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伊丹清先生
「環境建築のモニタリング法と使いこなし方」
写真
伊丹
清
(いたみ
きよし)氏
1983 年、京都工芸繊維大学大学院工芸学研究科建築学専攻修了、京都大学大学院工学研究科博士後期課程
建築学専攻中退、滋賀県立短期大学助手を経て、現在滋賀県立大学環境科学部、環境建築デザイン学科講
師。専門は、建築環境工学、建築設備。
普段は、建物の内部、室内の音、光、空気、熱などの物理環境、特に開口部におけるエネルギー性能
の解析・伝熱プログラムの開発に関わる研究をしていますが、今日は環境建築のモニタリング法と使い
こなし方というテーマについて、専門分野と私の中での問題意識とを絡めてお話をさせていただきたい。
・ 人との関わり、人とモノとの関わり、人と環境との関わり方、から見て、どうしたら人がわかりや
すくなるのか、人が心地よくなるのか、使いやすくなるのか、を考えている。
・ 認知科学や心理学とは、関わりの接点、境界をどのように考えるかについての研究である。例えば、
急いで建物から脱出する際には、扉を押して出て行きたいが、このドアが引く仕様になっていると
利用に即してないため使いにくくなってしまう。
■着替え・衣替え(モード変更)の再評価
・ 建物外皮の熱性能の計算法の基本として
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外皮とは
=
外壁
+
開口部
(+ 基礎 ・ 土間)
注)建築環境工学の分野では屋根、屋根+天井裏なども「外壁」として扱っている。
・ 建物が可変要素を備えることが重要。窓の断熱性能を高めるが、開けたいときにはしっかりあけて、
閉めたいときにはしっかり閉められる、ということも大切。変更ができる、ということが大切では
ないか。
・ 「パッシブな住まい」の反対としてアクティブ、つまり機械頼みのデザインがあるが、機械に頼ら
ないことを突き詰めると、モード変更を全て手動で行うことになる。全てを機械に頼らないことに
固執するもの極端すぎるのでは。温度や照度全てをオートコントロールはしないにしても、バラン
スを考えて、温度センサーなどを用いることは比較的馴染みやすいのでは。
■アフォーダンスを考えたデザイン
・ モードの変更をスムーズにさせるには、変更の仕方が分かりやすいだけでなく、行動を促しやすく
するデザインという視点も重要。
・ J.J.ギブソンは、モノ・環境が人に対して「アフォーダンス(∼という行為をアフォードする(促す))
という特性を持っているとして、人と環境とのインタラクションを見ることを提唱している。
・ D.A. ノーマンは、使いやすさを認知科学の視点から分析。わざと使いにくくしてみたりしている。
行為の 7 段階(3 つに分類される)は、最終的なゴールの形成→意図の形成→実際に行為を実行→
環境の知覚→解釈→結果の評価というプロセスをたどる。
・ エコハウスにも、行動を促しやすくするシステムが必要。
・ 例えば、モード替えでも、実際は行ったほうがいいとわかっていても、なかなかそうしない。実際
に行動したことが結果として数値で表されモニタリングでできることが理想。
・ 相手に行動を促すインターフェースの例は工業製品では多々ある。車の半ドア、シートベルトの未
装着など。危険を防止するためのもの。
・ 最近は、省エネに反する状態を知らせるインターフェースも出てきている。冷蔵庫が空いていたら
警告音、など。
■建築にアフォーダンスを
・ 認知科学の視点で見ると、
「節約したい、快適に過ごしたい」という目的がある。その目的達成のた
め、判断をし、判断が行動につながらないといけない。そして、例えば結果を見ながら環境の変化
を確認できる、そして報酬として「節約した」などという満足を得られる必要がある。
・ 建築のアフォーダンスを考えるなら、以下のような項目を簡単なプログラムでどこまでできるのか、
という話になる。
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理解して使いこなす、ということが必要。行動のそれぞれの特徴の有効性を理解していなけれ
ばいけない。
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日射や採光に関するフィードバックが得られること。感覚でわかりやすいフィードバックと、
わかりにくいフィードバックがある。
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また、建物がいろんな仕様をうけいれられるか、選択肢がしっかりとあるか、といったことが
重要ではないか。
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条件変化を見せることも工夫の一つ。
—
「どっちの空気がおいしいの?」、どこから空気をいれようか、今、どこからたくさん日
射が入っているのか、その日射を入れたいか、入れたくないか。
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¾
—
風向と風速、どこから入れて、どこから出すか
—
地域性、季節に特有な変化。海風(湖風)、山風など。
性能を見せる
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断熱性能、遮熱性能の変化は、開口部の変化である程度見せることができる。
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気密性能の変化、これはまだまだ珍しいように思います。
モード変更で、室温がどのように変わるのか。光は視覚的にわかりやすいが、熱に関してはな
かなかわからない。
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室温でモード変更の効果をわかるように工夫できれば、室温差から必要な・節約できる冷暖房
負荷がわかる。
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ブラインドの角度を変えるというような変化がどこまで影響するのかをモデル化する。
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効果の持続性のモデル化も必要である。いつまでの効果として表示するのがよいのか、データ
の蓄積が必要。
・ 次に、モード変更を容易にできなければ意味がない。
・ 開口部の可変性を最大限サポートすべき。すだれ1つ取ってみても今の住まいにはつけにくい。建
物の提供側がそれらを見込んで設計できるか、ということがポイント。
・ 電灯スイッチも、どのスイッチがどの照明に対応しているのかがわかりにくいことがある。もし平
面図と対応していると分かりやすい。窓際だけを消すなど、きめ細やかな行動を導きやすくなる。
・ また、容易なだけでなく、報酬、楽しさを付け加える。節電量、屋根散水に見て楽しめる工夫など。
・ モード変更の例として以下のものが挙げられる。
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カーテン、ブラインド、窓開放、網戸、断熱雨戸、
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よしず、すだれ、落葉樹の利用、屋根の 2 重化、屋根の緑化、
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アースチューブ利用、期間蓄熱(地中蓄熱)一日周期の蓄熱、1 年を通した蓄熱もある。
・ 今までお話したのは、建物建設後の居住中のモード変更で、比較的見せやすい。逆に建設、増築、
建て替え、などの建物そのもののライフサイクル CO2 の課題が残っており、これらは非常に見せに
くい。建設時、解体時、見せにくいエネルギーをどう表現するのか。
・ 住宅性能表示制度は、温熱環境、室内環境、シックハウス対策、光・視環境(開口率)、防犯、耐震
などについて性能を保持していることについて数値化して説明できることと、数値だけでは説明で
きないことがある。定期的にこれらを確認できる必要がある。家歴書のような住宅の履歴情報のよ
うに、履歴が残っていること、残しやすくすることは有用になるだろう。
■まとめ
・ 外部条件の変化をわかりやすく見せること
・ モードの変更の手法がわかりやすく、その変更が選択肢としてわかりやすく見せること
・ モード変更などの効果を見えるようにすること、またその結果、満足感が得られることで、住まい
手が面倒だと感じる気持ちが変わるか、が課題。
・ 今後はさらに、性能維持のための情報や履歴情報の蓄積が課題。
【質疑】
Q. 車の場合だと、最高速度や、燃費など、わかりやすい指標がある。住宅にはそういう指標がそぐわ
ないと思うのですが、建物に最も大切な指標とは何なのでしょうか。部分的な指標は多々ありますし、
燃費的な指標もあるかと思いますが。
A. 住宅は最も高い買い物。車は性能が記載されているが、住まいにはまだ記載されていない。これは
改めていかないといけない。住宅にも、指標ができてきている。ただし注文形式の住まいの性能は住ま
い方や地域性にもよるので、車の燃費のような示し方はそぐわない。建ててから、どういう問題点があ
るのか、ということは洗い出せるのではないか。改善が図られるのではないか、と思います。
Q. 自動車は燃費など環境性能評価に即している。メーカー企業は数字を出してくるし、それを上回る
ものをつくるしかない。しかし、「住み心地」は数値で評価しづらいのではないか。満足度は数値では
評価しきれないものがある。
A. 自動車といえども、性能値だけではなく乗り心地や仕様が重要な要素になっている。住宅について
は基本的な性能値さえまだ示せていないし、また、それらを満たしていなくてもメンタルな「住み心地」
といった要素のみがこれまで先に立ってきたのかもしれない。(耐震性や安全性と同様に、省エネルギ
ー性能という基本的な性能を満たすことが前提になってきているのだと考える。
)
Q. 電気の使用量というのは、機器を選んでいくことで、省エネにつながっていく。そういうものを具
体的な選択肢として見せてほしい。
A. いかに化石エネルギーに頼らない住まいにするのか、というところは大切なことだと感じています。
1次エネルギー換算値から見ると現在のガスであれば油田から輸送しているため不利でありなかなか
使いにくい。家庭の生ごみや地域のバイオマスからバイオガス等が生産され、天然ガスと置き換わって
いけばガスも大変有効で使えるものになると思っています。そのような事情もあり、どのエネルギーが
最適なのか、ということについてのお話は割愛しました。(各戸ではもちろん無理ですが、村や地域と
いった単位の規模なら試みられるようになっていくのではと期待しています。)
※ (
)内は、後日追記。