第5章 スタンプ台か、アリーナか ――議会制度 第5章のディスカッションではこんな質問が出されました。 「政府は、今期の国会で特定業種の企業を優遇する税制法案を提出した。今、あなた の政党がこの法案を廃案にするためには、何ができるだろうか。」 先生 考えるに当たって、いくつかのヒントが出ていますね。 弘斗さん まずは、議会で法案を否決することができます。議席数を考えても、他党と協力すれば廃案 に追い込めると思います。 文菜さん しかし教科書の 81 ページにも書かれている通り、仮に参議院で否決できても、再び衆議院 で可決されれば、法案は成立してしまいます。 先生 では他に、どんな方法があると書いてありますか? 文菜さん 議会の特徴やルールに注目してみようと書いてあります。たとえば、議会がイギリスのよう なアリーナ型議会であれば、議論を尽くし、世論を味方につけることができるかもしれませ ん。 先生 そうですね。無党派層の割合が増加している今、そうした議論が「票の掘り起こし」につな がり、次の選挙で政権を奪回できるかもしれません。他にはどうでしょう? 弘斗さん 日本の議会は本当にアリーナ型になったのでしょうか? それよりも、参議院の重要性に注目 すべきだと思います。他党と協力し、参議院で多数派になったとします。参議院で否決して も衆議院で再度可決されれば法案は成立しますが、現実はそうした法案は国民に受け入れら れないのではないでしょうか? 選挙を翌年に控えた今だからこそ、与党も強硬な態度をとり にくいと思います。 先生 いい論点ですね。第5章でも挙げたモチヅキの粘着性の議論を考えても、日本の国会は「強 1 第5章 | スタンプ台か、アリーナか 行採決」に否定的だといえると思います。では、それをどのように利用できるんでしょうか? 弘斗さん 野党が協力して単純に法案を否決するんじゃなく、その協力を武器に、与党と直接交渉する ことはできないんでしょうか? 文菜さん そういう、いわゆる国対政治こそが、1990 年代以降批判されてきたものですよね。それより、 既に会期の残りが少ない今、このまま議論を続けてみてはどうでしょうか? 会期不継続の原 則からすれば、審議未了になれば法案は廃案になるんですよね? 先生 原則としてはそうですが、例外的に委員会と本会議で閉会中も継続して審査することが議決 されると、次の国会以降も審議が継続されます。 弘斗さん 税金に絡む、国民の関心度の高い法案の場合、審議未了というやり方が野党にとって効果的 なのか少し考えてしまいます。ただ時間を長引かせるような議論は、国民の反発を招くかも しれません。 文菜さん 確かにそうですね。与党側も、こういった大型法案の場合、うやむやになって廃案というの は避けたいでしょうね。そう考えると、法案の内容によっても、議論のされ方は違うのかも しれません。 先生 とてもいい視点です。93 ページにねじれ国会での法案成立率についての図表5−2がありま すが、数だけではなく、法案の中身についても考えてみるとおもしろいかもしれませんね。 弘斗さん そもそも、議決が政党の議席数だけで決まるなら、それは多数決と何が違うのでしょうか? 民主主義の特徴って、何なんでしょうか? 先生 民主主義と一口にいっても、いろんな形がありそうですね。 (執筆:高島亜紗子) 2 第5章 | スタンプ台か、アリーナか
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