入所時、現場は完全な手作業、完全な分業体制で、何より 体力勝負だった

「タオルびと」2015 年 9 月号(芥川記氏編②)
2.
染織試験場での活動
入 所 時 、現 場 は完 全 な手 作 業 、完 全 な分 業 体 制 で、何 より
体 力 勝 負 だった
芥 川 記 氏 が 21 歳 で 試 験 場 に 入 所 し た と き 、 現 場 で の 作 業 は 完 全
な手仕事だった。そして、染晒工程、製織工程、デザインは完全な
分業体制になっており、染色技術者で入所した芥川氏は退職までの
40 年 間 、 染 晒 以 外 の 仕 事 に 従 事 し た こ と は な い 。 職 業 訓 練 校 時 代
も染色技術のいろはについては徹底的に勉強したが、製織やデザイ
ンに関しては基礎的な知識に留まった。こうして、染色一本の仕事
人生がはじまった。
か せ い と
機械化される以前の染晒工程はかなりの力仕事であった。綛糸に
糊を付け乾燥させる際は、現在のように蒸気の熱で乾燥させるとい
うことはなく、竹竿にかけて天日干しをした。天日干しされた色と
りどりの糸は独特の景観を生み出し、まるで芸術作品そのもので今
治の風物詩となった。糸を染色する際は、ボイラーも普及していな
い時代だったため、石炭を使って釜を熱し、熱せられた釜のなかの
染料に糸を浸けた。色がムラにならないように鉄製の道具を使って
手で何度もひっくり返し、時間をかけて糸に染色が施された。当時
は排水処理施設が整備されていなかったため、使用後の染料は川に
放 流 さ れ た 。多 種 多 様 な 染 料 が 使 わ れ た こ と か ら 、「 今 治 の 川 は 七 色
の 川 」 と よ く 言 わ れ た の は そ の た め で あ る 。 20 代 は こ う し た 手 作
業での仕事ゆえ、たいそう苦労した。
1960 年 代 に 入 っ て 徐 々 に 機 械 化 さ れ て か ら は 幾 分 力 仕 事 か ら 開
放されたが、製織技術の進歩にともなって染晒加工も変化し、より
多 様 に 複 雑 に な っ て い っ た 。図 1 で み る よ う に 、タ オ ル 用 原 糸 の 染
晒加工工程は大きく 3 つに分類される。
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① 綛染晒加工
昔 か ら あ る 染 晒 加 工 方 法 。漂 泊 染 色 槽 の な か に 設 置 さ れ た バ ス
ケットに綛糸を入れ、過酸化水素で精錬漂泊する。つぎに、先
染する場合は反応染料やインダンスレン染料などを使って染
よ こ い と
色し、経糸(パイル)と緯糸と地糸を糊付し、乾燥させてチー
ズ巻にしてタオル工場へ出荷する。
② チーズ染晒加工
漂 泊 染 色 槽・糊 付 槽 の な か に 設 置 さ れ た チ ー ズ キ ャ リ ア ー に チ
ーズ状の原糸を入れ、過酸化水素で精錬漂泊する。つぎに、先
染する場合は反応染料やインダンスレン染料などを使って染
色し、経糸(パイル)と緯糸と地糸を糊付し、乾燥させてチー
ズ巻にしてタオル工場へ出荷する。
③ ビーム染晒サイジング加工
漂泊染色槽のなかに設置されたビームキャリアーに荒巻にさ
れ た ビ ー ム 状 の 原 糸 を 入 れ 、過 酸 化 水 素 で 精 錬 漂 泊 す る 。つ ぎ
に 、先 染 す る 場 合 は 反 応 染 料 や イ ン ダ ン ス レ ン 染 料 な ど を 使 っ
て染色し、スラッシャーサイジングで糊付、乾燥、ビーム整経
をおこない、タオル工場へ出荷する。
染 色 加 工 研 究 工 場 ( チ ー ズ 染 色 機 )
( 愛え媛愛県媛染県織 試 験 場 パ ン フ レ ッ ト よ り 転 載 )
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図1 染晒加工工程
原糸
③ビ ーム染晒サイ ジ ン グ加工
②チーズ染晒加工
①綛染晒加工
荒巻
ソフト 巻
綛取
精練漂泊
精練漂泊
精練漂泊
染色
染色
染色
糊付・ 乾燥・ ビ ーム整経
糊付
糊付
乾燥
乾燥
チーズ巻返し
チーズ巻返し
染料の種類も技術の進歩と相まって変化していった。まず、天然
染 料 と 合 成 染 料 に わ け た 場 合 、図 2 の よ う に 分 類 で き る 。数 千 年 前
か ら 人 間 が 衣 料 な ど の 着 色 に 用 い て き た 天 然 染 料 に は 、動 物 、植 物 、
鉱物の 3 種類がある。
そ し て 、1 8 5 6 年 に イ ギ リ ス 人 の W . H . パ ー キ ン
が塩基性染料
を開発して以来、直接染料や媒染染料、ナフトール染料、建染メ染
料など数々の合成染料が開発され、天然染料にとって代わられた。
合 成 染 料 は 、図 3 で み る よ う に 、染 法 に よ っ て 直 接 染 法 、媒 染 染 法 、
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還元染法、発色染法、分散染法、反応染法などに区分でき、各染法
によって染料が分かれている。各染法について、その方法と特徴を
まとめたものが表 1 である。
図2 染料の種類
天然染料
染料
動物染料
植物染料
鉱物染料
合成染料
図3 合成染料の種類
合成染料
直接染法
直接染料
酸性染料
塩基性染料
媒染染法
媒染染料
酸性媒染染料
還元染法
建染メ 染料
硫化染料
発色染法
ナフ ト ール染料
酸化染料
分散染法
分散染料
反応染法
反応染料
ケイ 光増白染料
油溶染料
食用染料
顔料樹脂染料
そ の他
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芥川氏いわく、タオルの染色に適した染料は還元染法の建染メ染
料、発色染法のナフトール染料、反応染法の反応染料であり、その
け ん ろ う ど
なかでも比較的安価で 堅牢度を得やすい 建染メ染料のインダ ンス
レン
染料が戦後おもに使用されていた。インダンスレン染料は
当時先進的な技術を有していたドイツのメーカーから仕入れており、
イ ン ダ ン ス レ ン の 通 称「 ス レ ン 」も ド イ ツ メ ー カ ー の 商 品 名 だ っ た 。
昭 和 40 年 あ た り ま で イ ン ダ ン ス レ ン 染 料 が 広 く 使 わ れ て い た が 、
インダンスレン染料とナフトール染料は色が限られており機械染め
には不向きな点があったため、代わって反応染料が急速に普及して
いった。反応染料は、染法がより簡単で豊かな色相を持ち、堅牢度
にも非常に優れており、かつ機械染めに適していた。ただひとつ、
塩 素 に 弱 く 洗 濯 す る と 色 が と れ や す い と い う 難 点 が あ っ た 。つ ま り 、
塩素系の家庭用洗剤を使うと色落ちしやすかった。
「非常に淡い色の
タオルが洗濯機にかけたら、真っ白になってでてきた」という面白
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いエピソードがあるほど、当時の染色の技術は発展途上にあった。
染 織 試 験 場 の 染 晒 部 門 で は 、図 3 に あ る よ う な 染 法 お よ び 染 料 を
原糸に合わせて実験をおこない、おもに染晒加工業者にその成果を
還元した。また、染晒加工業者によっては染織試験場にある機械を
借 り て 、 自 分 で 実 験 す る こ と も 多 々 あ っ た 。(
次 号 に つ づ く )
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