簿記の教科書 日商簿記2級商業簿記【初版】をお持ちの方へ

平成25年4月1日〜適用
新出題区分対応
特別レクチャー
平成25年6月試験より「保証債務の
取崩し」および「営業外支払(受取)手
形」が出題範囲に加わりました。
CHAPTER07手形とあわせて確認し
ていきましょう。
1 手形の裏書き
Ⅰ 手形の裏書譲渡と偶発債務の処理(保証債務の時価があるとき)
手形の裏書譲渡時における偶発債務の処理には、いくつかの方法があり
ますが、本書では直接減額法を前提として説明します。
手形を裏書譲渡したとき
1
手形を裏書譲渡したときは、手形金額を受取手形[資産] から減額しま
す。
保証債務
New
☞資産の減少⇒貸方(右)
ほ しょう さい む
また、偶発債務(保証債務)の時価を見積り、保証債務[負債]として処理
するとともに、保証債務費用[費用]を計上します。
☞負債の増加⇒貸方(右) ☞費用の増加⇒借方(左)
New
保証債務費用
ひ と こ と
手形を裏書譲渡したとき、あとでその手形が支払不能となって、当店に支払
義務が発生する可能性があります。その可能性を見積って計上するのが保証債
務[負債]です。
これは、売掛金や受取手形について、次期以降に貸し倒れるかもしれない金
額を見積って設定する貸倒引当金とよく似ています。したがって、保証債務の
時価は貸倒引当金の設定率と同様、手形額面の1~2%程度で計算します。
例1 手形を裏書譲渡したとき
A商店はB商店に対する買掛金1,000円の支払いのため、C商店振出の約束
手形1,000円を裏書譲渡した。なお、この保証債務の時価は額面の 1 %である。
例1の仕訳 (買
掛
金)
1,000
(受
取
手
形)
(保 証 債 務 費 用)
10
(保
証
債
務)
* 1,000円×₁%=10円
xvi
1,000
10*
裏書きした手形が無事決済されたとき
2
裏書きした手形が無事に決済されたときには、偶発債務が消滅するので、
計上している保証債務[負債]を取り崩し(借方に記入し)ます。
☞負債の減少⇒借方(左)
なお、貸方は保証債務取崩益[収益]で処理します。
☞収益の増加⇒貸方(右)
例2 裏書きした手形が無事決済されたとき
先に裏書譲渡した約束手形1,000円(保証債務の時価は10円)が無事に決済
された。
例2の仕訳 (保
証
債
務)
10
(保証債務取崩益)
10
裏書譲渡した手形が不渡りとなったとき
3
裏書譲渡した手形が不渡りとなったときは、手形の所持人から手形代金
しょうかん せいきゅう
の支払いを請求されます(これを償還請求といいます)。
このとき、裏書譲渡人は手形代金のほか、不渡りに関する諸費用(償還請
求費用や法定利息) を支払いますが、これらの支払額はあとで手形の支払人
に請求することができます。
図解 裏書譲渡した手形が不渡りとなったとき
新出題区分対応特別レクチャー
xvii
保証債務取崩益
New
そこで、手形代金に、不渡りに関する諸費用を加算した金額を不渡手形
[資産]として処理します。
☞資産の増加⇒借方(左)
また、手形が不渡りになった時点で偶発債務が消滅するので、保証債務
を取り崩します。
ひ と こ と
保証債務の取り崩しは、2の処理と同じです。
例3 裏書譲渡した手形が不渡りとなったとき
先に裏書譲渡した約束手形1,000円(保証債務の時価は10円)が不渡りとな
り、B商店より償還請求されたため、償還請求費用20円および法定利息15円と
ともに小切手を振り出して支払った。
例3の仕訳 (不
渡
手
形)
(保
証
債
務)
1,035* (当
10
座
預
金)
1,035
(保証債務取崩益)
10
* 1,000円+20円+15円=1,035円
2 手形の割引き
Ⅰ 手形の割引きと偶発債務の処理(保証債務の時価があるとき)
割り引いた手形が不渡りとなった場合、手形を割り引いた銀行から手形
を買い戻さなければなりません。
そこで、手形を割り引いたときも、偶発債務の処理をします。
手形を割り引いたとき
手形を割り引いたときは、手形金額を受取手形[資産]から減額し、割引
時にかかった割引料は手形売却損[費用]で処理します。
☞資産の減少⇒貸方(右) ☞費用の増加⇒借方(左)
ほ しょう さい む
また、偶発債務(保証債務)の時価を見積り、保証債務[負債]として処理
するとともに、保証債務費用[費用]を計上します。
xviii
☞負債の増加⇒貸方(右) ☞費用の増加⇒借方(左)
例4 手形を割り引いたとき
A商店は所有する手形1,000円(得意先C商店が振り出した約束手形)を取
引銀行で割り引き、割引料20円を差し引かれた残額を当座預金とした。なお、
この保証債務の時価は額面の 1 %である。
例4の仕訳 (手 形 売 却 損)
(当
座
預
20
金)
980
(保 証 債 務 費 用)
10
(受
取
手
形)
(保
証
債
務)
1,000
10*
* 1,000円×₁%=10円
ひ と こ と
保証債務費用[費用]は手形売却損[費用]に含めて処理することもあります。
この場合の例4の仕訳は次のようになります。
(手 形 売 却 損)
(当
座
預
金)
30
(受
取
手
形)
1,000
980
(保
証
債
務)
10
割り引いた手形が無事決済されたとき
2
割り引いた手形が無事に決済されたときには、偶発債務が消滅するので、
保証債務を取り崩します。
例5 割り引いた手形が無事決済されたとき
先に割り引いた約束手形1,000円(保証債務の時価は10円)が無事に決済さ
れた。
例5の仕訳 (保
証
債
務)
10
(保証債務取崩益)
10
割り引いた手形が不渡りとなったとき
3
割り引いた手形が不渡りとなったときは、手形代金に、不渡りに関する
諸費用を加算した金額を不渡手形[資産]として処理します。
☞資産の増加⇒借方(左)
また、手形が不渡りになった時点で偶発債務が消滅するので、保証債務
を取り崩します。
新出題区分対応特別レクチャー
xix
例6 割り引いた手形が不渡りとなったとき
先に割り引いた約束手形1,000円(保証債務の時価は10円)が不渡りとなり、
取引銀行より買い戻しを請求され、法定利息15円とともに当座預金口座から支
払った。
例6の仕訳 (不
渡
手
形)
(保
証
債
務)
1,015* (当
10
座
預
金)
1,015
(保証債務取崩益)
10
* 1,000円+15円=1,015円
3 営業外受取手形と営業外支払手形
Ⅰ 営業外受取手形・営業外支払手形とは
商品を売り上げ、先方振出しの約束手形を受け取ったときには、受取手
形[資産]で処理しました。また、商品を仕入れ、約束手形を振り出したと
きには、支払手形[負債]で処理しました。
営業外受取手形
New
営業外支払手形
New
xx
これに対して、商品以外のものを売却し、約束手形を受け取ったときに
は、営業外受取手形[資産]で処理します。また、商品以外のものを購入し、
約束手形を振り出したときには、営業外支払手形[負債]で処理します。
図解 受取手形・支払手形と営業外受取手形・営業外支払手形
Ⅱ 営業外受取手形の処理
商品以外のものを売却し、約束手形を受け取ったときには、営業外受取
手形[資産]で処理します。
例7 ☞資産の増加⇒借方(左)
商品以外のものを売却し、約束手形を受け取ったとき
備品(帳簿価額800円、直接法で記帳)を850円で売却し、代金は約束手形で
受け取った。
例7の仕訳 (営業外受取手形)
850
(備
品)
800
(固定資産売却益)
50
Ⅲ 営業外支払手形の処理
商品以外のものを購入し、約束手形を振り出したときには、営業外支払
手形[負債]で処理します。
例8 ☞負債の増加⇒貸方(右)
商品以外のものを購入し、約束手形を振り出したとき
備品を850円で購入し、代金は約束手形を振り出して支払った。
例8の仕訳 (備
品)
850
(営業外支払手形)
850
新出題区分対応特別レクチャー
xxi
基本問題
次の取引について仕訳しなさい。なお、勘定科目はそれぞれ[ ]内に示す
ものの中から選ぶこと。
問1 手形の裏書きと割引き
[勘定科目:当座預金、受取手形、不渡手形、支払手形、買掛金、保証債務、保
証債務取崩益、保証債務費用、手形売却損]
⑴ 広島商店は、山口商店に対する買掛金60,000円の支払いのため、福岡商店振
出の約束手形60,000円を裏書譲渡した。なお、保証債務の時価は額面の1%で
ある。
⑵ 上記の約束手形が無事に決済された旨の連絡を受けた。
⑶ 大分商店は所有する手形70,000円(得意先佐賀商店が振り出した約束手形)
を取引銀行で割り引き、割引料1,400円を差し引かれた残額を当座預金とした。
なお、保証債務の時価は額面の1%である。
⑷ 上記の約束手形が無事に決済された旨の連絡を受けた。
問2 営業外受取手形と営業外支払手形
⑴ 備品(帳簿価額20,000円、直接法で記帳)を19,000円で売却し、代金は先方
振出の約束手形で受け取った。
⑵ 備品40,000円を購入し、代金は約束手形を振り出して支払った。
xxii
解答
問1 手形の裏書きと割引き
⑴ (買
金)
60,000
(受
取
手
形)
(保 証 債 務 費 用)
600
(保
証
債
務)
⑵ (保 証 債 務)
600
(保証債務取崩益)
掛
⑶ (手 形 売 却 損)
座
預
1,400
(受
取
手
形)
証
債
務)
60,000
600*1
600
70,000
(当
金)
68,600
(保 証 債 務 費 用)
700
(保
⑷ (保 証 債 務)
700
(保証債務取崩益)
700
(備 品)
20,000
(営業外支払手形)
40,000
*1 60,000円×1%=600円
*2 70,000円×1%=700円
700*2
問2 営業外受取手形と営業外支払手形
⑴ (営業外受取手形)
(固定資産売却損)
⑵ (備 品)
19,000
1,000
40,000
新出題区分対応特別レクチャー
xxiii
4 貸倒引当金と貸倒れ
得意先の倒産などを理由に、その得意先に対する売掛金や受取手形が回
かしだお
収できなくなることを貸倒れといいます。
か し だおれ ひ き あ て き ん
また、貸倒れに備えて、決算において設定した金額を貸倒引当金といい
ます。
ひ と こ と
貸倒引当金の設定および貸倒れの処理については、3級ですでに学習したた
め、ここでは詳細な説明を省略します。
貸倒引当金の設定と貸倒れの処理について、ポイントをまとめると次のとお
りです。
◎貸倒引当金の設定
Review
3級
✓ 貸倒引当金…決算日における売掛金や受取手形について、次期以降に
貸倒れが生じると予想される金額を見積って設定する
貸倒引当金 売掛金や受取手形
=
×貸倒設定率
の設定額
の期末残高
◎貸倒れの処理
Review
3級
✓ 当期に発生した売掛金や受取手形が貸し倒れたとき
→全額、貸倒損失[費用]で処理
✓ 前期以前に発生した売掛金や受取手形が貸し倒れたとき
→まずは設定している貸倒引当金を取り崩し、これを超える額は貸
倒損失[費用]で処理
✓ 前期以前に貸倒処理した売掛金や受取手形を回収したとき
→回収額を償却債権取立益[収益]で処理
xxiv