助成活動報告 (財)おかやま環境ネットワークニュース No.59 2 0 0 9 年 度 助 成 事 業 「児島湖に生息する魚類の調査とそれらの展示を とおして環境学習を図る」 1.助成事業の経過 1959 年に児島湾を人工的に締 め切って造成された児島湖は岡山 市や倉敷市などの都市部を流れる 河川の下流部に位置し、水質汚濁 の進行が激しかった。そのため、 1985 年に湖沼水質保全特別措置 法に基づく指定湖沼に指定され、 以後「湖沼水質保全計画」を定め て、水底質の改善、保全に取り組 まれている。しかし、そこに生息 する水生生物、特に魚介類につい ては、 1993 年以来調査されていな い。そこで、生き物から見た児島 湖の現状を把握するために、魚類 の生息実態調査を予備的に実施し た。 調査は、①児島湖に生息する魚 種数の確認、②生息魚の特徴、③ 児島湖漁業の実態、および④漁獲 物の変遷、を明らかにすることを 具体的な目標として、実施した。 児島湖の主要な漁法である仕掛 網の他、刺網、投網およびたも網 等を用いて採取された魚の種類と 量を調べ、できるかぎり多種類の 魚の確認に努めた。仕掛網調査は 児島湖の淡水魚問屋に適宜出かけ て持ち込まれる漁獲物を測定する とともに、漁獲日誌の記帳を依頼 して実施した。さらに、季節ごと に乗船して仕掛網1統当り漁獲物 の詳細調査を実施した。 近年児島湖で急増するワタカ 岡山淡水魚研究会 c. 一方、環境学習に関しては児島 湖およびその周辺で採取される魚 介類を展示し、児島湖の環境保全 への関心と啓発を図った。 2.この活動の成果 仕掛網漁獲物調査、卸市場調査 および漁業組合調査などにより得 られた結果の概要を箇条書きに列 挙する。 a. 2009 年 4 月から現在までに 児島湖に生息する魚類は過去 最高の 49 種類に達すること が確認された(表1)。前回 1993 年の調査時は 40 種類で あり、9 種類増加した。 表 1 生息確認魚種数とその特徴 項目/ 年 1968 1993 2009 確認全魚種 23 40 49 淡水魚 14 27 38 汽水魚 5 9 7 海水魚 4 4 4 岡山県レッドデ-タブック 1 7 13 環境省レッドデ-タリスト 4 9 12 国外移入魚 1 3 5 国内移入魚 2 2 3 特定外来種 1 2 2 要注意外来種 0 2 3 絶滅危惧種 移入魚 b. 今回新たに確認された魚種は 15 種類であった。また、岡山 県レッドデ−タブックに記載 されている留意を含めた絶滅 の恐れがある汽水・淡水魚は 13 種類、環境省レッドデ−タ リストに掲載されている絶滅 危惧種は 12 種類であった。 確認魚種のうち、淡水魚は 38 種、汽水魚は7種および海水 魚は 4 種であり、1993 年に比 べホンモロコなどの純淡水魚 が増加した。一方、以前に見 られたカレイ類などの海水魚 は確認されず、児島湖の淡水 湖化が進行し、淡水魚の割合 が増加している傾向がうかが われた。 d. 国内移入種のうち、ワタカお よびホンモロコが新たに確認 された。これらは琵琶湖産ア ユ種苗の河川移植放流にとも ない持ち込まれたものと考え られる。このうちワタカは近 年児島湖のみならず県内数河 川においても繁殖し、急増し ている。 e. 仕掛網で漁獲された魚種をま とめた結果、漁獲が多い魚種 は重量別に、フナ類、モツゴ、 ボラの順であり、続いて外来 種のワタカ、ブル−ギルおよ びブラックバスであった。ま た、個体数別には、小魚のモ ツゴ、ヤリタナゴ、タイリク バラタナゴの順であり、次い でフナ類、タモロコであった。 f. 仕掛網漁獲物の魚種組成の季 節変化を調査した結果、採取 された魚種は 32 種類であっ た。年間を通じて最も多い魚 種はギンブナで、続いてモツ ゴ、ヤリタナゴの順であった。 時期別には、6 月はウロハゼ が多く、夏季の 8 月は春に生 まれたギンブナ、モツゴおよ びヤリタナゴの幼魚が多く、 他のタナゴ類やハス、メダカ なども採取された(表 2) 。 (財)おかやま環境ネットワークニュース No.59 g. h. i. j. k. l. 2.児島湖に生息する魚介類の m. 今回は児島湖に生息する魚類 また、特異的にスズキの群れ 展示による環境学習 について単年度限りの予備的 が多く入網した。冬季に入ると 児島湖近くの浦安にある岡山南 な調査であった。今後は児島 魚の活動・移動が低下し、魚種 ふれあいセンタ−のロビ−に水槽 湖の水生生物については、魚 数は減少した。ワタカ、タモロ を並べ、児島湖とその周辺で採取 類以外の貝類や水生昆虫、プ コ、イトモロコおよびブル−ギ された 30 種あまりの淡水魚を常 ランクトン、水生植物なども ルが多かった。 時展示し、児島湖の環境保全への 含めた総合的な観点からの生 ブル−ギル、ブラックバス、 関心と啓発を図った。 物調査が必要と考えられる。 カダヤシなどの要注意外来種 ここでの展示に関しては、平成 n. 得られた結果については、さ が繁殖し、特に、ブル−ギル 22 年度にさらに大きな水槽を増 らに水質などの水環境的な要 は顕著に増加しており、在来 設し、より多くの魚介類を展示し 因の変化と関連して解析し、 種や水産上有用な魚種への悪 て、環境学習を図る予定である。 今後の児島湖の生物環境の保 影響が懸念された。 全に役立てる予定である。 ヤリタナゴ、タイリクバラタ o. なお、この調査は現在も継続 ナゴなどタナゴ類が増加し、 中であり、今後、結果をとり 幼稚魚も多数確認されたこと まとめ適切な学術雑誌などに から、児島湖内で繁殖してい 報告の予定である。 る様子がうかがわれた。タナ ゴ類は貝の鰓腔内に産卵する ことから、湖内にイシガイな どの貝類が増加していると推 察された。 貝類など底生生物の増加は湖 底質の良質化によると推察さ れ、水底質環境的には改善の 表2 仕掛網を用いて採取した魚種と尾数の季節変化 方向にあると考えられた。 時期別の採取尾数 合計尾数 魚種組成 採取尾数 魚種名 児島湖の水産上重要な魚種は 6月22日 8月24日 11月12日 12月10日 尾 % 順位 コイ 1 1 0.1 フナ類、コイ、ウナギ、モロ ゲンゴロウブナ 2 9 11 1.1 ギンブナ 29 50+ 80 159+ 16.4+ 1 コ(モツゴ)などであり、魚 ヤリタナゴ 1 50+ 2 7 60+ 6.2+ 3 種以外ではテナガエビ、モク カネヒラ 1 1 0.1 シロヒレタビラ 1 1 0.1 ズガニなどである。 タイリクバラタナゴ 2 2 0.2 ワタカ 14 8 54 76 7.9 7 主要な漁業対象種のうち、フ ハス 1 1 0.1 ナ類、コイ、モロコの漁獲量 モツゴ 1 50+ 17 13 81+ 8.4+ 2 カワヒガイ 2 2 4 0.4 は近年いずれも減少しており、 タモロコ 1 1 40 42 4.3 9 ゼゼラ 1 1 0.1 ウナギが若干増加傾向にある。 ツチフキ 1 4 5 0.5 ウナギは稚魚であるシラスの コウライニゴイ 2 6 8 0.8 イトモロコ 64 64 6.6 8 特別採捕の禁止後、漁獲量が コウライモロコ 1 1 0.1 ギギ 1 2 3 0.3 若干増加していると推察され ナマズ 4 11 9 24 2.5 た。 ボラ 1 11 12 1.2 メナダ 11 11 1.1 全国の湖沼の漁獲量は近年減 メダカ 0 0 クルメサヨリ 2 2 0.2 少しており、この減少傾向の スズキ 2 105 1 108 11.2 6 原因については水環境的、生 ブルーギル 12 21 27 81 141 14.6 4 ブラックバス 0 0 態系および漁業努力などの総 ウロハゼ 41 6 66 7 120 12.4 5 マハゼ 1 8 18 27 2.8 10 合的な観点から検討する必要 ゴクラクハゼ 0 0 がある。 トウヨシノボリ 0 0 ヌマチチブ 2 合計種数 10 16 合計尾数 94 327+ (+)は計数以上に多数出現したことを示す。 17 236 14 311 2 32 968+ 0.21 100
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