空気からくる病気の原因はこれだ

空気からくる病気の原因はこれだ
アトピー性皮膚炎
1. こんな症状があったら、一度病院へ
主婦の幸子さんが、息子の異常に気づいたのは就寝後のことでした。隣で寝ていたはずの拓哉クン(4 歳)が、布
団の中でボリボリと体をかきむしっているのです。
パジャマを脱がせて見ると、クビやわきの周辺、胸と背中にも点々と赤い湿疹が出ています。体は乾燥してかさ
かさしており、よく見ると、首やひじの内側や両足のひざの裏にも、ひっかいたあとがありました。湿疹は体の左と
右に同じようにできています。
昼もかゆみのために、おちつかないようです。心配した幸子さんが、拓哉クンを近くの皮膚科に連れていったと
ころ、「アトピー性皮膚炎」と診断されました。
幸子さんは世間をさわがせているその病名に、一瞬、ギョッっとしました。が、お医者さんから、「子どもにはあり
ふれた病気です。適切な治療を続けていれば、悪化もしませんし、決してやっかいな病気ではありません。大人
になると症状は落ち着きますよ」と詳しい説明を聞いて一安心しました。そして、楽な気持ちで、治療をはじめるこ
とにしたのです。治療を受けながら病気に関する色々な質問を先生に投げかけ、詳しい説明をしていただきまし
た・・・。
2. ほかの皮膚病とアトピー性皮膚炎どうちがうの?
湿疹がでると、すぐに、「アトピー性皮膚炎ではないか?」と思いこんでしまう親
御さんも多いようですが、湿疹=アトピー性皮膚炎ではりません。子供は皮膚を外
的から守るバリア機能がまだ成長していないため、ちょっとした刺激でさまざまな
皮膚病をおこします。
似たような病気がいくつかあるので、あげてみましょう。
「接触皮膚炎」は、いわゆる「かぶれ」のこと。化粧品や植物などが皮膚に触れ
た刺激でよくおこります。
「急性痒疹」は「小児ストロフルス」のことで、虫さされの後などに生じます。
「脂漏性皮膚炎」は、頭や額、頬、鼻、などの皮脂の分泌が多い場所に湿疹がで
きるのが特徴です。
「疥癬(かいせん)」はダニの一種、疥癬虫(ヒゼンダニ)が人間の皮膚に感染する
ものです。
「汗疹」は 、いわゆる「あせも」のこと。つまった汗管(汗の出る管)に汗がたまっ
て起こります。
「魚鱗癬」は、全身の皮膚が乾燥してざらざらし、魚のうろこ状に割れ目ができる
遺伝性の病気です。
このほか、皮脂が欠乏して起こる「皮脂欠乏性湿疹」や水仕事がきっかけでおこ
り、手にだけに湿疹ができる「手湿疹」などがあります。
アトピー性皮膚炎と診断するためには、これらの皮膚病と見分けることが大変、
重要です。自己診断はせずに、まずはお医者さんに「どんな皮膚の病気なのか」
をみてもらいましょう。
3. アトピー性皮膚炎って何?
大きな特徴は、「強いかゆみ」と「治りにくい湿疹」です。かゆいので皮膚をかくと、これがまた皮膚の炎症を悪化
させて、さらにかゆみが強くなる、という悪循環をしばしば繰り返します。
子供に多く、年齢によって少しずつ症状に違いがあります。「乳児期」では顔を中心に赤くがさがさした湿疹がで
きたり、首や肘にもあらわれますが、脂漏性湿疹やオムツかぶれと区別が難しいこともあります。
「幼児期」は手足に湿疹がたくさんでてくることが多く、かさかさして鳥肌のような白い点々とした盛り上がりがみ
られるようになります。一方で顔にはあまり症状は現れません。
「学童期・思春期」では肘やひざ、首などの関節に慢性化した湿疹が目立ってきますが、成長するにしたがっ
て、症状はよくなってきます。
この病気の原因については、まだはっきりしたことがわかっていません。以前はハウスダストやダニなどのアレ
ルゲンに過敏に反応するアレルギー体質が原因と言われていましたが、最近の研究では、必ずしもそれだけで
はなく、皮膚のバリア機能の低下が大きく関係していることがわかってきました。
つまり、アトピー性皮膚炎の人は、生まれつき皮膚を守るバリア機能が低下しており、ここにアレルゲンやストレ
スなどが加わって、症状が悪化するというわけです。
4. どうしてこんなに増えているの?
皮膚科の外来を受診する患者さんの中でも、アトピー性皮膚炎の患者さんの占める割合は、増えてるようで
す。
ではなぜ、このようなことが起こっているのでしょうか?アトピー性皮膚炎を引き起こす体質は、遺伝と考えられ
ますが、この遺伝子を持つ人が短期間で増えているということはちょっと考えられません。つまり、病院を受診す
るような、重病の人が増えていることが一番の理由と考えられるのです。
重症の人が増える原因には、「ストレスの増加」や、「ダニが発生しやすい住宅環境」、「食生活の変化」が考え
られます。
都市部の方が田舎よりも患者さんの数が多いというデータや、先進国のうほうが発展途上国よりも患者さん数
が多いという報告もあり、都市型ライフスタイルが影響しているという研究者もいます。
またありふれた病気であるはずのアトピー性皮膚炎が、とても恐ろしい疾患のように思われたり、ステロイド剤な
どの治療に対する誤解など、情報の混乱も、患者さんの数が増えている理由の一つでしょう。
5. なんでかさかさ、じくじくするの?
「かさかさ、じくじく」するアトピー性皮膚炎。この病気を持っている人の肌は、健康な肌とどこが違うのでしょう
か?
皮膚は上から表皮、真皮、皮下組織というつくりになっています。表皮の一番上の最上層には肌を守るのに重
要な役割をする「角質」という組織があります。
角質の中は平らな細胞が層になって重なっています。この細胞同士のすき間に、セラミド(細胞間脂質)という脂
が埋まって、細胞と細胞をしっかりくっつけ、肌を保護しています。これにより皮膚の「バリア機能」が保たれていま
す。
ところが、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、生まれつき、このセラミドが十分でないのです。このため、細胞と
細胞の間にすき間ができ、皮膚ががさがさになって穴が空いたような状態になります。その結果、水分が逃げや
すくなって皮膚は乾燥し、外からは異物が入りやすくなり、たとえば、ダニやハウスダストなどが入り込んで、湿疹
が悪化しやすくなるのです。
6. アトピー性皮膚炎と食べ物の関係には誤解が?
子どもがアトピー性皮膚炎といわれると、「食べ物が原因ではないか」と心配する親御さんが多いようですが、こ
れは少々、誤解があります。食物アレルギーが原因の人はわずか数パーセント。とても少ない数なのです。
アレルギー体質かどうかを調べるために、血液をとって、「IgE 値」を調べる検査があります。「IgE 値」とは免疫物
質の一種、アレルギーを起す物質が体の中に入ってくると、それを攻撃するための武器となる抗体で、これが高
いとアレルギー体質の可能性が高いと判断します。
アトピー性皮膚炎の子どもに、卵や牛乳など、アレルギーの起りやすい食べ物に対してこの検査を行なうと「IgE
値」が高く出る場合はたしかによくあります。
しかし、この値が高くても、症状が出ない子どもはたくさんいるのです。また、たいていの子どもは乳児期に「IgE
値」が高くても 3、4 歳を過ぎると下がってきます。
このような理由から、安易な食事制限は禁物です。栄養バランスが崩れ、子どもが成長不良になったり、食べる
食品の種類が少なくなり、同じものを多く食べることで、かえって食物アレルギーを増やしてしまう危険性もありま
すので、くれぐれも自己判断はやめ、お医者さんに相談しましょう。
7. ストレスが症状を悪化させる?
「学校や家庭内のストレスでアトピー性皮膚炎が悪化したー」こういう話を聞いたことがあるでしょう。
ストレスとかゆみの因果関係はまだ医学的に証明されてはいませんが、脳がストレスをうまく処理できないと、
皮膚から脳に伝わる経路に乱れが起こり、皮膚がかゆくなると考えられています。
逆にストレスがなくなると、症状が急激によくなることもあります。田舎に遊びに行った子どもの湿疹が、帰って
きたときにはきれいに消えていた、というのはよくある話です。思いっきり遊んでストレスがなくなれば、夜もよく眠
ることができて、体をかくことがなくなります。これが症状をよくするのです。
反対に、親御さんが病気を気にしすぎたり、悲観的になってあらゆる病院を転々としたり、民間療法にのめりこ
んで自分を見失ってしまうと、親がよかれと思ってやっていることであっても、子どもにはプレッシャーとなり、症状
が悪化することがあります。ストレスをなくし、できるだけ子どもをリラックスさせてあげてください。「そのうちよくな
るだろう」くらいのおおらかな気持ちで。子どもにはかゆみを忘れるくらい、よく遊ばせるようにしましょう。
8. ハウスダスト、ダニが病気の原因になるの?
アトピー性皮膚炎の原因として「ダニ」が注目されていますが、ダニは部屋中どこにでも存在するもの。
ダニに対する「IgE 抗体」が陽性であっても、必ずしもダニそのものが病気の原因とは限りませんので、過剰に神
経質になる必要はありません。
とはいえ、ダニをはじめ、ほこりやカビは、アトピー性皮膚炎を悪化させるものですから、できるだけ
減らす努力は必要です。そのためには、まずこまめに掃除をすること。ほこりがたまりやすい場所やエアコンのフ
ィルター、カーペット、ソファー、カーテンの裏側など、ダニやカビが発生しやすい場所に特に注意してください。
部屋の換気をよくして通気性を高めることも大切です。また、ふとんを裏表ともに、よく干して、ふとんカバー、枕
カバーをまめに洗濯するよう心がけましょう。
なお、さまざまな防ダニグッズも販売されていますが、過大な期待をよせないほうが懸命です。ダニを殺したり近
づけないための薬剤も売られていますが、薬剤が直接皮膚に触れたり、空気中に成分が揮発して、かえって体に
悪影響をおよぼすこともあります。市販の商品を購入する際には、広告にまどわされず、中身や効能をよく調べ
お医者さんと相談するようにしてください。
9. 気管支喘息やアレルギー性鼻炎とも深い関係が?
アトピー性皮膚炎の患者さんには、「気管支喘息」や「アレルギー性鼻炎・結膜炎」が同時に発症することがあり
ます。これらの病気は、どれも、血液中で「IgE 抗体」というアレルギーに関連した抗体が増えている、という通点
があることから、同じグループの病気として、「アトピー(性)疾患」と呼ばれることも多いのです。それぞれの病気と
治療法について、簡単に説明しましょう。
「気管支喘息」は、ダニやカビなどのアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を吸い込むことによって
呼吸器に発作的にアレルギー反応を起こす病気です。
気管支が収縮したり、粘膜が腫れて気管が狭くなり、呼吸が苦しくなる、咳き込むなどの症状が起こります。のど
が、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と鳴るのが特徴です。
以前は発作で死亡するケースが多かったようですが、治療でステロイド薬の吸入が行なわれるようになってか
ら、激減しています。
「アレルギー性鼻炎」は、吸い込んだアレルゲンが鼻の粘膜に付いて起こります。くしゃみと鼻水が特徴です。
「アレルギー性結膜炎」は、アレルゲンが目に付くため、充血してかゆくなります。これらの病気が発見された場
合は、それぞれに適切な治療が必要ですからお医者さんのアドバイスにしたがうようにしてください。
10. 病院のかかり方は?
なんどもいうように、アトピー性皮膚炎は皮膚科で診る病気の中では「ありふれた疾患」ですから、特に「名医」や
「アトピー性皮膚炎の権威」に診てもらう必要はありません。
大切なのは、自分に合ったお医者さんを選ぶこと。たとえば、病院ですが、この病気は長い間、通院する必要が
ありますから、場所や診療時間が家や子どもの学校に近いなど、患者さんや家族の生活にあうところがいいでし
ょう。
お医者さんは、「皮膚科医」で、「アトピー性皮膚炎に精通している」ということが大切です。
もう少し詳しくポイントを挙げてみますとー。まず、「細かく診療してくれる医者であること」。
初診のときだけでなく、二度目以降もていねいに診てくれるお医者さんが理想的です。「患者の話をよく聞いてく
れること」「疑問点など質問にもいやがらずに答えてくれること」も重要です。
11. お医者さんにははじめていくとき書いていこう
12. 病院ではどんな検査をするの?う
アトピー性皮膚炎は湿疹の状態と、それまでの患者さんの病気の経過を聞いて診断します。病気が特定された
場合は、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる因子を見つけだすために、アレルギー検査を行なうことがありま
す。主なアレルギー検査には「IgE RIST」と「IgE RAST」というものがあります。
「IgE RIST」(血液中の全ての IgE 値測定)は血をとって、血液中に含まれる IgE 抗体の量を測定する検査です。気
管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎の人でもこの値は高くなります。
「IgE RAST」(アレルゲン特異的 IgE 値測定)は卵、牛乳、ダニ、ホコリ、花粉など特定のアレルギーを起こす物質
(アレルゲン)に対する「IgE 抗体」をそれぞれ個別に測定する検査です。こちらも血液をとって、アレルゲンを加え、
反応を見ます。
前のページでも何回か説明しましたが、注意したいのはこれらの検査で「IgE 値」が陽性だったからといって、
アレルゲンがアトピー性皮膚炎の原因や悪化因子とは限らないことです。たとえば、卵やダニに対する「IgE 値」
が高くても、症状がでない患者さんはけっこういます。「IgE 値」にはあまり神経質にならず、「悪化因子になってい
る可能性がある」程度に考えて下さい。
自己判断で無理な除去食を行なうことはくれぐれも控え、お医者さんの指導のもと、基本の治療をまずはしっか
りと続けることが大切です。
13. どんな治療がおこなわれるの?
がまんできないほどの、強いかゆみがアトピー性皮膚炎の特徴です。かきむしることで、もともと弱かった皮膚
のバリア機能がさらに壊れ、そこから汚れなどが侵入して、湿疹が悪化します。つまり、ひっかくことが最大の悪
化要因になっているわけで、このかゆみを取り去ることが治療のポイントになります。
かゆみを抑える薬には、外用薬(塗り薬)と飲み薬があります。外用薬にはステロイド剤やプロトピック軟膏という
薬があります。全身に薬を塗るのは手間がかかりますが、これをきちんと習慣づけることで、症状が軽くなるので
す。
飲み薬には抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬があります。一日一回服用すればいいタイプもあり、簡便です。最
近では眠気やだるさのほとんど出ない薬も登場しています。
なお、これらの薬とならんでとても大切なのが「スキンケア」です。
肌の汚れは湿疹を悪化させる原因の一つですから、目に見えた汚れだけではなく、汗やいわゆるアカもきれい
に落すことが必要です。また、入浴後や洗った後は、クリームやローションなどの保護剤で皮膚をしっとりさせて
肌を守ってください。
14. 「抗ヒスタミン薬」と「抗アレルギー薬」って何?
治療では必要に応じて飲み薬も使います。通常使われる薬には、「抗ヒスタミン薬」と「抗アレルギー薬」がありま
す。いったいどんな薬なのでしょうか。
「かゆみ」は、肥満細胞というアレルギー反応と深い関係を持つ細胞から出てくる「ヒスタミン」という物質が、か
ゆみを伝える神経の受容体とくっついて起こると考えられています。「抗ヒスタミン薬」はこの受容体にヒスタミンが
結びつくのをブロックして、かゆみを抑えます。
「抗アレルギー薬」には「抗ヒスタミン薬」と同じく抗ヒスタミン作用のあるものとないものがあります。さらに「抗ア
レルギー薬」は、ヒスタミンが肥満細胞から出てくるのを抑えたり、アレルギー反応に関係する化学物質が体内で
作られるのを抑えるなど、プラスアルファの作用を持っています。
アトピー性皮膚炎の治療ではタイプの異なる「抗ヒスタミン薬」と「抗アレルギー薬」を組み合わせて使用する場
合があります。
15. 飲み薬の効果的な使い方は?
アトピー性皮膚炎の息子を持つ幸子さんはちょっと気になることがありました。
治療をはじめてまもなく、息子の拓哉クン(4 歳)が眠気を訴えるようになったからです。テレビを見たまま「ボーッ」
としていることも、よくあるようです。
飲み薬を飲んだ後、このような症状が出てくる場合は、「抗ヒスタミン薬」や「抗アレルギー薬」の副作用が出てい
る可能性があります。
「眠くもだるくもならない」という人でも、運動機能に影響が現われていることがあります。たとえば勉強をしたり、
運動をしたりというときに、自分はしっかりしているつもりなのに、「なぜかミスが多い」という場合です。
しかし、現在ではさまざまな種類の飲み薬があり、眠気がほとんど起こらないタイプのものも出ています。おか
げで、運転したり、試験を受ける人も安心して、薬を飲むことができるようになりました。このように副作用が心配
な人はお医者さんに相談して、自分に合った薬を処方してもらうとよいでしょう。
幸子さんもさっそく相談して、別の薬を処方してもらいました。おかげで、その日から拓哉クンは眠気を訴えなく
なり、いまでは元気で外を走り回っています。
16. ステロイド外用薬は大丈夫?
治療では、ステロイド外用薬が基本になります。お医者さんの指示を守ってきちんと薬を塗ることで、症状をコン
トロールすることができるのです。
副作用を心配して、お医者さんが処方しても使わない患者さんがいますが、これは誤解です。確かにこの薬に
は副作用がありますが、それは、かなり強い薬を一日 10g 以上、数ヵ月間塗り続けた場合です。ふつうはこのよう
なケースはまずありえません。
被害を訴える人のほとんどは、病院にいかずに、自己判断で市販のステロイド薬を大量に使ったり、「ステロイド
が悪い」という情報に惑わされて、突然、薬をやめてしまったことによる症状悪化によるものです。
このようなことにならないためにも、指示された部位や回数などの使用法をきちんと守り、定期的に通院してお
医者さんの指示を受けてください。薬には弱いものから強いものまでさまざまなランクがあり、これを上手に使い
分けることで、効果が出てきます。
なお、「副作用に対する疑問」や「薬を使ってもよくならない」などの疑問点がある場合は、お医者さんに相談す
るとよいでしょう。
17. お医者さんの定期的な診察が大事?
皮膚をいつもいい状態に保つためには、決められた日にできるだけ同じお医者さんにかかることが大切です。
アトピー性皮膚炎は、かぶれなどと違って、ときには悪くなったり、よくなったりを繰り返す慢性の病気です。お医
者さんは、定期的に診察することで、皮膚の状態がよくなったか悪くなったかを把握し、患者さんに適切な治療を
行なうことができます。
また、患者さんのほうも、毎回、皮膚の状態をチェックされることで緊張感を失わずに治療を続けることができる
のです。
受診する際には、症状の経過や治療の結果、特に悪化している部分があれば、きちんと話してください。外用薬
については、余っている量があればきちんと伝えます。また、よい状態を担当のおお医者さんにみてもらっておく
ことも大切です。治療に対する効果を正確に把握することができるからです。
顔に症状がある場合には化粧をしないで来院し、体の皮膚の症状がある人は、脱ぎやすい服を着ていったほう
がいいでしょう。
なお、疑問に思っていることや質問したいことがある場合は、あらかじめメモなどにまとめておいて要領よく質問
をすることをおすすめします。新たに民間療法などを開始したいと思う場合も、必ずお医者さんに相談するように
してください。
18. 成人のアトピー性皮膚炎が増えている?
ほとんどの患者さんは、成長とともによくなっていきます。これは、皮膚が強くなって、刺激に対しても抵抗を持
つようになるからです。しかし、中には、思春期になってもなかなかよくならず、そのまま症状が続くことがありま
す。また、それまで何の症状もなかった人が 20 歳をすぎてから発症することもあり、「成人型アトピー性皮膚炎」と
呼ばれます。このタイプの患者さんが最近、増えています。
原因の一つとして、学校や会社のストレスなど、社会的な環境が影響しているのではないかといわれていま
す。実際、会社に入った直後や、転勤などがきっかけで症状が出る人は多いのです。また、食生活の欧米化や、
加工食品を摂取する機会が増えたことが関係しているという意見もありますが、原因は明らかになっていませ
ん。
子どもの場合と違って、額や目、口の周囲、首に症状が出やすく、重症化することが多いようです。
治療は基
本的には子どものアトピー性皮膚炎と同じです。大人の場合は、多忙なこともあって、市販の薬で対処しているこ
とも多いようですが「おかしいな」と思ったら、お医者さんの診断をきちんと受けるほうがいいでしょう。
19. 民間療法は大丈夫?
アトピー性皮膚炎の大きな原因は、遺伝子的な体質です。体質は持って生まれたものであって、残念ながら現
代の医療では根本から変えることはできません。つまり、「すぐに治る治療はない」と考えていただいたほうがよい
のです。しかし、これまでお話ししてきたように、皮膚を清潔に保ち、悪化したときには炎症を抑えてあげるように
こころがけいれば、常に肌をいい状態にコントロールすることができます。そして、そのための治療はごく普通の
皮膚科のお医者さんで十分にできるのです。
ところが、この病気では民間療法に走ってしまう人が大勢います。「わが子を助けたい」という気持ちはわかり
ますが、民間療法にはさまざまな問題点があることをぜひ知っていただきたいと思います。
まず薬と違い、「本当に効いた」という証拠がありません。一部には皮膚がきれいになった人もいますが、人間
には「プラセボ効果」といって、たとえば、砂糖の固まりを「薬だ」といって飲ませると 30%の人に
なんらかの改善効果が見られます。もちろん、これは一時的なものです。
一時的でもよくなればまだいいのてすが、民間療法でアトピー性皮膚炎の症状が悪化したというケースも後を
絶ちません。その理由は、ステロイドを中止したことと、バリア機能が低下している敏感な皮膚に新しい治療法に
よる、新しい刺激が加わったことが引き金と考えられます。
日本皮膚科学会の調査では、入院治療が必要になった 349 例中、44%の日田が民間療法などの不適切な
治療で症状がかえって悪化していることがわかりました。病気が悪化した患者さんは積極的にはしたがりません
から、このような事実はなかなか表に出てこないものなのです。
また、お金儲けをねらった民間療法、いわゆる「アトピービジネス」では、悪質なものがたくさんあります。温泉
の水を宅配で自宅に送ったり、循環風呂で毎日入浴を勧めるケース、患者団体を装って実は高額の治療を勧め
るケース、さらには病院や医師が特定の企業と結びついているというゆゆしきケースもあります。あくまでも民間
療法は補助的なものと考えて、情報にまどわされず、治療の基本を忘れないようにしましょう。
20. 日常生活での注意点は?
皮膚を清潔に保とう
バリア機能の壊れている皮膚は、常に清潔を保ち、しっとりとさせることが
必要。外出先から帰ったら
手や顔の汚れをよくとりましょう。入浴の際は体はもちろん、髪の毛もしっかり
洗い、皮膚には保湿剤を塗ることも忘れないようにしてください。
部屋を清潔にしよう
ダニやホコリ、カビはアトピー性皮膚炎を悪化させることがありますので、で
きるだけこまめに掃除を。布団もできるだけ干すように心がけましょう。
服の選び方
衣類は肌触りのよいものを選んでください。特に下着は木綿製品がいいで
しょう。買いたての下着は着ける前に一度洗うことをおすすめします。なお、
洗濯をする場合はよくすすいで洗剤が衣類に残らないようにすることも大事
です。
ストレスにも注意を
イライラすると症状が悪化することがりますので、ストレスにも注意しましょ
う。親御さんがアトピー性皮膚炎に神経質になりすぎることが、かえって子ど
もに悪影響を与えているケースもあります。病気にこだわりすぎず、元気での
びのびとした子に育てることが、軽快への一番の近道です。
バランスのよい食事を
健康に近い皮膚のバリアをつくるためには、バランスのよい食事や規則正
しい生活が必要です。くれぐれも子どもの発育、成長に影響するような隔った
食事は控えましょう。