「人間情報演習Ⅰd」(H17.5.27 担当 酒井) 注意の範囲 1.はじめに 人数,本数など,日常生活で特定の対象を数える機会は多い.その際,どんな方法で数えてい るだろうか.2,3 個であれば瞬時に個数を計算できるだろう.しかし 8 個くらいになると,瞬時 の計算は困難で,1 個ずつ,あるいは複数個ずつ順次に数えないと総数を計算できないだろう. Oyama et al.(1981)は,図 1 のようなランダムに配列されたドットパターンが瞬間提示および 数秒間提示されたとき,被験者がドット数を報告するのに要する反応時間を測定した.その結果, ドット数の増大に対する反応時間の上昇率は,ドットの数が 4 個までは緩やかであったが,ドッ ト数が 5 個以降では急峻となった.反応時間の傾きの違いは,「即時の把握」と「数え上げ」 (大 山,2000)の 2 つの異なる処理過程を反映していると解釈された.前者は複数のドットを同時に 処理する並列処理,後者は個々のドットごとに処理する系列処理に相当する. 本実習では,Oyama et al.(1981)に基づき,図 1 のようなランダムに配置されたドットパター ンを持続提示したときの,ドット数の計算に要する反応時間を測定する.被験者によるドット数 の報告方法は,ドット数が数え終わったら被験者は速やかにマウスクリックし,反応時間が測定 される.その後に被験者はキーボードでドット数を入力する,という方法で報告される. また,ドットの布置が図 2 のような左右対称な場合,図 1 のようにランダムな布置のドットパ ターンと比べて,反応時間の結果に違いが生じるだろうか?Locher & Nodine(1973)によれば, 左右対称図形の眼球運動パターンは,左右のいずれかの図形に中心的に注視が集中し,他方の図 形には注視がほとんどいかない.つまり,対称図形の場合は左右の図形が鏡映関係にあるため, 一方の図形の知覚から他方の図形を推定していると推測できる.ドットの個数を数える課題でも, 左右のうち一方のドット数を計算して,他方のドット数は計算しない戦略も推測できる. 2.方法 2.1 刺激 図 1,図 2 のようにランダムに,あるいは左右対称的に布置されたランダムドットが,ドット 数 2-14 個のうち偶数個のみの 7 種の範囲で用いられた.刺激パターンは,10×10 の仮想格子に 黒のドットを布置して作成された.刺激提示はデルマシン(機種)により制御された. 2.2 被験者 女性○名(年齢○歳から○歳,平均年齢○歳) 2.3 手続き 本実験は,以下の手順で開始される. ①「被験者名」の空欄に被験者名をローマ字で入力 ②「ドット数の種類数」の空欄に,ドット数の種類数 7 を入力して「開始」ボタンをクリック ③種類数だけ空欄が表示されるので,そこにドット数をそれぞれ入力する.2,4,6,8,10, 1 12,14 の 7 種類を入力する ④実験が開始される.1 試行の手順は以下のとおり. クロスの注視点 500ms→ブランク 1000ms→ドットパターンが持続提示→ドット数をできる だけ正確に数え終えたら,できるだけ速く「反応」ボタンをクリック→ドットパターンは消 失し,ドット数を入力→「個数回答」ボタンをクリックすると自動的に次の試行が開始 ⑤ドットの布置 2 種(ランダム,左右対称)×7 種のドット数×繰り返し 10 試行により,全 140 試行を行う.ただし,④でドット数の入力を間違った試行は試行数に含まれない ⑥実験終了後,テキストファイルで実験データが保存される 図1.ランダムな布置のパターン 図2.左右対称な布置のパターン 引用文献 Locher, P. J., & Nodine, C. F. 1973 Influence of stimulus symmetry on visual scanning patterns. Perception & Psychophysics, 13, 408-412. 大山正 2000『視覚心理学への招待』サイエンス社,P228-P229 Oyama, T., & Kikuchi, T., & Ichihara, S. 1981 Span of attention, backward masking, and reaction time. Perception & Psychophysics, 29, 106-112. 課題 ①ドット数が 2 個と 4 個の条件で,反応時間に差があるかどうか?またなぜか? ②4 個から 14 個までのドット数の増大により,反応時間は上昇し続けるかどうか?またなぜか? ③ランダムな配置と左右対称な配置の条件で,反応時間に差があるかどうか?またなぜか? ④視覚情報の容量を測定する方法として,どんな実験計画が考案されるか? 2
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