Ⅰ-10.海外の国際研究開発拠点に参加実績のある日本企業の事例調査

Ⅰ-10.海外の国際研究開発拠点に参加実績のある日本企業の事例調査
Case studies on participation of Japanese firms in international consortiums
キーワード
Key Word
国際研究開発拠点、コンソーシアム、研究開発戦略、国際戦略
international research base, consortium, R&D strategy 、 international
strategy
1.調査の目的
MINATEC、IMEC、Albany NanoTech など米国や欧州の国際研究開発拠点における成功要因
を探ることを目的とし、本調査では、これらの海外の国際研究開発拠点に参加実績のある日本企業やこ
れらの拠点について詳しい国内有識者に対してインタビューを行った。
2.調査の概要
(1)調査の内容
本調査における調査対象は以下の通りである。
a. 海外の研究拠点である MINATEC 、IMEC、Albany NanoTech、Stanford University
(Stanford Nanofabrication Facility (SNF))等に参加している国内企業の関係者。
b. オープンイノベーション、企業間連携、産学官連携などの情報に精通している国内の有識者や、
海外の研究拠点である MINATEC、IMEC、Albany NanoTech、Stanford University(SNF)に詳
しい国内の有識者
日本型研究拠点モデル構築の具体的な方策検討に資する、国内事例の実態や企業・有識者の意
見として以下の項目を調査した。
・ 海 外 の 研 究 拠 点 で あ る MINATEC 、 IMEC 、 Albany NanoTech 、 Stanford University
(SNF)に参加している国内企業の参加メリット、及び海外の研究拠点に参加するインセンティブ等
に関する意見。
・ 海外の研究拠点において企業連携をマネジメントしている具体的仕組み、及び企業連携の成功
要因として特筆すべき内容。
・ 海外の研究拠点を参考にして得られる、日本における研究拠点において求められる仕組み、運営
方法に関する意見。
・ その他、わが国のオープンイノベーション、企業間連携、産学官連携のあり方に関する有識者の
意見。
(2)調査の成果
インタビュー結果を踏まえ、気づいた点は以下の通りである。
第 1 に、国際研究拠点を成功させるためには、その目的や理念を体現する人物が必要である。具体
的には、拠点の目指すもの、そこにどうもっていくのか、そのために人や資金をどのように配分するのか、
それらについて目的や理念に従い差配できる人物を組織体のトップに据えることである。そのような人
物は、例えば、企業の事業部長以上の経験があり、海外での勤務経験があり、業界に通じ、また、定め
られた期間、例えば、5 年間に目標を達成できるドライビングフォースとなる馬力のある人物である。高
い目標に対する達成を求めることと引き換えに、他の国際拠点に引けを取らない高額の報酬を支払うこ
ととなるが、そのような人物を国内外問わず対象としてリクルートしてくることが必要である。
第 2 に、メンバーに同じコミュニティに属するファミリーとしての意識を持たせる仕組みが重要である。
一般にコミュニケーションは、調整のためのもの(communication for coordination)、情報のためのも
の(communication for information)、そして、インスピレーションのためのもの(communication for
inspiration)の3つのタイプがあるが、共に何か新しいものを創りだすためには、3 番目のコミュニケー
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ションが重要である。具体的には、拠点形成の際には、そのアメニティを重視して考え、人々が日常のコ
ミュニケーション(1 番目と 2 番目のタイプ)を離れ、自然に集まり出会う(encounter)ための場を作ること、
また、人々が納得する理屈のもとで集まる仕組みの両方が必要である。
第 3 に、何を目指すのか、どうそこに至るのかについての本当に納得感のあるストーリー、あるいは、
シナリオが必要である。
第 4 に、運営の主体が国であることが国際拠点として適切かという課題がある。地方自治体が主体で
あれば、地域の雇用、地域経済開発が目標となるために、「国」の競争力が直接のターゲットとなる訳で
はない。このため、国外企業の参加は、これらの目標のためにウェルカムであり、そのことが結局国際拠
点としての発展につながっていく。
第 5 に、拠点の中心となる大学の学部は、大学のガバナンスからは離し、独立の運営を行うことも検
討する必要がある。例えば、ニューヨーク州立大学アルバニー校においては、College of Nanoscale
Science and Engineering (CNSE)はメインキャンパスとは独立のガバナンス構造を取ることとなって
おり、メインキャンパスのガバナンス組織や大学の運営部門(研究担当副学長(VP for Research)等)
は一切関わっていない。また、州立大学ではあるが、施設、土地について営利の活動に使っても問題
がない措置が取られており、メインキャンパスのように、施設建設のために発行した債券(bond)の発行
条件(営利目的利用の制限)の適用を受けないようになっている。
第 6 に、拠点自身について、企画情報機能を充実させることが重要であり、そのためには、まず研究
成果の出口を担う企業、特に中小企業情報を把握するためのデータベースを構築し、毎年アップデー
トすることが必要である。例えば、今回の東日本大震災においても、企業がどのような被害を受けている
のかについての情報を分析するような機能があれば、拠点として、必要な支援を速やかに行うことがで
きるだろう。
第 7 に、外国企業の参加について考える必要がある。このための方法としては、3つの考え方がある。
1つ目は原則国内外を区別して考えないということである。2 つ目は、ケースバイケースで参加を判断す
ることであり、例えば、海外企業については、リーディング企業であるなど明確に日本または地域に便益
をもたらすかどうかを判断するものである。このためには、このような判断をマネジメントが即座にできるこ
とが重要である。3 つ目がアメリカのバイドール法において連邦政府資金を使っての研究成果のライセ
ンシングは、米国内で製造拠点がある企業を優先させるなどの規定が設けられていたり、米国標準技
術 研 究 所 ( National Institute of Standards and Technology (NIST) ) の TIP プ ロ グ ラ ム
(Technology Innovation Program)において助成を受ける企業の条件として、米国で雇用している
実績があるなどの規定(foreign eligibility についてのもの)を設けているように、規定を整備して、それ
に則り判断することである。仮に、それに該当しない企業を参加させる場合には適用除外(waiver)の
手続きをすることになる。これら 3 つの中では、フレキシブルな判断をするためには 2 番目が望ましいが、
そのためには、判断者が国とは関わりのない主体であることが望ましいと思われる。
第 8 に、拠点のアクセスポイントを明確にすることが必要である。このようなコンソーシアムは、参画企
業があってこそ成立するものである。彼らの意見を全てを取り入れる必要性もないが、意見を言える環
境は肝要である。現に IMEC 等の国際拠点では、参画企業が何かしらの要望がある際には意見をいう
窓口が明確になっている。海外の国際拠点では参画企業からの意見をもとに、プログラムの一部を変
更し、参加費用を削減する等、柔軟な対応を取っており、企業からの満足度は非常に高い。
(担当: 依田達郎 (Tatsuro Yoda) e-mail: t.yoda at iftech.or.jp)
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