本文 - J

●特集 「人工臓器と救急・集中治療」
心肺停止症例と人工心肺(PCPS)
市立札幌病院救命救急センター
鹿野 恒
Hitoshi KANO
標に向かっての第一歩を踏む出すことになる」2) と記述し
1. はじめに
ており,あくまで脳蘇生の前提を心拍再開に求めている
経皮的心肺補助(PCPS: percutaneous cardiopulmonar y
(図 1)。さらに「AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のための
support)は,重症心不全(急性心筋梗塞,心筋症,劇症型心
ガイドライン 2005」
(以下,ガイドライン 2005)では「CPR
筋炎など)
,開心術後の低拍出症候群,大血管手術(胸部下
を継続しながら搬送された患者のうち生存退院したのは
行大動脈瘤,胸腹部大動脈瘤)による補助循環や重症呼吸
1%未満であり,特殊な状況(低体温など)でなければ,非
不全などの病態に用いられているが,近年救急医療の現場,
外傷性および鈍的外傷性院外心停止については,現場での
特に心肺停止患者への適用が急増してきている 1) 。しかし,
ACLS ケアで傷病者を蘇生させることができないならば,
PCPS は装置が高価であることや導入にマンパワーを要す
救急部におけるケアでも蘇生は無理であろう」3) と記載し
る治療法であることから,導入をためらっている施設も少
ている。このように,現時点では院外心原性心肺停止患者
なくない。また,PCPS の適応や使用法についても各施設
に対して現場で蘇生できなければ,CPR を継続しながら病
によって様々であり,その効果については疑問視する声も
院救急部に搬送し,心肺脳蘇生術を継続する有用性は指摘
聞かれる。しかし,救急・集中治療の現場では,PCPS は
されていない。しかし,果たして心拍再開が得られないか
ACLS(advanced cardiovascular life support)に反応しない
らといって脳蘇生まで救急外来であきらめて良いのであろ
患者に対する最期の強力な心肺脳蘇生手段である。ここで
うか。
は,海外の報告や自験例を挙げ,心肺停止患者に対する
例えば,LMT(left main trunk)閉塞による重症心筋梗塞
PCPS の適用について解説する。
2. 心肺脳蘇生の概念
現 在 の 心 肺 脳 蘇 生 法 の 原 則 は 自 己 心 拍 再 開(ROSC:
return of spontaneous circulation)にある。当たり前のよう
に聞こえるかもしれないが,要は救急外来で心臓が動き出
せば蘇生できるが,心臓が動かなければそれは患者の死を
意味する。
ACLS プロバイダーマニュアルでも「脳蘇生は ACLS の一
番重要な目標」としているものの,
「救急心血管治療(ECC)
を行なう者は,患者の自己心拍が再開したときに,その目
■著者連絡先
市立札幌病院救命救急センター
(〒 060-8604 北海道札幌市中央区北 11 条西 13 丁目 1-1)
E-mail. [email protected]
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図 1 ACLS と PCPS を用いた心肺脳蘇生法
ROSC ※ : return of spontaneous circulation.
図 2 PCPS システム
(澤 芳樹,平山篤志,西村元延:PCPS の概要.新版 経皮的心肺補助法 ̶PCPS の最前線,松田 暉監修,
秀潤社,東京,2004, 10 より引用)
によって心停止となった場合に,心臓マッサージの下で薬
たが,その後,気泡型人工肺を小型の膜型肺に,ローラーポ
物投与および除細動が行なわれるが,冠動脈の再開通なく
ンプを遠心ポンプに切り替え,さらに経皮的穿針(Seldinger
して心拍再開する症例は限られる。このような場合,PCPS
法)により挿入可能な thin wall cannula の開発が進み,小型
の迅速な導入を行ない,まず低灌流および低酸素に最も弱い
化・即応性に優れたシステムとなった。
臓器である脳を保護した上で,有効な冠動脈治療(PCI:
しかし,全国でも比較的 PCPS の導入の早かった札幌医
percutaneous coronar y inter vention)を行ない心拍再開さ
科大学および市立札幌病院においても 1999 年までは症例
せることにより,患者を社会復帰させることが可能である。
数も年に数件程度であり,社会復帰症例は限られていた。
つまり,通常の ACLS により心拍再開の得られない患者に
それまでは患者が救急外来に搬入されてから PCPS を開始
対して迅速に PCPS を導入し,まず脳蘇生を最優先し,そ
するまでに,市立札幌病院で 43.7 分,札幌医科大学でも
の後適切な PCI などにより心蘇生(心拍再開)を行なうこ
49.9 分の時間を要していた 8) 。そこで,PCPS 導入に関す
とが可能となる(図 1)。
る時間的問題を解決するために,札幌市で以前から行われ
ていたドクターカーシステムと PCPS による心肺脳蘇生法
3. 心肺脳蘇生法としての PCPS の歴史
をコラボレーションし,2000 年より「pre-hospital PCPS
心肺脳蘇生の臨床において人工心肺が用いられるように
order システム」9) を導入することにより,PCPS 導入時間
なったのは,1983 年に Philips ら 4) が経皮的に挿入可能な
の大幅な短縮と良好な成績を収めるに至った(後述)
。そ
thin wall cannula と遠心ポンプを組み合わせた回路を開
して,救急医療における心肺脳蘇生の分野で,PCPS による
発し,臨床応用したことに始まる。その後,Pretto ら 5),
心肺脳蘇生法が新しい一歩を踏み出したのである。
Levine ら 6) が動物実験によりその有用性を確認し,本邦で
は 1988 年に札幌医科大学の伊藤ら 7) により臨床応用が始
まり,市立札幌病院でも 1991 年より院外心停止患者に対
4. PCPS システムの構成(図 2)10)
PCPS システムは,遠心式人工心臓(遠心ポンプ)
,ポン
プコンロールユニット(バッテリー内蔵)
,膜型人工肺,酸
して PCPS 導入を開始した。
当初は気泡型人工肺とローラーポンプ,回路は開心術用
素供給源(酸素ボンベ・ブレンダー),ヘパリンコーティン
回路を流用したものであり即応性に欠けていたため,救急
グ血液回路,ヘパリンコーティングカテーテル(送脱血管)
外来に事前に充填して準備する stand-by 方式が採られてい
からなる。
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1)遠心ポンプ
表 1 市立札幌病院の PCPS 適応基準
円錐形もしくは円盤状のプラスティックハウジングの中
をインペラーやコーンと呼ばれる回転体が高速で回転し,
中心部と外周部にできる圧力差によって血液を駆出させ
る。したがって,駆出される液体の流れはローラーポンプ
のような拍動流ではなく,定常流となる。また,体血液量,
人工肺,カテーテル径,回路長,体血管抵抗などが遠心ポ
① 75 歳以下(原則的に)
② 発症目撃がある(偶発性低体温症は除く)
③ 発症前の ADL が良好である
④ 薬剤や除細動に反応しない心肺停止患者 ②については,発症までの時間が短いと推測される(初回心電図が VF であ
る症例など)症例を含む
ADL: activities of daily living.
ンプの前・後負荷として作用するため,これらの環境に
よって駆出流量が変化するという特徴を持っている。
2)膜型人工肺
現在使用されている人工肺のガス交換膜素材の主流は,
高分子の炭化水素であるポリオレフィン類で構成される多
6. PCPS の導入と管理
1)PCPS の導入
(1)PCPS 回路のプライミング
孔質中空糸であり,空孔により直接血液とのガス交換が行
PCPS 回路は生理食塩水を用いてプライミングを行なう
なわれるため,高いガス透過性が達成されている。基本的
が,この際に回路内から空気を十分に除去しなければなら
には血液の表面張力によって血液成分がガス送風側に漏れ
ない。空気が多量に残存したままプライミングを続けると,
出すことはないが,長時間の使用により空孔に対する血液
遠心ポンプが熱により破損する場合がある。また人工肺な
の親和性が増し,血漿成分が漏出することがある。そこで
どに空気が残存していると空気塞栓症を引き起こしたり,
当院で使用しているプラズマキューブシリーズ(エドワー
PCPS 動作中に回路内血栓が発生する頻度が増加する。空
ズライフサイエンス社,開発:大日本インキ化学工業)は,
気を十分除去するためには,生理食塩水が人工肺に十分に
血液接触面に薄い緻密層を設け,血漿成分の漏出が起こり
満たされた状態で,通常の動作中の回転数よりやや高回転
にくい構造となっている。
で PCPS 回路内のプライミング液を循環させ,人工肺より
3)ヘパリンコーティングカテーテル・血液回路
現在のカテーテル・血液回路は全てヘパリンコーティン
空気抜きを行なう。
(2)カニュレーション
グされており,抗血栓性に優れている。しかし,ヘパリン
PCPS 導入の際に最も律速段階となるのは PCPS カテー
などの抗凝固薬の投与が不要なわけでなく,当施設では
テルのカニュレーションであり,この成否が PCPS 導入を
ACT(activated coagulation time)を血液流量にあわせて
効果的なものとするかどうかを分けると言っても過言では
200 ∼ 250 秒に調節している。また,カテーテルは屈曲や
ない。まず大腿動脈および静脈に 16 Ga の留置針を用いて
折れ曲がりに強い構造になっており,さらに操作性も向上
穿針を行なうが,この場合,それまでの経過において十分
し,基本的には経皮的に Seldinger 法で挿入可能であるが,
な CPR が行なわれていれば,動脈血と静脈血を見誤ること
場合によっては皮膚切開して血管を露出した後に挿入する
は少ない。しかし,原疾患が急性肺動脈塞栓症や偶発性低
こともある。
体温症の場合には,動脈血と静脈血を区別できない場合も
あり,穿針後にガイドワイヤーを血管内に挿入しエコー検
5. 心肺停止症例に対する PCPS の適応
査などによって大動脈内または下大静脈内にあるかを確認
心肺停止症例に対する PCPS の適応については,いまだ
する。大腿動静脈に挿入するカテーテルは動脈側(送血側)
統一された適応基準はなく,それぞれの施設で決められて
に 16 ∼ 20 Fr,静脈側(脱血側)に 18 ∼ 22 Fr を選択するこ
いるのが現状である。市立札幌病院の PCPS の適応基準を
とが多い。
表 1 に示すが,他施設の基準と比較して簡便なのが特徴で
(3)PCPS 回路とカテーテルの接続
ある。特に除外基準として頭蓋内出血性病変を除外する施
PCPS 回路とカテーテルを接続する際には接続部にヘパ
設が多い 11),12) が,そのためには頭部 CT 検査などを行なう
リン加生理食塩水を十分に満たしながら,空気が入らない
必要があり,当施設ではより早期の脳循環回復を目標とし
ように接続する。接続が確認されたら回路とカテーテルの
ているため PCPS 導入前に頭蓋内病変の検索は行なってい
クランプをはずし,PCPS 駆動装置の回転数を徐々に増加
ない。また,偶発性低体温症による心肺停止症例について
させる。この時に大切なことは,脱血側には静脈血が,送
は国内外で多くの報告が見られており 13) ∼ 16),PCPS の良
血側には酸素化された動脈血が流れ続けていることを確認
い適応と考えられる。
するまで,心臓マッサージを継続することである。もし,2
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図 3 札幌市の pre-hospital PCPS order システム 9)
本のカテーテルが同一血管内に留置されている場合には,
回路より動脈血を送血するようにしている。また,比較的
PCPS 開始後に脱血側も送血側も酸素化された血液の色を
稀であるが,溶血を起こす場合にはハプトグロビンの投与
呈し,そのまま心臓マッサージを中断してしまうとその時
を行なう。
点で心肺脳蘇生が中断されることになるからである。
2)PCPS の管理
7. 市立札幌病院における心肺脳蘇生のプロトコール
市立札幌病院では 1991 年より積極的な心肺脳蘇生のた
(1)循環維持
PCPS 循環血液量の目安は 3 ∼ 4 l/min であり,循環血液
めに PCPS を導入している。心肺停止に対する適応基準に
量が不足するとカテーテルが震えだすため細胞外液を補充
ついては表 1 にまとめたが,さらに札幌市では積極的なド
するが,大量の補液が必要な場合には輸血を行なう場合も
クターカー運用に伴い「pre-hospital PCPS order システム」
ある。また,心機能が改善してくると左室後負荷が増大す
を導入した治療戦略をとっている 9)(図 3)。院外心肺停止
るため,徐々に PCPS の流量を減ずる必要があり,1.5 l/
患者が発生し 119 番通報があると,直近の救急隊が出動す
min 以下となる場合には回路内凝固の危険性が高まるた
るとともに市立札幌病院にドクターカー要請が行なわれ
め,心機能の評価を行ない,早期に PCPS 離脱を心がける。
る。ドクターカーは現場に到着するか,あるいは向かって
くる搬送救急隊とドッキングし,出動医師による ACLS を
(2)抗凝固薬の投与
6 ∼ 8 時間ごとに採血し ACT をモニタリングし,ACT が
含む医療行為が開始される。しかし,処置を継続しても心
180 ∼ 220 秒となるようにヘパリンの持続投与を行う。た
拍再開が得られず,この時に脳蘇生の可能性があると判断
だし,血液流量を減じる場合には若干 ACT が延長するよう
した場合には,直ちに搬送病院(市立札幌病院,札幌医大
に管理する。
病院,北大病院)に PCPS order を行なう。連絡を受けた病
3)PCPS による合併症
院内では直ちに PCPS 回路のプライミングおよびカニュ
抗凝固薬投与による出血性または血栓性合併症と,カ
レーションの準備が開始される。その間も継続して出動医
テーテル挿入に伴う合併症が存在する。前者では頭蓋内に
師と病院間において連絡を取り合い,病院到着時に心拍再
限らず消化管出血などの合併症があるが,致死的な出血が
開していなければ,搬入と同時にカニュレーションが開始
ない限りは抗凝固薬の投与量を減量し,経過を十分に観察
され,PCPS が迅速に導入される。
する。後者ではカテーテル挿入部に血腫を形成する場合や
動脈側(送血側)の下肢虚血を引き起こす場合がある。こ
の場合は浅大腿動脈に順行性に 5 Fr シースを挿入し,送血
8. 市立札幌病院における PCPS の臨床成績
市立札幌病院救命救急センターでは 1991 年∼ 2008 年 1
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41
表 2 PCPS 導入症例(院外心肺停止)の原因疾患
虚血性心疾患
非虚血性心疾患
偶発性低体温症
急性大動脈解離
肺塞栓症
脳血管障害
高 K 血症
中毒
77 例
66 例
21 例
11 例
3例
3例
3例
1例
図 4 PCPS 導 入 症 例
(院外心肺停止)
の予後
表 3 心肺停止患者に対する PCPS 導入と予後
報告年
症例数
離脱率
生存率
Mégarbane B 17) 2007
Massetti M 18)
2005
Chen YS 19)
2003
Schwarz B 20)
2003
Younger JG 21)
1999
奈良 理 22)
2006
鹿野 恒
投稿中
17
40
57
21
25
156 ※ 1
174 ※ 1
18%
15%
67%
57%
36%
24%※ 2
20%※ 2
32%
14%
36%※ 2
21%
40%
※1
院外心肺停止患者のみ,※ 2
51%
心臓移植や VAD 装着を含む。
月に PCPS を導入した症例は 217 例であり,そのうち院外
心肺停止患者 185 例の原因疾患および予後についてまとめ
た(表 2,図 4)
。原因疾患は虚血性心疾患が 77 例と最も多
く,次いで非虚血性心疾患(心筋症,心筋炎,特発性不整脈
など)66 例,偶発性低体温症 21 例,急性大動脈解離 11 例
表 4 院外心肺停止患者に対する PCPS の代表的症例
16 時 37 分(0 分)
16 時 43 分(6 分)
16 時 47 分(10 分)
16 時 48 分(11 分)
119 番通報あり,同時にドクターカー出動
救急隊が現着し CPR を開始
除細動を施行するも VF 解除不能
ドクターカー現着。薬剤投与および除細
動にて VF 解除できず
17 時 02 分(25 分) 市立札幌病院へ PCPS order
17 時 12 分(35 分) 救命救急センターに搬入
17 時 19 分(42 分) PCPS および人工肺 cooling による脳低温
療法を開始
17 時 30 分(53 分) 冠動脈造影検査および冠動脈形成術
17 時 45 分(68 分) 深部体温が 34℃
19 時 00 分(143 分)ICU に 入 室。 心 エ コ ー 検 査 で も 駆 出 率
(EF)は 5%未満
16 時間後 心拍再開(頚動脈が触知可能),駆出率(EF)15%
40 時間後 PCPS 離脱
の順に多かった。先にも述べたが,当院では PCPS 導入前
に 頭 蓋 内 疾 患 の 検 索 を 行 な っ て い な い が,実 際 に は
脳 血 管 障 害 症 例 は く も 膜 下 出 血 2 例,脳 出 血 1 例 の 3 例
(1.6%)のみであった。また,全 185 例の予後は,心拍再開
率 74.6%,PCPS 離脱率 51.4%,生存率 38.9%,意識回復率
また,海外では PCPS を離脱できない症例については
VAD(ventricular assist device)の装着および心臓移植が行
25.9%,社会復帰率 21.1%であった。
9. 国内外の心肺停止患者に対する PCPS の成績
近年報告されている心肺停止患者に対する PCPS の成績
を表 3 にまとめた 17) ∼ 22)
院内心肺停止よりも条件が悪いにもかかわらず,PCPS 離
脱率や生存率は院内発症の症例に匹敵している。
。対象が ACLS 抵抗性心肺停止患
者であることより control study は存在しない。これらの報
告において,PCPS からの離脱率は 15 ∼ 67%,生存率は 14
∼ 40%であったが,海外ではほとんどの症例が院内発症の
心肺停止であった。Kur usz ら 23) は心肺停止患者に対して
われており,PCPS を離脱できなくても生存者が存在する。
逆に本邦では心臓移植数が極めて少ないため,全ての生存
者は PCPS を離脱した患者であり,今後,本邦においても
PCPS 離脱不能症例に対する VAD 装着や心臓移植が期待さ
れる。
10. 院外心肺停止患者に対する PCPS の代表的症例
(表 4)
PCPS を用いた 13 の報告をまとめたところ,PCPS 導入 407
40 歳代の冠動脈バイパス手術の既往のある患者が仕事
症例中,30 日以上の生存は 88 例(21.6%)であった。これ
中に急に倒れ,16 時 37 分に 119 番通報あり,同時にドク
らの報告からみると,心肺停止症例に対する PCPS 導入に
ターカー出動。16 時 43 分(覚知から 6 分:以下“覚知から”
よる生存率はおおよそ 20%前後と推測される。その点,本
省略)に救急隊が現着し CPR を開始するとともに VF(ven-
邦の報告は院外心肺停止症例に対する PCPS 導入であり,
tricular fibrillation)を認めたため,16 時 47 分(10 分)に除
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細動を行なうも解除できなかった。16 時 48 分(11 分)にド
クターカーが現着し,薬剤投与および計 6 回の除細動を行
うも VF を解除できず,17 時 2 分(25 分)市立札幌病院に
PCPS order を行ない,病院内で PCPS の準備を開始した。
その後も ACLS を継続するも心拍再開は得られず,心電図
は VF のまま 17 時 12 分(35 分)救命救急センターに搬入さ
れた。直ちにカニュレーションを開始し大腿動脈に 16 Fr,
大腿静脈に 18 Fr のカテーテルを挿入し,17 時 19 分(覚知
から 42 分,搬入から 7 分)に PCPS(3.5 l/min,4,000 rpm)
および人工肺 cooling による脳低温療法を開始した。PCPS
の循環を確認した後に除細動を行ない,1 回で VF は解除さ
れた。しかし,心エコー検査でも心収縮を認めず,PEA
(pulseless electrical activity)のまま 17 時 30 分(53 分)に冠
動脈造影検査を開始し,バイパスの 1 本が 99%狭窄であっ
たためステントを留置した。また同時に開始している脳低
温療法についても,17 時 45 分(68 分)には深部体温が 34℃
となった。その後も PEA の状態が持続しており 19 時に
ICU に入室したが,その時点での心エコー検査でも駆出率
(EF)は 5%未満であった。しかし,徐々に心収縮が認めら
れ,翌日 12 時に駆出率が 15%程度になった段階で初めて
頚動脈が触知可能となり,心停止から約 20 時間後に心拍再
開を得た。さらに 24 時間後に PCPS を離脱することができ,
リハビリテーションの後に神経学的後遺症なく退院した。
11. 最後に
現在の心肺脳蘇生においては,
「脳蘇生は ACLS の一番重
要な目標である」としているものの,その前提はあくまで
心蘇生(心拍再開)である。ACLS に抵抗性を示す心原性院
外心肺停止症例であっても脳蘇生の可能性があれば,
「い
かに早く脳循環を再開する目的で PCPS を導入するか」が
脳蘇生の成否を分ける。代表症例に挙げたように,たとえ
救急外来や ICU 入室後に心蘇生に成功しなくても,患者は
意識を回復し社会復帰することができる。決して心蘇生(心
拍再開)ができないからと言って脳蘇生が不可能なわけで
はない。今後,国内外において院外心肺停止患者に対する
PCPS の多施設共同研究が行なわれることが望まれる。
文 献
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