよひ勤物の糞便 し、首都直下型地震で想定されている帰宅困難者6 5 0万 による直接汚染を示す大腸菌が検出された。中でも日常 人について、大規模避難先で側合する飲料水については 的に飲用を含む生活用水で高い汚染が観察された。もし そのシステム作りに樹すを要する点は多し、賭会すると、 煮沸が行われなければこれらの生活用水が汚染源となっ 避難所で発生する大量のベットボトルの処分、ベットボ て水系感染症が高頻度に起こるものと考えられる。並行 トルの複数回使用による細菌汚染と食中毒の発生、高齢 して実施している健康状態についての主訴調査において 者に起こりやすい脱水への対応等がある。対応策のひと も下痢や軟便等の消化器症状を繰り返すものも多く、新 つとして非常用飲料水を強化フィルムパックに充填した 生児や手l 幼児で発生が多い下痢症対策だけではなく成人 製品の実用化が挙げられよう。省スペースと一回使用が への対策も必要である。 可能となる。高齢者の脱水については経口輸夜成分を充 しかし、発展途上国に限らず先進国においても平常時 填した製品の実用化である。こうしたすぐに使用可能な において維持されている衛空説く準は非常に危うし、もので 非常用飲料水の備蓄と供給システムの整備も重要である あり、大規模自然災害により急激に破綻をきたした場合 が、利用可能な池や河川の水、あるいは家庭における風 表 1 インドネシアジャワ島山岳民族が用いている生活用水の細菌汚剃犬j 兄 :1 6 年1 2月1 0日 採水日 検査日 :1 6 年1 2 月14日 開ヰ :インドネシア ボゴ、一川間l 現地調査地、およびジャカルタ市内の水道の原水回制d 封t ウヱルシュ菌芽胞 ハンドフオートt 娘培地平板・ H G M F 鮎付法 大腸醜草 ろ過水量 5 0mL ( C F U / r r 止) (MPN/1 ∞'mL) n ∞ 2 , 氾0 0 0 3 1, 0 2 , 3 0 0 7 , 4 0 0 ∞ , , 0 0 0 4 1 4 0 1 3 , 0 0 0 9 , 5 ω 2 7,0 0 0 2 6 0 ∞ , ∞ ∞ ,o 4 6 1 9 , 0 ∞ 6 , 5 0 0 1 , 3 ∞ , ∞ , ,7 0 0 7 1 9 0 3 9 , 0 0 0 4 8 0 , 0 0 0 3 : 6 6 2 0 巴2 3の計数値を採舟 B:青色コロニー(大腸劃 (MPN/1 ∞宜止) R:赤色曜色)コロニー(大腸菌以外の大腸菌群の細菌) O一 o一ロ一%一o一O o-o一O一2一 検水量 1mL O一O一 o-071-o-6一必一o-o l-2-3 一4一5-6一7一B-9-m 開ヰ番号 ←側田菌 標準豪瑞樹献 時対 -E苛・泳場・草田山 n・則前財ヱ一一日汁潜瀧 E湧 表 2 インドネシアジャワ島山岳民族が用いている生活用水の微量元素分析 ND:n o td e t e c t e d τ υ 嚇率一れ討3 0世間引除決博司){開﹂ベ 川川対日か嚇 川﹁パ司)制問籍出同制郎防打、 MMm ppm:mg/L パ σ 3 。 に 都 市 科 学 研 究 第 l号 2 0 0 7 70 呂水等を飲用可能とする機能(沈殿・ろ過・薬物消毒) を持ったキット(既に多くの製品がある)を普及させる ことも必要であろう。 この研究は平成15-17年度文副浩平↓学研究費基盤研究 ( B )総合領域 ( B ) W都市型災害発生後の災害弱者の避 難・生活支援等の安全化システムに関する研究』、およ * 4 び平成16年度首都大学東京傾 配分特矧蹄究費によって 行われたものである。 参考文献 1)共同通信スマトラ津波 h即 : l l n e w s . 勾r o d o . ∞.jplkyodonews/2004/sumatora/ 2) 国境なき医師団 「特集/スマトラ島沖地震・津波緊急 t ゆ: l l w w w . m s f .o r . j p / s p e c i a V s u m 甜a . p h p 支援Jh 3) アジア医自前車絡協議会「スマトラ沖地震・津波復興支援プ ロジェクト」 h 句 ://www.amda 瓜 j p / p r o j e c t / p r o Ol I i n d o n e s i a . h 伯 尚a r g e t 4) 阪神淡路大震災の記録神戸市環境保健研究所報 2 3 1 9 9 5 5) N o r o v i r u so u t b r e a kamonge v a c u e e sf r o mh u r r i c a n eK a t r i n a H o u s t o n , T e x a s, S e p t e m b e r2 0 0 51¥仏1WR5 4( 4 0 ): 1 0 1 6 1 0 1 8 2 0 0 5 6) S u r v e i l l a n c ef o ri l l n e s sa n dI l l i u r ya f t e rh u r r i c a n eK a t r i n a N e w O r l e a n s,L o u i s i a n , a September8-25,2005恥仏1WR ( 4 0 ) : 1 0 1 8 1 0 2 12 0 0 5 7) I n f e c t i o u sd i s e a s e 哩 如dd e r m a t o l o g i c∞n d i t i o n si ne v a c u e e s a n dr e s c u ew o r k e r sa f t e rh 町r i c a n eKa 仕i n a m u l t i p l es t a t e s , Au 伊s t S e p t e m b e r , 2 0 0 51¥仏1WR5 4( 3 8 ): 9 6 1 9 6 42 0 0 5 8) V i b r i oi l l n e s sa f t e rh u r r i c a n eK a t r i n a -M u l t i p l es t a t e s, A u g u s t 4 ( 3 7 ): 9 2 8 9 3 12 0 0 5 S e p t e m b e r2 0 0 5恥仏1WR5 9) E p i d e m i o l o g i ca s s e s s m e n to ft h ei m p a c toff o u rH u r r i c a n e F l o r i d a, 2 0 0 4 .1\仏~ 5 4 ( 2 8 ): 6 9 3 9 6 72 0 0 5 1 0 ) Carbonmonoxid 巴p o i s o n i n g企omhu 凶 C祖 e -a s s o c i a t e du s eo f , a 2004 恥仏~54(28):697-700 p o r t a b l eg e n e r a t o r s -F l o r i d 2 0 0 5 l l ) 菅又目実、矢野→好板橋区防災オアシスの水質検査一細 菌検査板橋区防災課への報告書 1-4 2 0 0 3 1 2 ) 菅又昌実インドネシア共和国西ジャワ州産学住民集落に おける衛金水準の基材周査 1 3 ) 東京都総務局災害対策部東京都制期方災計画火山・風 水 害 編 平 成1 4 年修正 2004
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