当施設での前立腺癌に対する治療方法について PDF

当施設での前立腺癌に対する治療方法について
【現在のあなたの病状は…】
前立腺がん
血清 PSA 値:
(
)ng/mL
針生検の結果:
(
)本採取したうち、
(
)本でがん組織が検出されました。
組織学的分化度(悪性度)
:Gleason score グリソン・スコア(
病期:cT(
)N(
)M(
)、ステージ(
)
)
治療方針は、がんの病期(ステージ、進行度)
、組織学的分化度(悪性度)、ご年齢、合併症の有無などに
よって選択されます。最終的には医師と患者さんが話し合い、合意・納得の上で決定されます。いくつか
の治療を組み合わせて行うこともあります。
前述のように前立腺がんにはさまざまな治療法の選択肢があります。根治性、QOL、患者さんの背景な
ど十分に検討して治療法を決定します。当施設での治療方法について、それぞれ解説します。
東京都立大塚病院泌尿器科
1.
根治的前立腺全摘除術
2.
放射線療法 (放射線外照射、密封小線源永久挿入治療)
3.
ホルモン療法
4.
待機療法 (経過観察)
【1.前立腺全摘除術】
文字通り前立腺を全部摘出する方法で最も根治性が高いと考えられています。がん病巣が前立腺にとど
まるステージ A と B および C の一部が適応になります。当施設では下腹部を8cmほど切開して前立
腺を摘出します。手術時間は約 4 時間。入院期間は約 2 週間です。
利点
文字通り前立腺をすべて摘出することにより、がん細胞を体外にすべて取り出します。よって根治が望
める治療方法です。ただし手術で取りきれたと判断された場合でも、小さな病巣が残存して再発する可
能性があります。その場合も、放射線外照射やホルモン療法を追加できます。
欠点
1.
術中合併症:出血(手術前に自分の血液を準備しておきます。)、直腸の損傷など。
2.
術後尿失禁:前立腺を摘出して膀胱と尿道を直接つなげますので、手術直後は多かれ少なかれ尿漏
れします。尿漏れパットで対応することになります。ほとんどの方は術後1~3ヶ月で改善します
が、約5%の方で少量の尿漏れが残ります。
3.
性機能障害:勃起神経を前立腺とともに摘出すると、術後勃起はしなくなります。病状により勃起神
経の温存を目指すことが可能です。ただし射精はできません。
【2.放射線療法】
放射線外照射:三次元原体照射(3D-CRT)
体の外から放射線を当てます。がん病巣が前立腺にとどまるステージ A と B および C(手術では取りき
れないと予想される症例も含む)が適応になります。決められた量の放射線を決められた回数に分けて、
少しずつ照射します。当施設では通常 3 泊 4 日入院で開始していただき、そのあとは通院治療となりま
す。1 回の治療時間は約15分程度。合計 35 回(70Gy)
、週 5 日(月~金)、約7週間かかります。
利点
体への負担が少ないので、ご高齢の方や合併症をお持ちの方も対象となります。基本的に通常通りの仕
事や生活が送れます。照射による痛みはなく、尿失禁症状が起こることは少ないです。前立腺全摘除術と
ほぼ同等もしくはそれに準ずる治療効果があり、病期によっては根治が望めます。
欠点
1.
早期合併症:頻尿、排尿時痛といった膀胱刺激症状、頻便、肛門痛、排便痛といった直腸刺激症状が
東京都立大塚病院泌尿器科
治療期間中に起こりえます。多くは治療後に軽快してきます。
2.
晩期合併症:5%未満の頻度ですが数年後に直腸や膀胱の粘膜障害を起こす可能性があります。も
しも発症した場合には薬物や高圧酸素療法で治療します。非常にまれですが人工肛門や尿路変更術
を必要とする可能性も考えられます。
3.
性機能障害:勃起神経にも放射線が当たりますので、治療から1~2年後くらいに起きてくるとさ
れます。
強度変調外照射療法(IMRT)やトモテラピーといった、三次元原体照射をさらに改良した装置による治
療をご希望される方は、該当する施設へご紹介させていただきます。
【密封小線源永久挿入治療】
放射線を発する長さ 5mm のチタン製のチップを50~100個前立腺の中に埋め込みます。永久埋め
込み型ので、治療後に取り出すことは行いません。チップから放射線が発せられる期間は約 1 年です。
比較的早期の前立腺がんが対象となります。外照射治療と組み合わせる場合もあります。通常、腰椎麻酔
下で線源挿入操作をおこない、所要時間は約3時間です。4~5 日間の入院となります。日本国内では
2003 年 9 月から開始されました。当施設では行っていませんので、東京医科歯科大学附属病院(文京
区湯島 1-5-45)などにご紹介させていただきます。
利点
短い入院期間で、十分な量の放射線(約140Gy)を前立腺にあてることができます。比較的早期の前
立腺がんに対する治療効果は前立腺全摘や放射線外照射とほぼ同等とされています。全摘手術に比べて
体への負担や痛みは軽度です。
欠点
1.
早期合併症:線源挿入直後は穿刺部位の腫脹と軽い痛み、血尿、排尿困難、排尿時痛などが数日続き
ます。一時的に尿が出なくなる場合もあります。排尿障害は半年くらいで改善しますが、1 年以上残
存する場合もあります。
2.
晩期合併症:まれに数年後尿道狭窄や直腸潰瘍、直腸穿孔などを起こすことがあります。
3.
性機能障害:外照射治療と同様に、治療から1~2 年後に起きてきます。
【3.ホルモン療法 】
薬を使ったり、睾丸を摘出することによって、男性ホルモンの働きを抑え、前立腺がん細胞の増殖、進展
を遅らせることができます。すでに骨やリンパ節に転移している進行性前立腺がんに対する治療の中心
となるとともに、手術や放射線治療に組み合わせたりします。薬による治療を大別すると LHRH アゴニ
スト製剤と抗男性ホルモン剤、女性ホルモン剤などがあり、PSA 値の変化を参考にしてこれらを順次投
薬したり、組み合わせたりします。
東京都立大塚病院泌尿器科
利点
すべての病期の前立腺がんが対象となります。ご高齢の患者さんも対象となります。短期的な治療効果
はいずれの病期でも著明です。ただし、後述するように限局性前立腺がんに対する適切な治療期間はわ
かっていません。
欠点
1.
ホルモン療法抵抗性がんへの移行:進行性前立腺がんでは、その治療効果を維持できる期間は数年
とされ、やがてホルモン療法に対して抵抗性のあるがん細胞が現れてきます。
2.
不確定な投薬期間:進行性前立腺がんに対しては、治療効果が続く限り継続します。ただし、限局性
前立腺がんに対していつまで治療を続ければよいかはわかっていません。
3.
有害事象:ほてり・発汗といった女性の更年期類似症状。乳房の腫脹・圧痛。性機能低下。薬剤性肝
機能障害。長期投与に伴う骨粗鬆症・活力の低下など。
【4.待機療法】
悪性度の低い早期前立腺がんが対象になります。定期的に血清 PSA 値を測定して経過観察を行い、病勢
を見極めて、適切な時期になったときに治療を開始するという考え方です。前立腺がんと待機療法に関
する十分な知識と理解が必要です。
以上が当施設でおこなっている治療方法の概要です。ご質問などございましたら、ご遠慮なく担当医に
ご相談ください。また他の医療施設でのセカンドオピニオンなどをご希望される方もご遠慮なく担当医
にお申し出ください。
東京都立大塚病院泌尿器科