実用ローエネルギー住宅における暖房・換気性能および室内温熱環境の実測 Measurement of Heating and Ventilation Performances and Indoor Thermal Environment in an Actual Low Energy House 正 会 員 長野 克則(北海道大学) 学生会員 ○堀 彰吾(北海道大学) 正 会 員 武田 清香(北海道大学) 正 会 員 中村 真人(北海道大学) 正 会 員 射場本 忠彦(北海道大学) 正 会 員 成田 樹昭(北海道大学) 正 会 員 葛 隆生(藤原環境科学研究所) 正 会 員 柴田 和夫(日伸テクノ) 正 会 員 仁木 康介(サンポット) Katsunori NAGANO*1 Shogo HORI*1 Sayaka TAKEDA*1 Tadahiko IBAMOTO*1 Shigeaki NARITA*1 Makoto NAKAMURA*1 Takao KATSURA*2 Kazuo SHIBATA*3 Kousuke NIKI*4 *1 Hokkaido University *2 Fujiwara Environmental Science Institute Ltd. *3 Nissin Techno Incorporated *4 Sunpot Co., Ltd. The objective of this paper is to describe the performance of Ground Source Heat Pump (GSHP) system for heating and ventilation applied in an actual low energy house. Recently, in Japan, GSHP systems have been introduced, however only few of them have been demonstrated their efficiency. Firstly we investigated the performance of GSHP system which is applied to the actual low energy house of cold region by actual inspection. Secondly, ventilation system with earth tube was observed its efficiency. From the inspection, the system showed satisfied performance in terms of energy conservation. 1. はじめに 居住空間を快適に保つためには、暖房・断熱・気密・ 換気の 4 つの要素を総合して考える必要がある。筆者ら は高性能住宅における、暖房・換気性能の検証およびそ のときの室内温熱環境の測定を行った。 本物件において、 暖房設備には地中熱を熱源として利用する地中熱ヒート ポンプ(Ground Source Heat Pump;以下GSHPとする)シ ステムを使用している。GSHPシステムの導入物件の数 は徐々に増えてきたが、実際にGSHPシステムが理想的 に導入された建物はほとんどなく、GSHPシステムが本 来持つポテンシャルが実証された例もない。そこで、実 測によるGSHPシステムの有意性と環境性能の検証を行 った。また、換気性能については、アースチューブによ る導入外気の予熱効果の検証と、それを伴う熱交換換気 装置を用いた集中換気システムの性能検証を行った。 2. 実測調査先の概要 今回の実測調査先は、様々な要素を取り入れたローエ ネルギーハウスである。外観とローエネルギーハウスの コンセプトを図‐1 に示す。住宅性能は、高断熱・高気 密な仕様となっている。屋根・壁の断熱材厚さはそれぞ ローエネルギーハウス 住宅性能 高断熱・高気密 給湯 日射取得 エコキュート 暖冷房 換気 太陽光発電 GSHPシステム 熱回収型熱交換器 PVパネル 図‐1 外観とコンセプト れ 240 mm、186 mm である。さらに、厚さ 300 mm の床 スラブの蓄熱効果により、温暖な環境を保持することが 可能である。また、日射をより多く取り入れるために家 全体の窓面積 83 m2 の 63%は南面に配置されている。窓 表‐1 GSHP1001 仕様表 定格電圧 100V 200V 定格消費電力 暖房能力 COP 圧縮機 1次側 2次側 ポンプ流量 12 0-45℃出力 0-35℃出力 10 出力 [kW] 6 0-60℃出力 5 0-35℃COP 8 4 0-45℃COP 6 3 0-60℃COP 4 2 2 1 0 0 30 45 75 圧縮機器回転数 [Hz] 95 データ提供元:サンポット(株) 図‐2 GSHP ユニットの性能曲線 GL 表土 (火山灰・粘土) 3m 凝灰質シルト 2m 玉石混じり砂礫 14.7 15m 100m 泥岩 80m 図‐3 地質柱状図 40 10 T2out(2次側GSHP出口) 30 8 20 6 室内温度 GSHP出力 10 4 出力 [kW] T2in(2次側GSHP入口) 温度 [℃] 3. 実用ローエネルギー住宅における GSHP システムの性能評価 3.1 GSHP システムの概要 本物件の暖房設備は、GSHP システムによる床暖房で ある。使用している GSHP ユニットの仕様と性能曲線を 表‐1、図‐2 に示す。圧縮機はインバータを搭載してお り、二次側送水温度が一定となるように回転数が制御さ れる。一次側 0ºC、二次側 35ºC の温度条件において、最 大熱出力は約 10 kW であり、その時の COP は約 3.7 であ る。同じ温度条件で熱出力が 5 kW の場合、COP は約 4.4 に上昇する。 図‐3 は地質柱状図を示している。本システムでは地 中熱交換器として、深さ 100 m のボアホールを 2 本用い ており、シングル U チューブを挿入している。地下水位 は約 14.7 m で、水温は 10.8ºC であった。熱応答試験によ り、地盤の平均有効熱伝導率は約 1.2 W/m/K と推定され た。熱媒には、一次側にエチレングリコール 30%、二次 側にプロピレングリコール 20%を使用している。 3.2 GSHP システムの性能評価 3.2.1 日運転性能と室内温熱環境 図‐4 は、GSHP から床暖房への送水温度を 30ºC(2007 年 1 月 20 日)とした場合の 1 日の各温度と熱出力の変化 を示している。また、表‐2 に各条件における日運転性 能を示す。SCOP は、一次・二次側の循環ポンプの消費電 力を含めた値である。 床暖房への送水は基本的に 24 時間行われるが、 ヒート ポンプの運転は送水温度が一定となるようにインバータ 制御されるため、負荷に応じて運転または停止を繰り返 す。送水温度が 30ºC の場合、平均熱出力は 4 kW 程度で あり、COP、SCOP はそれぞれ 5.46、4.25 と高い値を示 した。図‐2 に示した GSHP ユニットの性能曲線による と、一次側 0ºC、二次側 30ºC の温度条件で出力が 4 kW 程度ならば圧縮機回転数は 30~45 Hz 程度で部分負荷運 転が行われていると考えられる。このとき、室温は 1 日 を通して概ね 20ºC 以上を保っており、 本物件のような高 断熱仕様建物においては 30ºC 程度の低温送水でも充分 な温熱環境が得られることが示された。他方で、日射の 影響により日中に室温は 26ºC 程度まで上昇し、 オーバー シュートの傾向が見られる。今後、日射による余剰熱を 100V (制御回路) 200V (圧縮機・循環ポンプ) 6W 3.05 kW 10.0 kW 3.7 インバーター駆動ロータリー式 24 L/min、 136.2 W 17 L/min、 84 W COP ガラスには Low-E トリプル・ガラスを採用しており、K 値は 1.1~1.3 W/m2/K である。なお、可視光線透過率は 73%、 日射熱取得率は 68%である。 熱損失係数 Q 値は 0.96 2 W/m /K であり、I 地域における次世代省エネ基準値 1.6 W/m2/K を大きく下回った高性能住宅ということを示し ている。暖冷房には GSHP システムを採用しており、冬 は全室床暖房を行い、夏はファンコイルユニットを用い た冷房を行う。換気にはアースチューブを伴う第一種換 気を採用している。 T1in(1次側GSHP入口) 0 2 T1out(1次側GSHP出口) 外気温度 -10 0:00 6:00 12:00 0 0:00 18:00 図‐4 1 日の温度および熱出力の変化(送水温度 30ºC) 表‐2 日運転性能 2次側 送水温度 30℃ (2007/1/20) GSHP出力 GSHP消費 ポンプ消費 COP SCOP 積算値① 電力量② 電力量③ ①/② ①/(②+③) [kWh] [kWh] [kWh] 77.4 14.2 4.0 5.46 4.25 ③は 1 次側・2 次側ポンプの合計 4. 換気システム 4.1 換気システムの概要 本物件では第一種換気を採用し、温度効率 90%のクロ スカウンターフロー式熱交換換気装置を用いている。ま た、地中にアースチューブを設けており、外気はあらか じめ加温され、 その後熱交換換気ユニットへ供給される。 図‐8 に換気システムとアースチューブの概念図を示す。 アースチューブの全長は約 50 m で、地表から約 1.55 m の深さに埋設されている。アースチューブの口径は 150 mm または 200 mm で、表面がリブ状に加工されたプラ 外気温 [°C] GSHP出入口温度 [°C] 日平均熱出力 [kW] 20 15 10 5 0 -5 -10 50 外気温 40 二次側出口 30 二次側入口 20 10 一次側入口 0 一次側出口 -10 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 11月 日平均熱出力 期間平均:3.0 kW 12月 2月 1月 3月 2007年 2006年 図‐5 暖房シーズンにおける温度と熱出力の変化 6 3000 COP 2500 SCOP1 4 2000 3 1500 GSHP出力 2 1000 1 500 0 積算GSHP出力 [kWh] 5 COP, SCOP [-] 0 2006年11月 2006年12月 2007年1月 2007年2月 2007年3月 5.4°C -1.4°C -2.6°C -1.9°C -0.8°C 平均気温 図‐6 月毎出力積算値 放熱量 GSHP1001 消費電力量 GSHP 2,160 kWh ポンプ 307 kWh 10,614 kWh COP: 4.91 SCOP1: 4.30 (一次側のみ) 床暖房 環境性能 ボアホール 地中採熱量 CO2 排出量 [ton] 有効に蓄熱し、負荷の大きい時間帯に再利用する方法を 考える必要がある。 3.2.2 シーズンを通した暖房運転性能と環境性能評価 図‐5 は、2006 年 11 月~2007 年 3 月の暖房シーズン における外気温と GSHP の各出入口温度 (運転時平均値) 、 日平均熱出力を示している。二次側への送水温度による が、一次側出口温度はシーズンを通して概ね 0ºC 以上を 保っており、GSHP システムとして安定した運転が行わ れたといえる。日平均熱出力は運転時間により違いがあ るが、期間平均では約 3.0 kW となった。この値を期間平 均の室温と外気温の差および床面積で除し、実測値より 熱損失係数を求めたところ 0.70 W/m2/K となった。これ は、建物性能の物性値から算出した値(0.96 W/m2/K)よ り低く、昼間の日射熱取得により、実際に暖房に要する 熱エネルギーは理論値に比べて小さくて済むことを表す と言える。 図‐6 は各月の熱出力と平均 COP、平均 SCOP1 を示し ている。ここで、SCOP1 とは GSHP 本体と一次側ポンプ の消費電力量を考慮したものである。月平均外気温度が 低い月ほど積算 GSHP 出力は大きくなった。COP は 4.6 ~5.6、SCOP1 は 4.2~4.7 を示し、冬期間を通して高効率 な運転が行われたことがわかる。 図‐7 はシーズン合計の地中採熱量と消費電力量、放 熱量を示している。地中採熱量 8774 kWh、GSHP と一次 側ポンプの消費電力量 2467 kWh に対し、放熱量は 10614 kWh となり、期間平均 COP は 4.91、SCOP1 は 4.30 とな った。以上より、本事例のように全館床暖房を行う高断 熱建物においてインバータ搭載の GSHP ユニットを採用 した場合には、低い送水温度で効率の高い部分負荷運転 を行えることから、期間を通して高い運転性能が得られ ることが示された。図‐7 ではまた、熱源として灯油ボ イラ、ガスボイラを用いた場合と GSHP を用いた場合の CO2 排出量を比較している。各条件とも、年間に暖房に 要する熱需要は実測による放熱量 10614 kWh とし、ボイ ラシステムにおける熱効率は 85%とした。その結果、 GSHP システムでは灯油ボイラシステムと比べて約 58% の CO2 削減効果が見込まれた。 8,774 kWh 3.5 電力量 3.0 58% 2.5 2.0 灯油 1.5 ガス 1.0 電力 0.5 0.0 灯油ボイラ* ガスボイラ* GSHP * ボイラ効率: 85% * 地球温暖化対策推進法施行令(H18.3.29政令第88号) による原単位を使用 図‐7 期間合計の熱収支と CO2 削減効果 熱回収型熱交換器 RA (2) OA SA OA : 導入外気 EA : 熱交換後の排気 SA : 室内への給気 RA : 熱交換前の排気 Φ200mm (1) EA (3) Φ150mm アースチューブ 全長 50m 図‐8 換気システムの概要 1.55m 5. まとめ 寒冷地仕様のローエネルギー住宅に GSHP システムが適 用された事例について、暖房期間を通したシステム性能 評価を行った。 1) 本事例のように高断熱建物(熱損失係数 0.96 アースチューブ 換気装置 室内 25 RA 20 SA 15 温度 [℃] スチックパイプを用いている。さらに、アースチューブ には傾斜がつけられており、最下部には結露水排出のた めのドレーンが備えられている。 4.2 アースチューブによる加温効果 温度測定は、 アースチューブの給気口から 0 m、 4.6 m、 25 m、34 m、46 m の 5 点で行われた。また、熱交換器の 出入口においても測定した。図‐9 は 2006 年 12 月 12 日 と 2007 年 1 月 20 日の各点における温度を示している。 なお、46 m 地点に比べ導入外気(OA)の温度は低下し ているが、これは配管が地中から一度地上へ出た後に熱 交換換気ユニットに接続されているためである。連続し て地中から採熱することにより、1 月 20 日における加温 効果は 12 月 12 日に比べて小さくなっていることがわか る。 図‐10 は 2006 年 12 月~2007 年 3 月における(1)外気 温度と(2) 熱交換換気ユニット入口温度、(3) 熱交換換気 ユニット出口温度の変化を示している。期間中、連続し て地中から採熱することにより、熱交換換気ユニット入 口温度は約 6ºC 低下した。しかし、最低でも 0ºC を下回 ることはなく、アースチューブの使用により熱交換器表 面の着霜を防止でき、デフロスト運転を回避できたとい える。外気温度と熱交換換気ユニット入口温度の差がア ースチューブによる加温効果を示しており、期間中の平 均温度差からアースチューブ単位長さ当たりの採熱量を 計算した。その結果、今回の条件においては期間平均で 4.4 W/m を地中から採熱できたことがわかった。 図‐10 より、熱交換換気ユニット出口温度は最低でも 5ºC 程度であり、給気加温の一方で、排気側の温度レベ ルも高く維持されていることがわかる。したがって、こ の排熱を有効利用し、例えば GSHP システムの一次側熱 媒の加温に用いることができれば、システム全体のさら なる性能向上が期待できる。 4.3 給排気量の測定結果 図‐11 に建物全体の換気の流れと、各点における給排 気量の実測結果を示す。居室であるリビング、ダイニン グ、寝室、洋室には給気口が設けられ、水蒸気や匂い、 汚染空気が発生するトイレ、ドライルームからは排気が 行われている。全体で給気量は約 231 m3/h、排気量は約 224 m3/h であった。本物件の天井高さは平均で約 2.5 m、 屋内気積は約 500 m3 であり、換気回数を 0.5 回/h とする と、必要換気量は 250 m3/h と算出される。したがって、 実測値はこれをほぼ満足していることが確認できた。 EA 10 25m 4.6m OA 2007/1/20 0 -5 46m 34m 2006/12/12 5 0m (アースチューブ入口、外気温度) 図‐9 アースチューブ内の温度変化 14 12 (3) 熱交換換気ユニット出口温度 10 8 6 (2)熱交換換気ユニット入口温度 4 2 0 -2 -4 (1) 外気温度 -6 -8 2006/12/1 2006/12/21 2007/1/10 2007/1/30 2007/2/19 2007/3/11 2007/3/31 図-10 給気、排気、外気温度の変化 60.0 62.0 トイレ 凡例 2F 寝室 給気 [m3/h] 排気 [m3/h] 60.0 ドライ ルーム 43.0 ダイニング 浴室 キッチン 56.0 1F 34.5 トイレ 洋室 リビング 48.0 洋室 37.8 54.0 図‐11 換気空気の流れ 2 2) W/m /K)において全館床暖房を行う場合には、30º C 程度の低い送水温度で室内温熱環境を満足でき、 またヒートポンプの部分負荷運転により期間を通 して高い効率が得られることが示された。期間平均 の COP は 4.91、一次側循環ポンプの消費電力を含 めた SCOP1 は 4.30 となった。このとき、灯油ボイ ラシステムと比べ CO2 排出量は約 58%削減される と推算された。 排熱回収型の熱交換換気ユニットを用いた第 1 種換 気システムにおいて、全長 50 m のアースチューブ により外気を予熱することにより、期間平均で単位 長さ当り 4.4 W を地中から採熱することができた。
© Copyright 2024 Paperzz