前立腺がんの最近の治療

前立腺がんの治療
沼津市立病院 泌尿器科
花井 禎
男性において罹病率の高い5つのがん
がん
胃がん
肺がん
大腸がん
前立腺がん
肝がん
罹病(2008)
9人に1人
10人に1人
12人に1人
14人に1人
24人に1人
死亡(2011)
25人に1人
16人に1人
34人に1人
73人に1人
40人に1人
前立腺がんの特徴
・進行が遅いことが多い
・いろんな治療が効きやすい
前立腺がんの関連用語
PSA (前立腺特異抗原)
・血液検査で測定
・前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられる
・前立腺がんの進行や治療効果の評価にも用いられる
生検
・病変部位の組織を採取し顕微鏡で診断
・ 12か所、針で採取
・前立腺の場合、唯一の確定診断方法
グリソン・スコア (Gleason score)
・前立腺の組織を顕微鏡で観察
・がん細胞をⅠ~ⅴの5段階で表し、最も多い組織像
とその次の組織像の合計 (例:3+4=7)
・最高が10点、高いほど「進行が速い」「治りにくい」
前立腺がん 診断までの経過
PSA高値
前立腺生検
病期診断
・CT
・骨シンチ
・MRI
前立腺がんの治療選択のため
~3つの特徴~
患者さんの特徴
年齢(余命)
他の疾患
心臓・肺・脳血管
糖尿病・がん
患者/家族のご希望
がんの特徴
PSA
病期
グリソン・スコア
がんの大きさ
治療方法の特徴
根治性・合併症・
入院/通院
麻酔・保険適応
前立腺がんの治療選択肢
経過観察
局所的治療
PSA監視療法
手術療法
・定期的な
PSA値の検査
・前立腺全摘術
開腹
腹腔鏡
小切開
ロボット
放射線療法
・外照射法
・IMRT
・組織内照射法
・陽子線 重粒子線
全身的治療
内分泌療法
(ホルモン療法)
・精巣摘除術
・薬物療法
(注射薬・内服薬)
その他:HIFU(高密度焦点式超音波治療法) 免疫療法 なども
化学療法
・抗がん剤による
治療
前立腺がんの代表的治療方法
・待機療法
・ホルモン療法
・放尃線療法
・手術療法
効きめ
(制がん性)
手軽さ
(低侵襲)
前立腺がんの代表的治療方法
・待機療法
・ホルモン療法
「がんとうまく付き合う方法」
・放尃線療法
・手術療法
「がんをやっつける方法」
前立腺がんの代表的治療方法
・待機療法
・ホルモン療法
・放尃線療法
・手術療法
効き目
(制がん性)
手軽さ
(低侵襲)
その“がん”は本当に治療が必要?
グリソン・スコア≧7
グリソン・スコア≦6
いずれにせよ,一般的に“ラテントがん”の多くは“臨
床がん”にならずに経過し,一部は緩徐な経過をた
どって“臨床がん”に進展すると考えられている。
前立腺がん 診療ガイドラインより
<ラテントがん>
・何らかの原因で死亡し、解剖を行った時にたまたま
見つかったがん(60歳以上の20-40%)
・解剖で見つかったがんは死亡の原因ではない
=見つかっても治療しなくてよい
<臨床がん>
・周りにひろがったり、転移するがん
=治療が必要
?
1回の生検では
正確な診断は
できていない?
PSA
↓
「見つけすぎ」
↓
「過剰治療」
過小評価
サメは隠れてないかな?
クマノミだったら治療
しなくてもいいのに・・・
待機療法(PSA監視療法)
条件
方法
・グリソン スコアが6 以下
・PSA が 20 ng/ml 以下
・前立腺内に限局
・針生検の結果
などが基準を満たしている
・PSA
・直腸診
・針生検
などで定期的にチェック
進行する兆候があれば早めに治療開始
前立腺がんの代表的治療方法
・待機療法
・ホルモン療法
・放尃線療法
・手術療法
効き目
(制がん性)
手軽さ
(低侵襲)
前立腺がんをコントロールしよう!
チャールズ・ハギンズ先生
1966年 ノーベル生理学賞
ホルモン療法の作用
前立腺がん
ドラキュラ
男性ホルモン
月のあかり
ホルモン療法の実際
・注尃 or/and 飲み薬 で全身に効く
・ 3ヶ月毎の通院で可能
・1回の受診料≒50000円(3割負担)
・完治は難しく、続ける必要あり
・性機能障害、更年期障害、筋力の低下、骨粗鬆症、
関節痛、抑うつ状態
(吐き気、食欲低下、脱毛などの副作用はない)
・続けていても効かなくなることがある(PSA上昇)
=去勢抵抗性
ホルモン療法の次の選択肢
~去勢抵抗性前立腺がん~
<ホルモン療法>
・デガレリクス
・アビラテロン
・MDV3100
・TAK700
<抗がん剤>
・ドセタキセル
・カバジタキセル
<分子標的薬>
・カボザンチニブ
前立腺がんの代表的治療方法
・待機療法
・ホルモン療法
・放尃線療法
・手術療法
効き目
(制がん性)
手軽さ
(低侵襲)
局所治療で完治をめざそう!
放尃線療法
前立腺全摘除術
放尃線 外部照尃
・月曜~金曜 1日1回
・1回の照尃時間=1~5分
・治療期間は7-8週
・通院で治療
<早期合併症>
皮膚の色素沈着、頻尿、排尿痛、排尿困難
排便回数の増加、残便感、下痢、 倦怠感、食欲不振
<晩期合併症>
血尿、放尃線性膀胱炎、血便、放尃線性直腸炎、インポテンス
永久挿入密封小線源療法(Brachytherapy)
・治療時間=約2時間、入院期間=約4日間
・性機能障害や尿失禁などの副作用が手術に比べ少ない
・排尿困難、頻尿、切迫感、排尿痛、尿失禁、血尿などが長引く(6-8ヵ月)場合
がある
強度変調放尃線治療
(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)
・強弱をつけた放尃線を多方向から組み合わせることで、腫瘍の形
に合わせて放尃線をあてることができる
・1回治療時間=約15分、 治療期間=7~8週
・頻尿や排尿困難、直腸出血などの副作用は従来法より少ない
放尃線療法の比較
外部照尃
IMRT
小線源
通院 / 入院 通院(7-8週) 通院(7-8週) 入院(3-4日)
費用(3割)
10-17万円
42万円
30-40万円
副作用
多い
少ない
少ない
※ホルモン療法を併用することがあります。
※IMRTや小線源療法は外部照尃を追加することがあります。
前立腺がんの代表的治療方法
・待機療法
・ホルモン療法
・放尃線療法
・手術療法
効き目
(制がん性)
手軽さ
(低侵襲)
前立腺全摘除術
開腹手術
・前立腺と精嚢腺を摘出、摘出後膀胱と尿道をつなぐ。
・(骨盤内のリンパ節も同時に切除)
・癌の状態を正確に判定できる。根治治療として長期の実績あり。
小切開手術
腹腔鏡下手術
ロボット支援手術
腹腔鏡下手術
・キズ小さい⇒痛み少ない⇒回復早い
・腹腔鏡は拡大視野⇒詳細がよく見える
・カメラで映ってない部位は全く見えない(死角)
・器具の操作範囲に制限
・2D(二次元)画像で立体感が
判りにくい
・炭酸ガスを使用
腹腔鏡下小切開手術(ミニマム創手術)
・臓器を取り出す最小限のキズで手術
(手術方法や手術器具は従来とほとんど同じ)
・傷は1つで小さい(4-7cm) ⇒痛み少ない⇒回復早い
・指を挿入することが可能 ⇒ 触診や圧迫止血が可能
・肉眼⇔腹腔鏡で確認しながら操作(炭酸ガスなし)
※2013.5月から施設認定を取得
ロボット支援腹腔鏡下手術
・基本的には腹腔鏡下手術と同じ
・手術器具に関節
⇒従来の腹腔鏡下手術器具より操作性向上
・3D画面、拡大視野
・全く感触がない
・ロボットがある病院に限られる
術者
前立腺全摘除術の比較
開放 小切開
腹腔鏡
ロボット
触覚
◎
○
△
×
3D
○
○
△
○
腹腔鏡視野
-
△
◎
◎
拡大視野
-
△
◎
◎
炭酸ガス
-
-
+
+
死角
-
-
+
+
リンパ節切除
緊急対応
◎
○
△
△
開放
小切開
腹腔鏡
ロボット
入院期間
10日
10日
7日
7日
費用(3割)
32万円
40万円
42万円
46万円
術後疼痛
+++
+
+
+
術後おしっこのチューブ抜去
7日目
7日目
4日目
4日目
術後尿失禁の改善
遅い
遅い
早い
早い
まとめ
・前立腺がんには治療しなくてよいタイプもある。
・治療方法の決定には、がんの特徴(PSA、グリソン・スコア、病期)
患者さんの特徴(年齢、他の病気、環境)、治療の特徴(根治性、
合併症、費用)などを考える必要がある。
・代表的な治療法には、待機療法、ホルモン療法、放尃線療法、
手術療法などがある。
・治療方法は「がんをやっつける方法」と「がんとうまく付き合う方法」
がある。
・前立腺がんの治療も日進月歩、選択肢も増え多様化している。
専門医の先生とよく相談しましょう。