日本型看護医療のマグネティズムの追究

日本型看護医療のマグネティズムの追究
○高山詠美、○水信春菜、○加藤史織、赤司和彦、和田龍太郎、木本留理子、
峰松由実、森崎裕子、阿部裕乃、浅野愛実
所属:看護医療学部
キーワード:多職種連携、マグネティズム、医療提供システム、看護
1. はじめに
所から始まったからである。Mayo Clinic
私たちは、8 月 11 日~8 月 24 日の 2 週間、
は“The needs of the patient come first.(患
アメリカ・ミネソタ州ロチェスター市に位置
者のニーズが第一)”という言葉を大切にし
する Mayo Clinic で実習を行った。この実習
ている。また、Mayo will provide the best
を通じて日本の医療とアメリカの医療の違い
care to every patient every day through
を学び、そこから日本の医療の課題が見えて
integrated clinical practice, education,
きた。日本の課題に対して Mayo Clinic の学
and research.(メイヨーは統合的な医療活
びを参考に今後の日本の医療について考えた。
動、教育、研究を通じて、毎日、全ての患
者に最善の治療を提供する)をミッション
2. 実習の概要
と し て い る 。 2004 年 時 点 で 、 Mayo は
2.1 実習の目的
513,377 人の患者を診療し、通院患者は延
①急性期患者に対する専門性の高いケアにつ
べ 2,271,484 人、入院患者は 130,093 人、
いて学ぶ
患者の入院日数の合計は 599,002 日。Mayo
②重篤な慢性疾患や高度の永続的な障害をも
は患者の 85%以上を外来で診療・治療し、
つ患者の日常生活を支える専門的あるいは特
残りの 15%以下を 2 つの関連病院にて入院
殊なケアを学ぶ
治療する。
③患者の人権の保障や QOL を支える医療に
また、Mayo の医師への給与システムも特
ついて知り日本の医療における課題を考察す
殊である。本来ならば、米国では診療した
る
患者の数によって給与が決まる。一方 Mayo
では患者数ではなく市場価値により一定の
2.2 実習期間
給与が医師たちに支払われる。これにより、
平成 24 年 8 月 11 日~平成 24 年 8 月 24 日
医師は回転率を気にすることなく患者人一
人一人とゆっくり向き合うことができる。
3. Mayo Clinic の概要
Mayo Clinic について
4. 日本の課題
Mayo Clinic は全米で最も優れた病院の
私たちは、
Mayo Clinic での学びを通じ、
1 つと言われている。大規模な病院にもか
日本の医療・病院への課題として以下の 5
かわらず、「Clinic」と名前がつけられてい
つを挙げた。
るのは、初期にロチェスターの小さな診療
4.1 外来の充実
Mayo の受診患者の多くは、外来患者で
いた。例えば看護師によるテレフォントリ
ある。そのため、外来棟には多数のフロア
アージでは、電話をするだけで健康問題に
に渡り外来設備が整えられている。また、
対する助言を即座に受け、患者自身が問題
外来は細かく分化されており、それぞれの
に対する適切な対応をすることを可能とし
科において患者の特徴に応じた充実したサ
ている。このようなプライマリケアサービ
ービスを提供している。外来では様々な専
スの充実が、各病院本来の機能の発揮や、
門職が、患者 1 人に長時間かけて丁寧に診
患者の QOL 向上に繋がるため、日本におい
察、検査、処置、教育などを行う。Mayo
ても、更にプライマリケアサービスを充実
の外来では、例えば心電図や酸素ボンベな
させる必要があると考える。
どを備えた回復室で、検査・処置を受け終
えた患者が専属の看護師によるケアを受け
4.3 地域との連携
られる。このように、環境・機材・人材の
在院日数の短縮や、患者が QOL を保ちな
充実によって日本では入院の必要な侵襲的
がら医療を受けるために欠かせないのが、
な検査・処置を日帰りで受けることができ
患者が自らの生活を営みながらも安心して
る。また、電話対応の体制が整えられてお
継続した治療を受けることのできる環境を
り、患者は外来受診の際のみにとどまらず、
整えることである。
自宅でもフォローが受けられる。
今回研修を行った Mayo Clinic では、遠
以上のように外来を充実させることは、
方から治療のために訪れる患者が多かった
入院せずに検査や処置が受けられることか
ため、退院後のフォローアップには距離に
ら患者の QOL が向上し、また、検査や治療
よる困難が生じてくるという現状があった。
への敷居が低くなることで受診率が向上す
日本の医療でも共通する点が見受けられる。
ることが考えられる。また、これらは在院
遠くの病院まで通院することは患者への負
日数の縮小、医療費の削減にもつながるこ
担も大きく、折角自宅に戻ってこられたの
とからも、我が国が参考にしたい Mayo の
に不安を抱えながら生活することにもなり
取り組みであると考えた。
かねない。そこで、関連病院や、患者個人
のかかりつけ医との連携をはかりながら恊
4.2 プライマリーケアの充実
日本では患者自身が病院を選択し、受診
働して医療を提供していくことが必要であ
ると考える。
することができる。そのため、例えば急性
小規模の病院は技術・資源に限りがあり、
期病院に軽傷の患者が受診することで、重
受けることのできる医療にも限界がある。
症患者の受診が遅れてしまうというような、
こういった病院に技術や資源を提供・拡充
病院本来の機能を発揮することができない
し、患者がもっと身近に受けるべき医療サ
という問題が発生している。しかし、Mayo
ービスを受けることができるように、核と
Clinic はそのような問題を、国民のあらゆ
なる病院が中心となって整備していくこと
る健康問題、疾病に対し、総合的に対応す
が求められる。加えて、患者の情報を複数
るプライマリーケアの充実により解決して
の病院間で共有し、一貫した治療を行える
ように病院間の連携やネットワークを強化
ため、情報を共有している人が業務に取
することも重要である。また、病院とスー
り掛かりやすくなっている。また電子カ
パーマーケット内の薬局が提携し、気軽な
ルテ上で専門職同士でメッセージの交換
受診や服薬情報の共有を行うなど、患者の
をすることで、迅速に連絡を取り合いタ
生活に密着した医療を目指すべきだろう。
イムラグを発生させることなく、効率的
に連携を取っている。
4.4 専門職の細分化
業務を細分化することで、専門職それ
ぞれがコアサービスに集中し、その役割
4.6 職場環境・労働環境
Mayo
Clinic では看護師一人あたりの
を発揮することができる。Mayo Clinic
負担が少ないように感じた。日本では 7 対
では上記したように、業務が様々な職種
1制度を取っており、夜勤になると1人で
に細分化されている。それにより、
10 数人の患者を見なくてはいけない場合
①患者教育専門のスタッフがいることに
もある。一方、Mayo では日勤は大体 3~4
より、患者にとって開放的な空間を持つ
対1、夜勤も 6 対 1 程度と、受け持ち患者
ことができる。
数が少ない。日本の看護師は病棟で慌ただ
②外来では NP が診察や診断を行うこと
しく走り回っているイメージがあるが、
で、多くの患者を診ることができる。
Mayo ではゆったりと働いている印象があ
③病棟での仕事に余裕が生まれる。
った。そのため、患者 1 人 1 人と触れ合う
などの利益が生まれる。
時間も多く、
“needs of the patient comes
first ”という primary value を成し遂げ
4.5 専門職同士の連携
られている。看護師間の業務が均等になる
様 々 な 職 種 が 活 躍 し て い る Mayo
よう、classify 制度がある。(詳しくは上記
Clinic ではどのように連携を取っている
参照。)患者を重症度別に点数をつけ、8 点
のかについて述べたい。まず病棟では看
まで看護師 1 人が抱えることができる。そ
護師同士のカンファレンスは行われてい
れを超えると他のスタッフと調整したり、
ない。しかしある病棟のカンファレンス
他病棟からフロートナースを呼ぶ。このよ
では、すべての職種が参加するカンファ
うに、病棟を超えて互いの業務を支えあっ
レンスを行っており、医師が患者の状況
ている。
を説明するとその後それぞれが業務に取
Mayo は患者満足度だけではなく、職員満
り掛かるというものであった。これは互
足度も非常に高い。Mayo は職員のために
いに専門性を理解していることで、自分
働きやすい環境を整えている。数多くのカ
がやるべきこと、ほかの職種がやるべき
フェテリアがあり、メニューも豊富である。
ことがはっきりしていることが効率に繋
職員専用の大規模な運動施設がある。Mayo
がっているのだろう。
の施設自体も Art 多く取り入れており、リ
また電子カルテが十分に普及しており、 ラックスすることができる。職種間同士も
タイムリーに電子カルテを更新している
廊下ですれ違う度に声かけをし合ったり、
コミュニケーションが良く取れていた印象
を受けた。また、チャペルでは心を休める
ことができ、チャプレンもスタッフの家庭
の相談や仕事での悩みを聞いてくれる。こ
のように、働きやすい環境が整っていると
感じた。
現在、日本では看護師の過労が問題とな
っている。離職率も高く看護師不足につな
がり、残された人たちに負担がかかるとい
う悪循環である。Mayo は上記に述べたよ
うに人という資源を大切にしており、働き
やすい環境が整っている。そのため人が集
まってくる、いわゆるマグネットホスピタ
ルである。有能な人材が揃っているからこ
そできる範囲が広まり、それぞれの専門性
を発揮できる。このように正の循環になっ
ている。日本もこのように、職員の働きや
すい環境を整え、有能な人材を辞めさせな
い、そして職員が職場で生き生きと働ける
ような環境を整えることが大切なのではな
いかと考えた。
5. おわりに
今回 Mayo Clinic の実習では、実際に現
場を見ることで多くの学びを得ることが出
来た。
世界一と言われている医療を見て、日本の
医療の課題がたくさん見えてきた。これは
将来私たちが医療の現場を担う上での課題
でもある。働きながらこれらの課題に働き
かけていきたいと考えている。今回の学び
を通じて今後の自分の働き方についても改
めて考える機会となった。