はじめに 私の高校時代からの友人で、三度の飯よりも読書が好きな男がいました。彼の書物 を触る手つきがいいのです。勿論本を持つ姿も格好よく、ページをめくるそのリズムは 完ぺきでした。ああ、本の好きな人というのは、ああやって本を読むのだなと感心した ものです。 さて、「書評」は今まで本サイトの「エッセイ」の中に含めていましたが、別途コーナー を設けることにしました。 私が本を読み始めたのは小学校の4年生頃からだったと思いますが、なぜか「本は 面白いな」と思い始めた時期でもありました。 シンデレラがディズニーのマンガになる前にシンデレラの物語を読んだ我々の世代 は、各人が自分が想像するシンデレラ姫のイメージを持っていました。現代の子供た ちであればすぐディズニーマンガのシンデレラを思い出すでしょうが、我々の時代の 子供たちは、A君、B君、C子さんのシンデレラ姫は夫々違っていたわけです。 後で思い返すと、あの頃は「テレビ」などはありませんでしたから、読書でイマジネー ションが育てられたように思います。というのも、当時もし「テレビ」があったとしたら、 これらは本に比べて幅がなく、文字ほど内容に柔軟性がないため、考え方が固定さ れてしまい、イマジネーションが育たなかったかも知れないと思うからです。 「テレビ」などは、情報を流れ去るものとして次々に処理していくのに適したメディア ですが、深い思索や洞察を練り上げるメディアはやはり書物しかありません。 本は、69歳になる今でも週に3~4冊は読んでいます。年金生活のため、若い頃の ように書籍の購入は無理ですから、もっぱら図書館を利用しています。若い頃から速 読、というより斜め読みで、したがって、滅多に書評を書くほど、精読はしていません でした。読書の中で「ここは!」と思う箇所には付箋紙を入れていますが、後で「あれ 何処で読んだかな?」と思っても書棚の本は付箋紙だらけでその所在さえ判らない状 態です。 そこで、これはと思う本については、精読して自分自身の為に書評を残しておくこと にしました。 私たち日本人は、欧米人より本を読むのが速いといわれています。というのも、日 本語の文章は欧文よりはるかにビジュアルな要素(漢字は象形・表意文字)が強く、 文章を絵として理解するから当然だというわけです。外国の大学などで生徒達が同じ 本を夫々の母国語で読んだ場合、「日本人の学生の読む速さは抜群だ」といわれる 所以です。 人間の脳は、「感覚的なこと」は「右脳」で、「理論的なこと」は「左脳」で処理するとい われています。日本人の場合、表音文字である「仮名」は「左脳」で認識し、象形文 字・表意文字である「漢字」は、絵として「右脳」で処理しているといわれています。し たがって、日本人は「左脳」が損傷された人でも漢字の読み書きはかなり出来ますが、 欧米人は「左脳」が損傷されると言語機能が殆ど働かなくなるといわれています。 ところが、今度は文章にビジュアルな要素を含むことが逆に「考える力を阻害する」 というのです。 旧約聖書の「出エジプト記」の20章4節に「あなたは、自分の為に、偶像を作っては ならない。上の天にあるものでも、下の地にあるものでも、地の下の水の中にあるも のでも、どんな形をも造ってはならない」とあります(聖書・新改訳・日本聖書刊行会)。 つまり、偶像崇拝を否定しているわけです。 しかし、キリスト教、とくにカトリックでは、キリストの教えを忘れないために十字架に かけられた「キリストの像」を造っていますが、ユダヤ教はこの戒律を厳格に守ってい ます。宗教的な彫刻も宗教画も一切ありません。 人間は具象に頼ると、考えなくなるとよくいわれています。ユダヤ人のような過酷な 境遇の民族は、考えなくなったら滅亡するだけだというのです。だから、ユダヤ教(旧 約聖書の最初の5書、つまり「創世記」、「出エジプト記」、「レビ記」、「民数紀」、「申命 記」を根本経典としている)は、絵や像に頼るのではなく、文字を読んで、自分で考え なさいという教えなのです。ユダヤ人に、ノーベル賞の受賞者が多いのはこの辺に原 因があるのかも知れませんね。 聖書の記述にしても、考えながら読むから、読むたびに新しい発見があるわけです。 それを、絵に描いてしまったら、それ以上のイメージの発展性はないわけです。 ビジュアルな要素を持つ日本語は、斜め読みができ、速読が出来ます。読むスピー ドが速いので、学習力は抜群なのですが、便利すぎる文字がかえって考える能力を 奪っているとも考えられます。 さて、高齢になってからの「書評」は、「ちょっとしんどいな」と思う反面、高齢になって から若さを保つ秘訣はやはり自分に適当な負荷をかける、すなわち、欲望のレベルを 高く設定することだと思っています。しかし、これは口で言うほど容易ではなさそうです。 書物は、時間の経過とともに極端に価値が減少するものや、あまり変化しないもの など、時間的経過と無縁ではありません。これらの見極めもまた大切ですね。 でも、とにかく始めてみましょう。 2009.11.20
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