YKI NEWSLETTER 2003年4月

YKI ニュース § 商標
2003年11月
YKI国際特許事務所
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今月号は国内外の商標権に関する訴訟に
ついて最近新聞記事で見かけたものをお
知らせします。
<ワニ>
ワニのマークで知られるフランスの衣料
品会社ラコステ社が、そのワニのマーク
と類似しているワニのマークを使用して
いた香港のクロコダイル社を北京で訴え
ていました。ラコステ社のワニの特徴は、
右向きで大きく口を開け、全体としてず
んぐりむっくりとしており、鱗が写実的
に描かれてはいないところにあります。
また、尻尾も半円を描くようにしっかり
と曲がっています(参考1)。
この訴訟は今年の10月23日に和解が成立
し、クロコダイル社は、ラコステ社の承
認のもとで作られた新商標を使用するこ
ととなりました。新マークの特徴は、ラ
コステ社のそれとは異なり左向きで口を
やや開けています。そして鱗がはっきり
と写実的に描かれており、尻尾をぴんと
伸ばし、全体的にシャープな印象を与え
るものとなっています(参考3)。
<参考3>
<参考1>
クロコダイル社が当初使用していたマー
クは、ワニの向きが逆でした(参考2)。
<参考2>
これまで、中国の消費者間では、「フラ
ンスワニ」「香港ワニ」とそれぞれ識別
されていたようで、本家がどちらかとい
う意識は薄かったようです。ほかにも
「金色ワニ」と呼ばれるラコステ社の商
標と類似する商標が存在しているとあり、
今後は、ラコステ社とクロコダイル社と
が共同して、他社を牽制していく可能性
が高くなったそうです。昨日の敵は今日
の友、といった構図ですが、中国での商
標権侵害についての問題意識向上の一端
になればいいと思います。
<キューピー>
10月29日、東京高等裁判所はある商標権
を無効とする審決を取り消しました。
原告は東京都調布市の運送会社「荒牧運
輸」、被告は東京都渋谷区の食品会社
「キューピー」です。
問題となった商標は図のように(参考
4)、横にしたタイヤの上のキューピー
人形が、両手に小包を持って歩いている
構図からなります。
<参考4>
他方、キューピーの商標は図のように
(参考5)、キューピー人形が手のひら
を正面に向けて両手を掲げている構図か
らなります。
<参考5>
特許庁は、荒牧運輸の商標が、キューピー
社との関係を連想させるものであるとし
て、当該商標権を無効としました。
今回の判決では、「両手を挙げているか
どうかで識別が可能なこと。キューピー
人形をモチーフにした商標は他企業も登
録を有していること」などを根拠に、上
記無効審決を取り消しました。すなわち、
荒牧運輸の商標権は有効であると判断し
たわけです。
なお、キューピー社が登録を有している
商標の中には、両手を下ろしているキュー
ピー人形や、両手にかごを抱えて片足を
あげているキューピー人形をモチーフに
しているものがありました。しかし、両
手を掲げているキューピー人形がモチー
フの商標がキューピー社所有の権利の大
半でした。だからこそ、一般需要者をし
てキューピー社ときけば、直ちに両手を
掲げたキューピー人形が連想されるにい
たったのだと思います。
したがって、キューピー社が独占できる
のは、「両手を掲げたキューピー人形を
モチーフにした商標」であって、キュー
ピー人形をモチーフにした商標すべてに
ついてではないということになります。
私見ですが、キューピー社は企業として
キューピー人形をモチーフにした商標に
ついて、これを独占できるよう図柄をア
レンジして出願し、登録を得ていたので
はないでしょうか。
しかし、アレンジしたバージョンが増え
れば増えるほど、それぞれのバージョン
の需要者への浸透度は低くならざるを得
ません。他方、ひとつのバージョンを延々
と使用し続ければ、それだけそのバージョ
ンの需要者への浸透度は高くなります。
しかし、権利範囲がそのバージョン(本
件では、両手を挙げたキューピー人形)
に由来するものに限定されることがある、
ということとなってしまいます。ここに
商標の使用態様と、権利取得態様のバラ
ンスの難しさがあると思います。
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文責: 弁理士 源 亜希子 ✍
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